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 ようやく館に着いた頃には、辺りはもう暗くなり始めていた。皆を解散させた後、美歯とハム助を連れて館の中で水を飲んで一服する。


「あー、ただの井戸水美味いのー……」


「タダというのが最高でございます」


「井戸の維持運用費を考えますると、実は完全なるタダでありませんがな」


 あぁん、何をするにも金、金、金、世知辛いのぅ。


「それで、姫様。今回取った遺骸ですが、どのように使うのが効果的かわかりませぬので、色々と試してみたいと思いまする」


「うむ、すぐに堆肥として使えるかもわからぬしのぅ。ところで、骨はどうやって砕くつもりじゃ?」


 美歯がハム助をチラリと見やる、ハム助はチラリと目を逸らす。逸した先に妾が移動しガン見する。ハム助が更に目を逸らす。馬鹿め! そこはすでに美歯が先回りしておる!


「ヂュッ!?」


「どこかに骨を砕いておいてくれる家臣はおらんかのー?」


「あいたたた、腰が痛むのぅ、老骨ゆえ重労働は出来そうにもないわい、どこかに代わりに作業してそうな奴はおらんかのー?」


「むむむ、やりまするが、堆肥の量は融通していただきまするぞ?」


「うむ、そこは融通しようとも、その代わり骨は頼んだのじゃ」





 と、言うのが昨晩の話し。


「姫様、これはとてもではないですが砕けませぬ」


 ハム助がそう言って、白く光沢のある棒を数本持ってきた。もしや、これはアレかのぉ?


「骨かの?」


「骨でございます、関節毎に外しはしたのですが、肝心の骨がクッソ硬く、岩に叩きつけようものなら岩が砕ける始末でございます。刀なら砕けはしたのですが……牛頭家では、これを砕けるほどの刀が一本しかありませぬ。そのうえ、恐ろしく重いので扱える者も……」


「むむぅ、どうしようもなさそうじゃのぉ……仕方がないし、適当な場所に捨て置いておけい」


「畏まりました」

 

 ううむ、そういえば草刈り丸でも断ち切れぬほど頑丈じゃったのぉ。量が少ないうちは良いが、そのうち何か考えないといけないかもしれんの。





 と、言うのが数日前の事。迷宮の前に置いてきた遺骸こそ回収したものの、骨の処理方法は考えず、いつも通り訓練したり野良妖魔を追い回したり牧草を食んでいたりした。すると、ある日ハム助が息せき切って館に走ってきた。


「姫様! 大変でございまする! 例の妖魔で作った堆肥ですが、効能抜群でございまする!」


「なにっ! この数日でもう効果が出たのかえ!?」


「これをご覧になってくだされ! 見ての通り、数日で芋がこのように成長致し申した!」


 そう言ってハム助が見せてくれた紫色の芋は、なんと妾の拳4つ分ほどの大きさがある。こんなでかいの見たことないのじゃ。


「これも姫様のお陰でございます。こちらに、切り分けた後に茹でたものがございますので、是非ともご賞味くだされ!」


「準備がいいのぅ! いやー、牧草生活も飽きていた頃じゃ! 嬉しいのぅ!」


 ハム助がお椀に入れて持ってきた芋の欠片をひとつまみし、口の中に放り込む。芋が舌に触れた。何も考えず勢い良く噛んだ。味が口の中に、広がった。未だかつてない苦味と鉄の味が口の中を侵略した。


「おえ”え”え”え”っ!!!」


 恐ろしく不味い! 目の前ではハム助がにやりと笑っている。しまった、こやつが意味もなく妾に芋を分けるはずなぞなかったのじゃ!


「臣下と苦楽を共にする。姫様、流石でございまする!」


「な、なんじゃこれは! なんじゃこれはーーー! 不味い、不味いぞ! こんな不味いものなぞ食べたことが……いや、あるがそれにしてもこれは不味い!!」


「いやぁ、何故誰も妖魔の肉を堆肥にしないのかと、フワッと疑問には思っておりました。しかし……まさかこのような味になるとは」


 顎に手をあて、納得した風に一人で相槌を打っている。イラッとしたのでびょんびょんしている髭にパンチしておく。


「ぐわー! 姫様! 我らの髭は取扱い注意でございまする!」


「しっかし、このような味になるのでは迷宮に行ったのは意味がなかったのぅ、家畜の餌にしようにも、この味では家畜である蟲も食べまい」


「いえいえ、姫様。このハム助、一つ妙案がございまする。これを使って綿花を育ててみては如何でしょうか」


「綿花? 綿花とか、そもそも食えぬではないか。うちの領土はただでさえ耕作できる場所が少ない。だというのに、食べることも出来ない物を育てる余裕なぞないじゃろう」


「いえいえ、綿花があれば、それを使って布団を新しくしたり、木綿で出来た服を作る事が出来まする。冬には重宝しますぞ」


「冬は毎年、この館に籠もって草刈り丸で暖を取っておるから大丈夫じゃろー?」


 このスカンピン国の冬はそれなりに寒い。なので、冬の間は皆館に集まり、薪代わりに草刈り丸から炎を出すことで暖と灯りを取っている。炭は高くて買えぬし、薪にするための木もこの辺りには余り生えておらぬからのぅ。


「自分たちで使う以外にも、商業作物とすれば良いのです。いっその事、布にするなぞの加工も牛頭家でやってしまいましょうぞ。付与価値を高め、牛頭家ブランドを立ち上げるのでございます!」


 やばい、こやつが何を言っているのかさっぱりわからぬ。商業作物? まぁ、これは知っている風にしておくのじゃ。

 なにか、布にするとも言っておる。うむ、綿花が布に出来るとは聞いたことがある。どうやってするのかは知らぬ。寄り合わせて糸を作って、そこから布に出来るのかの?

 付与価値を高め、牛頭家ブランドを立ち上げる? はー! さっぱりわからぬ! よし! こういう時はとりあえず却下じゃ!


「なるほど、お主が言いたいことはよくわかったぞ、ハム助。じゃがな、この土地にはそれが合っているとは思えぬ。却下じゃ」


「いえいえ、これは中々良い案に思えますぞ、姫様」


 美歯が大きい芋と小さなお椀を持って話しに入り込んできた。というか、もしかしてこやつも妾にこのクソ不味芋を食わせようとしてた?


「ところで、姫様。これ、うちの畑で取れた芋ですじゃ。姫様が取ってくれた堆肥のお陰で数日のうちにここまで育ち申した。是非とも最初にご賞味あれ」


「いや、育てたのはお主じゃ。そなたが最初に食べるがよい」


「いえいえ、日頃からの感謝も含めておりまする。さささっ、姫様! どうぞご賞味を!」


「さっき、ハム助から一口貰ったのじゃ」


 そう伝えるや否や、チッと舌打ちをして芋を投げ捨てた。こやつら……妾、一応姫様じゃぞ!?


「まぁ、薄々そうではないかと思っておりましたがの。で、先程ハム助と話していた事でございまするが、残念ながら、牛頭家にはブランドを立ち上げるだけの資金力も体力もございませぬ」


 ぬわっ、こやつ! 先程ハム助が言ってたことを理解しておったのか! しかし、語調からするにこれは否定の意。これに乗っておくことにするのじゃ。


「うむうむ、そのとおりじゃ」


「美歯様。では、投資を募ってみては如何ですか? 迷宮と妖魔で出来た堆肥のことを説明し、配当もそれなりにしておけば資金は集まりましょうぞ」


「うむ、ワシもそう思ったのじゃが、残念ながら牛頭家には借金をする信用も投資を受けるだけの信用もない。一つ、策があると言えばあるのじゃが……」


 本気で何を言っているのかわけがわからぬ。しかし、それでもなんとなくわかることがありはする。


「まぁ、要するに無理って事であろ? なら、ここで話しても意味なぞなかろう。綿花を育てるのに良いというならば、少しだけ作って、冬に糸を作ってみるのは確かに良いかもしれぬがの」


「そうなりますなぁ」


「ううむ、サービス残業を強いるしかない牛頭家にはリスクを抱えるだけの体力がないとは歯がゆうございまする! 嗚呼! 儲けることで労働環境を改善させる企みが!」


 まーたよくわからんことを。


「では、他の家臣達にも、この事を伝えておきますゆえ、綿を作るのは最小限にしておきますかのぅ」



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