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「この度は、姉が大変お世話になりました……。いや、ほんと、私といい、お姉ちゃんといい、牛頭家の人たちには頭が上がりません……ほら、お姉ちゃんも」


「いや、私はいいよ、これから行動で恩返しするからさ」


「ダーメ、こういうのは言わないとちゃんと伝わらないんだから」


 茶々が牛頭家に来てから一ヶ月経った頃、妹である初が護衛をつけて牛頭家にまで訪ねに来てくれた。久々に会った二人は抱擁した後、少ない言葉を交わすとすぐに牛頭家の面々に頭を下げ始める。


 多く語らずともわかるということか……姉妹ってええのう。


「ええっと、ハム助さんとロボロフさんは……」


 畳の上に座りながら、初殿がきょろきょろと辺りを見回した。あー、そうか。ロボロフの事はわからんか。手紙にも、神化の事書いてないじゃろうしなー……。


「ロボロフさんなら、所要で隣の八幡国に行っておりまして……残念ながら、会えないかと」


 シレッと月華が理由をでっち上げた。まー、言うわけにもいかんしのー。なんか美歯がまだ秘密にしとくって言っとったし。


「そうですかー……ハム助さんは?」


「あいつなら、今も迷宮じゃないのかい? ずっとあっちで働いているみたいだしね」


「今、二層の開拓が忙しいみたいでのー……。なんでも、寒いからと炭木を求める声が耐えぬそうなのじゃ」


 今の季節は冬。そんな時に炭となる物がざっくざくと手に入るとなれば、欲しくなるのが人情じゃよなぁ。この辺りは特に豪雪地帯というわけではないが、それでも薄っすらとは雪がつもる程度には寒いしの。


「元気なら良いんですけど……その迷宮って私が後で行っても大丈夫ですか? 顔だけ見ておきたいなーって」


「別に構わんと思うよー、初殿は身内みたいなもんじゃし、見られて困るものもないしのー」


「それなら良いんですけど……あの、美歯様。アレの話しはどうします? その、えっと、あの……アレです、アレ」


 ふぅむと美歯が自分の顎を撫で、今、この場にいる全員を見渡した。


「アケハ殿、席を外してもらっても?」


「私だけ仲間はずれみたいだから嫌だ」


 あっ、その気持ちなんかすごいわかるのじゃ。


「実は、初殿に清酒を一本買ってきてもらっておりましてな」


「ふん、この私が酒如きで釣られると思っているのか?」


「釣られないのかえ?」


「釣られるに決まっているだろう!」



――――



 アケハ殿に酒を与えて外へと追い出した後、館の中でも特に防音に優れた部屋へ皆で移動する。この部屋、冬だと結構暖かくてい良いんじゃよなー。


「結論から言うと、鎌を治す事は可能です」


 この言葉で場が少しばかり明るくなる。茶々の顔も緊張が取れ、薄い笑みが見える。


「嗚呼、本当に良かった……流石に緑鬼鎌がないまま風礫の幹部連中と戦えと言われたら、勝てるか微妙だったからね」


「ただ、直す方法なんですけど……ちょっと不安な方法でして……お姉ちゃんの中にいる緑鬼を呼び覚ました後、倒さずにそのまま封印しちゃうって方法なんですよね……」


「りょくき?」


 なんじゃそれ? 多分、鬼の一種なんじゃろうけど、それが茶々の中におるの? 鬼が?


「お姉ちゃんの体に埋め込まれてる鬼です。半分は鎌に、もう半分はお姉ちゃんの体に溶け込んでる……らしいです」


「えぇ……それって大丈夫なのかえ?」


「うわぁ……ず、随分と思い切った事をしましたね。というか、鬼って体に埋め込めるものなんですか?」


 月華と二人して思わずドン引き。いや、実際強いのかもしれぬが、鬼じゃよ? 鬼。大きさ的にもアレじゃし、いや、なんかすごい方法使って体に入れたんじゃろうけど、それにしたって、ようやるのー……。


「のー、それもう復活とかやめといた方が良くないかえ? その鎌もどっか蔵に押し込んどいたほうが……」


「そういうわけにもいかないさ。……私には力が必要だからね」


「えぇぇ……けど、なんか体に悪そうじゃないかえ? こう、血行が悪くなって肩こりとか頻発しそうなのじゃ……」


「私がやりたいんだ。私が、やると決めた」


 初殿の顔を見ると、初殿も静かに頷いた。ううむ、多少の危険と不便は承知済みって事なんじゃな? それとも……実は鬼を体に飼ってると案外健康になったりするのかの?


「その、直すなら直すで、もう一回緑鬼とやらになって、封印って具体的にどうするのじゃ? さっぱり想像できぬのじゃが」


「緑鬼になるのは、前に緑鬼になっていた残骸を使えばなれると思います。封印の方ですけど……そちらは美歯様に任せちゃおうかなーと」


 へっ? 美歯そんな事も出来たの?


「術符は用意しておいた。残骸も回収させておいたゆえ、後は残骸を縛っておいて、一体化させ、封印でもしますかの」


「えっ、そこまで準備してたって事は、治す方法はもう初殿から聞いとったの? じゃあさっさとやってしまっても良かったのでは?」


「多分そうじゃないかなーと思いつつも、確信が得れぬ感じでございましたからな……拙者ならそうするけどなー、けどなー、もっとスマートな方法があるんじゃないかなーみたいな感じでございました」


「お父さんが残してくれた本にもそんな言い訳じみた事が書かれてましたね……。多分これが一番確実だとは思うんだけどなー、色々検証してみたけどやっぱこれ以外は微妙だからなー、みたいな……」


 えぇ……なにその何の確証もないガバガバな感じぃ……。


「なんかこんな事言っとるけど……本当にやるのかえ?」


「ちょっと決心が揺らいできた」


 じゃよねー。


――――――


 誰も近寄らないであろうだだっぴろい空き地に、緑鬼の残骸を運び、もんのすんごく嫌そうな顔をした茶々がその残骸に触れた。


「……なぁ、初。お前を信用していないわけじゃないが、本当に別の方法はないのかい?」


「多分ないよ!」


「いや、実は前にこいつに取り込まれた時、わりかし本気で絶叫してね……また取り込まれるのかと思うと、正直――


「大丈夫だよ! 何の根拠もないけど安心してお姉ちゃん!」


「うむ! この美歯も多分そうじゃない? という微妙な確信があるゆえ安心せよ!」


「妾なら絶対やらんけど、ファイトじゃ茶々殿!」


「私は関係なくてよかったー」


「……やっぱやめ――うわっ!?」


 怖気づいた茶々殿が手を引っ込めようとした瞬間、緑鬼の残骸から触手が伸びてきて茶々殿を取り込んだ。


 うへー……結構豪快に取り込まれたの。なんか、ミミズが1000匹くらい出てきて無理やりその中に入れられている感じ……確かにあれはトラウマじゃの。


 取り込まれて暫くすると、砕けていた緑鬼の頭が徐々に再生し始め、その右目に薄緑色の光が灯った。


「あー……クソが。クソクソアンドクソが」


 うむ、第一声からとんでもなく不機嫌そうな声。じゃが、起きたら全身縛られとるし、なんか囲まれとるし、そう言いたくなるのも仕方がないかのー?


「あ”~……どうせ、ただ鎌を直すために戻したんだろ? わかってるよ。はぁーあ……内側からコツコツ封印弱めて、ここぞって時に大復活って思ってたのによぉ……ちょうど良い依代もあるって思ってたのに……クソが」


 緑鬼がギロリと妾の方を見る。 うへっ! 何も出来ないとわかっていてもやっぱり鬼じゃし、怖いものは怖いのぅ。じゃが、緑鬼は「あ”あぁん……?」と言うと直ぐ様その視線を美歯へと向けた。


「おい、おい、そこの鼠。おい、てめぇだコラ。てめぇ何考えてやがる。姿変えてやがるがアホかてめぇ、クソが、あのクソみたいな鼠もどうせてめぇが仕向けやがったんだろ、クソが」


「相変わらず口が悪いな、緑鬼よ。旧交を温めたいところだが、今はその時ではない。さっさと封印されてもらうぞ」


「うるせぇなクソが、こちとらテメェらの意図を理解したうえでさっさと茶々を取り込んでやったんだ。少しくらいこっちの話しも聞けや。……前に俺を封印した奴、あいつどうなった」


 美歯の眉がピクリと動いた。というか、美歯ってこの緑鬼とやらとも知り合いなの? 妾が知らんだけで、人に歴史ありって奴じゃのー……。


「天斬なら死んだ」


 美歯が短く、端的にそう言った。うむ……申し訳ないが、妾からすると誰だよ感がすごいのじゃ。こう、やっぱり知ってる人の話しじゃないとつまらんのー……。


「あー……やっぱクソだわ。ックッソがぁ、はぁ……まぁ、そうじゃねぇかなとは思ってたがよぉ」


 暇じゃし、月華とお話でもしとくのじゃ……はっ! 念話モード!


(月華ー、天斬って誰かわかるかえー? 妾ぜんぜんわからーん)


 月華が驚いた様子で妾の方を向いたが、すぐに何をしているのか理解したらしい。


(ええっと、姫様ー? これ聞こえてますー?)


(聞こえとるよー)


「おいコラそこのガキ、聞こえてねぇと思って念話してんじゃねぇぞ」


「ほわっ!?」


 うっそ、聞こえとったの!? 鬼ヤバイ! 鬼マジすごいのじゃ! というか、妾の念話ってそんなにガバガバじゃったの!?


「あー、内容まではわからねぇが、神気を無駄に使ってんのがわかんだよ。気配からして……天眼か、この迷宮の奥底によ――


「喋り過ぎじゃ、暫く眠っておけ」


 いつのまに取り出したのか、そしていつのまに距離を詰めたのか。美歯が緑鬼の額に術符を貼り付け、何か唱えた。

 すると、緑鬼の体から緑色の霧が噴出され、それがしゅるしゅると糸のようになったかと思うと、触手の中に取り込まれていた茶々の体へと吸収される。


 緑色の霧が全て吸収されたかと思うと、茶々の手のひらには二振りの鎌が、再び元の姿で握られていた。

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