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ひもじいのじゃ

ハムスターが存分にモフれるくらいの大きさだったらなと妄想しながら書きました。

基本的に週一更新です。

「ひもじいのじゃ」


 もう何日連続で食べたか覚えていない牧草を食みながら、思わず呟いた。


「とは言っても姫様、これ以外食べるものなぞございませぬ。米はもちろん、芋も売ってしまいましたし」


「せめて味噌とか塗りたいのぅ……」


「味噌はもう食べきってしまったではありませぬか。このスカンピン国では牧草が食べれるだけでも良しとしなければなりません」

 

「お主はいいのぅ、歯が牧草を食べるのに適していそうな形じゃ」


「齧歯類でございますから」


「毛皮も分厚いし、なんかテカっとるのぅ」


「齧歯類でございますから」


「木を丸かじりして樹皮を食べているのを見たことがあるのじゃが、あれ歯痛くないのかえ?」


「齧歯類でございますから、因みに結構美味でございますよ、樹皮」


「妾も齧歯類になろうかのぉ」


「なろうと思ってなれるものではありませぬので、姫様は諦めて牧草を食べておいてくださいませ」


「実は他の農民たちは美味いものを食ってるとかないのかえ?」


「牛頭家1000石を取り仕切っておりますが、そのような話し、とんと聞きませぬな」


「はーーーー、ひもじいのーーーー」


 畳の上に見を投げ出し、牧草をもしゃもしゃと喰みながら転がりまわる。ひもじいのー、ひもじいのーと言いながら右に左にとごろごろするがそれで味が変わるわけでもない。


「帝都に住んでおる者達は、美味しいもの食べてるのかのぅ」


「あちらは牧草なぞ蟲が食べるものという認識らしいですからな、白い米を食べれるとは聞いたことがありまする」


「こめっ、しろいこめっ、ハレの日以外食べたことないのじゃ!」


 思わず畳をバンバンと叩く、何年も張り替えていない畳からはホコリが少し浮き上がるだけだった。


「年貢じゃ! ねーんーぐーをーあげーーい! 妾は鬼になぁーる、米を喰うため鬼になるのじゃ!」


「姫様、恐らく我が領土では年貢を上げても米は食えずに武具や館の修繕費に消えてしまいまするぞ、結局牧草生活になりまする」


「ああああ”ああ”あぁぁ~、ひもじいのじゃぁぁぁ……」


 うつ伏せになり、あ”あ”あ”あ”あ”と意味もなく声を出す。畳に少しだけだがヨダレが付いた。


「姫様、この畳も後、数十年は使う予定。余り汚されますな」


「何か良い金儲けの話しはないかのー、なーいーかーのー、これ、美歯びばよ。妙案を出せぃ」


「そんなものがあれば当の昔に言っておりまする。

 ……ですが、金儲けではなく美味いものを喰うのならば、一つだけ妙案がございます」


「おお! そういう策があるのならばはよう言えい!」


 畳からがばりと顔を上げ、美歯のヒゲをぺしぺしと叩く。びよんびよんしている。


「やめっ、おやめくだされ、齧歯類のヒゲは繊細なのでございまする!

 おっほん! 姫様! 実はと言うと、家臣団では余りにも禄が少ないため、とある事を行っているのでございます」


「前置きはいらぬー、はよう言えい」


 追撃にヒゲをさらにびよんびよん。しようとしたら美歯が触れぬように距離を取った。ちょっとだけ寂しい。


「簡単でございまする。農民たちと同じく畑を作っているのでございますよ。かく言う私も時折仕事を抜けて、土いじりをしておりましてな。いやー、武士をやめて農民に転職しようかなと思ってしまいまする」


「土仕事か! よし、妾もやろうではないか!」


「ま、畑に出来そうな所はもう全部誰かが使っているのでございますがな。残っているのは雑草しか生えぬような枯れた土地だけでございます」


「ダメではないか!? なんで言ったのじゃ!」


「いえ、自前で畑を作ったことを自慢しようかと」


「妾、姫様! 一応姫様じゃぞ!?」


「貧しき地ゆえ、家臣たちの忠誠心が低いのも致し方ございませぬ」


 忠誠心がないとか仮にも主の娘の前でよく言えるのぅ、こやつ……。自前の角を触りながら考え込む。む? ちょっと伸びた気がするのじゃ。


「そうじゃ! 肥料!」


「はっはっは、肥料になりそうな雑草は全て刈り取り済みでございますよ。皆考える事は同じでございます」


「ならば人糞!」


「全て活用済みかつ十年先まで契約が決まっておりますよ。勿論姫様の分もでございます」


「初めて知る衝撃の事実! ええい、ならば、ならば……そうじゃ! 魚や動物の死体じゃ!」


「どこで取るのでございますか、牛頭家領土はそもそも海に面しておりませぬし、魚は無理でございますよ」


「ぐぬぅ……量が取れて……誰からも文句を言われなくて……我が領土から行ける場所……そうじゃぁぁぁ!!」



「迷宮じゃ! 確かうちの領土の西に、だーれも統治しとらん荒れ地があったじゃろ! ほら、なんか死の大地とか言われとるあの!」


「嗚呼、あそこには確かに迷宮がございましたな。妖魔が出ぬよう、始祖帝が特別な出入り口を作ったとかいう」


「そこの妖魔を狩って、その肉を肥料として使うってのはどうじゃ? どうじゃ!?」


「んなっ、姫様!?」


 美歯は少しばかし顎に手を当てると、姫に向かってグッと親指を立てた。


「ナイスアイディアでございます!」


「そうじゃろそうじゃろ! そうと決まれば出陣じゃ! 草刈丸を持っていくぞぅ、たまには本来の使い方をせんとな!」


「荷車も必要ですな。肥料が欲しそうな家臣に声をかけてまいります!」


「うむ! 良きにはからえ!」




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