第18話 ■■■■■■■■■■■■
前回までのあらすじ。
旅の途中で路銀が底をつき路頭に迷っていた俺とリカ。
途中立ち寄ったダルトスの町で賞金稼ぎの青年ナーゴと出会う。彼の追っていた賞金首を不本意にも横取りしてしまうという形で。
俺たちはナーゴに賞金の半分を渡すことと引き換えに賞金稼ぎのノウハウを教わることになった。
そしてなぜか宿がリカと同じ部屋になってしまう……。
まあ、これから旅を共にしていくわけだし、いちいちこんなことで悩んでいても仕方ないか。
諦めて俺はベッドで眠ることにした。
しかし、油断はしていない。いつリカが俺に襲い掛かってきてもいいようにレイバックルを腰に巻いているし、シーツの中には黒い剣を隠してある。
……アタトス村では結構世話になったこいつを、いつまでも黒い剣呼ばわりはよくないな。
何か名前をつけてやりたい。なにがいいかな?
ブラックサーベルとか。いや、別にこれサーベルじゃないしな。
ダークソード。厨二くさい、却下。
ディストラクションスラッシャー。うーん……。
そんなこと考えているうちに眠りについてしまう俺。バックルやベルト止めがゴツゴツして快眠とはいかなかった。
しかし、誰かが廊下を走る音、窓の外から差し込む紅い光で目を覚ました。
隣のベッドにリカがいない。
いやな予感がする。俺はレイバックルと黒い剣を持って宿を飛び出したのだった。
◇
寝ぼけた頭を振り払い、夜の町を駆ける。
光が宿まで届いたということはそこまで遠くには行ってないはずだ。
間に合うだろうか、いや、間に合わせて見せる!
いつでも変身できるよう、レイバックルを腰に巻く。
「さっきからごちゃごちゃ五月蠅いわね! なんで見ず知らずの人間から落胆されなくちゃいけないのよ!」
細い路地にさしかかったところで少女の声が聞こえてきた。この生意気な声、間違いないリカだ。
路地裏の奥を見据えるとリカが……いや、怪人化しているリカルメが誰かと対峙していた。
暗くてよく見えないが、黒い甲冑を着た人間だろうか? ということは騎士なのか?
この世界のことはまだよくわかっていないが、騎士=警察みたいな認識でいいのだろうか。
しかし、嫌な予感は的中していたようだ。なんとかして止めなくては!
リカルメ・バイヤードが人間を殺すのを!
「変身!」
《----Complete LÆVATEINN GENESIS FORM----》
俺は白のエーテルディスクをレイバックルに入れ、レヴァンテインへと変身した。緊急事態につき変身ポーズは割愛。
「なんだ!?」
「浩……レヴァンテイン!」
リカルメと目が合った。奴は雷撃を飛ばしてくるだろう。いや、それとも触手か?
ダメだ、考えている間に奴はあの黒騎士を人質に取ってくるかもしれない。
ならば開幕速攻、一撃で決める!
バックル側部のボタンを押し、待機音を流す間もなくレバーを倒す。
「ディメンション、バニィィィィィィィィィッシュッ!」
《-----DIMENSION BANISH----》
脚部の跳躍補助装置を作動させ、屋根と同じくらいの高さまでジャンプする。
右足をリカルメに向けてエーテルエネルギーを足に凝縮させる。
「え、ちょ、なんでこっち狙ってるのよ! 待って! なにか誤解してる!?」
「チィッ!」
黒騎士がリカルメから離れた。よし、これで彼を巻き込む心配はしなくてもいい。
背面のブースターを起動させ、リカルメに向かって落下する。
リカルメは慌てた様子で触手を盾にするが、そんなものは通用しない。
触手はお前の身体の一部だ。つまり触手からお前の全身にエーテルを流せばそのままお前は消滅する!
充電手段を失うのは惜しいが、人が襲われている以上そんなことは言ってられない。
これで終わりだ! リカルメ!
「させるか!」
「……え?」
声に反応し右を見ると拳を振りかぶる黒騎士の姿が見えた。
その拳の行き先はリカルメじゃない、俺だ。
身体に鈍い衝撃が奔ると同時に俺は建物の壁に叩きつけられた。
ダメージを受けたことによりディメンションバニッシュがキャンセルされた。
今、何をされた?
いや、殴られたのはわかる。しかし、人間がレヴァンテインを殴って必殺技を無理やり中断させたっていうのか?
あり得ない。と言いたいところだが、ここは魔法も存在する別世界だ。きっと俺の知らないなんらかの力を使ったのだろう。
そして手段もそうだが、動機もわからない。怪人態のリカルメに襲われている人間が、なぜリカルメを庇うんだ?
そう思っていたが、動機についてはすぐに本人の口から話された。
「レヴァンテイン、貴様いまリカルメを逃がそうとしたな? やはり貴様ら二人がグルになったという噂は本当だったか」
「「はぁ?」」
な、なんの話だ?
確かに俺たちは利害関係から一時共闘をしているが、今の行動のどこに逃がす要素があったんだ? どう見ても一撃で始末するようにしか見えないだろ。
「おい、リカ……リカルメ。お前この人を襲った時に頭とか殴ってねえだろうな?」
「襲われたのはこっちよ! なによ! ちょっとだけ助けに来てくれたことに感謝してたのに!」
「襲われただと? バイヤードのお前が人間に? ……いや、でもさっきのパンチ力、あんたただ者じゃないな。一体何者だ?」
「私に質問するな。レヴァンテイン」
レヴァンテインを知っているということはこいつバイヤードか? それならさっきの力にも納得がいく。
しかし、どんなバイヤードであれ人間態のままであそこまでの力は出せないはずだ。怪人態の上から鎧を被っているのか?
……真っ暗な上に鎧も黒いからよく見えない。
目的は裏切り者の始末ってところか?
「まあ、ちょうどいい。わざわざ探し物を持ってきてくれたのだ。今から言う条件を呑むというのなら、今日だけは特別に見逃してやろう。グランセイバーをこちらに寄こせ」
黒騎士の口からは予想外の言葉が出てきた。
「ぐ、グランセイバー?」
な、なんだそりゃ? グランセイバー……大きい、救済者……?
ダメだ、意味がわからない。
「俺はそんなもの持ってない。なにか勘違いをしていないか?」
「勘違いをしているのは貴様の方だ。グランセイバーとは剣の名だ。貴様が手にもって離さない、その黒い剣のな!」
黒い剣。そう言われて右手を見る。
アタトス村で命を救われ、アテナ救出にも一役買ってくれた名称不明の剣。
こいつが……グランセイバー?
「さあ、渡せ。さもなくば二人とも殺す」
「だ、ダメよ浩太! それはアテナがあんたに託したアテナの想いそのもの。それを見ず知らずのこいつに渡したら許さないわよ!」
「黙れ、先に死にたいのか貴様」
「安心しろリカルメ。これを渡すつもりはない」
「何?」
こいつがバイヤードかどうかはともかく、レヴァンテインの存在を知っている以上エーテルディスクについても知っている可能性が高い。
五日前、俺がこの世界に飛ばされたときから、白以外のディスクは行方不明のままだ。
ゼドリーが遠く離れた場所に飛ばされたことから、エーテルディスクもこの世界中に散らばっている可能性が高い。
そのうちの一枚でも奴が持っていたとしたら、この剣はとてつもない兵器になる。
最弱のゲネシスでさえあの威力だ。他のディスクを読み込んだらどんなことになるかわからない。
そしてもう一つ、これはグランセイバーなんてダサい名前じゃねえ。
今日寝る前に考えておいたとっておきの名前がある!
「あんたにこの剣を渡す義務はない。なぜならこの剣はグランセイバーじゃないからだ」
「なにを言って……」
「この剣の名は……レヴァンスラッシャーだ!」
「御託はいいから早く渡せ、殺すぞ」
あ、あれ? せっかく頑張って名付けたのにそんな薄い反応? チラッとリカルメの方を見る。
「……ダサッ」
…………。
嘘だろ。そりゃ確かにお前の紅ノ雷砲ほどのセンスは無いかもしれないけど、レヴァンスラッシャーだって十分かっこいい名前だろ?
せっかく今日眠りに落ちるまで必死に考えたのに……。
「グランセイバーを寄こせと言っているのが聞こえないのか!」
「レヴァンスラッシャーだって言ってるのが聞こえねえのか!」
「名前なんてどうでもいいから早くこの黒いの倒しちゃってよ!」
リカルメが割り込んできて好き勝手言いやがる。
まだ、バイヤードと断定したわけじゃないのに戦えるわけないだろ。俺はレヴァンテイン、バイヤード専門の戦士だ。こいつが人間の可能性がある以上、下手に手は出せない。
かと言って、さっきの馬鹿力をみるに、抑え込むっていうのも難しそうだ。せめて、こいつがバイヤードだと断定できれば戦うという選択肢が取れるんだが。
そうだ、もしこいつがバイヤードならステータススキャンが可能なはずだ。
そうと分かれば早速……。
「ステータススキャン」
小声でそうつぶやくとマスク内側のモニターに黒騎士のスペックが浮かび上がる。ということはバイヤードか!?
そう思ったが、俺の目に飛び込んできたのは理解不能な情報ばかりだった。
【グランレンド】
■身長:192.1cm
■体重:80.3kg
■パンチ力:48.7t
■キック力:60.6t
■ジャンプ力:45m(ひと跳び)
■走力:2.3秒(100m)
★必殺技「ディストラクションヴォイド」
グランレンド……? なんだこの名前は。
もしバイヤードなら○○○(名前)・バイヤードといった感じに表記されるはずなのだが、こいつにはそれが無い。
いや、そんなことはどうでもいい。注目するべきはこいつの身体能力だ。
こいつ、並のバイヤードの10倍以上の力を持っている……! こんなスペック、レヴァンテインのラグナロクフォーム、あるいはゼドリー以外で見たことが無い。
こいつは一体なんなんだ!?
「……もういい。貴様らに渡す気が無いのは十分に理解した」
苛立ちを隠さない声色が背後から聞こえた。
いつの間にか目の前から|黒騎士《グランレンド》が消えていることに気づく。
殺気を感じる。
跳躍補助装置、作動。
次のセリフが聞こえてくる前に上に跳ぶ。
「ならば私は死体漁りをさせてもらおう」
下から聞こえてくるのは黒騎士の声、だけではない。俺の居た位置から何かを削り取るような音が響く。
否、音だけではない。俺が感じ取ったのは光、黒い光だ。
黒騎士の鎧に黒い光が収束している。
カウンターでかかと落としでも決めてやろうと思っていたのだが、少し嫌な予感がして動きを止める。背中のブースターを起動して黒騎士から離れた位置に着地する。
直後、俺の目に移った光景に背筋が凍った。先ほど俺が立っていた地面が抉り取られるような形で消えていたからだ。
「エーテルチェンジ!」
《-----Complete LÆVATEINN GANDR FORM-----》
どういう原理かわからないが、黒騎士に近づくのは危険だ。緑のエーテルディスクでガンドルフォームに変身する。
そして、銃口を黒騎士に向け弾を射出。
「ガンドルショット!」
機関銃のごとく弾をまき散らす。一点のみを狙っても躱しきられる可能性がある。
まずは弾幕を張って面の攻撃を仕掛けた。
黒騎士もこれを避けるのは難しいと判断したのか、その場から動こうとはしない。
その代わり、弾が当たる瞬間に鎧が黒く光った。
黒騎士の地面や背後の壁には、銃弾による亀裂があるものの黒騎士本体にダメージはない。
「無駄だ。私は身体に触れたものを完全に消し去ることができる。そんな豆鉄砲いくら放ったところで当たりはしない」
「おいおい、自分で能力を説明するのは負けフラグだぜ? だいたい、俺にだって似たようなことができる。そんなもの脅しにもならねえよ」
「ディメンションバニッシュのことか。いいだろう、使うがいい。人間相手に使えるものならな」
ディメンションバニッシュまで知られているのか!?
……いや、さっきこいつの目の前で使ったばかりだったか。あの一撃でそこまで見破られているとはな。
しかし痛いところついてきやがる。こいつが人間なのかどうかは疑わしいところだが、確かにディメンションバニッシュはバイヤード以外に使ったことがない。この世界に来た直後一度使ったが、それも魔物相手だったのでノーカウントだ。
だけど、このまま黙ってこいつに殺されるわけにもいかない。俺にはゼドリーを倒すという使命があるんだ。
俺はレイバックルのスイッチを押し、必殺技待機状態になる。レイバックルで生成されたエーテルエネルギーが右腕の砲身に充填されていく。
「……ッ!」
ベルトから流れる待機音を聞いたリカルメが声も上げずに物陰に隠れてしまった。
そんなリカルメには目もくれず、黒騎士はまっすぐ俺を見据えている。
「ふむ……どうも勘違いしているようだから一つだけ教えてやろう」
「なんだ? 剣の名前は譲らねえぞ」
「貴様のダサいネーミングセンスのことはどうでもいい。貴様が今放とうとしている技についてだ」
「なんだと……?」
こいつまで俺のセンスを疑うのか!?
「ディメンションバニッシュ。レヴァンテインの全フォームに共通する必殺技であり、これを喰らったバイヤードは例外なく分子レベルまで消滅する、だったな。だが、貴様はおかしいとは思わなかったのか? 完全に消滅させたはずのバイヤードたちが、この世界でのうのうと暮らしていることに違和感を持たなかったのか?」
「愚問だな。ここは死後の世界、あの世だ。俺も、そこでガタブル震えているリカルメもその他のバイヤードも一度死んでいる。だからこそ俺もバイヤードもこの世界に生きている」
「ふ、震えてなんかないわよ失礼ね! さっさと撃ってその音止めなさいよ!」
「あの世、か。ならば貴様は一人でも会ったのだろうな? バイヤードとは関係のないただの人間の死者と」
「それは……」
たしかに、確認を取ったわけじゃない。だけど、今まで会って来た人たちは死者と言うにはこの環境に順応しすぎているように見えた。この世界には死者と呼べそうな者は少ない。
だが……。
「会ったことは、無い。だけどそれがどうした? 事実として俺も、他のバイヤードも一度死んでいる。それだけでここが死後の世界だと証明するには十分だ」
「その前提条件が間違っている、と言ったら?」
「なに?」
「貴様も、この世界に存在するバイヤードも、一度も死んでなどいないということだ」
「それこそ、意味が分からないな。俺はこの一年間、バイヤードたちを確実にこの手で殺してきた。血の一滴すら残さず消し去る、ディメンションバニッシュを使ってな」
照準を、あわせる。
流石の奴もこれを受ければタダでは済まないはずだ。だから、できれば俺が撃つ前に退却してほしい。
バイヤード以外の命を奪うことはできるだけ避けたいのだ。
「……察しの悪い奴め。いいだろうこの際ハッキリと言ってやる」
黒騎士は避けようとする素振りも見せない。ただ、俺に向かって語り掛けるのみ。
「ディメン■■■バニッシ■はバイ■ードを■■■■■■■■■■■■」
「……ッ!?」
スピーカーから流れるノイズに、思わず耳を塞いだ。とは言ってもマスクの中にある耳を塞ぐことはできないのだが。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
もはやノイズ以外の音が全く聞こえない。
これはなんだ? レイバックルの故障か?
「■■■■■■■■■■■■……ふ■、ショックで言葉■出ないか」
ノイズが徐々に収まり、スピーカーから外部の音が聞こえてくる。
なんだったんだ今の雑音は……。
改めて黒騎士に銃口を向けようとした俺はあることに気づく。ディメンションバニッシュの燃料補填がキャンセルされていた。
先ほどのノイズ中に誤作動でも起きたのだろうか? まあいい、もう一度待機状態にすればいいだけだ。
レイバックル側部のボタンを押そうと手を伸ばす。
『やめろッ! 戌亥君!』
「ッ!?」
再び大ボリュームの音声が俺の鼓膜を刺激した。だが、先ほどのような耳障りな雑音ではない。凛とした女性の声だ。
俺の苗字を君づけで呼ぶ女性などこの世に一人しか存在しない。
「まさか、ユリ博士……なのか?」
そう、この声はレヴァンテイン開発者であり、戦闘オペレーターとして1年間共に戦ってきたユリ博士の声だ。
『ドクターリリィと呼びたまえ』





