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第20話 審査開始

「なんだか外が騒がしいから起きちまったんだが、オマエラもそのクチか?」



 眠そうにあくびをしながらナーゴは俺たちに問いかける。どっちかといえば俺らは騒ぎを起こした側なのだが、変にややこしくする必要もないので話を合わせることにした。



「実はそうなんだよ。外から変な音が聞こえるってリカがガクブルで言うもんだからさ。仕方なくこいつの子守でついてきたってわけだ」



 ちょっとした嫌がらせの軽口を混ぜておいた。真っ赤になって怒鳴り返してくるであろうからあらかじめ耳を塞ぐ準備をしておく。


 しかし、リカは口を開かない。

 若干青ざめたままナーゴを睨み続けている。


 ……まさか!



「ナーゴ……! あんたよくもぬけぬけと……」


「バカ! 冷静になれ!」



 ナーゴに向かって歩き出すリカを抑え込む。マズイ、よりによってこんな時に!



「ちょ、ちょっと! どこ触ってんのよ変態!」



 ナーゴに聞かれないよう小言でリカに喋りかける。



「俺を変態扱いするのは構わんが、お前は絶対に変態するなよ?」


「はぁ? 何言ってんのよ」


「怪人態になるなって言ってるんだ。殺人衝動を抑えろ、いまお前の正体がバレるのはマズイ!」


「……はい?」



 ついにバイヤード殺人衝動が出てきたか。人間態の時は抑えられてるとリカは言っていたが、俺はそんな言葉信用しちゃいない。


 せっかく仕事がもらえそうだってのに、こいつの欲求不満で全部おじゃんにするわけにはいかねえ。



「お、おい。リカちゃん大丈夫か?」


「ああ! 大丈夫大丈夫! こいつ腹が減ると飢えたライオンみたいになるんだ。そんなときは、携帯型スティックチョコレート食わせておけば元に戻るから!」


「お、おう。なんかよくわかんねーけど、明日早いから2人とも早く寝ろよ」


「ああ、おやすみ」


「はなせ浩太(こうた)! 待ちなさいよナーゴ!」





 その後、あまりにもリカが騒ぎ立てるものだから他の部屋の賞金稼ぎ(バウンティハンター)や旅人たちを起こしてしまった。

 冷静になったリカと謝罪に回り、ようやく部屋に戻ることができた。



「まったく……バイヤードの衝動には困ったもんだ。これからずっとこんなこと繰り返さなきゃいけないとか勘弁してくれよ」


「だから! 幹部クラスのバイヤードは殺人衝動はほぼ完ぺきに制御できるって言ってるでしょ! その証拠に、この世界に来てから山賊以外誰も殺してないわ」


「じゃあさっきナーゴに襲い掛かろうとしたのはなんなんだよ」


「あいつは私を殺そうとしたのよ! 私があいつを殺したって正当防衛じゃない!」


「落ち着けよ、あの場にいたのはナーゴじゃなくて黒騎士(グランレンド)だ」


「あーもう! そうじゃなくて!」



 なんだか話がかみ合わないな。アテナがいなくなったことで精神崩壊でも起こしたか?



「……わかった。順番に話すわ」



 そういうとリカは黒騎士(グランレンド)に襲われる前の出来事を話し始めた。

 夜中に目覚めたリカが(なんで目覚めたのかは教えてくれなかったが、たぶんトイレだろう)部屋に戻るとそこにはナイフ片手に忍び込むナーゴの姿があった。


 ナーゴの殺意に気がついたリカは宿を逃走。しかし追ってきたのはナーゴではなく黒騎士(グランレンド)だった。

 黒騎士(グランレンド)の圧倒的強さにひれ伏したリカの前に颯爽と俺ことレヴァンテインが駆け付けた。

 まあ要約するとこんな話だ。



「なるほどな。一応つじつまは合っている」


「一応ってなによ。あんた私がこんなに丁寧に説明してあげたっていうのにそれを疑うわけ?」


「当たり前だ。お前こそ忘れてないだろうな? 俺たちは利害の一致から一緒にいるだけで、本来は敵同士だってことを」


「う……」


「それに黒騎士(グランレンド)やナーゴの狙いがバイヤード(お前ら)の命だっていうなら俺としては大歓迎だ。一緒に戦う仲間ができる」


「ちょ、ちょちょちょっと待ちなさいよ! えーとえーっと……そうだ! 充電! 私を殺したらレヴァンテインには変身できないわよ!? 魔法も使えないあんたがレイバックル無しで生きていけるとは思えないけど!?」



 そんなに慌てふためかれなくても、それくらい理解している。

 だからこそ、妹の仇と同じ屋根の下で眠らなきゃいけないこの状況を嘆いているわけだが。



「……まあ、アタトス村の一件で、お前にも人を助けることができるとわかった。俺がお前の味方をするかどうかはお前の今後の行動次第だ」


「それはつまり……改心しろってこと?」


「そうだ。今からでも正義にでも目覚めるというのなら、断腸の思いで過去のことは水に……流せないけど表面上は仲良くしてやろう」


「劣等種が偉そうに……。だいたいあの時はアテナの身が危なかったからああしただけよ。アテナ以外の人間なんてゴミよゴミ。攫われたのがアテナじゃなくてあんただったら私は喜んで山賊の仲間に――」


「おーい、ナーゴ! 起きてるー?」


「わー! ウソウソ! わたくしリカは正義の心に目覚めました! もう二度と人は殺しません! カミサマ、ホトケサマに誓います!」



 リカの紙切れより薄っぺらい宣言を聞いた後、レイバックルを充電させてから俺たちは再び眠りについた。


 リカのベッドを見ると時折ブルブルと震えている。よほど今夜のことが怖かったのだろう。


 しかし、やはり俺には信じられない。ナーゴがそういうことをするような人間だとは思えないのだ。

 古くから知っている宿敵と、今日知り合ったばかりの仲間。

 俺はどちらを信じるべきだろうか。





「バイヤード審査のこと忘れてたああああああああああ!」



 そんなリカの叫びで目覚めた翌日。

 俺とリカはナーゴの案内でギルドへと向かった。賞金稼ぎ(バウンティハンター)というのは意外に早起きらしく、すでに広場は人で溢れかえっている。



「そりゃそうだ。賞金首のリストや新規の依頼は朝一で更新される。言ってみりゃ賞金っていうのはハンター同士で奪いあうものだ」


「結構な競争社会だなぁ。今まで一匹狼でやってきたからこういうの新鮮だぜ」


「…………」



 頭を抱えるリカを無視して俺たちは受付にたどり着く。リカの方はどうやってバイヤード審査を逃れられるのか必死に考えているのだろう。

 ただ、疑念が一つある。擬態したバイヤードと人間を見分ける方法などユリ博士でも見つけられなかった方法をいったいどうやって確立しているというのだろう。



「ここから先は二人で行ってくれ。俺はとりあえず一稼ぎしてくるからよ」


「ああ、ここまで面倒見てくれてありがとう。初報酬を手に入れたらその時は奢らせてくれ」


「おう! 楽しみにしてるぜ!」



 そうしてナーゴは人ごみの中へと消えていった。俺たちは受付に目を向け、登録を開始する。



「あなた方二人が登録志願者で間違いないですね? お一人ずつお名前をお伺いいたします」


「……リカ」


「はい、リカ様ですね。ではお次の方」


戌亥(いぬい)浩太」


「イヌイコータ様ですね」


「…………」



 名前の登録が終わると俺たちは奥の部屋へと通された。

 中には審査を受けている先客の志願者と見張り役の数名の騎士がいる。

 まあ志願者は身元も不確かな人間ばかりだし、こういう風に警戒されるのも仕方ないか。



「終了です。次はバベル審査に進んでください」



 志願者の男がさらに奥の部屋へと進むと、審査役の女性がこちらに近づいてきた。次は俺たちの番らしい。



「初めまして。イヌイコータさんとリカさんですね? 私はここの職員のパーラ=キヴァルと申します」



 挨拶を済ませるとそのままパーラは説明に入った。

 華奢な女性で物腰も柔らかだが、この人、俺たちに一切心を許していない。こうして俺たちと喋っている間も俺たちに対する警戒を一切解かない。

 普段から荒くれものの世話をしているだけはあるって感じか。



「さてこれからお二人にはご自身の戦闘能力を見せていただきます。あちらをご覧ください」



 パーラさんが指さした先にはヒト一人と同じくらいの大きさのクリスタルが飾ってあった。ぼんやりと明るく光りを放っていたが、徐々に光は弱くなりやがて消えた。



「このクリスタルは衝撃を受けると光を放つという特殊な性質を持っています。これを使って一定以上の光度を記録できれば戦闘審査はクリアとなります」


「え? そんなに簡単なものでいいのか? 防御力や戦術思考とか見るところたくさんあるんじゃ……」


賞金稼ぎ(バウンティハンター)の資格を与えると言っても我々ギルド側がハンターの身の安全を保障することはありません。ただ、我々の元に寄せられた依頼を受注できるようになるだけです」


「えーっと、つまり?」


「生き残る術は自分で身に着けてください」



 なかなかシビアなことを言ってくれる。まあ学校のテストじゃないんだし、そこまで面倒見切れないってことかな。

 まあ、スーパーのポイントカード入会する時と同じくらいのモチベ―ションで挑むか。



「ではまずリカ様からお願いします」


「あ、はい」



 リカがクリスタルの前に立つとその周囲が透明な壁に囲まれる。

 俺もリカも一瞬ギョッとしたが、おそらく周りのものを壊さないための結界だろう。



「制限時間は3分です。ではどうぞ」


「……えいっ」



 リカはやる気なさげに右手を前に突き出し、紅い稲妻をクリスタルに放った。

 紅い稲光とはまた別に、青い光がクリスタルから放たれる。



「え、ちょっとまってください。貴女、無詠唱魔法が使えるんですか!?」


「え? あ、ああ! そうよ! 私は村では名の知れた雷使いで、襲い来る魔物は全て黒炭にしてやったわ!」


「す、すごい! 魔法の発動プロセスを省略できるうえに、エルフ並みの威力を持っているだなんて!」


「そーんなー! たいしたことじゃないわよー! えへへー」



 おだてられて調子に乗ったリカがぐんぐんと出力を上げていく。

 クリスタルは直視し続けると失明しそうなほどの光を放ち、床はすでに真っ黒焦げである。

 それだけならまだしも、結界の方にもヒビが入っており、このままではあのバカの稲妻でこの部屋が吹き飛びかねない。

 流石にマズイと思ったのか、パーラさんは急いで手持ちのボードに結果を記録して終了を宣言した。



「そ、そこまでです! 審査終了!」



 ハッとして稲妻をひっこめるリカ。

 放電が完全に収まるのが確認されると結界が解かれて中からリカが出てくる。



「お疲れ様でした。戦闘審査は合格です。では次にイヌイコータの審査を開始します」



 リカと入れ替わりで俺はクリスタルの前に立った。

 あれだけの雷撃を浴びせられたにも関わらず、クリスタルにはヒビ一つ入っていない。



「では制限時間は同じく3分です。どうぞ」



 先ほどと同じように結界で周囲を囲まれる。

 俺はレヴァンスラッシャーを両手持ちにして、上段で構える。

 そのまま渾身の力を込めて振り下ろすッ!


 カン!


 ピカ。



「…………」



 結構本気で斬りかかったのに、クリスタルからは豆電球ほどの光しか漏らさなかった。



「……一般人よりは多少強い光ですが、それでは合格ラインを大きく下回ります。続けてください」


「プークスクス! ざ、ザコすぎ、ピカって、しょ、ショッボ!」



 リカの笑い声が聞こえてくる。あいつバイヤード審査のこと忘れてねえか?


 とにかく、正体を隠すとかどうとか言ってる場合じゃないな。さすがに飢え死にしてまでユリ博士の言いつけを守ることもないだろう。


 俺は懐からレイバックルを取り出し腰に巻いた。

 次に白のエーテルディスクを右手に持つ。



「ってちょっと待った! あんたこんなことの為に変身する気!?」


「いいだろ別に、バッテリーの残量を気にする必要もなくなったんだし」


「時間内であれば何をしても構いません。続けてください。あと2分です」



 審査役のお墨付きを得たので、遠慮なくディスクをレイバックルに装填した。



《----Preparation----》



 レイバックルから電子音声と待機音が流れる。

 右手と左手を交差させ、ディスクの回転をイメージし、それと同じように両手を大きく回す。

 一回転した後に、右手でレイバックルに取り付けられたレバーを掴み、左手を胸の前に出し握り拳をつくる。

 そして、右手で勢いよくレバーを動かし叫んだ。



「変身!」

《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》



 レイバックル内でエーテルディスクが激しく回転する。

 増幅されたエーテルがスーツを形成しそれが俺の身体と重なる。

 装甲(アーマー)パーツが各所に取り付けられてレヴァンテインへと変身完了した。



「なッ!?」



 パーラさんの驚愕した声を外部マイクが拾った。

 だけど、もっと驚いてもらおうじゃないか。

 なんせ、レヴァンテインのパンチ力は5.5t(トン)だからな!



「ハァッ!」



 腰を低くしてクリスタルに正拳突きを放つ。

 拳がクリスタルに直撃した瞬間、さっきよりも眩しい光が放たれた。



「無詠唱魔法の次は……なにこれ? こんな魔法みたことない……。っていうかゴアクリート式の属性魔法じゃあり得ない。まさか、古代トートリア式!? いや、それにしてはプロセスが単純すぎる。まさかあの腰巻に儀式場が圧縮されて……」



 なんだかパーラさんが小難しいことをブツブツと喋っている。

 リカほどの光度じゃないが、とりあえずこれだけ光れば合格なんじゃないだろうか?



「もういいですか?」


「……その魔法、一体どういう仕組みなのですか? というかあなたたち一体何者ですか?」


「魔法じゃなくて科学。そして俺たちはただの無一文の旅人だ」


「……審査は合格です。次の審査に進んでください」



 露骨に腑に落ちないという表情を出しながら、パーラさんは俺たちを次の審査へと案内する。


 バベル審査。

 バベル族か否かを見極める審査だ。


 だが、この審査は結構簡単だった。首筋をパーラさんに見せるだけでいいんだから。

 どうやらバベル族というのは首に呪いの象徴たる紋章が遺伝子レベルで刻印されているらしい。

 確かに、街で見たバベル族にも首にタトゥーのようなものがあった。あれは呪いの紋章だったのか。



「そもそも、会話が通じてる時点でこの審査必要ないんですけどね」



 パーラさんは苦笑交じりにそう言った。

 そして、最後の審査の時が訪れた。

 バイヤード審査、今までの中で最も難関な審査である。



「ど、どどどどどどどーしよう……」


「知らん」



 リカにとっては。

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