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第35話 兄妹の因果

 いよいよ俺たちはダルトスの町を出て、王都へ向かうことになった。


 目的は二つ。ゼドリーに関する情報の収集、それからパラスが早まったことをしないよう止めるためだ。

 彼女が悪になる前に、俺には全力でそれを止める義務がある。



「あ、浩太! 王都行きの馬車があるわ! あれに乗りましょ!」


「バカ、移動にいちいち金なんか使ってられるか。結局この町では色々あってあんまり稼げなかったからな。節約節約」


「いやいや、王都まで歩きで行ったらそれこそ時間もお金もかかっちゃうじゃない。バカなの?」


「うるさいバカ。歩きでいくなんて誰が言った? ちゃんとアシはあるさ」



 疑問符を頭の上に出すリカを連れて、町の外の街道にたどり着く。

 王都の位置はパーラさんに教えてもらった。この街道に沿って行けば3日でたどり着けるだろう。


 ただし、それは歩きで行った場合の話だ。


 俺は黄のディスクをレイバックルに装填する。



《----Preparation----》



 電子音声と変身待機音がレイバックルから流れる。

 右足を引き、両手を交差、そのまま手を一回転。


 右手でレバーを掴み、左手は胸の前で握り拳を作る。


「変身!」

《-----Complete LÆVATEINN MERKABAH FORM-----》



 レイバックルのレバーを倒すと、黄色の粒子が身体を包み込む。

 バトルスーツが形成され、その上から装甲(アーマー)を装着する。


 重武装の戦闘フォーム、レヴァンテインメルカバーフォームへ変身完了した。



「え、なんで変身したの?」


「昨日、肩のタイヤの意味を聞いてきたよな? それを教えてやる。装甲分離(アーマーパージ)!」



 レヴァンテインのスーツを守っている外部装甲が身体からバラバラに分離する。


 足、腹、背中、腕、そして肩のタイヤ。

 それぞれのパーツが空中に浮かんだまま別の形へと変形していく。


 右肩のタイヤは前方へ、左肩のタイヤは後方へ。

 残りのパーツは前後のタイヤを繋ぎながら一つのマシンへと合体する。


 二つのタイヤが地面をずっしりと踏みしめ、イエローボディの大型自動二輪車が完成した。


 これこそ、黄のエーテルディスクに秘められしもう一つの力。

 レヴァンテインメルカバーフォームライダーモードだ。



「えぇ!? スーツがバイクになった!?」



 このマシンの名前はライドメルカバー。

 全長2.17m。重量113.1kg。馬力114.4ps。最高時速312km/hという化け物のようなスペックを持つ。一般人に操縦させたら事故を引き起こすこと間違いなしだ。


 グランレンドとの戦闘時のメルカバーフォームは通称ウォールモードと呼ばれている。

 白兵戦に特化したウォールモードと騎馬戦特化のライダーモードの両立がこのメルカバーフォームの特色である。


 外部装甲が全てバイクに変形しているため、ライダーモードのレヴァンテインは特殊合金繊維のスーツ一枚の状態だ。

 空気抵抗が少ないためスピードを出せるが、その分防御力はゲネシスフォームより劣ってしまう。まさに一長一短だ。



「さあ、乗れ。王都まで突っ走るぞ」


「私、ヘルメットなんか持ってないんだけど」



 悪の女幹部が交通法順守するのか……。

 だいたいこの世界に交通法は無いのに。



「心配しなくても、装甲の一部が同伴者のヘルメットに変形している。これ使いな」


「時々、ユリ博士のヒーロー主観がよくわからなくなるわ……」



 リカはヘルメットを被り後部座席に座る。

 いざ、発進。と思ったその時。唐突にリカが俺の身体に手を回し抱き着いてきた。


 しっかりと体を密着させ、背中にあるような無いような胸を押し付けてくる。



「……何の真似だ? 今更俺にハニートラップでも仕掛けようって魂胆か?」


「キモい妄想すんなバカ! 二人乗りするのに運転手に捕まってないと風で吹き飛ばされちゃうじゃない!」


「いや、後ろにタンデムバーがあるんだからそこ掴めよ」



 俺はライドメルカバー後部に設置された握り棒(タンデムバー)を指さす。

 怪人に襲われた人を安全な場所まで逃がせるよう、ライドメルカバーは二人乗りを想定して作られているのだ。



「な……! わ、わかるわけないじゃない! あんなただの鉄の棒がグリップだなんて! 事前に教えなさいよ! あんたこそ私に抱き着かれたくてわざと黙ってたんじゃないの!?」


「んなわけあるか! いいからとっととバーを握れ! 発進するぞ!」



 腑に落ちないという態度を取りながらも、しっかりタンデムバーを掴むリカを確認。

 ようやく、バイクを発進させられるぜ。


 ギアをローに入れて、クラッチを半クラッチにする。

 停止状態からクラッチレバーを少しずつ離していくと、ゆっくりとバイクが動き出す。

 段々バイクに勢いが付いてきたところで、クラッチレバーを離す。



「へぇ、人間の乗り物っていうのも結構快適じゃない。気に入ったわ」



 スーツで全身を覆っているが、この状態でも感度装置が働いているので風の冷たさや勢いを感じる。

 このままのんびりと旅をするのも悪くないが、あまり時間をかけるとゼドリーを逃してしまうかもしれない。

 シフトアップして加速しよう。3速!



「あれ? 浩太、なんか速くなってない?」



 もうちょっと速くしてもいいかな。よし、4速!



「ちょ、ちょっと! これ明らかにヤバいんじゃ……!」



 ここまで来たら最速で突っ切るか。

 ライドメルカバーの内部コンピュータに搭載された半自動運転機構(システム)と、頭部パーツに搭載された動体視力補助装置のおかげで通行人を轢くことは絶対に無いしな。

 5速!



「と、止めて止めて! 怖いってば浩太ああああ!」



 リカがタンデムバーを離して再び俺に抱き着いてきた。

 さっきと違って振り落とされないよう目一杯腕に力を込めて。



「おいバカ! スピード出してる時に動くな! ハンドル操作ミスったらどうする!」


「無理無理! あの棒じゃ後ろに体重かかっちゃうじゃない! やっぱりこうしてないと落ちちゃうわよ!」


「そんなことねーよ! ユリ博士の設計を信じろ! ていうか離せ!」


「いいいいやああああああ!」



 しがみつかれながら後ろでギャーギャー騒がれるのが鬱陶しかったので、仕方なく3速でゆっくり道を走るのだった。





 その日の夜。

 本来ならすでに王都に到着していたであろう時間帯だが、リカのわがままに付き合ったせいで王都とダルトスの中間あたりの町までしか行けなかった。

 今はその町の宿の中である。



「全く、これじゃあ歩きと大して変わらないじゃねえか。ちょっとくらいのスピード我慢しろよ」


「……まるで私だけのせいみたいに言うじゃない。あんたが道端で魔物に襲われている人間を助けなければあの速さでもギリギリ王都に着いたんじゃないの?」


「ヒーローとして困っている人は見捨てられない」


「だからって道中5回も人助けで足止めるんじゃないわよ! しかもなんで無償で助けるのよ! お金くらい貰っときなさいよ!」


「ギルドから依頼を受注したわけでもないのにお金貰うのはルール違反だろ。それにヒーローは見返りを求めないんだよ」



 第一、5回ともリカは離れた場所で傍観していただけだ。魔物は全部俺一人で倒した。

 故にこいつに文句を言われる筋合いはどこにもない。



「はぁー、もういいわよ。疲れたから寝るわ」


「いやお前今日なにもしてないだろ」


「おやすグゥ……」



 ベッドに寝転んだ数秒後、リカは夢の世界へと落ちていった。

 なんでこいつは躊躇(ためら)いなく無防備な姿を俺に晒せるんだ……。


 今のうちに黒のディスクを奪い取ってやろうか。

 いや、ライドメルカバーの走行でレイバックルの充電残量は残りわずかだ。こいつに充電の役目がある以上、下手に手を出すべきではないな。


 とはいえ、ゼドリーと再戦する以上黒のディスクは必要不可欠だ。

 ウルズの泉にたどり着くまでにはなんとしてでも取り戻さなければいけない。


 と、その時レ―ヴァフォンに着信が入る。

 ユリ博士からだ。そういえば昨日の戦闘以来か。


 ここで話すとリカを起こしてしまうし、廊下で話すにも遅い時間だ。

 というわけで、仕方なく外へ出てから応答した。



『遅いぞ戌亥君。ゼミ教授からの着信は1コール以内に取るように』


「ゼミ教授としてかけてきたわけじゃないだろ。それにこっちの世界じゃ電話は目立つからコッソリ話せる場所まで移動しなきゃいけないんだよ」



 そうしないとひとり言で会話する変人に見られてしまう。



『つい先ほどまで変身していたようだが、何があった? またグランレンドに狙われたか?』


「いや、あれっきりシオンにもパラスにも会ってないよ。変身してたのはライドメルカバーを移動に使っていたんだ」


『そうか、君が無事ならなによりだ。あまり心配させないでくれよ』


「なあ、ユリ博士。少し時間大丈夫か?」



 そうだ、今はリカが傍にいない。

 今なら、あの事を聞けるんじゃないか?



『ドクターリリィと呼べ。今は昼休み中だから十数分くらいしかないぞ』



 そういえばこの世界と地球じゃ時差があるんだったな。

 こっちはこんなに真っ暗なのに、あっちは昼なのか。



「充分だ。一つ聞きたいことがある。昨日の話の続きなんだが……」


『君がリカルメ・バイヤードを守らなくてはいけない理由か?』



 流石ユリ博士だ。話が早い。

 リカルメは俺の妹を食い殺した張本人だ。本人は否定しているが俺はそんな嘘を信じる気はない。


 アタトス村での一件を忘れ、アテナを悲しませることも覚悟もして、俺はリカルメを殺そうとした。


 だが、ユリ博士が守れと言うから俺は終焉型(ラグナロク)グランレンドを敵に回してでもここまでリカルメを連れてきた。


 そろそろ納得のいく説明がほしいところだ。


『正直な話、このことを君に話すべきかどうかは今でも悩んでいるところだ』


「は? どういう意味だよそれ。理由もわからないまま、霧果の仇を守り続けろっていうのか!?」


『ディメンションバニッシュの真実を話しただけで、あそこまでショックを受けた君だ。この話をした途端、君はバイヤードを倒せなくなるかもしれない』


「……! あのことはもう関係ないだろ。っていうかバイヤードを倒せなくなるってどういうことだよ?」



 話が全然見えてこない。

 イラつきのあまりだんだん声量が大きくなっていることに自分で気づいた。

 いけないいけない。今は夜中だ。



『……まあいいだろう。別にそっちの世界でバイヤードを倒す必要もないからな。君に真実を教えるよ』



 俺はこっちの世界のバイヤードを放置する気はないのだが、まあ話を進めるためにスルーしておこう。



『リカ君から地下で聞いた話は覚えているか? バイヤードの人間態についての話だ』


「ああ、バイヤードは生まれた時から人間態と怪人態を持っていて、擬態っていうのは元の人間態を上書きする行為……だっけ? それがどうかしたのか?」


『君は疑問に思わなかったか? なぜ、人外の化け物であるバイヤードが生まれた時から私たちと同じく人間の姿をしているのかということに』



 たしかに妙な話だ。

 奴らだって、生まれる前から人間を喰うなんて芸当はできないはず。

 後から人間の遺伝子を取り込む”擬態”はまだわかるが、最初から持っていた人間態はいったい誰のものなのかという説明がつかない。



「やっぱりそれはリカルメの作り話だろ。あまりにも信憑性に欠けている」


『いや、昨日も言ったがその話は真実だ。なぜなら、私はバイヤードが生まれる瞬間をこの目で目撃している』


「なんだって……! でも、そんな話一度も」


『あえて、隠していたんだ。君にはレヴァンテインとしてバイヤードを倒してもらわなければならない。そのために、この情報は障害になる可能性があったからだ』



 ユリ博士の声色が変わる。そのことから事態の深刻さが伝わってくる。

 ひょっとして、俺は聞いてはいけないことを、聞こうとしているんじゃないか?



『君は、人間を殺せるか?』


「は? いきなり何言ってるんだ」


『いいから、答えろ』


「……殺せるわけないだろ。変なこと聞かないでくれよ」


『なら、元人間ならどうだ(・・・・・・・・)?』


「……え?」



 待てよ、ユリ博士。

 それは、どういう意味だ?

 元が人間なら、今は、なんだっていうんだよ?



「まさか……いや、でもそんな……!」


『もう察しはついてるだろう。バイヤードという化け物の正体が』



 聞きたくない。だけど、聞かなくちゃいけない。

 レ―ヴァフォンを耳から遠ざけたくなる衝動を抑えて、俺は耳を傾けた。


 そして、ユリ博士はそれを告げる。



『バイヤードの正体は、人間だ』


「……ッ!」



 膝から崩れ落ちそうになるのを必死にこらえる。

 脈が、鼓動が早くなる。頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉が何も出てこない。


 俺は、この一年間、化け物を倒して世界を守ろうとしていたんだ。


 だけど、今のことが真実なら、俺は、人を殺――



『落ち着け戌亥君! 君が戦ったバイヤードたちはこの世界で生きている! 君は誰も殺していない!』


「いや、アタトス村ではバットを、ダルトスの町ではソードフィッシュを、俺は既に二人も殺している……!」


『……だとしても、彼らが死んだのは君のせいじゃない。彼らはバイヤードになった時点で死んだも同然だ。だから、彼らを殺したのは君じゃない、ゼドリーだ』


「……ゼドリーが?」



 どういうことだ? あいつだってバイヤードじゃないか。

 あいつも化け物に変えられた人間じゃないのか?



『エーテルは私が発見した未知のエネルギーだと説明したな。だが、私には同期の研究員が一人いたんだ。その研究員がゼドリーだ。当時はまだ瀬戸(せと)倫次(りんじ)という名前だったが』


「やっぱり、あいつも人間だったのか」


『ああ。しかし、ある日の事故で大量のエーテルが瀬戸君と融合してしまった。その結果生まれた化け物がゼドリーだ』


「エーテルと、融合……?」



 俺は、ポケットから白のエーテルディスクを取り出した。



『ゼドリーは体に内包された膨大なエーテルの一部を人間に注入することでバイヤードを作り出した。君がこれまで戦ってきた50体以上のバイヤードは、全てゼドリーから生まれてきたと言っても過言じゃない』



 エーテルが人間と融合するとバイヤードが生まれる……!?

 俺は、今までそんな危険なものを使って戦ってきたのか……!



『誤解の無いように言っておくが、君に渡したエーテルディスクは安全だ。融合の危険が無いように私が加工した』


「まあ、危険が残ってたら一年も経たないうちに俺がバイヤードになってるよな……」



 いや、待てよ。

 いくら化け物になったからって、それまでの人間としての人格を捨ててゼドリーに忠誠を誓うだろうか? それも50人全員が。


 普通、化け物に変えられた恨みでゼドリーに反旗を(ひるがえ)すんじゃないか?



『ゼドリーはバイヤードを作る際に元になった人間の記憶を消去している。だからバイヤードたちは自分が人間だったなんてことは知らないのさ』


「そうか、だからリカルメも生まれつき人間態を持ってたなんて言い方を……」



 ああ、ていうことはリカルメも元は人間だったのか。


 そう思うと、今まで化け物扱いしてきたことが急に申し訳なくなってきた。

 あいつも、好きで俺の妹を喰った訳じゃなかったのか。


 生まれつきの人間態が霧果の姿だったなんて、そんな下手な言い訳を考えるほど後悔して……。


 あれ? でも待てよ。バイヤードになる際に人間としての記憶は消えてるって話だったよな?

 じゃあ、なんであいつはあんな嘘をついたんだ? 自責の念以外になにか理由があるだろうか?


 いや、そもそもあれは本当に嘘だったのか?


 もしも、あいつの言ってたことが、本当だとしたら?



「……ユリ博士」


『ドクターリリィだ』


「バイヤードが生まれつき持っている人間態っていうのは、リカルメが昔、霧果のような人間態を持っていた理由って!」


『ああ、それこそが君にリカルメを守らせた本当の理由』



 俺はユリ博士の言葉を一言一句噛みしめた。



『リカルメ・バイヤードの正体は、君の妹、戌亥霧果(きりか)だ』



【第二章 完】

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