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第36話 自惚れ

 前回までのあらすじ!


 って、章始めなのに私の視点からでいいの? もしかして私に主人公交代とか!?

 あ、違うの? そう。まあいいわ。


 ダルトスの町に出た天才最強美少女のリカとバカの浩太は、ナーゴという男に出会い賞金稼ぎ(バウンティハンター)の資格を得る。


 お金を稼ぐ手段が出来てばんばんざい! と言いたいところだったけど、実はナーゴの正体があのオクシオンで、しかもレヴァンテインみたいな力を身に着けていた。


 バイヤードを憎むグランレンド、兄の仇を取ろうとするパラス、そして妹の仇を取ろうとするレヴァンテインの三人に命を狙われた私は巧みな交渉術でレヴァンテインだけ味方につけることを可能にした。


 その後地下遺跡で私たち四人は死闘を繰り広げ、その戦利品として黒のエーテルディスクを手に入れるのであった。これさえ持ってれば浩太は下手に手出しできないし、グランレンドも大幅に弱体化したままだし願ったりかなったりね!


 さあ! いよいよ王都に向かうわよ!

 ゼドリー様! いま会いに行きます!





 最近、浩太がキモい……。

 なにがキモいって言われると具体的に言えないけど、なんかキモイ。

 ある時はこんなことがあって。



「おはよう! リカ! いい朝だな!」


「え? ま、まあそうね……」



 またある時は。



「リカ、朝ごはんそれだけで足りるのか? 俺のオカズ分けてやるよ」


「は、はぁ。まあ、くれるなら貰うけど」



 またある時は。



「リカ! 近くの防具屋で服を買って来たぞ!」


「いや、要らないわよ。怪人態になったら意味ないし」


「違う違う! お前に似合うと思って買って来たんだ。着てみろよ、絶対かわいいから!」


「えぇ……」



 またある時は。



「リカ、今日のお小遣いだ。大事に使えよ」


「え、なんで?」



 なんか、浩太が不気味なレベルで優しい……。

 つい先日まで私を殺そうとしてきたくせに、ここ数日はまるで私を妹のであるかのように大切に扱い始めた。

 行動の一貫性の無さに思わず鳥肌が立つ。


 もしかして私の機嫌をとって黒のエーテルディスクを返してもらおうとしてる? いや、やり方が浩太らしくない。どっちかといえば私のやり方だそれは。


 まあとにかく、このディスクはしばらく手放さない方がよさそうね。

 谷底とか拾いに行けない場所に捨てるっていう手もあったけど、いまディスクが手元から消えたら浩太の態度がどう急変するかわからない。


 今のままもちょっと嫌だけど……命狙われるよりはディスク狙われてる方が数倍マシよ。



「リカ、そろそろこの町を出るぞ」


「うひゃぁ!? いつからいたのよ!」



 背後から浩太の声が聞こえて思わず跳び上がってしまった。

 警戒する私を前に浩太が少し悲しそうな顔をする。



「わ、悪い。驚かせちまった。そうだよな、お前も女の子なんだからちゃんとノックしないといけないよな」


「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて……」



 あれ? いま浩太なんて言った?



「とにかく、表でバイクの準備してるから荷物まとめておけよ」



 そう言って浩太は部屋から出て行った。一人動揺する私を残して。


 いま、あいつ私のことを女の子って言った?

 散々バイヤードには特別な感情を抱かないとか色々言ってきたあの浩太が、私のことを女の子扱いした……?


 間違いない。今私の中にめぐっていた疑問に答えが出た。


 浩太は今、私にベタ惚れしている!


 無理もないわ。私はバイヤード一、いや世界一の美少女だもん。

 いくら宿敵だからといって、こう何日も同じ部屋に泊まり続けていたらいくら浩太でも私の色香に魅了されてしまうのは仕方のないことだわ。


 でもダメよ! 私の心はアテナだけのもの!

 今さら浩太がどれだけアプローチしてこようとも決して私の心は揺らがないのよ!


 となると、今後の身の振り方を考えないといけないわね。

 私がアテナと相思相愛なのは浩太も重々承知のはず。だからこそ、いま浩太は私への好意を口に出すことが出来ずあんな中途半端なアプローチしかしてこない。


 とにかく、ゼドリー様と再会するまでこれ以上仲を進展させないようにしなきゃ。

 ハッキリと振るのはその直前でいいわ。精神的ショックを与えて、その隙をついてレヴァンテインを葬る! 我ながら完璧な作戦ね。


 荷物と作戦をまとめた私は宿の外へと出た。

 道にはレヴァンテインメルカバーフォームライダーモード(名前が長い)と大型自動二輪車(ライドメルカバー)がセットで待ち構えていた。


 世界観に全くマッチしていないその姿に通行人が奇異の視線を向けている。

 またこれに乗るのかぁ……。



「どうしたリカ? 顔色が悪いぞ? もう少し休んでいくか?」


「これ以上足を止めてたら、いつまで経っても王都に着かないわよ。あとちょっとなんだからさっさと連れて行きなさい」


「ああ、わかった。しっかり掴まってろよ!」



 そういうと大型自動二輪車(ライドメルカバー)のエンジンを蒸かし始める。私に頼られてちょっと浮かれているようにも見える。まるで妹にいいところを見せようとする兄のようだ。


 後部座席に乗って車体後部の握り棒(タンデムバー)に手を伸ばす。最初はこんな棒に体重を預けるのは怖かったけど今では慣れたものだ。


 車体がゆっくりと動き出し、いよいよ私たちは王都へと走り出した。





「一旦ここで降りるぞ」



 街道の端にバイクを停め、私が降りるのを確認すると浩太はベルトから黄のエーテルディスクを取り出した。



《----Form Release----》



 レイバックルから変身解除を告げる電子音声が流れると、レヴァンテインのスーツが粒子化、分散する。スーツの一部を変形させていたバイクのライドメルカバーも同様だ。


 なんで浩太がレヴァンテインの変身を解除したのか。浩太はいちいち理由を言わなかったけど、それは説明されるまでもないことだ。

 なぜなら、私たちの目の前には王都を囲う巨大な壁がそびえ立っていたから。


 高さおよそ20m。横の長さは私の目では測定不能、だけど10km以上は軽く超えてるはず。

 この世界に来てからずっとアタトス村で過ごしてきた私には新鮮な光景だった。


 壁の一部は関所になっており、その周囲は深い水路で外敵の侵入を防いでいる。現在は城門の跳ね橋が降りているため通行可能になっている。おそらく夜になれば閉じられ通行不可になるのだろう。

 狭い入り口だが、幸いにも今は人が少ない。入国するなら今のうちだ。



「ようやく王都ね。ってことは目的地まであと半分ってところかしら」


「え、ウルズの泉ってそんなに遠いのか?」


「そりゃそうよ。魔物が湧き出る泉なんて王都の近くにあったら国民たちは気が気じゃないでしょ? そんなこともわかんないようだからあんたは劣等種なのよ」


「こらリカ! そんな口の利き方したらダメだぞ!」


「………………」



 なんで私たしなめられてるのよ……調子狂うわね。いつもみたいにケンカ腰で反論してきなさいよ。

 いや、私にメロメロならそもそも反論するんじゃないわよ。中途半端な劣等種ね。


 心の中で罵倒を済ませた私は浩太と共に関所へと向かう。

 賞金稼ぎ(バウンティハンター)の首飾りを門番に見せ、目的と滞在期間を伝えたらあっさりと通してくれた。案外王都の風通しはいいらしい。

 ふ、私がバイヤードだとも知らずに。愚かな劣等種どもだわ。


 そうして門をくぐると、今までの町とは比べものにならない立派な光景が広がっていた。

 通路が石畳になっており非常に歩きやすい。噴水広場には商人が開いている出店はもちろん、異国から訪れた吟遊詩人や道化師などが人々を楽しませている。


 活気のいい町ね。交易も結構盛んみたいだし、ゼドリー様の情報も集めやすそうだわ。



「さて、ゼドリーについての聞き込みを始めるか」


「酒場にでも行くの?」


「いや、まだ昼間で賑わいも無いし、そもそも未成年を酒場には連れていけない。そこらの行商人達に話を聞いて回ろう」



 未成年って私のことかしら。確かに私はまだ2歳だけども。

 私のことをピチピチの若い乙女と認識したうえで惚れているということは、やっぱり浩太はロリコンだったのね。

 まあそれはさておき、聞き込みを始めましょうか。


 まずはあの日陰で本棚を担いでいる男からだ。

 おそらくあれは書籍売り。他の行商では知りえない情報も扱っているはず。



「すみません、ちょっといいですか」


「いらっしゃい。おや、貴方たち賞金稼ぎ(バウンティハンター)ですか。ということは地図をお求めで?」


「いや、ほしいのは地図でも本でもないんだ。一週間ほど前、ウルズの泉に現れたっていうバイヤードを探している」


「ほう、それは『黒い光』の中から現れたという『白き怪物』のことですかな?」



 私と浩太は目を合わせた。

 ビンゴね。一発目で情報持ちに出会えるとは運がいいわ。


 書籍売りは浩太からゴルドを受け取ると神剣な眼差しで語り始める。



「ひと月ほど前、女神がある予言を下しました。『近い未来、異界より訪れし怪物が魔王ヴィドヴニルの封印を解く。人間界ミズガルドは再び混乱の渦に巻き込まれてしまうだろう』ってね。このことはご存知でしたか?」



 全く知らなかった。この世界に半年住んでいる私が知らないのだから、当然浩太も初耳である。

 でも、異界より訪れし怪物というのがバイヤードのことを指しているのはわかる。そしてそれはゼドリー様だ。



「東のゴアクリート、西のフーティア、南のシアール、北のザワメシア。人間界(ミズガルド)を代表する4つの大国は連合騎士団を結成し、ウルズの泉で件のバイヤードの討伐に向かいました。その数およそ4000人。一人一人が凄腕の精鋭たちです」


「え、バイヤード1人に4000匹も!?」


「……お嬢さん、単位が逆じゃないですか?」


「あー、この子ことは無視して続けてくれ」



 ゼドリー様の強さならただの人間が何匹束になろうとも些末なことだけど、この世界の人間は侮れない。

 パラスみたいに完全無欠の盾を扱う者や、アテナのようにバイヤードを体内から爆殺する人だっている。

 そんな人間たちが4000人も相手にしたらいくらゼドリー様でも……。



「しかし、白き怪物は連合騎士団4000人のほとんどを、逆に殺し尽したそうです。各国生き残りは数名ほどしかいなかったとか」


「なんてことだ……」


「え、ほんとに!? 流石だわ!」


「なんで喜んでいるですか?」


「いーから! この子は気にせず続けてください!」



 あああああ! 流石は我が麗しの首領、ゼドリー様ぁ!

 その辺の雑魚(ザコ)バイヤードとは格が違いますうううう! ほんの僅かでも貴方が死んでしまったのでは、と愚かな思考をよぎらせたこのメス海月(クラゲ)をお許しくださいいいい!


「先日、その生き残りの騎士から偶然お話を伺うことが出来ましてね。いや彼は立派な騎士でしたよ。仲間を千単位で失ったにも関わらず毅然とした態度で私の質問に答え……」


「そんな人間のことなんかどうでもいいから、早くゼドリー様の話しなさいよ! この劣等種!」


「……様? 劣等種?」


「リぃぃカぁぁぁっ! いい子だから、ちょーっと黙ってようなーっ!」



 流石に浩太も少しキレ気味だった。

 いけないいけない。ゼドリー様の武勇伝を前にしてちょっと興奮していた。

 書籍売りは私の様子を訝しみながら話を続けた。



「彼は騎士団が壊滅した後も勇気を持って白き怪物を観察していました。彼曰く白き怪物は見えざる者と交信をしていたとか」


「見えざる者と交信?」


「ええ、その場に立ち尽くしたまま何者かと会話していたようです。残念ながらその内容までは聞き取れなかったようですが」



 もしかしてリゼルかしら? あいつは身体能力が他の幹部より低い代わりに、念動力(テレキネシス)瞬間移動(テレ―ポート)精神感応(テレパス)と複数の超能力を使うことができる。

 もしあいつもこの世界に来ているのだとしたら、ゼドリー様と真っ先にコンタクトを取るはずだ。



「その後、怪物は予言通り泉の中へ沈んでゆきました」


「え、泉に入ったってことは……」


「ええ。おそらく魔王ヴィドヴニルの封印を解きに行ったのでしょう。いまあの怪物は人間界(ミズガルド)にはいません。やつはいま魔界(ヘルヘイム)を彷徨っていますからね」



 そ、そんなぁ。もうすぐ会えると思ってたのに、また別の世界へ行ってしまうなんて。ゼドリー様のいけず!



「それが、一週間前の話です」


「それより先のことはわからないか? 一週間も経ってたらもうとっくに封印も解かれてどっか行ってるんじゃ……」


「それは無いでしょう。ヴィドヴニルの封印は凄まじく強固です。いくらバイヤードといえど、神器も無しに解くことは出来ません。無理にこじ開けるにしても何年かかることやら」



 ふん、普通のバイヤードで数年なら、ゼドリー様にとっては数秒ってことじゃない。それがわからないなんて、やっぱりこいつら劣等種だわ。



「どうだろうなぁ。普通のバイヤードで数年かかっても、ゼドリーなら数秒で済ませてしまうような気がしてならない」



 え?



「ちょっとちょっと、不吉なこと言わないでくださいよ。ヴィドヴニルの封印が解けるってことはこの世の終わりと同義なんですから」


「魔王ってそんなにヤバイのか……?」


「とにかく、私から言えることはここまでです」



 へぇ。一年間バイヤードと戦ってきただけあって、バイヤードを見る目はあるじゃない。

 ちょっとは見直したわよ浩太。あんたの好意は受け入れられないにしても、足を舐めるくらいは許してあげてもいいわ。


 浩太が書籍売りに礼を言った後、私たちはその場を後にした。

 ゼドリー様はいま魔界(ヘルヘイム)にいる。初期情報からあまり変化はなかったけど、確信が持てるようになっただけでも進歩だわ。


 さて、これからどうしよう。

 魔界(ヘルヘイム)って場所は得体が知れなすぎてあまり突撃したくないし、かと言ってここでずっと立ち止まるわけにもいかない。


 思案に暮れていると周りの人々が同じ方向に流れていくのに気づいた。なにやら楽しそうな表情を浮かべている者もいる。



「なんだ、急に人が増えてきたな」


「きっとお祭りよ! 浩太! 聞き込みはいったんやめて広場へ行きましょう!」


「あ、待てよ!」



 私は一人先に広場へ向かう。考えていても仕方がない。

 私は生きたいように生きるだけ、そのための世界をゼドリー様と作るんだ。だから、やりたいことをやりたいだけやる。

 私はこの2年間そうやって生きてきた。


 広場にたどり着くとすでに人だかりが出来ていた。広場の中央には大きな台があり、人ごみの中でも何が行われているのかは一目瞭然だった。



「あ……」



 私はこれがすぐに祭りじゃないことに気づいた。

 広場中央に設置された処刑台。鎖に繋がれたボロボロの人間。

 切っ先が平らな斬首用の剣エクスキューショナーズソードを担ぐ死刑執行人。



「これより、咎人共の処刑を開始する!」



 私の脳裏に、奴隷を無理に助けようとした浩太の姿が蘇る。

 ヤバイ、これ、絶対に浩太に見せちゃいけない奴だ。

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