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プロローグ

《-----RAGNAROK Ready----》



 レヴァンテインラグナロクフォームが地を蹴り、跳び上がる。

 ゼドリーはそれを見上げていた。



「ディメンション、バニィィィィィィィッシュッ!」



 レヴァンテインとゼドリーが激突し、暴発したエネルギーが周囲一帯を包みこんだ。

 ディメンションバニッシュ。攻撃を当てた対象をこことは違う異次元へと強制転移させるレヴァンテインの必殺技である。

 たとえ、バイヤードの親玉、ゼドリーであったとしても例外ではない。


 ゼドリーは黒い光に包まれると同時、全身に浮遊感を覚えた。地に足がついていない。

 底の無い谷を落ち続けているような、あるいは空高くに吹き飛ばされているような奇妙な感覚を覚える。


 それはゼドリーにとって懐かしい感覚であり、初めての感覚でもあった。


 やがて、黒い光のトンネルから出口が開く。

 ゼドリーはそれを見越していたかのように、体制を整え、異世界(ユグドラシル)の大地に着地した。



「ん……?」



 一瞬、ゼドリーはどこかの戦場にでも飛ばされたのかと考えた。なぜなら、頭上には数えきれないほどの無数の矢が飛び交っていたためである。


 (やじり)に炎が宿っているもの、転じて凄まじい冷気を帯びているもの、雷撃を秘めたもの、風を纏い速度を増しているもの、猛毒が仕込まれているもの、呪いが込められているもの。


 多種多様な矢が宙を舞う様子はまるでサーカスでも見ているようだった。

 しかし、ここはサーカスでもなければ、戦場でもない。この場において争っている人間は誰一人としていない。


 宙を舞う無数の矢の矛先は全て、ゼドリーにのみ向けられたものであった。


 次の瞬間、ゼドリー周辺の大地が爆炎で包まれた。

 5000人は容易く殺せるであろう矢の横行。きっと無事では済まないはずだとその場の誰もが確信した。



「総隊長、全ての矢が白き怪物に命中しました」

「うむ。女神キーロンの予言通りだ」



 少し離れた四方にはそれぞれ1000人ずつの小隊が弓を構えていた。

 東のゴアクリート、西のフーティア、南のシアール、北のザワメシア。人間界(ミズガルド)を代表する4つの大国から精鋭の戦士たちが派遣された。


 この平地から少し離れた場所には一つの泉が存在した。

 透き通るように透明な水でありながら、その色は血や汚物を混ぜ合わせたような(おぞ)ましいものだった。

 人はそれを、ウルズの泉と呼んだ。



「よりによって、こんな場所に出現するとはな。万が一にも怪物を泉に入れるわけにはいかない。先ほどの攻撃で息絶えているとは思うが、念のため第二波の準備を」

「ハッ!」



 ――近い未来、異界より訪れし怪物が魔王ヴィドヴニルの封印を解く。人間界ミズガルドは再び混乱の渦に巻き込まれてしまうだろう。



 この予言が成されたのはおよそ一月前。

 各国の神官がキーロンからの予言を受け取ると、大国の王たちは100年前と同じように人間界(ミズガルド)連合騎士団を発足した。


 騎士団の目的はただ一つ。ヴィドヴニルが復活する前に異界より訪れし怪物を打ち倒すことである。

 予言による怪物というのがバイヤードであるということは彼らも大方予想がついていた。バイヤードは人間よりはるかに優れた身体能力と特異な異能を持ち合わせている。

 しかし、それが一体であるなら数で圧倒すればいい。この一年間、人間たちはただバイヤードの破壊衝動に巻き込まれてきただけではないのだ。



「魔王の復活だけはなんとしても阻止しなければいけない。ここで、あのバイヤードを打ち倒すのだ」

「総隊長! 煙幕の中で動く人影あり! 目標のバイヤード未だ健在です!」

「なんだと!?」



 平地から煙が晴れて行き、ゼドリーの姿が露わになった。

 2mの真っ白な巨体を持つ怪人が騎士団を視界に捉える。



「あちらの世界の人間よりは歯応えがあったが、(わたし)を相手にするには人数の桁が二つほど足りないのではないですか?」



 数千もの矢が直撃したにも関わらず、ゼドリーはその命を保っていた。それどころか、その白い身体には傷一つ付いていない。



「ば、馬鹿な!? いくらバイヤードとはいえ頑丈すぎる!」


「嘘だろ……。矛盾の勇者(パラドクスブレイブ)並みの防御力を持っているなんて……!」


「何をしている! 第二波急げ!」



 四方に配置された弓兵たちから再び無数の矢が放たれた。矢に込められた魔力の色が再び空を埋め尽くす。

 しかし、空はすぐに青色に戻される。


 ゼドリーが右腕で虚空を掴み、振り下ろす。

 すると、矢の勢いが止まり、数千の矢が全て地面に叩きつけられた。



「残念だが、エーテルを伴わない攻撃は(わたし)には効かないよ。こんなにも頭数を揃えているのだ、神器使いの一人や二人いないのか?」



 その場の誰もが息を飲む。

 圧倒的な力量差。まるで神にでも戦いを仕掛けているような気分に陥る。

 絶対に勝てない。どころか、生きて帰れるのかもわからない。



「来ないのか? ならば、(わたし)の番ですね」





 ウルズの地。

 隣接した泉から異形の魔物が絶えず湧き出るため、この地に近づこうという愚か者は一人もいないが、しかし、そこは美しい自然の木々や花が多いことで有名だった。

 人が寄り付かないからこそ、その地の自然は誰に荒らされることもなく、美しい緑で覆われていた。


 そう、今日までは。



「十数名ほど逃してしまったか。(わたし)もまだまだということですね」



 緑色の草木から赤色の血が滴り落ちる。

 場は静寂に包まれ、ゼドリーの呟きが虚しく響く。


 結論から言ってしまえば、人間界(ミズガルド)連合騎士団精鋭部隊4000人の戦士たちは、皆殺しにされたのだ。


 生き残りは各国数名ずつ、しかしそれを追っているほどゼドリーも暇ではないし、あの程度の連中は捨て置いても問題は無い。



『お見事ですゼドリー様。こちらに来る日を心よりお待ちしておりました』


「リゼルか」



 ふいにゼドリーの脳内に声が響いた。これはリゼルの精神感応(テレパス)だ。

 ひと月ほど前にレヴァンテインに倒されたリゼルもまたこの世界に訪れていた。



(わたし)が与えた命令はどうなっている? ちゃんと予定通りすすんでいますよね?」


『……申し訳ありません。私とダフの保有エーテルでは魔公爵数名の封印を解除するのが精一杯でした。オクシオンが死に、リカルメが原因不明の弱体化をしている今、魔王の封印までは解けそうにありません。ですので今は別の方法を探っているところです』


「まて、リカルメが弱体化だと?」


『はい。四天王最強格の雷撃使いであった彼女は、今では下級バイヤードにも劣るエーテルしか保有しておりません。おそらく、転移の際になにかしらの事故があったのだと思われます。現在は辺境の村でのんきに過ごしているようです』


「生きてはいるのだな?」


『はい』


「ならばいい。リゼル君、君に一つ命令を与えます。リカルメを生きたまま(わたし)の元へ連れてこい。リカルメを作り直します」


『かしこまりました』



 脳内の声が聞こえなくなるとゼドリーはゆっくりと歩き出す。

 大量の血が染み込んだ土を踏みながら、ウルズの泉までやってきた。


 透明なのに底が見えない深い泉。ゼドリーは躊躇(ためら)いなく飛び込み、魔界(ヘルヘイム)へと落ちていく。


 人間達の抵抗虚しく、女神キーロンの予言通りにことが進もうとしていた。

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