第5話 レヴァンテイン vs リカルメ・バイヤード
リカルメ・バイヤードは今にも俺に襲い掛からんとばかりにこちらを睨んでくる。
だが、俺はその程度では屈しない。悪を恐れていては、ヒーローなんて務まらないからな。
「り、リカ? どうしたのそんなに怒って」
心配そうなアテナの声を聴くと、リカルメは感情を押し殺し笑顔でこう言った。
「なんでもないよアテナ。私用事があるから先に帰ってて」
「でも……」
「アテナ、俺からも頼む。少しの間二人にしてくれ」
アテナにリカルメが化けの皮を剥ぐ瞬間を見せれば話は簡単だ。
しかし、それでは確実にアテナを戦闘に巻き込むことになる。そうならないためにも、このことは俺とリカルメ、二人だけで片を付けなくてはならない。
「来なさいレヴァンテイン。決着にちょうどいい場所があるわ」
「ああ、望むところだ」
俺はリカルメ案内に導かれその場を離れる。「待ってください!」そう叫ぶアテナの声を無視して。
ごめんアテナ。勝っても負けても、君にはツラい思いをさせるかもしれない。
たぶん俺たちは、どちらかが死ぬまで止まれないから。
◇
村を出てしばらく歩むと森の中へ入った。ここは昨日アテナと出会った場所だろうか?
木と木の間には結構間隔があるので歩きやすい。周囲に魔物の気配も感じない。
「ここなら誰にも邪魔されないわ。思う存分暴れましょう?」
リカルメの身体から紅い稲妻が放出される。
今までの威嚇とは比にならない量だ。
やがて紅い光がリカルメの身体全体を覆い尽くす。
「擬態解除」
言葉と共に光の中からリカルメが姿を現した。いや、姿を変えたと言うべきか。
ハットを深く被ったような形状の頭部。
全体的に淡い紅色の透き通った皮膚。
背中から生える無数の触手がマントのようにたなびいている。
あれこそがリカルメ・バイヤードの怪人態、真の姿だ。
確かユリ博士の分析によればリカルメはクラゲを基盤にした怪人だったはず。
その姿だけはある種ガラス細工のような美しさも垣間見える。
だけど、そんなものはまやかしだ。人殺しの怪人であることには変わりない。
こいつは、俺が倒す。
「変身」
レイバックルに白のエーテルディスクを挿入。レバーを操作し、変身ベルトを起動する。
《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》
全身に白いスーツを纏い、装甲が装着されて変身が完了する。
奴と戦うのも久しぶりだ。少しあいつのスペックを復習しておこう。
「ステータススキャン」
俺がマイクに向かって指示をすると、マスク内側のバイザー部分にリカルメ・バイヤードのスペックが表示された。
【リカルメ・バイヤード】
■身長:188.5cm
■体重:78.0kg
■パンチ力:4.8t
■キック力:9.1t
■ジャンプ力:35m(ひと跳び)
■走力:4.1秒(100m)
うん、以前戦った時からあまり変わってないな。
レヴァンテインのマスクパーツには特殊なスキャニングカメラが搭載されており、一秒相手の姿を捉えただけで相手の身体能力を把握できるのだ。身体能力しかわからないからあまり使う機会はなかったけど。
リカルメのスペックの隣には比較対象として俺のスペックが表示されていた。
【レヴァンテイン ゲネシスフォーム】
■身長:190.2cm
■体重:80.1kg
■パンチ力:5.5t
■キック力:10.7t
■ジャンプ力:29m(ひと跳び)
■走力:5.0秒(100m)
★必殺技:「ディメンションバニッシュ」
見慣れた数値だ。なんやかんやで一番使ってるフォームだからな。
俺とリカルメのスペックはほぼ互角。ならば、勝敗を分けるのは戦術か。
あいつは一年近くこの村に住んでいる。地の利はリカルメに有りか。油断はできないな。
「喰らえッ!」
早速リカルメが仕掛けてきた。
奴は背中から生えた触手を一本掴むとそれを鞭のように振い、俺の頭めがけて叩き込む。
今の俺に提示された選択肢は二つ。受け止めるか、避けるか。
以前リカルメと戦った時は自分の元へ引き寄せようと触手を掴んだ俺だったが、今回は素直に避けることにした。
リカルメもそのことを想定していたのか、もう一本の触手を今度は槍のように突いてきた。ジャンプして避けると触手は勢い余って背後の木に巻き付いた。
その瞬間である。
リカルメの身体から触手を通じて紅い稲光が奔った。背後を見ると、凄まじい音を立てながら巻き付かれた木が焼け焦げていく。触手で相手を捕らえ、体内で発生させた電気を触手を通じて相手に流し込む。リカルメの常套手段だ。
初めて対峙した時はひどく苦戦したものだが、タネを明かしてしまえばなんてことはない。触手に触れないように近づいて本体を叩けばいいだけだ。
「私はあんたを許さない。私を殺し、ゼドリー様を殺し、挙句に私の計画まで邪魔するつもりかぁ!」
計画。やはりリカルメはこのアタトス村でなにかを企んでいる。
アテナに接触することが邪魔というのなら、きっとアテナが鍵なんだ。彼女にはなにか秘密がある。
「バイヤードであるお前たちが滅んだのは因果応報だ! 人間たちの自由を奪い、虐殺を繰り返し、そんなことをして報復が無いとでも思っていたのか!」
「黙れ! 劣等種の分際でこのリカルメ様に口答えするな!」
怒りに任せてリカルメが触手を振り回すと、周囲の木々が高圧電流で焼き切られていく。
恐ろしい破壊力ではあるが、その動きは単調だ。避け続けるのは苦じゃない。それに万が一直撃したとしても、繊維化した特殊合金を編み込んだスーツが身体を守ってくれる。
以前戦った時も三発ほど電撃を喰らってしまったが、命に別状はなかった。具体的に何回まで耐えれるのかは定かじゃないが、少なくとも三発は平気だ。
「今の俺が、三発も喰らうはずないけどな」
リカルメの触手攻撃をくぐり抜け、必殺技ディメンションバニッシュの有効範囲内まで近づいた。焦るリカルメを視界に捉えながらレイバックルのボタンを押そうとした。だがその時、マスクのモニターに映る文字が目に入った。
《----Low battery. The remaing 3%----》
「なに!?」
まずい、いつの間にかバッテリー残量が3%を切っていた。必殺技を放つためには最低でも5%は必要だ。
このままではリカルメを駆除することはできない。
「なにを呆けている、レヴァンテイン!」
一瞬の隙を突かれて、リカルメの触手が俺の右腕に巻き付いた。
「しまっ……ぐあああああああ!」
高圧電流が触手を通じてスーツの中に流れ込む。
スーツがある程度ダメージを軽減してくれるが、それでも全くの無痛というわけじゃない。
あまり感覚を遮断しすぎても判断が鈍くなるだけだ、というユリ博士の判断からだいだい三、四割ほどの痛みはそのまま俺に流れ込んでくる。
こんな初期フォームじゃなく、鈍っても問題ないほどの強さを持つ最終形態、ラグナロクフォームなら痛覚を完全カットできるんだがな。
「どう? 痛い? これでも私があなたに受けた痛みのほんの一部なのよ。これからじわじわとなぶり殺してあげるわ」
そういって、残りの触手も俺の身体に巻き付かせようとしてくる。さすがにあれ全部から電撃もらうのはマズイ。がむしゃらに腕を振るい、なんとか右腕から触手を離した。
「チッ」
舌打ちと同時にまた鞭攻撃を再開するリカルメ。
バッテリー残量が3%しかない以上、早期に決着をつける必要がある。
だが、殴る蹴るだけでやつを倒そうとすれば、どれだけ時間がかかるかわからない。
仕方ない、フォームチェンジをしよう。
緑のエーテルディスクを手に持つ。白以外に唯一ポケットに残っていた強化形態への変身アイテム。
これさえあれば逆転とまで言わなくとも持久戦を回避することはできる。
俺はリカルメの攻撃を避けながらレイバックルから白のエーテルディスクを抜き取った。そして、空になったレイバックルに緑のエーテルディスクを装填する。
《----Preparation----》
電子音声の後に待機音が流れ始める。
その様子をリカルメは不思議そうに眺めている。
「なにやってんのあんた? 恐怖で頭がどうかしちゃった? なんですでに変身してるのにもっかい変身しようとしてんのよ、バカじゃないの?」
そうか、こいつは俺が初めての強化フォームを得る前に死んだからフォームチェンジの概念を知らないのか。
確かにそれならゼドリーが死んだ、なんて言われても信じられないだろうな。
俺だってこのゲネシスフォームでゼドリーを倒せるとは思えない。
ならば見せてやろうリカルメ。
これがレヴァンテインの力、フォームチェンジだ。
「エーテルチェンジ!」
勢いよくレイバックルのレバーを動かすと、緑色の粒子がベルトから放出された。
《----Complete LÆVATEINN GANDR FORM----》
ゲネシスフォームの白い装甲が剥がれ、緑色の装甲に挿げ替えられていく。
レヴァンテインのスーツはあっという間に緑に染まった。
これがレヴァンテインの強化形態、ガンドルフォームだ。
「い、色が変わった!? よく見ると形も微妙に違う……。どうなってるのよそれは!」
「さあな、自分の目で確かめるといいさ」
ガンドルフォームの特徴はこの右腕だ。
リカルメも気づいたようにこのフォームは右腕の装甲が分厚い。このフォームは主にその右腕を使って戦うことになるのだが、殴る蹴るの近接用というわけじゃない。
実際に使って見せた方が早いだろう。
俺は右手の人差し指でリカルメを指さした。
すると手首と肘の間の装甲が展開し、四つの銃口が飛び出した。
「なっ……!」
「食らえ!」
人差し指で定めた標準めがけて右腕から弾が発射される。
弾は見事リカルメに直撃し、周囲に火花が舞い散る。
ダメージはしっかりと入ったらしく、リカルメは膝から崩れ落ちた。
「うぐ、ぁ……!」
「仮にも化け物、この程度じゃ倒せないか」
「この、舐めるなあああああ!」
リカルメは膝をついたまま触手による鞭を振るった。
難なく避けることが出来たが、鞭が地面の石ころをはじき、レイバックルめがけて飛んできた。
さすがに俺もそこまでは予想できず、レイバックルに石を直撃させてしまった。
《-----GANDR Ready----》
「「え?」」
レイバックルから必殺技待機音が流れ始めた。なぜそんなことが起きている?
いや、おそらくさっきの石がレイバックルのボタンに偶然当たってしまったのだろうが、俺が言ってるのはそういうことじゃない。
必殺技を放つためには最低でも5%のバッテリーを消費しないといけない。しかし、レイバックルのバッテリーは3%しか残っていなかったはずだ。
いったいどうして……?
「い、いやああああああ!」
リカルメの悲鳴で思考が中断された。見るとリカルメは酷く怯えていた。
「その音を止めなさい! 早く!」
「な、なんだよ急に。そもそもお前の触手のせいで起動したんだろうが」
「どうでもいいから早く止めて! その音を聞いてると死んだときのことを思い出すの!」
そうか、この音は必殺技のエネルギーをチャージしている間ずっと流れ続くものだ。
俺はすべてのバイヤードを必殺技でとどめを刺していたから、バイヤードにとって死に際に聞く最期の音になる。
つまりリカルメはこの音がトラウマになっているというわけだ。
「……そうか。もっと鮮明に思い出すといい。今からお前はその時と同じ運命を辿ることになるからな」
「は、はぁ? なにいってんのよ……。必殺技の有効範囲内にあんたを近づけるとでも思ってるの? たった数発銃弾を受けたからって、そこまで私は弱っちゃ――――」
「もうすでに有効範囲内なんだよ、ここは」
「……は?」
俺はゆっくりとリカルメ・バイヤードを指さした。
するとリカルメからはよく見えたことだろう。右腕の銃口にエネルギーが溜まっていく様を。
「ガンドルフォームは遠距離攻撃に長けた強化形態だ。当然、必殺技も遠距離に対応している」
「いや……」
「じゃあなリカルメ。計画とやらがなんだったのか知らないが、お前の望みはここで断つ」
「いやあああああああああああああ!」
「ディメンションバニッシュ!」
リカルメが触手を振るい俺の狙撃を妨害しようとする。
だけど無駄だ。ガンドルの銃弾は触手ごとお前の身体を貫くだろう。
レバーを倒し、レイバックルから無機質な死刑宣告が成された
《-----DIMENSION BANISH----》
今度こそさよならだ、リカルメ・バイヤード。