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第9話

13日間休み休みフィーに乗って移動した。


「もうすぐリャンカの国だね。結構大きな国だよ。広大な土地を持つ。他民族がごっちゃになってる国。御国万歳な国で、世界の中心はここだー!全ての原点はここだー!みたいな主張を繰り返してる。王は世界最大規模の後宮を持ってるよ。オレは苦手。」

「ふうん。カイにも苦手な国とかあるんだ?」


カイってなんか、どこ行ってもけろっとしてるイメージがあったよ。リャンカと何か因縁でもあったのかな?


「なんかねー。昔人形作った時に『その技術はうちの国で開発されたものだから勝手に使うな、人形よこせ』みたいな事言われていざこざあったんだ。5千の人形で国一つ滅ぼしてからは何にも言わなくなったけど。」

「うわぁ。せこい。」

「よね。でも料理は結構面白いかもよ?他民族が集まるから食文化は発達してるんだ。オレはチャープっていうもちもちの生地の中に肉が入ってる物が好き。」

「へえ。楽しみ~」


途中魔物の襲撃にあったけど切り裂き人形さんが退治した。私はそこで初めて魔物の体内にあると言う魔石を見た。心臓部にキラキラ光る魔石が埋まっていたのだ。カイはそれを回収した。人形たちや私の指輪やネックレスに使われている転移の性質を持つ魔石はもの凄くポピュラーなタイプの魔物からとれる魔石らしい。それに反して転移魔法を使える魔術師が少ないせいで利用価値が低く、二束三文で売られてる事が多いそうだ。カイにとってはお宝の山が二束三文で売ってるんだから笑いが止まらないって話。

ちょっと人里離れたところでフィーから降りた。


「結構緩急が激しい道のりだからリィンにおぶってもらうと良いよ。オレが運んでも良いけど。」

「リィンに頼みます。」


カイったらなに手をわきわきさせてるの!もうっ。リィンにおんぶしてもらって人里まで行った。

人里までついてリィンに降ろしてもらう。結構大きな街だ。人が多くて店が多くてアマリーよりももっとごみごみしている。店がずらっと並んで羽をむしられた鳥なんかが並べてあったりする。物珍しげに眺めつつもカイからはぐれないようについていく。まあ、はぐれてもリィンが私についていてくれてるから滅多なことはないんだろうけど。


「じゃあ、宿取ろうか。」

「うん。」

「ん?」


カイが飲食店の2階の御簾の方に目を向けた。


「どうかした?」

「ちょっとね。早く行こう。」


私達はちゃんとお風呂付の宿を取った。それから食べ歩きだ。

チャープは美味しかった。肉まんでもないし小籠包でもないし。生地がもちもちしてる。何だろう。微妙な食べ物。でも齧ると肉汁がじゅわあと出てきて美味しい。

中に海老と野菜の五目のような物が入った物もあった。おいし。


「あんことか入れても美味しいかもね。」

「確かにこの生地に入れると美味しいかもね。」


宿の部屋ではまったり。


「お腹いっぱい幸せー。」

「ふふっ。良かったね。」


しばらく二人で明日の予定について話していたがカイはお風呂に入ってくるそうだ。


「サトコはどうする?」

「もうちょっとゴロゴロしてから入る~。」

「ん。わかった。」


カイは防犯の為にリィンを置いて行ってくれた。私が一人きりになるとメイドさんがやってきてお茶を入れてくれた。有り難く頂く。

あ~なんかいい香りのお茶。ちょっとフローラルな香りがす…る…



次に気がついたとき私は透けるような薄絹1枚でベッドの上に居た。嗅いだ事のあるきつい甘い匂い。香油だ!男性の性欲を促進させるって言うアレ!またこの展開!?今度は誰よ!ネックレスは外されてたけど指輪は外されてなかった。良かった~。


「賤しき生まれの娘、今宵の伽をせい。」


や~ん!またもやでっぷり肥ったおじさんだ~!!禿げてないけど。なんかポマードみたいなのでピッチリ髪を整えてる。

きもちわるっ!


「貴方誰ですか!?」

「高貴な生まれの者であるぞ。今宵選んでやった事、光栄に思うがよい。」

「リィンはどこですか!」

「リィンとは是の事か?そなたは変わった護衛をつけておるな。余の護衛を30人も斬り伏せたぞ。」


リィンは手足をもがれて首を刎ねられた姿で部屋の隅に置いてあった。

リィン…私の護衛なんかやってるせいで壊されちゃってごめん。後でカイに直してもらおうね。


「カイ。カイ…お願い、来て。」


私は指輪を握りしめて祈る。

指輪は私の祈りに反応して輝きだした。

シュンっとカイが転移してきた。


「サトコ!無事!?」


必死の形相で詰め寄ってきた。


「まだ無事。でもリィンが…」

「良かった。風呂に入っててもすごい騒ぎが聞こえてすぐ出てきたんだけど、部屋が血まみれでサトコもリィンもいなかったから。」

「ぶ、無礼者!どうやって入った!?」


おじさんがふんぞり返って威嚇する。カイがおじさんを睨みつける。


「あんた今日飲食店の2階の御簾からオレ達の事見てた奴だろ?」

「そ、そうじゃ。あそこでそこな娘を見染め、今宵の夜伽に連れてきたのじゃ。身体の具合が良ければ後宮に招いてやってもよいぞ?」


後宮!?もしかしてこの国の王!?訴えても取り合ってもらえないだろうし、殺したりするのってもしかしたらまずいんじゃ?横目でカイと見るとカイは目を怒らせておじさんを見ていた。

くいっと人差し指と中指を交差させる。またあの動作だ。瞬間ごきっと嫌な音がしておじさんは泡を吹いてあらぬ方向へ首を曲げている。

そこにはやっぱりロアがいた。


「カイ…殺しちゃって良かったの?」

「あんまり良くない。」

「どうするの?」

「このおじさんそっくりの人形を此処で作る。しばらくそいつに王をやらせて適当に退位させる。」


カイはおじさんの死体を亜空間にしまった。


「ロア、素材を広げるよ。手伝え。」

「了解しました。カイ。」


カイはぶわっと素材を亜空間から露出させた。そしてロアが手伝って信じられない速度で人形を組み上げていく。瞬く間におじさんそっくりな人形が出来た。


「お前はリャンカ王。テルア・シア・リャンカだ。王を演じ、適当なところで姿をくらませ。」

「はい。ご主人さま。」


声もおじさんそっくりだった。すごーい!どうなってるんだろう。


「リィンは違う宿取ってゆっくり直すから。」

「うん!」


先にカイが窓の外に出て、様子を見てロアを呼んだ。

私はロアにおぶわれて窓の外へ出た。2階だった。私は悲鳴を噛み殺す。


「カイ!2階なら2階って言って!吃驚した。」


小声で抗議する。


「え?ああ、ごめん。ちょっと集中力切れてた。」


移動しながら話す。


「やっぱりあんなに急いで人形作ったから?」


私は心配になって聞く。カイもしかしてものすごく疲れてるんじゃない?ロアと一緒にものすごい速度で走ってるけど。


「や。それは別に。ただ香油が…オレも怒ってて興奮状態だったし、回りが早い…」


香油?

……。

……。

……。


「カイのえっち!」

「えっちってどういう意味?」

「助平ってこと!」

「ふうん。」


素で返されると困るんだけど。

路地裏に逃げ込んでカイが新しい服を出してくれる。私は今現在すけすけの薄絹一枚だからな。匂いは取れてないけど宿に着くまで我慢だ。お互いに。

新しい宿でそそくさとお風呂に入る。カイは臨時で金髪たゆんたゆんの切り裂き人形さんを護衛につけてくれた。カイも改めてちゃんとお風呂に入るようだ。話を聞くと慌ただしかったらしいからなー。お風呂で入念に香油を落としてゆっくり温まる。隣では同じように温まっている(ように見せかけている)切り裂き人形さんが。その乳のボリュームすごい。わしっと掴んでみたくなるボリューム。思わず自分と比べてしまう。私も無い方じゃないと思うけど…あれには勝てる気がしない。


「カイって胸大きい方が好きなのかな?」


完全なる一人言だったが、切り裂き人形さんは自分に問いかけられたものとして返事した。


「そのような情報は得ておりません。」

「…ど、どんな体型が好きとか聞いたことある?」

「ございません。」

「そっか。」


うう。カイ…女としての私に反応してないってことはないと思うけど…って何ショタに対して考えてるんだろ。私のバカバカ。相手は12!小学生も同然!意識しちゃダメ。


「サトコ様お顔の色が優れないようですが。」

「だ、大丈夫。」

「ご主人さまからサトコ様の体調には十分気を使うようにと仰せつかっております。御用があればなんなりと。」

「ホントに大丈夫。有難う。」

「はい。」


人形に心配かけちゃったよ。有り難いな。私にも何か彼女たちにできる事があればいいんだけど。


「ねえ、貴方は何か欲しいものってある?」

「ございません。」


だよね。


「何かしてほしい事とか。」

「ございません。」


だよね。


「私が何したら喜んでくれる?」

「わたくしめの話でしょうか。」

「うん。」


切り裂き人形さんはちょっと考える素振りを見せた。こういう所本当に人間っぽいと思うんだけど。カイの人形ってすごいよ。


「…サトコ様は護衛の者をリィンとお呼びになっております。わたくしにもそのような『名前』と言うものがあったら…と愚考致しました。」

「え?それでいいの?それが嬉しいの?」

「はい。」

「じゃあ、カイに相談してみるね。」

「有難うございます。」


私達はゆっくりお風呂に入って出た。カイは既に出ていた。何かの書類を読んでいる。真面目な横顔。やっぱりカイはすごい綺麗な顔してるなあ…目鼻立ちが芸術的なまでに整ってるというか…カイこそ人形みたいに綺麗に見える。そして濡れた髪がちょっと色っぽい。カイはすぐに顔を上げて私に向き直った。


「お帰り、サトコ。」

「た、ただいま。」


私はドキドキ真っ盛りだ。


「どうしたの?」

「そ、その…」


あうー…ドキドキするから近寄らないで。顔が綺麗すぎるし、湯上りが色っぽすぎる…


「だ、男性の性欲促進させる香油があるって聞いたけど女性版はないの?」

「ないねえ。でもあの香油、挿れる時使うと女性が感じやすくなるらしいよ。」

「へ、へー…」


要らない情報をゲットしてしまった。

何故こんな余計な事を聞いてしまうの、私!もっと聞くべきことがあるでしょう!?


「あ、リィンは?」

「そこに居るよ。」

「サトコ様申し訳ございません。」


リィンは土下座体勢だった。


「えっ?えっ?」

「サトコ様をお守りするようご主人さまから仰せつかっておきながら、お守りすることができませんでした。申し訳ございません。」

「ちょ!頭を上げて!」

「あれ?それがサトコのいた所の最上級のお詫びの体勢って聞いてたけど違った?」


カイがきょとんとした顔を見せる。


「違わないけど!私はリィンにそんなことして欲しいなんて思ってない!リィン、私の為に30人も護衛を切り伏せたんだって。すごいよ!有り難いと思ってるよ!壊れるまで守ってくれて本当に感謝してる。」

「勿体無いお言葉です。しかしわたくしは守り通すことはできませんでした。」


リィンはずっと土下座体勢だ。


「と言う訳でリィンはちょっと強くなるよう改造しておいたから。リィン、サトコが良いって言ってるなら困らせるんじゃないよ。」

「はい。」


リィンは立ち上がった。額のごみを払ってあげる。


「カイが土下座させたの?」


じろっとカイを睨む。


「違うよ。リィンが『サトコ様に最上級のお詫びを示すにはどうしたら良いのでしょうか』って聞いてきたから教えただけ。」

「ふうん。」

「『ふうん』とか言ってるけどこれってすごい事なんだよ?人形に自我が芽生え始めてるんだから。」

「そうなの?」

「特別製のロアでさえ言われた通りにしか振る舞わないんだから凄いことだよ。」

「リィン、成長したんだね。やった!」


私はリィンとハイタッチした。


「自我の芽生えは反乱の第一歩だから本来はリィンを廃棄すべきだけどサトコはどうしたい?」

「リィンも一緒が良い!」

「わかった。」


カイはその答えがわかっていたようににっこり笑う。


「あとね、」

「ん?」

「この子にも名前つけちゃダメ?」


金髪たゆんたゆんの彼女を指さす。


「いいよ。なんて名前にするの?」

「『メアリ』が良いかと思ってるんだけど。」

「切り裂き人形、今からお前はメアリだ。」

「はい、ご主人さま。私は今からメアリです。サトコ様、有難うございます。」

「こちらこそありがとね。」


でもリィンもメアリもやっぱり使わない時は仕舞われるらしい。カイはメアリを停止して仕舞っていた。リィンは部屋の外を警護だ。


「カイはなに読んでたの?」

「この国の主要人物の詳細な情報。」

「そんなのが手に入るの?」

「まあ、裏の組織には少々伝手があるから。さっきのおっさん人形にこれを渡して齟齬なく国を動かすつもりなんだ。後宮に行かなくなるから多少疑われるかもしれないけど。ヤれる人形も作る事は出来ないこともないけど、今回は精子のストックが無いから作れなかったんだ。オレの使うのはヤだし。」


さらっと際どい事を仰っている。


「ふ、ふうん。おじさんの死体はどうしたの?」

「切り裂き人形に細かく刻ませて埋めてる所。切り裂き人形は朝までには戻ってくると思うよ。明日はまたリャンカの中を移動するよ。疲れるだろうからゆっくり休んで?」

「うん。」


私は言われた通りゆっくり休んだ。



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