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第3話

翌朝起きて、また素揚げ料理を平らげる。朝から油ものって結構きつい。でもここの料理は基本素揚げだ。化粧水の効果は見事だった。肌すべすべのぷるぷる。

私はカイに伴われ警吏の事務所に行った。自分の所有物である女性に無理やり襲いかかり、反撃されたら指名手配して無理やり奴隷とした。そんな説明をしている。私はカイの所有物扱いらしい。別にいいけど。カイなら無体なことしないだろうし。

ザランドの家へ警吏の者が急行したがもぬけの殻だったらしい。処罰されるのを恐れて逃げたんだろうという話。


「サトコ、ササエのシャールン伯爵領に来ない?オレならずっと守ってあげられると思う。」


ずっとっていつまで?何ヶ月先?何年先?曖昧で不安定な言葉だ。

でも私の答えは決まっていた。


「行くっ!カイと一緒が良い!」


カイは嬉しそうに笑った。

カイは村から出た所で高く口笛を吹いた。金色の大きな鳥が下りてくる。これ私がこの世界に落ちてきた時見た鳥だ。不死鳥も真っ青な黄金の煌めき。ふああああ。きれい―――!!


「サトコもフィーに見惚れてるみたいだよ。良かったね。フィー。」


カイがフィーと呼ばれた鳥の首を撫でてあげている。フィーはくるるっと喉を鳴らしている。


「サトコ。フィーに乗るよ。オレの前に座っていればいいから。」


鳥に乗るってことは空飛ぶのかー…ちょっと怖い。


「大丈夫。フィーは賢いし、オレがついてるから。」

「…うん。」


私はカイの手を借りて大人しくフィーにまたがった。羽毛はふかふかであったかいけど尻の座りが悪くて座り心地はあんまり良くない。カイがひらりと私の後ろに座る。私を覆うように(カイは私より背が低いので私が屈みがちになる)手を置いて口笛を吹いた。フィーが高く舞い上がる。


「パパナとササエはあまり近くない。途中海路を2回渡る。海の上では休息場所が無いからフィーに乗ってる訳に行かないしね。陸路の時はフィーに飛んでもらうからだいぶ時間は短縮できる。シャールンに直接転移出来るようにしてなくてごめんね。」

「ううん。カイと旅出来たら楽しいと思う。嬉しいよ。」

「そう。なら良かった。」


フィーに乗りながら色々話をした。同僚のアンナの事、あんまり美味しくない料理の事、トヤの実が高級品だった事。カイは「トヤの実渡してあげればよかったね。ゴメン」と謝っていた。料理についてはこの世界はあまりバラエティーに富んだ料理は作られないそうだ。私がいた世界の料理の話をカイは興味深げに聞いていた。私はあんまりお料理得意じゃないから中途半端な知識だけど。



あっという間にエイレイの街に着いた。街に着く前にフィーからは降りた。あんな巨大鳥類が街中に降りて来たら大騒ぎだと思う。エイレイは緑の多い街だ。こちらの文化レベルを知らないので何とも言えないが、まだ未発展という感じがする。


「サトコは船大丈夫?」

「あっちの世界の船では酔わなかったけど…」


こっちの船が大揺れに揺れるようだと自信ない。


「エイレイの街では行きつけの定食屋があるんだ。」

「どんなの?」

「挽肉を使った米料理かな。辛味があって美味しいよ。ちょっと高いし並ぶけど。」


私はカイに促されるまま結構な列を並んで定食屋に入った。この世界にも一応挽肉と言う概念はあるらしい。安心した。

トーパと言う料理名の料理を二人で待つ。ココナというココナッツジュースそっくりの飲み物も注文した。ココナッツミルクは好きだけどココナッツジュースって生ぬるくてあんまり好きじゃない。

野菜とひき肉、細長い米、上に目玉焼きが一つ。私の思い違いでなければガパオライスだ。


「サトコ、食べてみて。辛いから注意してね。」

「うん。頂きます。」


よく混ぜてひと口食べてみる。まごうことなくガパオライス!美味しい!めっちゃ美味しい!私はお米をガツガツ掻きこんだ。


「サトコ、そんなに慌てなくても誰もとらないよ。」


カイは笑っている。だがしかしこれまでの美味しくない素揚げに二ヶ月耐え続けた私の味覚は歓喜している。


「そんなに気に入ったのなら少し持ち帰ろうか。亜空間に収納してれば腐らないし。」

「いいの!?」

「船の食事はまた素揚げになると思うからね。」


ここいらの食事は基本素揚げと焼き物らしい。

それからカイはトーパとナナックというパッタイのような料理をテイクアウトしていた。

船の客室を予約しに行った。一等客室の2人部屋1つ。私もカイと離れるのが不安だったので異論ない。ウィッシュ大陸のアトシアという国に行く船に乗るそうだ。アトシアは比較的治安がよく平和な国らしい。


「ねえ、カイ。不思議だったんだけど、私ここまで来る間に闇の守護者だって疑われたことないよ。普通この時期に一人でふらふらしてたら疑われるんじゃないの?」

「ああ。それね。歴代の闇の守護者はみんな黒い髪に黒い瞳でやや黄味がかった肌をしてるって言われてるんだ。サトコの髪は亜麻色だし瞳だって榛色。肌の色は真っ白って言う訳でもないけど黄味がかったって言うほどでもないよね。だからだと思うよ。なんでそんな差異があるのかオレには分からないけど。」


なんと。アジアンカラーが目印でしたか。もしかして闇の守護者ってずっと日本人?


「私が生まれた国ではみんな黒髪に黒い瞳だったよ。私は生まれつき色素が薄いんだ。」


私の容姿を説明すると、亜麻色の肩甲骨くらいの長さのストレートな髪に、ぱっちりした大きな榛色の瞳をしてる。睫毛もちゃんと上向きでマッチを乗せられるレベル。鼻はやや小振りで唇はぷっくりと桃色。全体の色素は薄く、色白である。『綺麗』よりは『可愛い』顔立ちで、どこか成熟しきれない少女のような、少し幼い感じの風貌だ。これは私の成長がどうとかではなく、母からの遺伝だ。母は年をとっても少女のような風貌をしていた。そのくせ体つきはむっちりしている。手足や腰は華奢だけど。


「へえ。疑われずに済んで良かったね。もし黒髪で黒い瞳だったら初日に髪の色変えの染料を買ってるところだけど。でもちょっと勿体ないかもね。この世界。エンデ・ロストでは黒は美しい色と言われてるんだ。光の守護者も艶やかな黒い髪に切れ長な黒い瞳だって話だよ。」


そんな染料があるのか。カイ曰く黒髪が美女の王道。大抵の恋物語のヒロインは「豊かな黒髪」らしい。こっちに来てから本なんて読んでないけど、一応こっちの文字が理解できるのは確認している。日本ではどっちかっていうと若い子には淡い髪色の方が好まれてたけどね。わざわざブリーチしたり。


「カイも黒が好き?」


切り裂き人形さんは黒髪黒眼だったよね。


「そうでもない。あんまり気にしてないかな。顔立ちが可愛ければそれでいい。」

「切り裂き人形さんみたいな?」


スレンダーなもの凄い美少女だったよね。「可愛い」よりどっちかっていうと「綺麗」かな?


「あれはオレの趣味じゃないよ。一般的な美少女を作っただけ。閨事にもつれ込んで油断しているところをばっさりみたいな用途で使ってる。」

「うわあ。あくどい…」


だから乳房とか陰毛とかあったのか。もしかしたら陰部もあるのかな?


「ふふふ。綺麗事ってのは弱いものなんだよ。」


カイって意外と考え方が斜に構えてるよね。前も力はより大きな力に押しつぶされるとか言ってたっけ。見た目はこんなに可愛い子供なのにな。


「そう言えばカイっていくつ?私16。」


ファンタジーにありがちな見た目は子供でも数百歳!みたいな感じだったらどうしよう。


「オレ?12だよ。あと4ヶ月もしたら13になるけど。」


見た目通りの年齢だったようだ。


「カイって人間?」

「人間だよ。というか恐らくサトコが夢見てるような、おとぎ話にありがちな亜人はいないよ。魔物はいるけど。」


ノォッ!憧れのケモ耳やエルフ耳が否定された!魔法はあるのに何で!この中途半端感!!


「ケモ耳見たかった!」

「けもみみ?おとぎ話に出てくる獣人の事?」


こくりと頷く。


「残念だったね。でもサトコの知らない可愛い動物や気持ち悪い動物とか沢山いると思うよ。」


気持ち悪いのはノーセンキューだぜ!

一等級客船の食堂ではドレスコードがあるということなのでカイと服屋に行った。2人でいくつか見せてもらって民族衣装のようなドレスを数着買った。カイも自分の分の服を少し買い足したようだ。

その晩は宿で1泊した。



翌朝、豪華客船ローレイアに乗りこむ。アトシアとパパナを結ぶ大切な船らしい。帆船だ。

船内はまあまあ綺麗だった。こっちに来てから信じられないくらい大きな虫が部屋にいる!って状況もざらだったので、それよりかは幾分まし。一等級客室も満足のいく部屋だった。でも料理は素揚げ。


「何でこう素揚げが多いのかな?」


油も何度か使い回ししてるっぽくてあんまり美味しく感じないんだけど…


「サトコはずっとお風呂に入れる宿にしか泊まった事無いから気付かなかったんだね。この辺では真水が貴重なんだよ。だから料理は自然と水を使わなくてもできるものになっていったんだ。飲み物だってお酒か果汁だし。」

「へえ。じゃあこの船もお風呂ついてないの?」

「一等級の客は大浴場が使えるはずだよ。」

「良かった~。」

「サトコはお風呂好きだね。」

「うん。」

「オレは魔術師だから水の心配はしなくていいからね。」

「ありがと。」


カイは頼りになるなあ。

食後は甲板に出た。キラキラ水面が輝いて綺麗だ。海の透明度も高くって中まで透けて見えそう。魚とか見えないかな?

私はぐいっと身を乗り出して海の底を見ようとした。


「サトコ、そんなに身を乗り出すと落ちるよ。この船、見た目ほど丈夫じゃないし。」

「そうなんだ。」


私は身を乗り出すのを止めた。手すりが崩れてドボンとか笑えないしね。


「美しい人。どこへ行かれるのですか?」


なんか急に話しかけられた。

振り向くと金髪碧眼の美男子が立っていた。年の頃は20代半ばくらい。涼やかな目元に高い鼻梁、形の良い唇をしている。いかにもな色男。服はきっちりした白いシャツにグレーのベスト、茶のズボン。帯剣している。


「えっと…」


ササエに向かう事言っちゃっていいのかな?私はカイを見た。


「旅の行く先を詮索するなんて野暮な人だね。」


カイはにっこり笑った。


「弟さんですかな?」

「違います。私の…大切な(恩)人です。」

「……子供のように見えますが。」

「子供ですけど…年齢なんて関係ありません。」


私よりずっとしっかりしてるし、頼りになるし。まごうことなく恩人だよ。いつか恩は返さなきゃなー…とは思うけど、果たして私に何ができるというのか。ちょっと悩んでしまうのだよ。


「そうですか。」


そのまま立ち去ると思いきや私の耳元にそっと唇を寄せてきた。


「今夜私の部屋に忍んできてもらえませんか?熱い夜を過ごしましょう。部屋番号は103です。後悔させませんよ。」


色っぽく秋波を送って去って行った。夜のお誘い?行ったら食べられちゃうやつですか?確かに美男子ではあるけど、私は好きな人としかそういうことは致しません!


「行くの?」


聞こえてたらしい。カイがあどけない顔で聞いてくる。流石に意味わかって聞いてるんだよね?私がこういう誘いに乗る女だと思ってるんだろうか。ちょっとムッとした。


「行く訳ないでしょ。」

「ふうん?」


普通に自室ですやすや眠った。


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