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第31話

ラスト!

とりあえず病原体が付いているであろう寝床や布やらを処分しなくてはならない。消毒液に漬けたうえで焼却処分らしい。カイが人形をワサワサ出して働かせている。医者も患者もポカーンとそれを見ている。カイは自分の着ていた寝巻きを脱いで消毒&焼却のブツの束に放り捨ててバスタブを出して入浴を始めてしまった。人形たちが巨大な盥にお湯を入れてきたので他の患者たちも丸洗いだ。私も着替えて、それまで着ていた服は処分の方に回した。私とカイは今後病気にかかることはないけど他の人たちは再び病気にかかる恐れがあるのだ。徹底的に病原体は抹消する。患者がいたところにも消毒液を撒いて、全ての処理が済んだのは3日後だった。財貨の入った魔法袋はカイに返した。大金持ってるの怖いし…。カイは「拠点に行けばもっと財宝あるよ?」と笑っていた。お金持ち過ぎだから。リアロから相当搾取していた模様。そして今、カイは一応病み上がりなのでお粥のようなものを食べている。私も付き合ってお粥を食べている。カントが作ってくれたお粥で、干したホタテの貝柱を戻して入れてある、ごま油風味の中華粥のようなものだ。ホタテの貝柱が良い旨みを出してる。とても美味しい。


「サトコってば、ラクシェ国民を死病から救った救世主として超有名になってるよ?」


隣で通常の食事を取っているリュート様がにこにこと言う。


「あんまり有名になるのは好ましくないんですけどねえ。ラクシェの人はそんなこと言わないでしょうけど、普通の人は『功はないけど賞をよこせ』って言うはずですから。」

「まあ、人間は欲深いからね。」

「この能力、罪に釣り合った罰を与えることも出来るんですけど、私とリィンを誘拐して円呪の首輪を嵌めて、親しい人であるリュート様のお父上の首を取った闇の魔導会の会員にはどんな罰を与えましょうか?」


リュート様が吃驚した顔をした。


「どんな罰を与えられるの?」


私は天秤に色々乗せて考えた。


「『全員死罪』だと罰が重すぎるみたいなんです。かといって『私財没収』だと罰が軽すぎるみたいで…」


リュート様とキサラとカイと私で意見を色々出しあった。結果『全員魔力没収』で丁度天秤が釣り合った。闇の魔導会は魔術師を頂点とした世界を作りだそうとしていたから、自分たちが魔術師でなくなったらそんな主張は出来ず、崩壊すると思う。戦力的にも大きく欠けることになるので、現地で闇の魔導会と戦ってる人には有難いだろう。私はスキルを解放した。ここには対象がいないからわかんないけど闇の魔導会の人々は魔力を失ってるはず。


「じゃあ、後はラクシェで闇の守護者に関する文献を調べれば帰れるね。」


リュート様がうきうきした声を出した。


「私たちはここのところずっと文献を調べているのだが、とにかく数が多くてな…中々闇の守護者に関する記述が見つからない。」


キサラが言う。


「それと、アーティスから来た一団が闇の守護者についての文献を調べてるみたいなんだよねえ。どういう狙いかは分からないけど。」


リュート様が首を傾げる。アーティスからか…なんだろ?闇の守護者に興味を持つことなんてないと思ってたけど。


「明日からは人形に手伝わせて片端から文献を調べるよ。」


カイが言った。私も調べるけどこの世界の文字って未だに慣れないんだよねえ…意味はわかるよ?意味はわかるけど…例えるなら全文カタカナで記された本を読んでるみたいな…ぱっと見じゃ何を書いてあるかわからなくて、音として拾ってみて初めて意味がわかる、みたいな。とにかく読みにくいんだよ。

翌日、王立図書館にて、100体の人形を使ってわちゃわちゃと闇の守護者についての文献を漁った。図書館にいる人々は突然集団が入ってきて本を漁り始めたので目を丸くしている。因みに王立図書館では入る時に金貨1枚と銅貨5枚を取られるが、本を汚したり破ったりしなければ退館するとき金貨1枚は帰ってくる。100体も人形を投入するからカイは金貨100枚と銅貨500枚を払ってるんだけどねえ。銅貨の方は返却されないし。人形はそれぞれ闇の守護者について記述のある部分にしおりを挟んで本を持ってきてくれる。全員でそれを読む。

すると驚きの記述が次々と出てきた。

闇の守護者は世界の釣り合いを整えるために世界に落ちてきていると考えられる。光の守護者を召喚すると必ず闇の守護者が転移してくるが、闇の守護者を殺すと、闇の守護者が死んでから徐々に日照時間が増えて行き、夜が短くなり、作物が枯れてしまう。しかも闇の守護者を殺してしまうと大抵その日から3~5年を目安に光の守護者も死んでしまうらしい。古代ではこの事を鑑みて闇の守護者を生かす実験をしていたらしい。そうすると日照時間は通常通り、光の守護者も闇の守護者も長生きして大体同じ年数生きたと言う。闇の守護者が現われると一時的に魔物が増えるが、闇の守護者がスキルを発露させると通常状態に戻っていくらしい。


「なんだこれは…!これは、光りの守護者がいる時は闇の守護者もいなくてはならないと言うことではないか!」


リュート様が大きな声をあげる。


「多分逆もしかりなんだろうね。光の守護者がいない状況で闇の守護者がいるだけだと日照時間が短くなっていき、夜が長くなる。光の守護者が死んでしまえば闇の守護者も数年で死んでしまう。…ってことだと思うよ。2者は対なんだ。これは何が何でも光の守護者には長生きしてもらわないとな。」


カイが言う。うむむう…

ついでに言うと光の守護者、もしくは闇の守護者の因子を持つものは異世界に常時複数いるようで、闇の守護者を殺してしまってから光の守護者が弱っていく様子を見た、とある王がラクシェの文献を目にし、闇の守護者を召喚してみたら見事光の守護者が回復したそうだ。因みに光の守護者と闇の守護者は子供を作ってもその子供に守護者としての因子は受け継がれないらしい。代わりにもう片方の親の特徴が色濃く出ることが多いそうだ。カイそっくりの子供!絶対可愛い!

リュート様が大声をあげたのでアーティスから来た一団が寄ってきた。


「あのう…もしや、闇の守護者についての文献を調べておられるのですか?」


インテリ風の眼鏡をかけた青年が聞いてきた。


「そうだけど、そちらは?」


カイが問いかける。


「アーティスの調査員です。ゼン様が『闇の守護者は本当に殺されるべき存在なのか?』『世界に呼ばれるからにはなにかの役割があるのではないか?』と仰られて、調査を命じられたのです。ラクシェでは守護者についての研究に長い歴史があるので、何かわかるかもしれないと思ってやってきたのです。」

「この書籍のしおりを挟んでいる部分をよく読むと良い。」


キサラが勧める。

青年をはじめとした調査団は文章を読んでみて顔色を変えた。


「いかん!闇の守護者を殺されてしまったら数年でゼン様がお亡くなりになってしまう。各国に通達を出して闇の守護者討伐を止めてもらわねば…!」


是非ともそうしてください。青年たちは書籍の写しを取るらしい。紙とペンを取りだしてカリカリやり始めた。


「これで闇の魔導会がやろうとしていた事は的外れだとわかったね。闇水晶だけは邪魔っぽいから壊しておくつもりだけど。」


カイがのんびり告げる。


「魔導会の連中は魔力を失ってるから僕も安心して帰れるしね。カイ殿たちは今後は?」


リュート様が尋ねる。


「ササエのシャールン領へ行くつもり。サトコとまったり暮らすのがオレの野望だからね。」

「そうですか…寂しくなるな。」

「生きてればまたそのうち会えるだろうさ。」


カイは軽い口調だ。


「そうだね。」


リュート様はそっと目を閉じた。


「道中お気をつけて。」

「ありがとう。サトコも気をつけて。カイ殿とお幸せに。」


リュート様が笑った。私は少し頬を赤らめた。



リュート様たちは翌日サーリエへ向けて旅立っていった。

私とカイはラクシェから海路でフレイヤ大陸を経由してササエに戻った。フレイヤ大陸にはミャレとパプエと言う国がある。どちらも白い砂浜に青い海の南国で私とカイは寄り道して海で遊んだりした。リィンは海はさほど好きではないようだったけれど。

旅の途中、リアロが壊滅したという噂を聞いた。

そしてササエに戻ってきた。今度こそ待望のシャールン領へ行った。カイが私の為に建ててくれたお屋敷はとても大きな洋風のお屋敷だった。この辺りでは洋風建築はどちらかと言うと少数派だ。でも室内には靴を脱いでスリッパに履き替えて上がるので、完璧な洋風建築というわけでもない。不思議な屋敷だ。待望の温泉は和風の造りで石の凹凸がありながらも滑らかな感触が楽しめる露天風呂だった。入ってみたがお湯がとろとろで気持ちいい。肌綺麗になりそう。私の為に私が気に入ってくれるか考えて作られた屋敷…気に入らないはずがない。

カイは相変わらず私に甘くて、今はチョコラの実でケーキを作る実験中だ。こんなに幸せで良いんだろうか。

カイと夜のテラスに出た。静かな夜だ。空気は澄んでいる。大きな満月の光に照らされるカイの横顔は恐ろしいほど綺麗だ。そう思うのは私の欲目なのかな?


「サトコ。」


カイに呼ばれた。


「うん?」


穏やかに返事をする。


「手、出して?左手。」


私はカイに言われるがまま左手を差し出した。カイはその手を取ってそっと薬指に指輪を嵌めた。


「サトコ、オレと結婚してください。」


カイは真顔だ。ぷ、プロポーズ?指輪はアクアマリンのついた綺麗な婚約指輪だった。大好きなカイにプロポーズされて否と答えるはずがない。


「喜んで。」


はにかみながら答えた。

私はこの世界に転移させられて多くの物を失った。それでもカイに出会えた。カイは私にとって光輝く一等星。カイに出会えて、運命の糸で結ばれた幸運をただ感謝し、怖いくらいの幸せをかみしめた。

カイは私に色んなものを与えてくれる。私もそれに応えて色んなものを与えてあげたい。

お互いが釣り合う天秤のように。


ものすっごい稚拙な文章に最後までお付き合いいただいて有難うございます。


盛り込めなかったけど…リアロでは婚約者の左手の薬指に自分の瞳と同じ色の宝石のついた指輪を贈る風習があるのです。ササエにはそういう風習はないです。国によってそれぞれ。

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