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22

 ちゅーちゅーと、鼠族達が困った様子で鳴いていた。荷車の周りに集まり、何やら荷車を持ち上げようとしている。ぬかるんだ地面に車輪が取られ、前に進めなくなっているようだった。

 荷車には炭木が山と積まれている事もあり、鼠族達がちゅぅー! と踏ん張っても中々持ち上がらない。


 そこに、一人の男が現れた。平均的な鼠族の4倍はあろうかという、巨躯。歩くたびにがしゃり、がしゃりと音を鳴らしている事から、赤黒い袈裟の下には鎖帷子か何かを着込んでいる事が伺えた。


 男はちらりと荷車を見ると「御免」と言って、それを片手で持ち上げてしまった。これには鼠族達も大興奮。ちゅーちゅーと男を持て囃している。


「はっはっは! なぁに、気にするな。この俺はもうすぐお前らの上役となるのだからな! お前らが困っているのならば助けるのも仕事の内よ!」


 そう言って、ずしん、がしゃりと迷宮へと向かっていく男の名を霊亀岩鉄れいきがんてつと言った。黄龍家当主の娘、山吹が牛頭家へと送った食客の一人である。


―――


「頼もう!」


 太鼓を叩いてもそのような音は出まい。そのような声とも衝撃とも付かぬ声で岩鉄が叫んだ。驚いたのは辺りで働いていた鼠族達である。なにやらとんでもない神族が来たと誰もが思った。


「なんだ急に。五月蝿いぞ」


 その大声に対応したのは、その場に偶然居合わせた茶々である。この男を下手に放置しておいては不味いと感じたのだ。


「おお、そこの麗しい御仁。一つ訪ねたいことがあるんだがな。ここに美歯樣と我らが姫がおられると聞いたのだ。どこにいるのか教えてはくれないか」


 茶々が胡散臭い者を見る目で、じとりと男を上から下まで見た。服装はこの辺りにしては上等、腰には無骨な剣、歩いている時の音からして防具を纏っている。そして、何よりもその岩石のような体躯。余りにも怪しすぎた。


「何用だ」


「俺の名は霊亀岩鉄。山吹樣からの紹介でここに来た。お前も、恐らくは似たような物なのだろう?」


「……少し、ここで待っておけ」


 山吹との一件は、茶々も美歯から軽くではあるが聞いていた。その為、茶々はこの男に対する警戒心を一つだけ下げる事にした。

 とりあえず、捕らえたり殺したりせず、判断を仰ぎに言っている間くらいはここで待たせておいても良いという程度の物ではあったが。


――――


 山吹からの紹介状を見た月華が、できるだけ、相手を刺激しないよう穏やかな口調で言った。


「申し訳ないのですが、本日は準備が整っておりませんので……。翌日、また館に来て頂いても宜しいでしょうか。もちろん、宿と明日の迎えはこちらで準備させて頂きますので」


 姫とご客人はちゃんとした正装で会わせようという美歯の判断により、月華は岩鉄に断りをいれることとなった。顔には他所向けのしっとりとした笑顔を貼り付けている。


 月華の横に立つ茶々は、未だ岩鉄への警戒を解かず、腰にある鎌から手を離さずにいた。


「わかった。だが、明日まで暇なのでな。ここを見て回っても構わぬか?」


「ええっと……」


「ダメだ。宿で大人しくしていろ」


 言い淀んだ月華の代わりに茶々が答えた。しかし、月華が言いたい事はそういう事ではない。別に見て回ってもいいですけど、宿どこかわかります? と言いたかったのだ。


「はっはっは! 中々良い武人を連れておりますな! 俺を前にしてここまで毅然とした態度を取れる者は少ない! お前、名は」


「茶々」


「その名、覚えておこうぞ」


 武人二人のせいで、辺りにぴりりともした、張り詰めた空気が流れる。月華はというと(ほんっと武人の人ってこういう空気作るの好きですよねー)と慣れたものである。月華はもはや、武人と武人が会えばこういう空気を流さねばならない慣習があるのだろうとすら思っていた。


「では、宿に案内しますのでついてきてくださいねー」


「うむ!」


 岩鉄がずっしゃずっしゃと歩く。それを見た好奇心の強い鼠族達がちゅーちゅーとそれに付いていく。なんか変なのが来てるー! と大喜びである。


 食料品や長屋など、衣食住が少しずつ充実してきた迷宮街ではあったが、こうなると皆娯楽を求め始める物である。その点、この岩鉄は格好の暇つぶしとなりえたのであった。


 なお、付いて行った鼠族達は仕事をサボって付いて行ったものだから、後日叱られる事となるがそれはまた別の話しである。


――――


 岩鉄が宿に付いてから、まず最初にしたことは着いてきた鼠族達との雑談であった。普段の暮らしや働きぶり、最近あった事などを聞いている。


 岩鉄が特に興味をそそられたのは、最近作られたばかりの迷宮内での位に関する話であった。


「なるほど、ありがたい事に姫は実力の方を重視してくださるようだな。ならば俺の方もやりやすい」


「けど、すぐには位上がらないとおもうよー」


 何故だ? と問うた岩鉄に鼠族達がちゅーちゅーとその理由を教えた。――この制度に関して、ハム助が様々な制約を課し始めているのである。


「確かー、ここで働いてからどれくらい経ったかとか、推薦がないとダメとかそんなのできたはずだったよね?」


「ハム助さんが考えてたはずでさぁ。最初はそんなのなかったんですけども、アブねぇからダメだっつって」


「ふむ、そのハム助とやら……どこの神族だ?」


 将来帝となる姫にとって、この迷宮街は戦力を集めるための重要な拠点である。そこを任されているのならば、さぞ高貴な方であろうと岩鉄は考えた。実際、この岩鉄も玄武家の家臣である霊亀家出身であり、帝の家臣たるに十分な家格があると言えた。


「神族じゃないよー、ボクらと同じ鼠族ー」


「……誠か。鼠族風情が、姫の案を好き勝手に変えていると言うのかっ!」

 

 低く、大きな怒声が安普請の宿に響いた。その衝撃は安普請の宿をギシギシ鳴らし、宿屋の主人は改築が必要だと改めて認識する事となった。

 突貫工事だから仕方がないとはいえ、声だけでギシギシ鳴るのは流石に不味い。


 そんな宿屋の主人の心配は他所に、岩鉄は煮えたぎる溶岩の如く怒っていた。


「この岩鉄、どうやらここの人材不足を甘く見積もっていたらしい。確かに、些か神族が少なすぎるとは思っていたが、そのような大役を鼠族に任せていたとは……! 仲間達に声をかけていたとはいえ、来るのが遅すぎたか……不覚っ!」


 この一人で盛り上がって、一人で後悔している岩鉄を見た鼠族達は、この男の評価をなんかよくわかんないけど面白そうな神族から、失礼だけど凄く面白い神族に格上げしていた。


 鼠族程度、鼠族風情と侮蔑されてはいるが、鼠族の平民達は余りそんな事を気にしないのである。なまじ武家であるが為にプライドが高い鼠族達を(かわいそー)と哀れにすら思っていた。


「こうしてはおれぬ、そのハム助とやらのところへと案内しろ! この皇忠の士である俺が立場というものをわからせてやる!」


 この発言には鼠族達もチュー! と大歓喜。面白い見世物が勝手に向こうからやってきたのだ。皆あっという間に散らばると、面白い者が見れるぞー! と広めていった。


 少しばかり知恵が立つ一匹がその場に残り、ちゅーちゅーと、これをもっと面白く、みんなが見れるようにと岩鉄にどこでやるか、いつやるかと助言していた。


――――


 皆の仕事が終わり、仕事道具も片付け終えた。だが、鼠族達の宴が始まるのは今からであった。

 横槍を入れてきそうな美歯や姫達は、翌日に岩鉄と話すための準備で早めに館へと帰っている。茶々と初も風礫から狙われるかもという理由から、姫達と一緒に帰り、館で寝泊まりしていた。


 つまり、邪魔者は誰もいないという事である。


 屋台の者達が今こそ稼ぎ時とばかりに酒とツマミを売っている。もちろん鼠族達も今日ばかりは財布の紐がゆるゆるである。


「いやぁ、これは中々見ものじゃないだべか!?」


 普段娯楽が少ないのだ。そこに腕が立つもの同士の試合である。見ない手はない。


 鼠族達の群れの中に混じり、アケハが酒を片手に干物を齧っている。


「霊亀岩鉄か。これは流石のハム助も難しいんじゃないのか? どうするのか見ものだな!」


 普段娯楽が少ないのだ。アケハも今日ばかりはと頼み込んで迷宮前に残らせてもらった。「事情は明かせぬが、どうしても岩鉄と話しておかねばならない事がある」と最もらしい事を言っておきながら、やる事は酒を飲みながらの喧嘩観戦である。見目は良いはずのアケハが未だに結婚できぬ理由の一旦が見えた。


 骨を並べ円を作っただけの、急造の試合場に鎖を鳴らしながらずしゃり、ずしゃりと岩鉄が入った。すでに酒が入っている観客達がそれだけで沸いた。


「でけぇ! 重そう!」

「こりゃあ流石のハム助さんも不味いんじゃねぇの!?」

「うひょー! ありゃあ強いでござるよ!」


 周りの歓声に気をよくしたのか、岩鉄が腰に刺した剣を抜き、前方へとずしりと振った。それだけで土煙が上がり、鼠族達の歓声が更に激しくなる。


 まるで亀の甲羅のような線が入った剣を見て、アケハの目が鋭くなる。


「ほほう、岩鉄の奴め。甲剣こうけんを使うか……。流石に殺すつもりはないらしいが、確実に勝つつもりではあるようだな」


「アケハ殿。そのこうけんとは、一体いかなるものなので?」


 今回の事を絵に書き、説明文も添えて売り出そうと考えているハツカがアケハに問いかけた。周りもあれが何なのか気になるらしく、アケハの次の言葉を待っている。


「嗚呼、甲羅の剣と書いて甲剣と読む。見ての通り、幅広なのが特徴でな。攻めるよりも守る事に適した剣で、神気を通す事で自分自身すら硬く出来るという逸品だ。……あの岩鉄は見た目通り恐ろしくタフなうえに、その技術も手堅い。それに甲剣が合わされば、まさに名前の通り岩鉄のような硬さになる」


 ハツカが「なるほどなるほど!」と言いながらその内容を紙に連ねていく。その隣では真臼マウスが新しい紙と炭を用意して、作業しやすいように補助している。


 続いて、試合場にハム助が足を踏み入れた。足音は鼠族らしく、小さい。周りの話し声で消えてしまうほどだ。目の前の岩鉄と比べて、その存在は余りにも矮小であった。。


「お前がハム助とやらか! 貴様ぁ! 鼠族の分際で高貴なる姫の案に異議を申し立てるとは何事だ! お前のような不忠の輩にこの迷宮は任せれん! 俺とかわれいぃ! さもなくば、この甲剣で叩き切る!」


 ある程度の事情を伝え聞いていたハム助は、岩鉄の言葉を聞いて(嗚呼、頭がヤバイ奴が来たってのは本当でござったか)と事実の再確認をしていた。


「そこの、あー……岩鉄でござったか? 一つ聞きたいのでござるが、その甲剣とやらは高かったり、貴重な物だったり、修理が難しい物だったりするのでござるか?」


「ほう、直ぐ様ひれ伏して許しを乞うでもなく、武器の差で不利だからやめようとでも言いたいのか?」


「いや、まだ仕事も残ってるし、面倒だから速攻で折って終わらせようかなと思ったのでござるが……」


 ここで、アケハがハム助がいつもと違う事に気づいた。普段は腰に下げているはずの刀を、今日は持ってきていない。手には骨が刺さった棒のような物を持っている。白い骨で、その棒の中身は見えない。


 この場に入ってくる時も、地面すれすれのすり足で音を立てずに来ていた。疑念を持てば、見る場所も変わる。ハム助の持つ棒を見た。よくよく見ると、つばらしき物が見える。黒い塗装をしているが、所々剥がれており、その鍔の素材であろう金属の色が見えている。それは紅かった。


(まさかな)


 とアケハは思った。天下において、最も重く頑丈と言われる紅い金属、緋緋色金ヒヒイロカネ。鬼より取れる鬼鉄、神族の遺体より取れる神鉄、それに何かしらの秘匿されている金属を混ぜ合わせる事で作られる合金。


 希少性があるうえ恐ろしく重い為、極々薄く伸ばさなければ扱えない合金である。もっぱら、動かすことのない家具に使われている。


 それゆえ、武具として使うのは不可能と言っていい。数百年前にとある名家が嘗て緋緋色金で作った刀を作らせたというが、持ち上げる事すら困難で、持つことができる者がいたとしても、刀として振るう事は出来なかったという。


 この刀を持った武人が強大な悪鬼を倒す物語はいくつかあるが、所詮物語である。


(だが、ハム助……あいつ、茶々の緑鬼鎌を砕いたとか言ってなかったか? 今まで聞いていなかったが、どうやって? 緋緋色金ではないにせよ、面白い物が見れそうだな)


 アケハがニヤリと笑った。場合によっては大惨事になるやもしれぬのに、止めようとも思わぬ畜生っぷりがよくわかる笑みである。小さい頃に友が出来ずに、一人山の中で遊ぶことが多かったのも納得である。


 一方のハム助は、再度目の前の岩鉄に、同じことを再び問うていた。


「いや、高かったら弁償とか出来ぬでござるし……とりあえず、大凡でいいからどれくらいするか教えてくれぬか?」


「50両だ」


 ハム助が手に持った棒を投げ捨てた。その衝撃でバキリと骨が割れ、中から朱くぼろぼろの刀身が現れる。――緋緋色金だ。鞘の代わりにと適当な骨を突き刺していたのである。


 それを見たアケハが酒を吹いた。アケハの前にいた鼠族が酒臭くなり、ヂゥゥゥゥゥ……と批難の声を上げている。だが、アケハ視線はその哀れな鼠族ではなく、先程試合場の外に投げられた刀に向かっていた。


 ハム助が、改めて相手を見た。縦に7尺、横に1尺はあろうかというその甲剣はハム助の体躯よりも大きい。


(こんな剣、普段遣いするには不便すぎるのでは? けど、50両でござるか……前の緑鬼鎌の件もござるし、流石にまた壊すわけにはいかぬでござるなぁ……)


 茶々の鎌を修理するのに、一悶着した事がハム助の心に刺さっていた。


「あー、岩鉄とやら。申し訳ないが刀を使うのは少しばかり不味いので、こちらは……よっと、これを使わせて貰うでござる」


 そう言ってハム助が手にしたのは、この試合場の枠代わりに使われていた骨である。土に汚れている、粗末な骨。他の武器を持ってきていないのもあり、頑丈な妖魔の骨が最適であるとの判断であったのだが、迷宮に来たばかりの岩鉄は、それを侮辱と受け取った。


「お前がそれを使いたいのなら別にかまわねぇ。ハンデとしてそれで一発殴らせてやる。そのうえで、テメェじゃ俺に傷一つつけれない事を教えてから……お前の体の骨を粉々にしてやる」


 今までの怒鳴り散らす怒りではなく、腹の底から出るような低い怒りの声だ。この戦いが始まる前の熱い口合戦に周りの鼠族達も否応なく盛り上がっている。


「ひゅー! ハム助殿煽るぅー!」


「岩鉄殿も煽り返すぅ!」


「酒が美味い!」


「前の人しゃがんでー! 見えないー!」


 この喧騒を聞いて、ハム助は(皆楽しんでおるな。普段頑張ってくれておるし、ここはもっと楽しませてやろうではないか。……では、拙者も盛り上げるために買い言葉で返そうぞ)と一芝居打つことにした。


 喧騒の中、ハム助は岩鉄の前まで歩くと、岩鉄の構える剣にこつんと骨を当てた。岩鉄が少しだけ、怪訝そうな顔をする。


「さ、殴ったでござるよ。拙者の骨を砕けるものなら砕いてみよ。どうせ無理でござろうが」


 ぶわりと、空気が揺れ動くのが観客達からもわかった。岩鉄がその大きな剣をハム助に向け振ったのだ。殺す気はないが、半殺し程度にはしてやろうと剣の峰を叩きつけるようにして振った。


 それを、ハムスケは骨で横に弾いた。骨と金属がぶつかり青い火花が散る。岩鉄が今度は峰ではなく、刃を向けてハム助に剣を振るった。


 ハム助はそれをまた骨で弾いた。岩鉄が振るう。ハム助がそれをまた払う。弾く、避ける、受け流す。


 激しい音と、衝撃。その攻防を何故かアケハが大声で実況しながら解説してくれている。鼠族達は絶叫しながらも、試合に熱狂せざるを得なかった。


 普段から娯楽が少ないせいで、ちょっとでも刺激が強い物を見るとすぐ興奮してしまうのである。だが、その鼠族達よりも興奮している男がいた。そう、岩鉄だ。


 激しい気性にも関わらず、守りを主体とした戦い方をしている事に理由はない。ただ、初めて学んだ流派が守りを主体としており、それを基準に鍛えていくと、自然とそういう戦い方になったのである。


 普段から守りに徹し、ここぞというところで反撃するという慎重な戦い方をする岩鉄にとって、このように激しく攻め立てる事は久しぶりの事であった。そのうえ、対峙する相手が岩鉄と同じかそれ以上の馬鹿力である事なぞ、もはや思い出すことも出来ぬほど前の事である。


 対するハム助も戦えば戦うほど楽しくなっていた。時折隙を見つけ、自分からも攻めるのだが、当たっても軸をそらされたり、勢いが着く前に止められたり、改心の一撃と思っても何らかの術で作られたのであろう甲羅で守られたりと、防御のバリエーションが豊かなのである。


 最初こそ、不愉快な相手でも怪我をさせぬようにと手加減しながら攻めていた。だが、打ち合えば打ち合うほど、ある疑念が生まれてくる。


(この相手ならば全力で殴っても死ぬことはないのでは?)という疑念である。次第にそれは確信へと代わり、仕事のストレスを発散するかのように骨を振るった。


 そんな有様であったから、二人共戦っているうちに次第に笑顔になっていった。時折「マジでござるか!? やるぅ!」とか「うぉぉ! これ当たらねぇかぁ! はっはっは!」と互いに褒めあいながら息を切らせている。


 この攻防に、普段狩りに携わらぬ者たちは単純にすげー! と喝采を送り、武家の者たちは「今の何? わかった?」 「多分中段読みじゃね?」 と楽しそうに論を交わしている。


 観衆達のそうやってお行儀良く楽しんでいるというのに、一人、もはや辛抱たまらぬ者がいた。そう、アケハである。


(なんで私は観戦しているだけなんだ! クソッ! 混ざりたくてたまらん! あの二人だけ楽しそうにして! いくらなんでも不公平すぎるぞ!)


 100人が聞けば、え? どこが不公平なの? と100人が答えそうな考えであったが、武芸畜生に倫理観を求めるのが間違っているのである。


 酒が入っているのもあり、アケハの不満が行動に現れるのに、さほど時間は要さなかった。


「はっはっはぁ! ここで私の乱入だぁ!」


 骨を片手に二人の間へと割って入ったのである。これのせいで、他の武家の者達も混ぜてー! と割り入ってしまった。

 慌てたのが岩鉄だ。流石に皆が骨だけで戦っている中、自分だけがマトモな獲物を使うわけにはいかぬ。甲剣を背中の鞘にしまい、骨を手にして受けたり、流したり、攻めてみたり、未熟な鼠族が攻めて来るので手ほどきしながら打ち合ってあげたり。


 ハム助も骨を振るう力を弱め、サンピン侍である立場上、普段は色々言いにくい者達の攻撃を、受けたり弾いたり毛だけにかすらせたりして、手ほどきしながら打ち合った。


 アケハだけが別である。好き勝手に暴れている。鼠族相手だろうとお構いなしに「弱い!」と大暴れだ。仕方がないのでハム助と岩鉄が協力して打ちのめし、縄で縛って放り投げた。


 疲れた者は試合場から出ていっておやつを食べたり酒を飲んだり。屋台の者達も和やかに雑談しながら商売している。


 骨で殴られ、ちょこっと腫れた者は予め用意しておいた初お手製の湿布を貼って、それが参戦不可の証となった。怪我をして湿布を張った者は試合場に入ろうとしても追い出されてしまう。


 この騒ぎは日が落ちて辺りが暗くなるまで続いた。



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