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ハム助が殺された(詳細不明)

今回は構成が少々わかりにくくなってます。


サブタイトルの変更し忘れの為、以下のようにサブタイトルを修正しました。


旧21→ハム助が殺された(詳細不明)

「おいコラてめぇ、誰の許可を得てここで屋台を出してやがんだ?」


 八尺はあろうかという厳つい牛族の獣人が屋台の前で凄んだ。その後ろには、これまた強面の牛族がへらへらと笑いながら屋台の店主を見ている。


「だ、誰のと言われましても……あっしはここの組合にしっかり許可を貰って出しておるのですが」


「あ”あ”あぁ!?」


 男は奇声とも取れるダミ声を出しながら屋台を蹴り飛ばす。屋台の外装が砕ける音と共に、店主のヒイッという悲鳴が響いた。


「いいから、とっとと出せや……ここらは今日から俺ら軽尾カルビ組のシマだからよぉ……」


 この男達は所謂ならず者の類であった。だが、一定の場所を縄張りとはせず、岡っ引きやその地を治める武士が出てきそうになったら別の土地へ行き、そこでまたゆすり、タカリ、窃盗を繰り返すという、イナゴのような者達だ。


 お上の手が届きそうにもない辺境かつ、それなりに栄え始めているこの迷宮町は、ならず者達にとって格好の餌場に見えただろう。


 だが、見えるだけである。栄えるという事は、それ相応の後ろ盾があることに他ならないのだ。だが、ならず者ゆえ些かオツムが弱いのも仕方がない。


 迷宮商売を初めてから三年経ち、最早、町とも言える規模になった迷宮町の大通りで、堂々と恐喝を行う牛族を見つけると、アケハは思わず言葉を漏らした。


「いや、アホか」


「あ”あ”ぁん!? 今アホつった奴は誰だぁぁ!?」


 因縁を付けている牛族が振り返った。


 振り返ると、そこには地べたに這いつくばり、ぴくりとも動けずにいる仲間たちがいた。それと一緒に、仲間の頭を朱い下駄で踏みしめる少女も。


「おい、姫。やりすぎるなよ」


「殺しはせんよ。そこのお前。屋台を蹴ったじゃろ。どちらの脚で蹴った?」


 朱い服を来た目の前の少女、皇極にそう問われた男は、思わずたじろいだ。相手の少女から、この世の者とは思えぬ、何かを感じ取ったからだ。


 目の前に立たれているだけだというのに、目に見えない粘性の何かで押されているような感覚。男が生まれてこの方感じたことのない異様な圧力だった。


「な、なんだてめぇはよぉ!」


「答える気がないと、では両方ともやるか」


 腰と、両足を何かに掴まれたかと、男は思った。宙に浮いている。正体のわからぬ何かに押し上げられ、浮いている。

 男は思わずあっけに取られていたが、宙に浮かせている力が彼の両足の関節を少しずつ、逆方向へと曲げようとしている事に気づいた。脚を動かそうとするが、脚どころか、指一本動かない。まるで土の中に埋められているようだった。


「お、おい! やめろ! やめろっ!」


 男の両足にかかる力は確実に強くなっていき、最早我慢出来ぬほどの強さとなっていた。


「やめっ」


 

―――



「そして、牛族の男の脚は曲がってはならぬ方向へと捻じ曲げられ、痛みのあまり男は失禁した。しかし、それでも足にかかる力はやまない。みしり、ぶち、ぶち、ぶち、という音が数度かすると、男の股が裂け、真っ赤な内蔵がでろでろと漏れ出した。その様子を見た町民達は皆、恐れおののいている。だが、姫はそんな皆の視線なぞないように”ゴミが一つ減ったのじゃ”と―――」


「待てい、ハム助よ」


 皆が集まる広場で謎の紙芝居を続けていたハム助を止める。いや、どうしましたかな? という感じで首を傾げるでない。


「ひぃぃ……姫サマ(未来予想図)ちょうこえー」

「まさに邪智暴君」

「これ妖魔より質悪いのでは?」

「この紙芝居の色って、春前に種を撒いた花で染めたんですよね? いい色出てるじゃないですかー」


 月華以外の者はというと、まさに妾(未来予想図)を見てきたかのように震え上がっている。お主らぁ……主君の未来像を悪い方向に考え過ぎではないかえ?


「ぶるるるるっ、ここの姫樣がそげに恐ろしいとは思っておりませんでしただ。嗚呼、この姫様とやらに会う前に、この紙芝居見れて良かっただ」


 隣国の岳水国より、この迷宮前まで染料を見に来てくれた牛族の歩流素ホルス殿が紙芝居を真剣に受け止めてしまっている。染料の宣伝ついでに面白い紙芝居をやると聞いて来てみれば、なんつー内容じゃ。


「因みに、この”刺客を返り討ちにした後、切り取った首でお手玉をする姫樣”の図は、二十日ハツカ殿魂心の作でございます」


「おおー、絵の内容は兎も角として、ハツカ殿、武家なのに絵が上手じゃのぅ」


 他の者達も口々にハツカ殿の絵を褒め称えると、広場の隅で休憩していたハツカ殿が照れくさそうに頬を掻いた。一緒に休憩している真臼マウス殿からも、やるじゃん、と肘で軽く突かれている。


 ……まぁ、できればその才をもっと別な物に発揮してほしかったんじゃけどな?


「お、おっかねぇ! 町に帰ったら皆に教えておかねばなんね!」


 なぬっ!? この場だけならばまだ笑い話じゃが、これが他所に広まるのは流石に嫌じゃ!


「つ、作り話! ホルス殿! これは作り話じゃからの!? 決して本気にして言いふらすでないぞ!?」


「おお……姫樣、口止めをしようと言うのでござるか……」


「あ、あんたが姫樣!? ひっ、ひぃ! オラ何も悪いことしとらんから殺さないでけんろ!」


「何もせぬわっ! ええい、ハム助よ! 何故にこのようなわけの分からぬ紙芝居を!?」


 ハム助が”ふむ”と顎を撫でると、右手を上げ、指を3本立てた。


「一つ、最近ここらでも作り始めた染料の宣伝。二つ、実際にいるであろう悪漢共への牽制。三つ、三年ほどすれば、姫樣が本当にこのようなことをしでかしそうで怖いので、今のうちに忠告をと思いまして」


 三年先の事って、えらく先の話しなうえに、伝え方が迂遠すぎんかえ!? というか、三年経てば妾こうなると思っとるの!?


「いやいやいや、一つ目と二つ目はわかるが三つ目はないのじゃ。そーれーとー、なんじゃこれ、この絵の妾の目つき尖すぎぬかえ!? 絶対に人殺しとる目じゃろこれ! もっと可愛く! 優しそうに!」


「500人は殺してる想定で描いてみもうした」


 ハツカ殿が誇らしげに胸を逸した。うむ、たしかにそれくらい殺してそうな超怖い目じゃね! 本当に画力があるのぅ! 二十日殿はぁ!


 しっかし、それはそれとしてもう一つ気になるのが……。


「のー……。この絵の妾、三年後の想定じゃろ……? こう、可怪しい所がないかえ?」


 ハム助とハツカ殿が首を傾げた。同じように「あれ? 何か可怪しい所ある?」と他の者達もざわざわし始める。ホルス殿は月華に案内され、美歯が待っている小屋へと商談に向かっている。ホルス殿にこの紙芝居見せる意味あった?


「いや、こう……この絵の妾な? 三年後じゃろ? じゃったら……こう」


 すっと三年後の妾の胸元を指差す。紙に描かれた三年後の妾は、まったく成長していない。さっぱり成長していない。

 三年後、三年後じゃぞ? 最近は食生活がちょっとずつ豊かになってきたし、もっとこう、ボンッ、キュッボーンッ! ってなってるはずだと思うんじゃよな。


「拙者はハム助殿にこう描いて頂きたいと頼まれただけゆえ……」


 ハツカ殿が目をそらした。指示したというハム助をギロリと睨みつける。


 ハム助はというと、やれやれでござるなと言わんばかりに呆れた顔をすると、陸海老の串焼きをパリパリと齧っているアケハ殿に声をかけた。


「アケハ殿、アケハ殿が姫樣くらいの御年の時、胸はどうでしたかな? それだけご立派な胸、姫樣と同じくらいの頃には、バインバインといかずとも、少しばかし急な双丘程度はあったのでは?」


 直球! 恐ろしく直球なのじゃ! やもすればアケハ殿の機嫌を損ねかねないほどのド直球かつ下世話な質問! こいつとんでもないド変態じゃ!


 アケハ殿が焼かれて紅くなった陸海老に大きくかぶりつき、串から纏めて引き抜くと、ボォリボリと豪快に噛み砕く。あぁん、美味しそうなのじゃあ……。


 噛み終えて、ペロリと親指をひと舐めすると、何かをヒュンッと投げた。串がハム助に頭にコーンッと刺さった。お見事!


「乙女の秘密に立ち入るものじゃあない」


 そう言ったアケハ殿の頬はちょっと赤い。おお、確かにアケハ殿、思ったより乙女。


「もう乙女という歳でもないのでは?」


 額に串を刺したままハム助が無駄口を叩く。ハム助の頭に2本目の串が生えた。



―――



 アケハ殿が達者な串投げを披露したのもあり、皆、紙芝居そっちのけで串投げをして遊び始めた。適当な板を立てかけ、的となる円を書き、ちゅーちゅー言いながら串を投げている。


「で、だ。ハム助よ。先程の紙芝居の内容からして、質の悪い奴らが来た時の対策は考えているのだろう? そういう楽しそうな事には私も混ぜろ」


「流石アケハ殿。暴力が必要となれば目が輝いておられる。本当はそんな物は必要ないのが一番なのでござるが……自警団を作ろうと思っております。まぁ、お二人ともお気づきでしょうが、牛頭家としてはこの迷宮と牛頭家領土を繋げ、町を作ろうと考えておりますので、必要になるかと」


「そうじゃったの?」


「そうだったのか……」


「このやたらと増え始めた屋台とか、長屋を見て気づいて欲しかったところですなぁ……」


 いや、屋台が増えてもなんか美味しい物が増えたって程度じゃし、長屋が増えても人が増えたなーしか思わんくないかえ?

 少なくとも妾はそう思う。隣のアケハ殿も同じことを考えているはずじゃ。


「屋台が増えても美味い物が増えたなとしか思わんし、長屋を見ても人が増えたなとしか思わん。誰もがお前のように聡いと思わんことだな。いつか足元を掬われるぞ」


 さっすがアケハ殿! 妾と同じ事しか考えておらんうえに謎の上から目線じゃ! おまけに凄いドヤ顔!


「ううむ、確かに下限を高めに見積もっていたかも知れませぬ……。因みに、そこで串投げをしておる皆はもう、町を作る前提で色々と準備しておりますぞ」


 妾達の話しを横から聞いていたのであろう鼠族の一人が”こんな頭悪い人を頭に据えて本当に大丈夫なの?”と不安げな顔をしている。 だが、まっ、いっかとまた串投げに戻った。


「そういう、他のみんなはわかってるのに? という責め方はやめろ! それのせいで、私は幼少時に山篭りして遊ぶようになったのだぞ……」


「そうじゃそうじゃ! 説明責任を果たしておらぬのはそちらじゃ!」


「そうだそうだ! しっかりと情報の共有を図ろうとしなかったお前が悪い!」


「おお……直接には言わずとも、言外に伝えていたつもりだったのですが……。山吹殿に誘われて、アケハ殿だけがすぐに来た理由がわかった気がしまする」


「即断即決、よく言われる」


「猪突猛進の間違いでは?」


 そういえば、山吹殿が紹介してくれるって言ってた他の者はぜーんぜん来る気配がないの? えーっと、夏の終わりに迷宮行ってー、秋に山吹殿が来てー、冬に来たのはアケハ殿一人、もう春になったというのに他には誰も来とらぬ。


「のー、アケハ殿。ここに来る人って、他に誰か来るって聞いとるかの?」


 ハム助の背中の余った皮を持って、ぶらんぶらんとさせているアケハ殿に聞くと、一人だけなら心当たりがある、との事だった。


「どんなお人かの?」


「硬いし堅い。一度試合って貰ったが、体力が尽きて負けた。木剣でなければ押し切れたとは思うんだが……」


「強いという事以外さっぱりわかりませぬぞ」


 因みに、ハム助は未だ持ち上げられている。見た目苦しそうじゃけど、案外楽なのかの?


「まぁ、黄龍家の者である山吹樣のご紹介ですし、優秀な方でござろう。数年後には、拙者が不要になるほど良い人材が集まっているかもしれませぬな」


「そんなわけがなかろう。お主はずっと妾の頼れる部下じゃ。……信頼できる部下が、必要だったのだ」


「いえ、拙者がおらずとも、姫樣は立派にやっておられますよ。それでこそ……」


 拙者が死んだ甲斐がございまする。


 そう言ったハム助の腹からは白い腸がはみ出し、漏れ出た血潮で地面が淡い桜色に染まっている。

 嗚呼、そうか。これは夢か。


――――



 真新しいい草の香りがする、そういえば寝室の畳を変えたばかりであったな……。ハム助が死んだ頃合いも、古い畳を新しくして、この香りに感動していた記憶がある。

 

 懐かしい夢を見たのはそれでか?


 寝間着から普段着へと着替え、何か摘み食いしてやろうと台所へと向かう。その途中、朝からばたばたと忙しそうに働く者達が、妾を見るなりギョッとして座礼してこようとするので、いらぬいらぬ、とあしらっていく。


 いや、やっとかないと不敬だなんだと言われそうなのが怖いのはわかるんじゃけどな? 昔の夢を見たせいか、昔のようにふらりと出てしもうたが、不味かったかのう。


 台所につくなり、下働きの者が慌てた様子で料理長を呼ぶと、料理長が顔を蒼白にしながら「な、何か御用でしょうか」と伺ってきた。


 これは、何か摘み食いさせてくれとは言えぬな……。言ってしまえば、他の者の朝食を作るのをやめてまで摘み食い用の何かを作りはじめん。


「なに、ただの見回りじゃ」


 そう答えると、料理長の顔が固まった。あっ、これじゃといつでもお主らを監視しておるからな、というように聞こえてしまったかの……。


「安心せよ。妾が力を振るうは害を成す奴だけよ。身内には振るわぬ」


 ははっ! と料理長が動揺した様子で返事をする。嗚呼、これ相手が身内ではないと思っとる奴じゃ……。万が一にでも敵対したら即座に殺すと思われとる……実際殺すんじゃけど。


 この料理長も三人目じゃしのぅ。


 一人目は月華に毒入れてきよったから逆に食わせてやった。解毒薬が欲しけりゃ裏を吐けと言ったら、家臣の一人が月華を妬んで害そうとした事がわかったので、そいつの飯にも毒を入れて、のたうち回らせた末に獄中死させた。


 二人目は鼠族達への食事を生ゴミ同然の物にして浮いた金を着服しておったから生ゴミにしてやって、三人目はまさかのガチ刺客じゃったから茶々が切り捨てたんじゃったかな。


 あれ、この料理長四人目じゃった……。


 その後も、意図せず館中の人間を脅し回ってしまい。思わずため息が出そうになる。


 嗚呼……ハム助よ。お主の予感は的中したのぅ……。


 だが、妾はこれ以上、自分の甘さのせいで仲間を殺しとうないのじゃ。そう、例え、仲間以外を皆殺しする事になっても……の。






姫が夢を見ている、夢を見ているハム助という入れ子になってます。

以下言い訳


予知夢で困難が来ることを明確化しつつも、あんまり先の展開に触りすぎたくないという考えの折衝案によって、こんな構成になりました。


言い訳終わり

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