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第7話

翌日、フィーに乗り、竜谷に降りた。谷と言うより崖だね。堅牢な崖に横穴がボコボコ空いてる。「あの穴が竜の巣なんだよ」とカイが教えてくれた。竜は光り物を集める習性があるから、あの穴の中には財宝が山ほどあるかもねと笑っていたけど取りに入って巣穴にいる竜と鉢合わせしたら嫌だ。でも風景は絶景だ。急峻な高い高い崖とその上にちらほら見られる緑の木々。崖下は細く澄んだ川が流れている。

しばらく竜谷の底を低く飛んでると炎弾が飛来した。フィーが華麗に避ける。私は胃の中がでんぐり返った。苦しい。


【巣穴を荒らす人間どもよ。また我らが身体を狙いに来たか!】


脳に直接響くような声がする。見上げると上空に赤、青、緑、黄色、黒の5匹の竜が円を描いて飛行している。いずれも巨大な竜だ。竜と聞いてどんなタイプなんだろうと想像していたが、どうも形は西洋のドラゴンタイプらしい。


「オレの狙いは竜谷の奥にあるパルムの鉱石だ。大人しく通してくれれば何もしない。」

【そうして人間どもはいつも偽りを申す。パルムの鉱石は非常に脆い鉱石。宝石にすらなりはしない!】

「パルムの鉱石には非常に強力な魔導融解成分が含まれている。それが欲しいだけだ。」

【嘘をつけ!】

【問答無用。葬り去ってくれるわ!】


はい、交渉決裂ー。

私達はフィーから降りた。カイは人形を取り出している。


「切り裂き人形。敵対する竜を殲滅しろ。ロアとフィーはサトコを守れ。」

「了解しました、カイ。」

「はい、ご主人さま。」


何と切り裂き人形さんは100体が投入された。100体もいればすごい人口密度だ。人形はどれも皆美女、美少女タイプばかり。やっぱりこれってカイの趣味じゃない?男の子タイプはカイそっくりなロアしか見たことないよ?

カイ自身も参戦するようだ。


「我望むは水の刃!」


ざくっと音がして一体の竜の首が跳ね飛ばされた。空中をきりもみして落下してくる。これで4匹。4匹が同時にブレスを吐いてくる。


「我望むは強靭なる光の盾!」


切り裂き人形さん達は上手く散開して避け、カイは魔法のシールドでブレスを退けた。

ブレスが効かないのを見ると竜はその巨体でボディアタックをしかけてきた。

切り裂き人形さん達はそれを待ってましたとばかりに剣や槍で切りつけた。カイはと言うとひらりと飛び上がって避けて剣で羽を裂いた。牛若丸みたいな身軽さである。普段魔法使ってるから肉弾戦はダメなのかと思いきやそうでもないらしい。ホント多才。

羽を裂かれた竜は再び飛び上がる事が出来ずに、ブレスは盾ではじかれ、最終的には水の刃で首を落とされた。

私の方にも竜が一匹向かってきたがロアが剣で応戦した。カイそっくりの身軽さだ。人形の数が多いこともあって、あっという間に竜5匹は躯になった。


「もったいないから後で売ろうか。」


カイは切り裂き人形さんと一緒に竜の死体も亜空間に収容した。

再びフィーに乗って竜谷を行く。途中3匹の竜に襲撃されたがそれも返り討ちにした。また死体を収納する。亜空間ってどれだけの物が収容できるんだろう?結構竜の質量が半端ない事になってると思うんだけど。

竜谷の最奥パルムの鉱石がある場所の手前に真珠色の竜が一体いた。これまた今までの竜より大きい。しかも綺麗。


【侵入者よ。ここに来る前に何体竜を屠った?】

「8体。どれもこっちの説明聞かないヤツらばかりだったよ。」

【お前たちの目的はパルムの鉱石なのだな。】

「そうだよ。」

【無駄な…無駄な戦いであった…しかし同胞の敵は取らねばならん。いざ尋常に勝負。】


カイは剣を手に取った。

竜に爪で攻撃されてそれをかわして剣を振り降ろす。

ぱきんと剣は折れた。


【アダマンタイトだろうが無駄なことよ。我の鱗は他の竜に比べ非常に硬い。】

「まだまだ。」


竜が先ほどの竜たちとは比較にならないブレスを吐く。ごんぶとのレーザーみたいなブレスである。カイはそれをひらりと躱した。


【何と。躱すか。】


どががあああああああん!!とごんぶとレーザーの着地地点の岩が削れた。すごい威力だ。こんなのくらったらただじゃ済まない。多分魔法の盾も貫通する。

竜の鋭い爪がカイを狙うがカイはひらり、ひらり、と躱している。尻尾が鞭のようにしなった。カイがぶっ飛んで崖に叩きつけられる。


「!!」


声にならない叫びに私の喉がひくっと動く。


「おお、痛い。冗談じゃないよ。まったく。」


カイが肩をぱんぱんと払う。痛いと言う割には特に怪我がなさそうでほっとした。


【貴様、なぜ動ける!?】


竜が驚愕の声をあげる。


「一瞬で防御障壁を張れる魔道具くらい持ってきてるでしょ?普通。」


障壁で衝撃を緩和したようだ。自ら魔道具を作れるカイだもんね。自分も便利な魔道具を装備していても不思議じゃないね。

竜が口を大きく開き、再びごんぶとのレーザーを吐いた。カイはひらりと躱す。攻撃の当たらないカイに竜が焦れて地団駄を踏んでいる。


「我望むは光の砲撃!」


カイが呪文を唱える。眩い光の束が竜に向かって飛んでくが竜に傷は付かなかった。


【言ったであろう。硬いと。鱗はどんな鉱物よりも硬く、血肉は不老長寿の効果がある。我は竜の長であるからな。】

「それって商品の売り文句?」

【我を商品と言うか!】


激昂した竜がボディアタックをしかけてきた。カイは水晶のような透明な剣…いや刀で竜に切りつける。ざくっと肉が切れた。


【何!?】

「ふふ。挑発に乗るからだよ。」


竜は慌てて舞い上がった。上空に逃げればカイの攻撃は届かない。


「三段跳び。」


カイが空中を3度蹴って高く高く飛び上がると竜の首を一刀両断した。ズシーンと地響きを立てて竜が地面に落下する。


「我望むは風の腕。」


カイはふわりと着地した。

竜の死体を亜空間に収納する。呆気ないほどあっさり勝ってしまった。カイ強すぎる。本当に敵じゃなくて良かった。これほどの実力があるならリアロの宮廷魔術師を辞めた時、上を下への大騒ぎだったって言うのも頷ける。


「不老長寿だって。得しちゃったね。オレ達がある程度年とったら食べてみようか?今食べると子供のまんまで成長止まっちゃうから嫌だけど。」


こくりと頷く。不老は乙女の憧れだよね。

竜谷の最奥に足を踏み入れた。

薄暗い最奥は幻想的な風景だった。崖のそこかしこに生えている鉱石が青白い光を放っているのだ。眩いほどに明るくはなく、淡い蛍の光のような優しい光。


「この光ってるのがパルムの鉱石だよ。ちょっと取ってくるから待っててね。」


カイは鉱石を結構たくさん集めてきた。まとめて亜空間に収納する。


「ここで円呪の首輪の解除しようとすると埋ってる鉱石の力が邪魔になっちゃうから出来ないんだ。もうちょっと待っててね。」


こくりと頷く。その晩は竜谷の奥で人形達を見張りにつけて眠る。

翌日、私達はフィーに乗って竜谷を出る事にする。途中まだ3匹の竜の襲撃に会ったがカイと切り裂き人形さんの手によって屠られていた。昨日野営したあたりで今日も野営する。

カイがパルムの鉱石を手に取って地面に複雑な魔法陣を描き始めた。パルムの鉱石はチョークのように柔らかい鉱石なようだ。すごく緻密な魔法陣。どういう意味があるのか分からないけど。カイは私を魔法陣の真ん中に立たせて自分は陣を出た。


「解放せよ円呪の首輪」


魔法陣がぱあっと青く輝き、陣の模様が空中に浮かぶ。そして円呪の首輪に収束した。私の首を絞めつけていた円呪の首輪はポロリと取れた。


「げほげほっ」


急に沢山酸素を取りこんでしまい、むせる。

カイが背中をさすって水を手渡してくれる。ごくごく飲む。喉通りが昨日までと全然違う。


「ありがと、カイ。」

「大丈夫?声はまだ掠れちゃってるね。喉も絞められた跡があるし。」

「だいじょうぶ…」

「お腹すいたでしょう?竜の肉でも食べる?不老長寿じゃない方。栄養価高いし美味しいらしいよ。薬効もあるし、精力増強の効果もあるらしいけど。」


竜肉!ファンタジー食材!ドラゴンステーキはみんなの憧れだよね!


「食べる。」

「ん。」


カイは亜空間から竜の死体を出すと鱗を剥いで、例の透明な刀でいくつかのブロック肉に切り分けた。


「ねえ、カイ、その透明な刀って何?凄く良く切れるみたいだけど。」


あの固い真珠色の竜を切っちゃったやつだよね。


「ああ、これ?魔石で作った刀だよ。何にもしなければなまくらだけど魔力を通せば通すほど良く切れるようになるんだ。魔力を持っている人間にしか使えないのが難点だけど、オレの愛刀。オレが工作スキルで作ったんだよ。」

「へえ。3段飛びって言うのもスキル?」

「そうだよ。空中を3段ジャンプできるんだ。」


カイは手早く肉に塩胡椒を振りかけて串に通して焼いてくれた。じゅーじゅー脂が焦げて、すごくお腹の減る匂いがする。私のお腹はきゅるると鳴った。


「熱いから気をつけて食べてね。」

「うん。」


ふーふー息を吹きかけて食べた。

じゅわっ。

噛みしめる度甘い脂がしみ出す。塩と胡椒だけの簡素な味付けだけどすごく美味しい。血抜きしてないのに全然臭みもないし。血抜きしてないのに何故……いや、考えるのはよそう。所詮ファンタジー食材だ。それよりじっくりこの肉を味わわねば。熱々で肉汁たっぷりで甘い脂の味がして…


「おーいしー!!!久しぶりの肉だあ!」

「良かったね。沢山あるから遠慮なく食べてね。」

「うん。カイも食べてね。」

「そうするよ。」


二人ではぐはぐお肉を食べた。美味しかったあ。


「竜が沢山あるからアマリーに戻ったら競りにかけてみようか?大金が手に入るよ。亜空間を圧迫している分も減るし。」

「うん。そう言えば亜空間ってどれだけの物が収容できるの?」


最低でも今12匹竜が入ってるけど。


「魔力に応じて大きさが違うよ。オレは魔力が高いから沢山収容できる。」

「へー。カイすごいんだ。」

「凄いでしょ?」

「うん。」

「結婚したくなった?」

「え?」

「言ってみただけ。」


び、吃驚した~。カイ何言ってんの!


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