第43話 鼓膜に迫る快楽の魔手。怪人と亜人の一夜は矮小な命を引き金に幕を開ける。
今回ちょっと百合要素ありです。その上ちょっとだけえっちなのでご注意。
前回までのあらすじ!
アテナと仲直りできたー! わーい!
◇
現在私はアテナと二人きりで部屋のベッドに座っていた。
浩太はトイレに行くなんてベタな建て前で外に出ていった。ふふ、劣等種にしてはなかなか気が利くじゃない。
さっきは不幸なトラブルに見舞われてろくに話も出来なかったけど、ようやく私はアテナとお話をすることが出来る。んだけど……、緊張して何を話せばいいのかわからなくなったわ。
「…………」
「…………」
あれ? おかしいな。話したいことはいっぱいあったはずなのに言葉が全く出てこない。
やっぱり勢いに任せて仲直りしたせいで、まだお互い気まずさが残っているんだ。アテナもアテナで何か喋ろうとしてはやっぱり口を閉じちゃっての繰り返し。
アテナが317歳っていうのが未だに信じられない。私なんてまだ3歳なのよ? つまりアテナとは314年も年が離れていることになるわ。アテナから見たら私なんて赤ちゃんみたいなものじゃない。
あ、でも赤ちゃんみたいにアテナに甘えるのも悪くないわね。いや、むしろ良い! アテナママ……。
「あ、あのねリカ」
「ママ……じゃなくて! な、なに? アテナ?」
……いけないいけない。アテナの包容力にほだされるところだったわ。
そんな私の浮かれた心情とは裏腹にアテナは深刻な表情を浮かべていた。その顔を見て私は我に返る。
「本当にごめんなさい。私とリカは種族も生まれた世界も違うのに、私の常識を勝手に押し付けて一人で怒って……いやな人だよね私」
「そ、そんなことないよ! ここはアテナの世界なんだから私がこっちの常識に合わせるべきだし!」
まあ元の世界でも私たちは常識外れな存在ではあったのだろうけど、それはそれこれはこれ。
「でも、なんで勇者ってこと私にずっと隠してたの? ううん、たぶん村の人たちも知らなかったよね?」
私はアテナの過去を知らない。
半年前、あの森でレヴァンテインから喰らった傷を癒してもらった時からアテナはエルフの村娘でしかなかった。
正体が怪人の私と違って、アテナの勇者という経歴は隠すようなものではない。もし逆の立場だったら、私は褒められたさで絶対に自慢する。
「元、勇者だからね。今は神器も王国に返還して魔王封印の任を解かれたただのエルフだもん。流石に100年も経つと長寿の種族以外は伝承で名前を耳にする程度になっちゃうの」
確かに、地球と違って写真もネットも無い世界だ。人間ばかりのアタトス村ではアテナが100年前の勇者だと判断する材料は名前くらいしかない。
「それに魔王ヴィドヴニルに施した封印は完全なものじゃない。賢者……あ、今は女神のキーロンちゃんによると、およそ1000年でその封印は破られてしまうだろうって」
キーロン……え、誰それ。
女神って言ったけど、まさか神様とも知り合いなの?
なんだかどんどんアテナが遠い人になっていく。
この世界を征服する理由がまた一つ増えたわね。世界の支配者になって、少しでもアテナとの距離を縮めないと。
「私たち勇者は来たるべき1000年後に向けて再戦の準備を進めているの。私以外の3人は、長寿の種族じゃないから皆もういないんだけどね」
そう語るアテナの目は少し寂しそうだった。
「全能の勇者キーロンは天神族に転生し、必殺の勇者ディーノは後継者を探す旅に出たきり行方知れず、そして斬札の勇者ベルセウスは神器に魂を転写した後、永遠の眠りについた」
アテナの左腕の盾がきらりと光る。
「でも、矛盾の勇者アテナはエルフだから皆みたいになにかしなくても1000年くらいはそのまま生き延びることができる。だから、それまではつかの間の平和を楽しみたかったの。アテナなんてこの世界じゃよくある名前だし、勇者だなんてそうそうバレないんだよね」
そう言ってお茶目にはにかんで見せるアテナだった。(かわいい)
でも少し安心したわ。実は私を警戒していたとか、本当は私のこと嫌いとかだったらこの場で舌を噛みきっていたところだもの。
「だから、リカにはいままで通り友達として接してほしいの。勝手なお願いかもしれないけど……」
言葉を紡ごうとするアテナの口を人差し指で抑える。
「大丈夫だよ、アテナ。私は何があっても親友だもん。それに……」
「……?」
それに、この世界は私とゼドリー様が征服する。
魔王だかなんだか知らないけど、そいつもついでに消し炭にしてやるわ。
私と、アテナと、ゼドリー様。三人にとっての楽園をこの世界に築き上げる。
だから、安心してアテナ。絶対私が幸せにしてみせるから。
「どうしたの、リカ?」
「ううん、なんでもない」
決意は胸に秘めておく。
強引に話題を逸らしてしばらく談笑にふけっていた。
私が村を離れてからの一週間、どんな生活を送ってきたのかを語り明かした。ついでにパラスの好感度を下げておくべく地下遺跡での破壊行為も事細かに伝えておく。
それを聞いたアテナはあはは……、と苦笑いを浮かべていた。
「さっきも説明したけど、パラスちゃんはいま魔公爵デュグラスの洗脳魔法を受けているの。だから、あんまり気を悪くしないでね?」
「わかってる。でもあの子アテナに馴れ馴れしいからきらいー」
そう言いながらアテナに抱き着いた。
アテナはやれやれとため息をつきながら頭を撫でてくれる。ちょっと前まで当たり前だったスキンシップが、今はとても幸福に感じる。
このまま時間が止まればいいのに。アテナの香りを感じながらそう思った。
「……ッ!? キャァアァァァァ!?」
突然耳元に聞こえたアテナの悲鳴に、私の意識は覚醒する。
敵? 即座に周囲を警戒し、右手からいつでも紅ノ雷銃を放てるように構えた。
「アテナ、大丈夫!? 敵はどこにいるの!」
背後のアテナはある一点を見つめたまま動かない。
周囲に気配も感じない。この部屋にいるのは私とアテナの二人だけだ。
やがて、アテナは震える手を抑えながら敵の方向を指さした。
「そ、そこに虫が……!?」
「あそこね、わかったわ! ……って、え? 虫?」
アテナが目を瞑りコクコクとうなずく。
アテナが指さした一点には確かに羽虫が飛んでいた。
魔物でもなんでもないただの虫。蚊よりも小さな人畜無害な羽虫。
「え、さっきの悲鳴ってこれ?」
「り、リカ! お願い! 外に追い出して! 虫怖い!」
「えぇ……」
確かにアテナの虫嫌いはよく知っているつもりだけど、流石にこんな羽虫にまで恐怖しているとは思わなかった。
私と出会うまでどうやってあの虫だらけの田舎で暮らしていたのだろう。
「は、はやくぅ!」
「はいはい、ちょっと待っててね」
いつもアテナに甘えている私だけど、こういう時は立場が逆転する。
私だって頼りになるところを見せてあげちゃうんだから!
ちょっと目を離した隙にどこに行ったか分からなくなった。数ミリ程度の羽虫だし、仕方ないわ。
でも、バイヤード四天王が一人、リカルメ様に不可能は無いわ。
どこにいるのかわからないなら、この部屋全体を雷で埋めてやればいいのよ!
「紅ノ雷網!」
全身から細かい網目状の紅い稲妻を放射する。
稲妻はアテナ付近の空間を残して、この部屋のすべてに行き渡る。数秒ほど経って、私は雷網を回収する。床や壁に多少煤がついてしまったけど、まあ浩太が弁償してくれるでしょ。
「終わったわよアテ……ナッ!?」
振り返ってアテナに声をかけようとしたら、ベッドに横たわり目から光が失われた無残な姿が目に入る。
もしかして、紅ノ雷網が当たっちゃった? いや、ベッド周辺には放っていないし、何より今のアテナには守護の左手がある。雷網程度の微弱な稲妻が通るわけがない。
「り、リカ、み、みみみ、耳に……!」
そう言ってアテナは自分の大きな耳を指さした。
それで私は大体察した。
アテナ周囲に空けておいた空間に、羽虫は入り込み、そのまま羽虫はアテナの御耳に侵入したのだ。
我ながらとんでもないミスをしたわ……。
羽虫ごときにアテナのキレイな耳を穢させるなんて。
「ごめんアテナ。失敗しちゃった」
「い、いいから早く取ってぇ……! ヒぃっ!? ガサゴソいってる!?」
アテナの手足がジタバタと暴れる。私はそれをおろおろと見守ることしか出来ない。
見たところ羽虫はアテナの耳奥まで侵入している。それを取り出すには耳かきや綿棒が必要になるけど、この世界にそんなものは置いていない。耳を掃除するという文化そのものが無いのだ。
とはいえ、パッと見渡す限り代わりになりそうな細い棒も見つからない。
こうなってしまうと、羽虫のほうから自力で出てもらうしかない。
私もこの世界に来たときは苦労したなぁ。耳がかゆくてしょうがない時はこっそり半擬態解除して触手で耳をかいてたものだわ。
アテナにバレないよう夜にこっそりと。
……ん?
ああ、あった。耳かきの代わりになる細長いものが。
「半擬態解除」
肩甲骨付近の部位だけを怪人化して、自分の身体から触手を生やした。服の中が無数の触手で圧迫されてちょっと苦しくなる。
袖やお腹から触手を外に出し、細かく分裂させることで数ミリ程度の触手を無数に装備する。
その様子を見たアテナがギョッとして私から後ずさる。
「え、ちょ、リカ? なんで急に触手出したの? それでなにするつもり……?」
「アテナ、ちょっとじっとしてて。狙いがズレる」
「狙いってなに!? ちょ、ちょっとやめて! エルフは耳が敏感だから、そんなもの入れられたら……!」
「じゃあ、早く虫取らないとだね!」
私はアテナが不安がらないようニッコリと笑って詰め寄っていく。
やがてアテナは壁にぶつかった時点でそれ以上離れなくなった。逃げ場を探すような仕草にも見えるけど、たぶん気のせいね。
アテナがガクガクと震えて触手を入れづらいので、仕方なく何本か太めの触手をアテナの身体に巻き付かせて軽く押さえつける。
そしてそのままベッドに寝かせて耳の穴を上に向かせる。
「~~~~~~~~~~!?」
声にならない悲鳴が漏れる。きっと中で羽虫が暴れているんだわ。
もがくアテナの手足を触手で縛り、数本の極細触手を耳に近づける。
私もベッドに座り、アテナの頭を自分のふとももに乗せる。要は膝枕の状態だ。
「じゃあ、入れるよ。アテナ」
耳元でそう囁き、細さ数ミリの触手が耳の内壁を這っていく。
「んっ……!」
触手と耳が擦れるたびに、ちゅぷちゅぷ、と音が鳴る。触手が入った瞬間、アテナの身体がビクンと跳ねた。
鼓膜を傷つけないよう慎重に触手を動かしていく。触手からアテナの中の温かさが伝わってくる。
「アテナ……大丈夫?」
「だ、だいじょう……ひゃっ!?」
顔を赤らめ、若干目には涙が溜まっている。
その様子が少し色っぽくて思わず唾を飲み込んだ。
いけないいけない。
今は虫を取り出すことに集中しないと!
「んんっ……! やぁっ、あぅ……」
何かを我慢するように身体をくねらせ、声を押し殺すように手を口に当てている。
こんなに乱れたアテナは私も初めて見る。
内側から湧き出るよからぬ感情を必死に抑えて、羽虫の足を触手が捕らえる。
「よっと」
数本潜り込ませた触手で羽虫を縛り、耳の外へと引きずり出す。
ぐちゅ、と音を立てながら、アテナの小さな耳の穴から長い触手がずるずると出てくる。
「~~~~~~~~~~っ!」
触手が抜けきった時、アテナの身体が大きく反った。全身に巻き付かせた触手一本一本にアテナの動きや体温が伝わってくる。
耳から取り出した細い触手の中で羽虫がバタバタと抵抗している。触手の粘液ですでに弱っているが、アテナの御耳をこんな虫けらが蹂躙したと思うと許せないので微弱な雷撃で丁寧に息の根を止めた。
「もう大丈夫だよアテナ。……アテナ? 大丈夫? 意識ある?」
声をかけてもアテナはぐったりとしたまま動かない。
熱を帯びた頬が紅く染まり、肩を上下しながら荒い呼吸を繰り返す。身体に巻き付かせた触手が擦れるたびにビクビクと全身を震わせる。
「あ、ご、ごめんアテナ! すぐにしまうから!」
いつまでアテナの身体縛ってるのよ私は!
直径5㎝程の触手。それがアテナの凹凸ある女性らしい身体に淫靡に絡みついていた。別にそういうことをしようとしたわけじゃないのに、私の意思に逆らい触手が勝手な動きをしてしまった。
太めの触手をスルスルとアテナの身体から回収していると、そのうちの一本が掴まれて動きを止めた。
「……アテナ?」
「そ、その……。反対も……あの……」
アテナが顔を真っ赤にして、こちらを見つめている。
声がよく聞こえないので耳を近づける。
「そ、その……反対側の耳も虫が入った……ような気がする」
「え?」
私はその言葉を聞いた時点で、それが嘘だと確信していた。
アテナ程の虫嫌いならば耳に虫が入っている時にこんな冷静な態度をとれるはずもない。それに、触手で耳かきしている間は私のふとももで反対側の耳はふさがれていたのだから、虫が入る隙間なんて無いし、入ってたとして私が気づかないわけがない。
そう、もうアテナの耳に虫はいないことは私も理解している。なのに、私は、触手をひっこめる動きを止めてしまった。
「アテナ」
「……はいっ!」
「耳、見せて?」
「……はい」
ゴロンと転がりアテナの頭が再びふとももに乗せられる。
念のため奥までしっかり覗いてみたけど、虫どころか耳垢一つないきれいな耳だった。
「……奥のほうで何か動いてるわ。確かに、虫かも」
なのに、私も嘘をついてしまった。アテナ程じゃないけど、私も少し息が荒くなっているのを自覚した。
顔が熱い。さっきも同じことをしたはずなのに、今はそれ以上に緊張している。
「……リカ?」
アテナが潤んだ目で私を見上げる。
何かを期待しているような、もどかしさを感じているようなそんな表情。
「じゃあ、入れる、よ……?」
「うん、来て……」
数ミリサイズの触手を5本入れた。
ちゅぷ、ちゅぷ、と音を立てながら、耳の奥へと侵入していく。
「あ、んっ……!」
触手が耳の内側を撫でるたびにアテナはビクっと反応して、その姿をもっと見たくて、わざと耳の中をくすぐった。
「んぅっ! リカぁ……!」
「痛くない?」
「気持ちいけど、もうちょっと、優しく。激しい……!」
言葉とは裏腹に蕩けた表情。
私にはわかる。アテナはもっと欲しがっている。
……違う。アテナの態度を言い訳にしちゃだめ。
私が、もっとやりたいと思っているんだ。
「……リカ?」
アテナをベッドに仰向けに寝かせて、その上に覆いかぶさる。
俗に言う、押し倒した状態。
「両耳、入れていい?」
「……っ!」
アテナは驚きに目を丸くする。
恐怖と期待が入り混じったような表情を浮かべ、しどろもどろしている。
だけど、私の提案を拒否することは無かった。
ゆっくりと、もう片方の耳に触手を忍ばせる。
「悪い悪い、トイレがちょっと混んでて遅くなった。それでアテナ、明日のことだけど……あ」
「「あ」」
不意にガチャリと扉が開き、浩太が部屋に入って来た。
私と目が合った瞬間、この場の誰もが硬直し、石化したかのように動かない。
私はアテナをベッドに押し倒し、大量の触手でアテナの身体に絡みついている。
興奮で紅く染まった頬が一気に青ざめていくのを感じた。アテナも我に返ったらしい。
アテナの汗と私の触手粘液でベッドのシーツがびしょ濡れで、見ようによってはアレの後のように見えなくもない。
「まあ、その、あれだ。俺、今日は変身して外で寝るわ。ごゆっくり」
「ちょっ! 違う! なに変な勘違いしてるのよ!」
「イヌイコータさん誤解です! 話を聞いてください!」
なんとか扉付近で浩太を引き止め、と言うか口止めした。
触手をひっこめるのも忘れて、私とアテナは耳かきをしていただけだと必死に訴えたのだった。
翌日、一階の酒場でアテナと遭遇する。
「お、おはよう」
「おは、よう。リカ」
お互い顔を合わせただけでなんだか恥ずかしくなった。
でも、喧嘩してるよりは100倍マシかな。
耳かきだから! 健全な行為だから!





