第40話 めずらしい!
オクシオン・バイヤードとはバイヤード四天王の一人であり、首領ゼドリーに対する忠誠心が一番低いバイヤードだった。
かつてゼドリーに対し謀反を起こし、そのまま裏切り者として殺された後に転生し、今のグランレンドに至る。
そんな奴でも裏切るまではゼドリーの配下として、俺と何回も戦った。
オクシオンの個体名はホッパー・バイヤード。すなわちバッタの怪人だ。全身緑色の皮膚に、逆関節でバネのような脚。黒い複眼に二本の触覚が特徴的だった。
奴は四天王の中でただ一人、特殊能力を持たない怪人であり、代わりに並外れた身体能力で俺を圧倒してきた。なかでも蹴り技は奴の十八番であり、オクシオンの蹴りをまともに喰らうと必ずスーツが大破してしまうほどだ。
だから、今のあいつに怪人時代の脚力が無いことを切に願う。
十体のオクシオンから一斉にあの蹴りなんて喰らった日には、スーツどころか中の俺まで潰れたトマトと化してしまうだろう。
「さあ、反逆の刃の錆となれ」
右側の生命樹型グランレンドがローキックで俺の体制を崩しにかかる。
俺はすぐさま跳躍補助装置を作動させ、10mほどの空中に逃げ込んだ。が、それも奴の狙い通りだったらしい。
俺を取り囲んでいたグランレンドたちが一斉に黒い拳銃を空に向ける。武器まで分身出来るのか。
「エーテルチェンジ!」
《----Complete LÆVATEINN SHOGGOTH FORM----》
レヴァンテインのスーツが青く染まり、身体がドロドロに溶けていく。
グランレンドも急いで弾を発射するが、そのことごとくが流動護謨をすり抜けた。
不定形な状態のまま地面にベチャリと落ちる。
これで俺がグランレンドの攻撃を喰らうことは無くなったが、こちらから攻撃を仕掛けることも出来ない。
一対一の闘いならば、相手を拘束した後にこっちがフォームチェンジしてしまえばいいんだけど、流石にこの大量の分身を全て拘束するほどの流動護謨は用意できない。
昔、似たような能力のバイヤードと戦ったことがある。
アント・バイヤード。
あれはたしか、アリのような頭に忍者のような装束の怪人だった。アントも同じく分身が特殊能力だったが、本体を仕留めた瞬間に無数の分身体は消滅した。
生命樹型グランレンドの能力が分身ならば、本体がどこかにいるはずだ。
「もう一度、エーテルチェンジ!」
《-----Complete LÆVATEINN MERKABAH FORM-----》
ベルトのディスクを黄色に入れ替え、メルカバーフォームウォールモードに変身する。
どちらにせよショゴスフォームは三分以内に変身を解かなければいけない。ならば、先んじて戦闘能力が高いメルカバーフォームに変わっておくのが得策だ。
「どうしたレヴァンテイン。黒のエーテルディスクは使わないのか?」
現在はリカに預けています。なんて素直に教えるわけにもいかない。
あんな危険な代物、早く没収してやりたいのは山々なんだけどな。
「あれはゼドリーくらいの大物に使う最終手段だ。お前程度じゃ使うに値しないよ」
「ほ、ほう。貴様、よほど死にたいらしいな……!」
分身体含めた、十体のグランレンドが拳を握ってわなわなと震えている。
ゼドリーを引き合いに出すと煽り耐性ゼロになるのかこいつ。
と、ここで通信が繋がった。ユリ博士の姿がバイザーの端に映される。
『遅くなって済まない。いまどういう状況だ?』
「ユリ博士、アント・バイヤードの時みたいに周囲の生体反応を解析してくれ。生命樹型グランレンドの本体を探りたい」
『ドクターリリィだ。少し待ってろ』
膨大なデータが研究室に転送される。
周囲の呼吸、熱量、脳波、等々。あらゆる情報を解析し、生体反応を検出することでアントは攻略できた。
グランレンドの分身が幻覚によるものなのか、カメラをハッキングしているのか、ショゴスのようにハリボテを作り出しているのかはわからない。しかし、いずれにせよこの方法で突破できるはずだ。
その間もグランレンドの攻撃は止まらない。
顔面に向けられた回し蹴り。足首を掴み、片手で止める。
そのまま正面のグランレンドを振り回し、床に叩きつけた。その瞬間、背後からもう一体のグランレンドの跳び蹴りをまともに喰らってしまう。
オクシオンほどの脚力ではなかったが、それでもこの人数から一斉にやられたらただでは済まないだろう。
床に叩きつけたグランレンドも、背後から蹴りを繰り出したグランレンドにもキチンと実体がある。ということは、幻覚の類では無さそうだ。
『戌亥君、解析結果が出たぞ。しかし、これは……』
「どうしたんだよ。どれが本物なんだ? 早く教えてくれ」
『……解析結果では、全てのグランレンドに生体反応を確認した。そこにいるグランレンドは全て本物だ』
「なんだって?」
グランレンド達の攻撃を捌きながら広場を見渡す。
野次馬たちはとっくに逃げ去っているので、ここにいるのは俺と数十名の兵士たち。それから、十体の生命樹型グランレンドだ。
これが全て本物だって?
あり得ない。そんなでたらめな話があるか。
「大方、あの似非参謀に私の本体を探らせているのだろうが、無駄なことだ」
シオンの言葉を受けてユリ博士が少しムッとした表情になる。
「生命樹型グランレンドの能力は生命の分割だ」「私の命を複数個に引き裂き、それを元に分身体を形成する」「言ってみれば、全て私の魂が宿った本物、ということか」
周囲のグランレンドたちがかわるがわる喋り出す。これだけの分身を作りながら、意識を一つに統一しているのか。
「生命を、引き裂く……!? そんなことして、大丈夫なのかよ」
「自分の肉体をスライムにする貴様にだけは言われたくない」
『スライムではなく、流動護謨だ!』
しかし、それが本当だとしたらあの能力強いなんてものじゃない。
たった一人でチームを形成できる。人数が多いほど有利だなんて、小学生にでもわかる理論だ。
「……ステータススキャン」
生命樹型グランレンド
■身長:192.1cm
■体重:80.3kg
■パンチ力:15.4t
■キック力:20.8t
■ジャンプ力:31m(ひと跳び)
■走力:4.0秒(100m)
★必殺技「ディストラクションヴォイド」
バイザーモニター全く同じスペック値が何個も現れる。
分裂したらその分弱くなるとか、そういった類の弱点は無さそうだ。
あるいは、既に弱体化済みで一つに戻ったら最強になるとか。……あまり考えたくはないな。
『一体一体はメルカバーフォームよりも弱いから、怯むことは無い。アレをやるぞ。構えろ』
「アレ? ああ、アレか!」
ユリ博士の指示を理解した俺は、メルカバーフォームの重装甲をバイクに変形させる。すかさず搭乗し、グランレンドの間を通り抜けて広場の出口までやって来た。
「逃げるのか? 私はそれでも構わないが」
「いいや、お前のやり方は見過ごせない。ここで白黒ハッキリさせておこうか」
再びウォールモードに変形。113kgの質量が身体にのしかかるが、すぐに姿勢制御装置に支えられる。
そして、脚部パーツから杭が打ち込まれ、下半身が地面と一体化する。これで準備完了だ。
『旋風車輪、起動』
「喰らえ、メルカバートルネードッ!」
左肩のタイヤが右に、右肩のタイヤが左に高速回転駆動を始める。
そして、回転から生じた風の渦が次第に強くなり、瞬く間に二本の巨大竜巻が放たれる。
狙いはさっきまで俺がいた場所に集まっている七体のグランレンド。避ける暇も与えず、その全てを巻き上げる!
「な、ぐ、ぐぁああああッ!!」
「……チッ」
飛ばされた方のグランレンドは声をあげ、残された方は舌打ちをする。
風向きを調整して、遥か遠方へと飛ばしてやった。スーツで守られているから死にはしないだろう。
「これで一対三だな。そろそろ教えてもらおうか、処刑を邪魔する理由を」
「図に乗るなよレヴァンテイン。三人いれば充分だ」
《----Disk Set Ready----》
《----Disk Set Ready----》
《----Disk Set Ready----》
三体のグランレンドが同時にグランマグナムに蒼のエーテルディスクを装填した。
地下遺跡で放ったディストラクションバースト。あれを三発同時に放つ気か。
『面白いじゃないか。旋風車輪、再起動』
両肩のモーターが駆動を始める。
やるしかない。再び狙いをグランレンドに合わせる。
が、その時。
俺とグランレンド達の間に一人の少女が割って入って来た。
「双方そこまで! 武器を収めよ!」
「……!」
「なっ……!」
慌ててブレーキを握り、タイヤの回転を止める。
グランレンドの方も拳銃からディスクを外している。
「なんのつもりだ貴様! 死にたいのか!」
一体のグランレンドが少女に歩み寄る。
すると、兵士の一人が剣を喉元に突きつけた。
「……あぁ?」
「貴様こそ誰に口を訊いている! 不敬罪で地下牢行きに成りたいか!」
……不敬罪?
少女の周りに兵士たちが慌てて駆け寄る。
「姫様! 勝手に我々の元を離れるのはお辞めください!」
「ただでさえこんな危険な場所なのです。万が一のことがあれば、我々全員の首を並べても足りません!」
姫様。今あの兵士はそう言った気がする。
いや、聞き間違いだろう。どうみてもあれは姫っていう感じの人間じゃない。
俺の前に立っている少女。背丈は少し高めで俺と同じくらい。
まず目を引くのが髪だ。
腰まで伸びたロングヘアであるが、その色がおかしい。赤、黄、緑、白、黒と実に五色。
その髪の上に飾られているのは煌びやかなティアラ……ではなく帽子と傘が一体になったような変な被り物。そして片眼鏡を着けている。
靴もハイヒールではなく、革で出来た長靴。服に至っては水着のような露出度だ。
しかし、靴下は履いている。ふとももまで覆われたニ―ソックスのような履物だ。
『な、なんだあの変態は……。そっち世界の女性はみんなあんな恰好をしているのか?』
「俺もあんなの初めて見るよ」
地球人とか異世界人とかって言うより、宇宙人みたいな少女だ。
全身のビジュアルにまるで統一感が無く、混沌を擬人化したような印象を受ける。
少なくとも「姫」という単語は全く似つかわしくない。
「お、お、おおおおおおおっ! 全身を隈なく覆うその鎧! 一瞬で変わる姿! 奇妙な円盤と腰巻! めずらしいめずらしいめずらしい! ウワサ以上にめずらしいっ!」
混沌少女は目をキラキラと輝かせながらレヴァンテインとグランレンドを交互に見ている。
護衛の手を振り払ってグランレンドの傍に寄り、バイヤードライバーを間近でじっくりと見つめている。
「こ、これはエーテルだ! エーテルで出来ているぞ! ということは神器か! めずらしい!」
「き、貴様! それに触るんじゃない!」
「動くな! 姫様から離れよ粗暴者め!」
「この女が近寄って来たのだ!」
グランレンドと兵士がもめ事になると、今度は俺の方に少女が寄って来た。
レイバックルに興味を示している。
「こっちの腰巻はエーテルじゃないけど、中の円盤はエーテルだな……んん!? なんだこのめずらしい金属は!? こんなもの見たことが無い! 神器よりもめずらしい!」
レイバックルを触られそうになり思わず一歩下がる。
ボタンをいじられて必殺技が発動してしまったら大参事だ。
「ちょっと! 危ないから触るなって!」
「そんなめずらしくもないセリフで妾の行動を妨げるでない。これでも妾は数多くの魔道具や神器に触れてきたのだ。扱いには心得があるぞ」
「それでもダメ! っていうか、兵士の人たちはあんたのことを姫様って呼んでるけど、それ本当か?」
「いかにも! 妾はエリッサ=パスティ=ゴアクリート。このゴアクリート王国の第一王女じゃ!」
雑技団の道化師みたいな恰好した少女は、恥じらいも無く王家の名を語った。
その時、俺はこの国の将来がとても心配になった。





