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第3話 魔法適正

 エルフと人間には耳の長さ以外にも違いがある。それは魔法の使い方だ。


 エルフは一つの属性魔法しか使うことができないが、その魔法の効果が絶大である。

 例えばアテナの回復魔法。

 通常の回復魔法は止血や簡単な解毒などの応急処置程度の効果しかないものらしいのだが、アテナの魔法は手術が必要なほどに傷ついていた俺の身体を全回復させて次の瞬間には戦闘を行うことを可能にした。


 対して人間の魔法は効果が薄い。

 エルフが火属性の魔法を使えば森を一つ焼き払うことが可能だとされているが人間が使えば木を一本燃やすのが精いっぱいだという。


 しかし、その代わりに人間は多属性の適性を持つことが可能なのだそうだ。


 未だ成し得た者は一人しかいないが、全属性の魔法の適性を持つことも理論上はあり得るとのこと。

 一つ一つの威力は小さくとも、多彩な効果を使い分けることが出来れば戦場を優位に立ち回れるということだ。


 自分にどんな魔法の適性があるのか確かめる方法はただ一つ。各属性の宝玉に触れることだ。

 適性があれば触れるだけで宝玉が淡く光りを放つらしい。その光を宝玉の外へ出すのが魔法と呼ばれる現象の正体だ。


 というわけで、俺は村で宝玉を取引している商人の元に向かった。

 世界中を旅している行商人がたまたまアタトス村に来ているらしい。各地から仕入れているだけあって、行商人は全属性の宝玉を取り揃えていた。


 さっそく、俺の適性を調べてみよう。そう思っていたのだが……。



「なんでお前がここにいるんだ」


「こっちのセリフよ劣等種」



 最悪なことにリカルメが先客だった。

 なるべくこの顔は見たくなかったんだが……。まあ、アテナからこいつが離れているというだけである意味安心しておくべきか。


 こんな危険な怪人、一刻も早く成敗しなくてはな。

 そのためにも早く新しい力を手に入れよう。



「ご主人、この宝玉触ってもいいか?」


「適性を試したいのか? 好きにするといい」


 あごひげを蓄えた渋い顔の商人の許可をもらい宝玉に手を伸ばした。


「宝玉? なんであんたがそんなもの欲しがってるのよ?」


「…………」



 お前を倒すためだよ。なんて素直に話すわけにもいくまい。

 レヴァンテインに変身できないというデメリットを晒すことになるし、客はリカルメ以外にもいる。いらぬ誤解を生みたくない。


 リカルメは今や村の一員としてとけ込んでいる。下手にリカルメを敵に回すようなことをすれば、それは村を敵に回すことと同義だろう。

 リカルメと二人きりでないときはなるべく穏やかな会話を心がけよう。



「せっかくこんなファンタジー世界に来たんだ。魔法の一つでも使ってみたいじゃないか」


「あんたの変身だって魔法みたいなものじゃない」


「オーバーテクノロジーといえど、あれは科学だ。男っていうのは内に秘められし神秘の力に憧れるんだよ」



 行商人は馬車の前に風呂敷を引き、その上に商品を並べている。

 その風呂敷を俺やリカルメ以外にも何人か囲っている形の市場だ。


 俺は赤い宝玉を手に持った。

 しかし光らず。火属性、適性、無し。



「ぷー! ダッサ! 内に秘められしなんとかはどこいったのぉ?」


「……黙れ。一つくらい適性のない属性はあるに決まってるだろ」



 今度は青色の宝玉を手に取る。

 水属性の宝玉だ。

 しかし、無情にも光らず。



「なん……だと」



 次は黄色の雷属性、だが光らない。

 緑色の風属性、光らない。

 茶色の地属性、光らない。

 黒色の闇属性、光らない。

 白色の光属性、光らない。光なのに。



「そんなバカな!」



 話が違う。人間は複数の属性魔法操れるんじゃなかったのか?


 俺の隣でリカルメが笑いをこらえてやがる……くっそぅ。



「驚いたな。世界中旅してきたが、宝玉が一切反応を見せない人なんて初めて見たよ」


「こんなはずはない! ご主人、これらはほんとに宝玉なのか!?」


「うちの商品にイチャモンつける気かい? ほらよ」



 行商人は右手に赤、左手に青の宝玉を持ち、見事立派に輝かせて見せた。



「【相反する二つの力。今ここに調和し我が糧と成さん】」




 詠唱が終わると行商人の右手から火柱、左手からは水柱が上がった。

 二柱は空中で交差し、美しい螺旋を描いていた。


 周りの客たちからは感嘆の声があがる。どうやらこれも商品を売るためのパフォーマンスのようだ。



「兄ちゃん、これで信じてもらえたかい?」


「う……すまなかったご主人」


「く、クレーマーヒーロー……ぷっ」



 リカルメは笑いを堪えきれないといった感じで吹き出した。

 今ので俺の正義ゲージが一気にマックスまで溜まったぞ。決着の時を覚悟しけよリカルメ。


 しかしまいったな。魔法すら使えないとなると、この先俺はどうやって戦っていけばいいんだ?

 戦い慣れはしているから生身でもチンピラ数人を相手に勝つことくらいはできるが、魔物やこの世界の戦士相手には通用しないだろう。


 途方に暮れてほかの商品を眺めていると、ある武器が目に入った。剣だ。

 刀身は真っ黒で刃渡りは60cmほど。柄の部分には丸くて平べったい奇妙な窪みが空いている。



「これは?」


「ああ、それは旅の途中で拾ったもんだ。結構きれいな状態だったから頂いたのさ」


「それってネコババじゃ……」


「こまけーこと気にするんじゃねーよ。それにどうせこいつはガラクタさ」



 そういうと行商人は剣と宝玉を手に取り、剣の丸いくぼみに宝玉を嵌めた。

 しかし、くぼみのサイズが合わずポロリと落ちてしまう。



「この通り、スロットが変な形に歪んでいるせいで宝玉がまったくハマらねえ。剣自体は結構丈夫な造りしているからもったいなくてな」


「剣に宝玉を嵌めるとなにか起こるのか?」


「おいおい、兄ちゃんどこの田舎出身だ? 魔法は普通、宝玉を武器や杖に嵌めて使うものだろうが」


「え、そうなのか」



 そういえば、アテナも森で魔法を使った時、杖を使っていたような気がする。



「もちろん今みたいに武器や杖無しでも魔法は使える。だが、それだと燃費も悪いし魔法の出力もたかが知れている。今の火柱だって、見た目は立派なもんだが熱はほとんどない。ただの見掛け倒しさ」


「そんなことも知らなかったなんて、やっぱり所詮は劣等種ね!」


「お前は黙ってろ。ていうかそもそもお前なにしに来たんだよ」


「え、いや、その……アテナがもうすぐ誕生日だから、プレゼントを買いに……」


「建前を聞いてるんじゃねーよ」


「本心よ! なんなのあんたムカつくわね!」



 こっちのセリフだ。化け物のくせに面白半分で人間の文化を真似やがって。


 しかしアテナは誕生日近いのか。傷を癒してくれたお礼に俺もなにかプレゼントを買いたいな。なにかいいものはないだろうか? 


 イマイチこっちの世界の女子が欲しがりそうなものがわからない。

 いや、元の世界でもそんなに女心がわかる方でもなかったが。



「贈り物というなら、この剣を持ってったらどうだ?」


「え、剣を?」



 行商人の手に握られた剣を見る。

 どう見ても女の子に送るような代物ではない。しかもこれ不良品だったはずだぞ。



「このあたりじゃ武器をお守りとして家に飾る風習があるそうじゃないか。飾るくらいしか使い道のないこの剣にはぴったりだ」


「そうなのかリカルメ?」


「そうだけど……もっとかわいいのがいいわ。なんかプレゼントって感じがしないし」



 一応リカルメもこちらの世界の住人ではないため、こっちの感覚は理解しがたいといった感じか。

 いや、こいつの場合は人間の価値観を理解できないといった方が正しいな。


 確かに俺も女の子の誕生日プレゼントに剣を贈るのはどうかと思うが、それはあくまで元の世界での常識だ。

 アテナがこっちの世界の住人である以上、アテナに合わせてプレゼントを選ぶのが当然というもの。

 俺はリカルメのような自己満足ヤローとは違うのだ。



「ご主人、この剣売ってくれ」


「毎度」


「ちょっとやめてよ。これをあんたが贈るってことは、私の家にこの剣が飾られるってことじゃない! いやよこんなダサい剣。しかも道端で拾われたやつなんて!」


「うるさい、どの道お前は近いうちに俺が成敗するから関係のないことだ」


「なんですって!」


「ご主人、いくらだ?」


「まあ、宝玉もハマらないガラクタだからな。100ゴルドに負けてやるよ」



 ……ゴルド?

 しまった! そもそも俺この世界の通貨持ってないじゃないか!



「どうした? 100ゴルドくらいあるだろ?」


「……? あ、そういえばあんた昨日こっちに来たんだっけ?」



 俺の状況を察したのかリカルメがニヤニヤと俺の顔を覗き込んでくる。


 とことんウゼえこいつ!


 くそぉ……ヒーロー活動ばっかで、使い道なく溜まってったバイト代なら財布に入っているのに……。



「あのー、これは使えませんよね?」



 焦りからか急に敬語になってしまった。

 俺は財布から野口英世が描かれた一枚の紙きれ、千円札を取り出した。



「ぶっ!」



 リカルメが横で噴き出しているが無視だ無視。


 行商人は千円札を手に取りじっくりと眺める。



「なんだこりゃ。羊皮紙か? いや、触り心地が全然違うな。右側に人が描かれているということは肖像画か? しかしなんでまたこんな小さな紙に? ……というかよく見ると模様が細かすぎるな。いったいどうやって描かれた絵なんだ……興味深い」



 あれ? 意外と好印象だな。


 そうか、おそらくこの世界では印刷技術があまり発展していないのか。

 そしてたぶん紙幣というものも存在しない。

 おそらく行商人はこの千円札を芸術品かなにかと勘違いしている。これを利用しない手はないだろう。



「これは俺の国に伝わるシヘイという宝だ。魔法を使い、三日かけて歴代の王の顔を描くらしい。俺も芸術には疎いから細かいことは知らんがな」



 追及されると困るので詳しくないと予防線を張っておく。



「ほう、まだまだ俺の知らない国や文化もあるもんだな。いいだろう。物々交換といこうか」



 よし、うまくいった!


 日本円は全世界共通の通貨なのかもしれない。

 さっきまで笑っていたリカルメが面白くない、とでも言いたげの冷めた視線を向けてくる。ざまあみろ。


 俺は行商人から黒い剣を受け取った。実際に触ってみるとなかなか重量感がある。

 宝玉を嵌められないというだけで普通に使う分にはいい剣なのではないか? とも思ってしまう。そのあたりが俺とこの世界の価値観の相違なんだろうな。



「あ、そういえば誕生日っていつなんだ? 近いとは聞いてたけど、具体的な日付を聞いてなかった」


「教えてほしければ土下座しなさい。そして『私レヴァンテインはバイヤードに完全敗北しました。これからは一生リカルメ様の奴隷として生きていくことを誓います』と……っていないし!」



 土下座、の部分でリカルメがどういう態度に出るのか予想できたので俺はすぐさま露店を後にした。

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