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第44話 姫様の依頼

 前回までのあらすじ。


 リカとアテナが部屋のベッドで色々ヤってた。


 まあ耳かきなら仕方ないな。





 衝撃の触手耳かき事件から一夜が過ぎた。

 朝食を済ませた俺とアテナは同じ足取りで宿を出て、城下町へ向かう。

 当然、リカとは別行動だ。



「なんで私はお留守番なのよ! 私もアテナと行きたいー!」



 なんでって。国の重鎮(じゅうちん)が集う建物にお前みたいな危険思想の人物連れていけないだろ……。

 それに万が一、リカがバイヤードだとバレたらその場で処刑されてもおかしくない。リカを霧果に戻すまで、誰にも手を出させるわけには行かないのだ。


 というわけで宿からストーキングでつけてきたリカを、アテナの土地勘で回避して着々と城への足取りを進めていく。

 アテナも後者の理由は心配していたらしく、リカを連れていくことに反対なのは俺と同意見だった。



「まあ、どっちにしても通行証が無いとお城には入れないんですけどね。イヌイコータさんがあのエリッサ姫とお知り合いだったのはビックリしましたけど」


「別に知り合いってわけじゃないよ。レヴァンテインのことを詳しく教えろって脅されてるだけ」



 あの時は変身していたからあの姫様は俺の顔は知らない。だけど、シオンが俺の名前をバラしてしまったせいで、俺の素性が調べられるのも時間の問題だ。

 ならば、大人しく彼女の好奇心を満たして早めに飽きさせるのが最善だろう。



「しかし、あのピエロみたいな女の子がお姫様って、この国本当に大丈夫なのか?」


「あはは……、エリッサ姫の噂はアタトス村でもよく聞きました。珍しいものが好きで、世界各地の名品珍品をかき集めているらしいです」


「だろうな。ベルトとディスク盗まれないように注意しなきゃ……」



 目の前で変身を披露するくらいなら問題無いが、献上(けんじょう)を求められたら逃げるしかない。

 とはいえ、あの姫様には神器使いの近衛が二人付いている。確かミギアとレフトという名前だったか。

 彼らと敵対することはなるべく避けたいな。



「あの、イヌイコータさん達ってどこへ向けて旅をしているんですか?」



 昨日の夕食ではアテナ達の事情を聞いただけでお開きになってしまったため、こっちの事情はまだそこまで話していないのだ。

 アテナから見て俺達は誘拐騒動に巻き込まれて、村を追い出された異邦人(いほうじん)ということになるのだろう。

 無論、俺とリカの目的も知らぬままだ。



「ウルズの泉に白いバイヤードが現れたって話してくれたよな? その白いバイヤードを倒しに行くんだ」



 白いバイヤードというのは当然ゼドリーのこと。俺のディメンションバニッシュのせいでこの世界にあんな化け物を招き入れてしまった。だから、あいつは俺が倒さないといけない。



「バイヤードを倒しに……ということは、リカはちゃんと改心してたんですね! よかったー。イヌイコータさんからリカの過去を聞いたときから少し不安だったんですけど、今はイヌイコータさんと共に正義の旅をしているんですね!」


「え? あーっと、それは……」


「?」



 リカは全く改心などしていない。

 目的地は一緒だが、目的は真逆だ。リカは、いやリカルメはゼドリーといち早く再開してこの世界を征服しようと目論んでいる。

 もちろんそれはバイヤード化の影響で捻じ曲げられた精神がそうさせているのだが、しかし、アテナのよく知る「リカ」とは捻じ曲がったほうの精神「リカルメ」だ。「霧果(きりか)」ではない。

 どこまで話すべきなのだろう。そんなことを悩んでいる間に城門までたどり着いてしまった。


 王都入り口とは比べ物にならない厳重な警備。(やぐら)からは弓兵がじっと俺らを睨んでいる。

 どんな異物も通さないといった関所の堅い緊張が場に張りつめている。しかし、アテナは臆することなく進んでいく。



「そこの亜人! 止まれ! これより先はゴアクリート王国城である! 許可なき者は何人たりとも通すわけにはいかぬ!」



 二人の門番が槍をバツの字に交差させアテナの行く手を阻む。アテナは懐から文書を取り出し、門番に見せつけた。



「国王の召喚に応じ参上しました。アテナ=グラウコピスと申します。天神族キーロンの予言の件で謁見したいので通して頂きたいのですが」



 門番がアテナから手渡された文書に目を通し、ワナワナとわかりやすく青ざめている。



「これは、ほ、本物!? ということは、あの『ヴィドヴニル封印伝説』のアテナ様!? た、大変失礼致しました!」 


「す、すげぇ。俺勇者様なんて初めて見たよ! あの、握手してもらってもいいですか?」


「馬鹿! 仕事中だぞ! 第一、矛盾の勇者(パラドクスブレイブ)様に失礼だろうが!」



 新米と思われる兵士が上司に叱られている。しかし、アテナは慈悲深く微笑み、新米兵士に右手を差し出した。



「お仕事お疲れ様です。陰ながら国を護るあなた方の務め、心より敬意を表します。頑張ってくださいね」


「あ、ありがとうございます! アテナ様!」



 アテナと握手した新米兵士は涙を流して感激している。すごいな、本当にアテナって勇者なんだ。

 形は違えど、アテナもまたこの世界のヒーローってことか。そう考えると少し親近感がわいてくる。



「ところで、そちらの方は? お連れ様のようですが、通行証はお持ちですか?」



 中年の門番が訝しみながら俺の傍へと歩み寄る。



「通行証……えっと、これでいいのかな?」



 俺は懐からエリッサ姫の招待状を取り出し、門番の男に見せた。



「エリッサ姫直々の招待……」



 門番の男にポンと肩を叩かれる。



「君も大変だな……」



 あ。やっぱりお城でもそういう扱いなんだあの姫様。

 憐みの目を向けられながら城内へと案内された。俺はこれからどうなってしまうのだろうか……。





 石造りの立派な廊下を歩いていると途中で奇妙な扉が目に留まった。

 扉の材質はおそらく木だ。木目があることからかろうじてわかった。全体的にピンク色に塗りつぶされているため、一瞬テーマパークの入り口か何かと勘違いする。

 扉の両隣にはそれぞれ裸の男女を模した石像が飾られており、ただ眺めているだけでも威圧される雰囲気を醸し出している。



「あちらが姫様のお部屋です」


「だろうね」



 奇抜な扉の前で足を止める。アテナとは一旦ここでお別れだ。



「じゃあ、また帰りに」



 そう言ってアテナは奥の謁見の間へと進んでいった。

 さて、俺の謁見もさっさと終わらせよう。



「エリッサ様! イヌイコータなる者をお連れいたしました」


「うむ! 通すがよい!」



 中からエリッサの声が聞こえると兵士の手によって扉が開かれた。警戒心は緩めずに中へ足を踏み入れる。


 中は意外と普通の部屋だった。天蓋付きの大きなベッド、煌びやかなシャンデリア、絢爛な鏡台。エリッサの歳を考えると少し幼げでファンシーなデザインの物が多いが、それでもお化け屋敷めいた部屋を想像していたため少し拍子抜けではある。



「ん? お主一人か? 紅き怪物も呼べと言ったではないか」



 が、そのエリッサ本人はやはり奇妙な格好をしていた。

 五色の頭髪に片眼鏡は昨日のまま。頭の上にはウサ耳のようなようなものが生えていた。

 それに合わせたのかどうか知らないが、首から下は若干ダボダボな白い着ぐるみに身を包んだでいる。


 顔立ちや身長からだいたい17か18歳くらいだと推察できるけど、それにしては少し幼い感性を持っているように思える。


 その両脇には先日グランレンドを撤退まで追い込んだ近衛二人が控えている。ダークエルフのミギアと、キザな笑顔を浮かべる金髪貴族レフト。


 今のところ力ずくでレイバックルを奪いにこようという意思は感じない。



「悪いけど紅い方はここには呼べないよ。もし正体が知られたら殺される恐れがある」


「そんな心配をするならば王都に入ること自体間違いであろう。この街ではあらゆるところで巡回の騎士たちが目を光らせておるぞ」


「注意するよう言っておくよ」



 エリッサはやや不服そうな顔をして椅子に座る。

 すると、ミギアが素早くテーブルを正面に移動させ、レフトはどこからともなくポットを取り出し紅茶を淹れた。


 近衛騎士というより執事とメイドみたいだ。



「まあよい。ならばお主、見せよ」



 レフトの淹れた紅茶を飲みながらエリッサは俺に見定めるような視線を向ける。

 見せよ、というのはおそらくレヴァンテインのスーツのことだろう。まあ見せるだけなら問題ない。

 ジャケットの前を開き、腰に巻いておいたレイバックルが姿を現す。

 エリッサの口角が上がり片眼鏡をクイッと上げて俺の一挙一動を凝視している。



「……あんまりジロジロ見られるとやりづらいんだけど」


「気にするな。そなたはめずらしい、胸を張れ」



 いや意味が分からないし。

 まあいい。無視してレイバックルに白のエーテルディスクを装填する。



《----Preparation----》



 電子音声と待機音が流れレイバックルが起動する。

 右手と左手を交差させ大きく一回転させ、右手でレバーを倒す。



「変身」

《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》



 ベルトから放出された光の粒子を身に纏い基盤(ベース)となるアンダースーツが形成され、その上から肩、胸、背中、足を守る装甲(アーマー)が装着される。


 わずか数秒の時を経て俺は戌亥浩太からレヴァンテインへと変身した。



「おお……やはり素晴らしい! 今まで見たことのないめずらしい意匠の鎧! 最高じゃ!」


「エリッサ様、御口元が」



 興奮のあまりよだれを垂らすエリッサの口をミギアがハンカチで拭いている。

 着ぐるみみたいな格好も相まって、幼児の世話の様子を眺めている感覚だ。



「それで。俺をここに呼び出したのはこの変身を見るためだけなのか?」


「そう慌てるな。茶でも飲みながらゆるりと語らおうではないか。レフト、イヌイコータにも茶を淹れよ」


「かしこまりましタ!」



 キラッと白い歯を光らせながらどこからともなく白いティーカップを取り出し紅茶を注ぐ。

 エリッサの向かい側にも椅子が用意され、ミギアに座るように促される。



《----Form Release----》



 マスクを被ったままではお茶も飲めない。白のディスクをベルトから取り出し変身を解除した。



「その腰巻と円盤もっとよく見たいのう。机の上に出してくれんか?」


「……盗むなよ?」



 念を押してからレイバックルとエーテルディスクをテーブルの上に置いた。

 とはいえ、ちゃんと自分の手の届くくらいの距離に。いざとなったらすぐにとりかえせるように。


 着席すると、頭の高さが合いエリッサと視線を合わせた状態になる。

 あの片眼鏡を掛けた右目からは言い知れぬ圧を感じた。まるで俺の中身を全て見透かされているようなそんなプレッシャーを。



「お主、賞金稼ぎ(バウンティハンター)じゃな?」



 その言葉に一瞬驚いてしまったが、おそらく、首に下げている賞金稼ぎ(バウンティハンター)の証を見て推察したのだろう。



「ならば話は早い。(わらわ)が直々にお主に依頼を出そう。受ける気はあるか?」


「無い」


「うむ、よい返事じゃ! …………え?」



 俺が断ることが意外だったらしく、エリッサは目を丸くしていた。


 とはいえ俺も生粋の賞金稼ぎ(バウンティハンター)というわけじゃない。仕事を探しに行くのは最低限の生活費を稼ぐときだけだ。それ以外の時はヒーローとしていつでも怪物と戦えるように備えていないといけない。



「いやいや、王族直属の依頼じゃぞ? 報酬もたんまり出るのじゃぞ? 富が欲しくは無いのか?」


「要らない」


「な、ならば土地はどうじゃ? 領主になりたくはないか?」


「絶対にお断りだ! 領主といえば重税で民を苦しめている悪の代名詞じゃないか!」


「なんじゃその偏見……。お主性格までめずらしいな」



 興味と嫌悪の混ざった複雑な表情で見つめられた。

 この人に引かれるのはなんだか心外だ。



「私たちの前でエリッサ様の頼みを断るとはいい度胸だ」


「無欲なのが必ずしも美徳ではないということを覚えておいた方がいいかナ?」



 ミギアとレフトからの威圧感が増した。こんなことで戦闘になるとは思わないが、俺も警戒態勢に入る。


 しかし、それをいち早く察知したエリッサは二人を(たしな)めに入った。



「よすのじゃ二人とも。イヌイコータは(わらわ)の客人じゃ。手出しは許さん」


「……失礼致しました」


「まあ、姫様がいうなら仕方ないネ」



 二人からの圧が消えて緊張が緩んだ。もめ事になるのは回避できたらしい。



「勘違いしないでほしいんだが、俺が拒否しているのはあんたから報酬を貰うことについてだ。何かあんたが助けを求めているなら俺は無償でしかそれを引き受けない」


「無償じゃと?」


「ああ。ただし条件が一つある。あんたを助けることが正義に繋がるかどうか、だ」


「……保証しよう。(わらわ)を助けることは正義を成すことと同義じゃ」



 ふざけた格好をしているが、その目は真剣そのものだ。偽りの色もない。



「話を聞こうか」



 カップのお茶を飲み干し。エリッサの目を見る。

 エリッサは俺に依頼の内容を語り始めた。



「単刀直入に言おう。依頼の内容は、バイヤード退治じゃ」

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