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 男を館の近くある蔵まで連れ帰った後、尋問にかけると、男はあっさりと襲ってきた理由を白状した。


「つまり、黄龍のお姉さんと同じ理由かえ?」


「嗚呼、姉御と会ってるなら話しははえぇ。俺は姉御の側近でな、一人でネズミ達の村に行くって言うもんだから追いかけてきたのさ」


「一人だけでござるか? 他にも姫様を狙う不届き者に心当たりはあるか?」


 ハム助が刀の背で、男の肩を軽く叩きながら問いかける。しかしハム助よ、背伸びして、腕を限界まで伸ばしてまで肩を叩く意味は一体?

 先程の疲れもあるのか、なんか剣先震えとるけど大丈夫かこやつ。


「男は常に孤高。そうじゃない時は、女が隣にいるものさ。って痛っ! やめっ! スネを骨で叩くのやめて!」


 ロボロフが妖魔の骨でガッガッと男のスネを叩く。全力というわけではないが、あれ地味に痛い叩き方じゃ……。


「すいませぇん……一人……あっ、一応姉御いるから二人かな?」


 この馬鹿そうな男からは嘘を言っている様子は見られない。ふぅむ、お姉さんの知り合いっぽいし、お姉さん待ちかの?


「ふむ、正直お主が本当の事を言っておるかもわからんし、お姉さんが来るまで縛らせてもらうぞ。先に襲ってきたのはそちらじゃ。悪うおもうでないぞ」


「なに、どっしり構えるのも男の器の一つさ」


 こやつ、言葉の一つ一つが微妙にうざったいの……。



―――


「十兵衛なにやってんの……」


 ずた袋をかぶされ、両手を後手に括られた男を見るなりお姉さんが呆れたように言った。


「ふっ、幼子と鼠達を傷つけるわけには行かないんでね。手加減してたらこのザマですよ」


「いや、私、待っとけって言ったよね?」


「俺が姉御だけを行かせるような白状な奴に見えますかい? へへっ、サプライズって奴でさぁ」


 あっ、お姉さんの口元が少しばかしヒクッって引きつった。悠々とした人に見えるけど、やっぱりイライラする時もあるんじゃな。


 お姉さんが軽く目を閉じて深呼吸する。あれ? 見かけよりだいぶ苛立っとる?


「えーっと、牛頭姫ちゃんごめんね、うちのが迷惑かけたみたいで。その、申し訳ないんだけどコレはもうそういう生き物だと思って欲しい」


「そういう生き方しかできない実直な男なのさ」


「十兵衛、少し黙れ」


「あっ、はい」


 この十兵衛という男、やべぇやつじゃ。相当悪い意味で。けど、こやつが言ってる戯言を聞く度に「確かに」と言った感じで頷くハム助も実はやべぇやつ予備軍かもしれぬ。


「とりあえず、こやつは無害なんじゃよな? このまま縛って面倒見るのも大変じゃし、もう開放していいかえ?」


 ピシリとお姉さんの表情が固まった。一拍、ニ拍と置いて、ようやく「ああ、それでいいよ」と答えてくれた。

これ、そのまま縛っておこうかと悩んでおったな……?


「のー、こやつお姉さんの部下なんじゃよな? その……なんでかの?」


 流石に本人を目の前にして、無能とは言えぬので遠回しに聞いてみる。


「修行。お祖父様が家名も持たない普通の神族の力を知っておけって。後、どんな時にでも平静を保てるようにもだってさ」


 なるほど、選りすぐりの無能じゃったか。


―――


 場所を館の居間に移し、我が家で滅多に使われぬ来客専用のお茶を出す。おお……芳しい香りじゃ。

お姉さんがお茶を一口飲んで、意外そうに目を瞬いた。


「大丈夫? これ無理してない?」


 えっ、このお茶結構良い奴じゃったの? お茶を淹れた美歯を見ると、ほっほっほと笑うだけで何も言わぬ。えっ? 妾は毎日牧草生活なのに、この来客用のお茶は良いやつなの? 妾は毎日牧草生活なのに?


「この茶は……ふむ、足柄国の矢口原が産地、そのものズバリ足柄茶だな? 俺にはわかるぜぃ?」


「違いまするが」


 三人だけでの大事な話があると人払いをしたというのに、いつの間に入って来て茶を飲んどるんじゃ、こやつ……。


「十兵衛、ここにある迷宮ってのが気になるから、今すぐ様子見てきて。駆け足でお願い」


「っしゃあ! 任せろアネゴォ!」


 十兵衛がドタドタと館から飛び出した。流石に扱い慣れとるのー。


「さて、これで十兵衛は暫く帰ってこないし、ちょーっとお話させてもらうね」


「うむ、菓子の種類を大凡決めておかねばな」


 美味しいお菓子を頼むとは言ったが、お菓子にもしょっぱいのやら酸っぱいのがあるからのぅ。その辺りはしっかりと話し合っておかねば。


「んふふ、確かにそれも決めておかないとね。けーど、先に私、美歯殿、姫ちゃんで話したいことがあるのよね」


「さようでございます。ちょっとばかし重要なことでございますから、姫様もしっかりと聞いておいてくだされ」


「うむ? 承知した」


 まぁ、どうせお菓子の予算とかの話じゃろ。


「まず、姫ちゃんは黄龍家って何かわかってるよね? いや、わかってるとは思うんだけど念のため」


「知らぬけど……え? 実は有名な菓子職人だったりするのかえ?」


「姫様……」


 美歯が本気で残念そうな子に対する、哀れみの視線を向けてくる。やめるのじゃ! そんな目で見るのではない!


「さて、今まで黙っておりましたが姫様は少々特殊な生まれでございましてな。……嗚呼、因みに牛頭家の長は実の所拙者でございまする」


「は? え? えっ? 実は妾って美歯の娘じゃったの?」


「違いまする。姫様の母は白虎家が直参、剣虎家の雪様でございました。父は屑ゆえ知らぬ方が良いでしょう」


「えぇ……その、帝都で働いている冴えない父上って言うのは……」


「存在事態が嘘でございまする」


 またまた衝撃の事実。えっ? 貧乏すぎて帝都からここまでの旅費がひねり出せないという話は如何に。いや、そもそも存在自体が嘘じゃったから良いのか。 えーっと、それと白虎家って結構凄い家じゃったような。


「え? いやいやいや。それはないじゃろ。だって、白虎家って五総家の一つじゃろ? そこの直参のえーっと……けんこ家? の子なら妾もっとお姫様で豪華なところにおるのでは?」


「うん、私もそう思ってねー。姫ちゃんがこんなところにいるのは、ちょーっと、いや、かなり可怪しい。本来なら高貴な血だ。賤民である鼠族とは一生触れ合わず生きていく、そんな子のはずなんだよね」


「はへー」


 せんみんってなに? いや、それは兎も角、やっぱり妾ってなんかすっごい出生の秘密があったんじゃな。今日のお昼に言ってた事が当たるとは思わなんだ。いや、結構中途半端な凄さじゃけど。


「だから、みんなに競争してもらってる間、そこの事情を知ってそうな美歯殿に、まぁ、すっごく無理言って事情を聞いたわけだ。そこで出るわ出るわ問題の山。バレなきゃ良いってもんじゃない地雷の塊なのよね。姫ちゃん」


「いや、そう言われても……ぜんっぜんわからんのじゃが……」


「だろうねー。美歯殿も、情報が漏れないよう姫ちゃんに何も教えてなかったみたいだし。下手に教えて、姫ちゃんがうっかり漏らしても困るしね」


 否定できぬのが辛い所じゃのー……。


「ですので、山吹様と話し合い、決めた事を話しまする。」


 山吹? と首をかしげると、お姉さんが自分を指差してニコリと笑った。そういえば、まだお姉さんの名前聞いてなかったのう。


「まず、草刈り丸は名前を変えていただきまする」


「へっ? 何故じゃ? この名前気に入っておったのに」


「理由は言えないけど、念の為ね。新しい名前は適当に考えといて」


 えー……なんか理不尽。


「次に、山吹様の働きかけ具合によりますが、黄龍家から数人ほど牛頭家に食客を紹介してくださるそうでございます」


「燻ぶってる人達には心辺りがあるからねー、よろしくねー」


「しょっかくかえ?」


 虫の頭に着いとる、あの?


「言い方がわるぅございました。良い人材を紹介してくださるとの事です」


「それ、牛頭家に来てもらっても禄払えぬのではないか?」


「その辺りはご安心くださいませ。現在懇意にしている商人と話しをつけ、肥料の販路はすでに見通しがついておりまする。又、帝家の観測によりますと数年以内に百鬼夜行が起こるとの情報がございまして――」


 さて、この後も美歯と山吹お姉さんから色々言われたが、それを聞いた妾は正直こう思った。


 わからぬ。言ってる内容が、マジでさっぱりわからぬ。悲しいほどわからぬ。わかるのは妾にはちと難しいという事だけじゃ。


 途中から魂の抜けたような顔をしている妾に気づいたのか、二人が目を見合わせ困ったような顔をした。


「結構大事なお話なんだけど、急に言われてもそりゃ困るよねー」


「うむむ、仕方がありますまい。ここは色々切り上げて、一番大事な事を伝えまするか」


「そうしよっか。姫ちゃん、おてて出して」


 最早余り働いていない頭なのもあり、言われるがままに手を出すと、お姉さんが手のひらに何か輪のようなものを二つ、握らせてくれた。

 なんじゃこれ、金色でキラキラしてて綺麗じゃけど。


「よくわからぬが、こんな高そうなものは貰えぬぞ? 危うく斬り殺しそうになった詫びなのかもしれぬが、流石にこれはやりすぎじゃ」


 と、当然の如く突っ返す。そりゃ、お菓子くらいはたかるが、これは流石に引くのじゃ。


「いやいや、そういうわけにもいかないんだよね。姫ちゃんにはこれから色んな事があると思う。その時にこれが必要かもしれないからね」


「えー……壊しそうじゃし、邪魔じゃし……そもそもこの輪っか、腕には付けるには細いし指に付けるには太くないかえ?」


 それはねー、とお姉さんが輪を手に取り、妾の角を優しく触り、角に輪を嵌めた。嗚呼、そこに付ける奴なのじゃな。


 お姉さんが妾の角に輪を嵌めて少しすると、輪が勝手に縮み妾の角にジャストフィットした。まるで最初からつけていたかのようなフィット感じゃ。


「うん、いい感じだね。黒い二本の角に、黄金がよく映える」


「のー……これ何の意味があるのかの?」


「お守りだよ。普段は棚にでも入れておいて、いざって時につけると良い」


「意味がわからぬ」


 だが、美歯は納得したように頷いとるし、お姉さんも満足げな顔をしておる。この妾だけ何もわかってない感すごいのじゃ。


「まぁ、そのうち嫌でもわかるよ」


「はぁ……賽は投げられましたなぁ……」


 いや、ホント妾にもわかるように話してくれぬかのぉ?


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