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第28話

馬車の中で「昨日カイにヤキモチ妬かれたので口付けは無しで」とキサラとリュート様に伝えた。リュート様が「サトコ、愛されてるねえ…」と笑った。一応節度を守りつつキサラと接触した。カイは徐々に本人からロアに変わる時間が増えてった。カイは私を目で追ってしまうが、ロアは代わりに新たに現れたヒロインに徐々に心惹かれて行く演技をし始めた。カイからロアにとって代わる時間は増えて行き、最終的には朝から晩までロアがカイの代わりを務め、カイは私たちの後から茶髪に髪を染め、眼鏡をした格好で追うようになってきた。偽名で部屋を取っているようだが、夜だけ私とリィンの部屋に忍んでくる。私の髪の手入れをしなきゃだから!というのが本人の言い分だが、実際は私と一緒にいたいだけのようだ。愛されてるなあ…にやけてしまう。そしてハルドラに入る頃、遂に決別の日を迎えた。

夕食の席でロアに睨まれた。


「サトコさあ、他の女を抱いたくらいで、ちょっと嫉妬深すぎるんじゃない?リアロじゃ一夫多妻なのが普通だったし、複数の妻を持つのは魔術師の血を残す意味で重要なんだよ?」


ロアに刺々しく言われた。実際はカイもかなり嫉妬深いけどね。私もヤキモチ妬きだけど。『優れた血を複数残すのは重要』というのはリアロではありふれた考え方だと聞いた。カイは私との赤ちゃん以外は要らないそうだが。


「私は…その考え方についていけないよ…私は一人だけで良いの。一人だけ愛したいし私一人を愛して欲しいの。それが出来ない人とは共に歩めない…」

「わ、私ならカイさんの希望に応えられます!カイさん、サトコさんじゃなく私を選んでください!!」


シェリーが手を伸ばした。ロアは逡巡した後シェリーの手を取った。2人して退場して行った。従者たちがわあっと声をあげて賭け金のやり取りをしている。

翌日からカイは茶髪に眼鏡のまま私たちの隊に加わった。私やリィンだけじゃなく、リュート様もキサラも当然のように受け入れている。仰天したのは他の従者たちだ。カントも上手に驚いたふりをしている。私とカイはここぞとばかりにいちゃいちゃ仲睦まじく過ごした。従者たちは再び賭け金のやり取りをやり直したようだ。


「でもロアって魔法使えないよね?カイじゃないってばれないかな?」


馬車にごとごと揺られながらカイに話しかける。


「ロアはフィーに乗れるんだ。魔法は使えないけどフィーはかなりインパクトがあるからしばらくの間なら目くらましできるよ。空間魔法を付属させた魔法袋も持ってるし。」

「魔法袋?」

「これくらいのポーチで、中には重量5トンまでなら何でも入る。ロアのポーチには野営道具と工作器具とお金が入ってるよ。あとロアの持ってるキーで起動できる斬り裂き人形が50体ばかり。しっかり首脳陣を抹殺してもらわないといけないからね。ロアは素材さえあれば自分で人形を作りだす知識も持ってるし。」

「へえ。」


魔法袋欲しいなー。


「今度サトコ専用の魔法袋を作ってあげるよ。」


わあい。甘やかされてるなー…


「カイ殿、その魔法袋は売りに出されないのですか?かなり需要があると思いますが。」


リュート様が尋ねる。ちょっと欲しそうにしている。


「魔法袋の存在は今まで内緒にしてたんだ。リアロにもね。なにしろ戦争の役に立つもんで。もしリアロに大量に売っていたらラージ大陸の三つ巴は大きくパワーバランスを崩してただろうね。そのくせオレは元から空間魔法を使えるからオレにとっては特に旨みが無いし。」

「不思議だったのだが、複数の竜を倒してしまうカイ殿ならラージ大陸をリアロ国に統一してしまうことも出来たのでは?」


キサラが尋ねてくる。


「出来るかできないかで言えば容易く出来ることだけど、それをやったらオレがリアロから搾取することが出来ないでしょ?戦争は金になるからね。勝たず負けず微妙に優位に立ってるくらいのポジションが一番儲かるんだよ。」


カイって私の事が絡まないと非情だからな……でも私は痩せた子供や焼け野原を見てきてしまっている。カイが搾取するために犠牲にした人々はとても多いと思う。


「カイ…あのね、私ね…そういう稼ぎ方あんまり好きじゃないんだ……出来れば人が死なない稼ぎ方が良いんだけど……我儘かな?」


偽善でしかないけど…カイならきっともっと別の方向性でいくらでも稼げると思うの。カイがいくらその手を汚したって私のカイに対する愛情は揺るがないけど、する必要の無い汚れ役までしないでいいと思うの。

カイは笑って私の頭を撫でた。


「オレはサトコが笑ってくれるならいくらでも生かすことも殺すこともするよ。サトコが戦争を厭うならもう戦争に手は貸さない。もうサトコを一生豪遊させるくらいの金銭は稼いでるしね。これ以上無理にとは思わない。」

「カイ…大好き。」


ぎゅっとカイを抱きしめた。


「お熱いねえ。」


リュート様が笑った。キサラは微妙な顔だ。

ハルドラは確かに暑く砂でじゃりじゃりした土地だった。私は早速目以外の全身を覆う衣装を買ってもらった。それはそれで暑いんだけどね。日焼けするよりまし。

食事はカイが言ったとおり豆の料理だった。肉と豆のシチューが一番ポピュラーな食事だ。お米と食べる。肉はベーコンやソーセージ、腿肉など色んな肉がミックスされていてかなり味にコクがあった。美味しいとは思ったが、カイ曰く料理にバリエーションが無いからすぐ飽きると思うよ、とのことだった。毎食これは飽きるかもなあ。どこかからスパイスの匂いがした。


「カレーが食べたい。」

「カレーってなに?」

「具材を煮込んだ辛みのあるスープ料理かなあ?」

「辛いの?」

「私は辛い方が好きだけど辛みは混ぜるスパイスの量で調節するの。」

「ふうん…」


カイは何か考え込んでるようだった。

そして入浴の文化があまりないらしくお風呂付の宿は殆どなかった。宿では毎回、カイの出してくれたバスタブで入浴。とてもいい気持ち。髪も肌もカイに磨かれてかなり良い状態だ。髪とか超キューティクル整いまくりですよ。

馬車で移動してるけどカイはここのところ宿に入ると厨房に籠りがち。やっぱり、というか、なんというか、カレーに挑戦しているらしい。

ハルドラの王都フィワにて。


「これはどうかなあ?」


一応試作を食べさせてもらった。真っ赤なスープに色んな具材が煮込まれている。リィンが毒見してくれたので一口味わう。

……うん。これは…


「カイ…これは私の国では『チゲ鍋』と呼ばれる食べ物だよ。」

「『カレー』ではない?」

「違うね。」


カイはがっくりしていた。自信作だったらしい。確かにすごく美味しい。それは間違いない。他のみんなも「旨い旨い」と喜んで食べている。


「カレーじゃないけどこれはこれですごく美味しい。」

「そう?ササエのミソとかミリンとかも使ってるんだ。」


多分カイはコチュジャンを作ってしまったのではないかと思われる。それにしても本当においしい。私たちはたっぷりチゲ鍋を味わった。


「『カレー』ってどういうものなの?辛いスープ料理ってだけでは手掛かりが少なくて…」

「カレーは複数のスパイスとハーブを粉末状にして調合して炒って作った辛みのあるカレー粉で色んな具材を煮た料理だよ。かなり独特な匂いがする。カレー粉には『クミン』ってスパイスが必要不可欠だったけど。それを入れるだけでも大分カレー感は出る。」

「じゃあ、今度その『クミン』に代用できそうなスパイスを探しに市場に行かない?オレじゃあ、どういうものかちょっとよくわからないから。」

「いいよ。てか別に無理にカレー作んなくていいんだよ?食べたことはおろか、見たことも聞いたこともない食べ物作るのって難しくない?」

「無理って言われると逆に挑戦したくなる性質なの。更にサトコが喜んでくれたら二度美味しい。」


そういう性質だから人形やいろんな魔道具が作れちゃったりするんだろうなあ…

私はハルドラの市場にカイと共にスパイスを探しに行った。

どこかでスパイスの匂いを嗅いだなと思った通り、ハルドラではスパイスを使う料理があるらしく粉末状になったスパイスが売っている香辛料店があった。しかも王都で一番品揃えが良い店だとかで、ずらっと壁一面に香辛料が並んでいる。この中から探し出すのって難しそうだなあ…


「おじさん、よく使われるスパイスってどんなの?」


店のおじさんがいくつか見せてくれた。その中からガーリックとオールスパイスとチリペッパーとブラックペッパーとジンジャーをストックした。私はカレー粉が何で出来ているか知らないけど、きっと入れたらおいしくなると思う。それからシナモンは容易に嗅ぎ分けられた。あと嗅ぎ分けられたのはクローブとカルダモン。何故かというと、家でお姉ちゃんがよくチャイを作っていたからだ。クローブ、カルダモン、ブラックペッパー、ジンジャー、シナモン、砂糖、水、牛乳、紅茶でチャイを作っていたはず。とても美味しかったので今度作ってみよう。あとはターメリックを色で判別した。多分、きっと、ターメリックだよね?色で判別しただけだからちょっと自信ない。何種類も嗅ぎ分けしてマイナーなスパイスにも手を出してやっと『クミン』に代用できそうなスパイスを見つけた。

名前は『パッパラ』と全然違うが。


「パッパラは匂いが独特だからあんまり使われてないよ?」


おじさんが困った顔をした。


「この匂いを探してたんです!」


他に4種類のスパイスをカイのセンスで選んで買った。これを丁度良い分量で配合して炒って寝かせればカレー粉になる…はず。

カイは配合を悩みつつカレー粉作りをしてるので、私は紅茶と水と砂糖と牛乳を分けてもらってチャイ作りをした。お姉ちゃんが作ってたのを見よう見まねで作った。味見してみたが結構おいしいのが出来たと思う。


「カイ、お茶で一息入れよう?」


カイにチャイを渡す。一口目を飲んだカイはとても微妙な顔をしていた。チャイって初めて飲むと変な味に感じるよね。3口ぐらい飲むと慣れてきたらしい。


「最初は変な味!って思ったけど、慣れると意外と美味しいね。カレーも最初は変な味!って思う?」

「うーん…どうだろう?カレーって元はインドって言う国の食べ物なんだけど日本で食べるやつは日本人向けにアレンジされてるやつなの。だから日本人の舌には最初から食べやすいように出来てる上に、初めてカレーを食べたのってすごい子供の頃だからあんまり覚えてないの。気がついた時は既に舌がカレーに慣らされてた。今はインドの本格派のカレーも美味しく感じるんだけど、最初から本格派のカレーを食べると、もしかしたらちょっと『変な味!』って思うかもね。」

「ふうん…」

「カイはそういう故郷の味!みたいなの無いの?」

「うーん…一番骨身に染みて食べ慣れてるのはチョコラの実かなあ…」


チョコラの実は色々加工すると美味しいと思うけど、カイの場合美味しいかどうかじゃなくてエネルギー量が高いかどうかで見てるよね?食事はバランスよく色んな食材を『おいしく』食べるのが良いと思うんだよ。カイには特に『おいしく』の部分を感じ取ってほしいなあ…食事を楽しまないなんて絶対人生損してると思うの。


「サトコはチョコラの実を使って作る『チョコレートケーキ』というものが食べたいと言っていました。」


リィンがカイに報告する。


「『ケーキ』ということは甘いお菓子?」


カイが食いついた。


「うん。スポンジに粉末状のチョコラを混ぜて焼いて、生クリームにも熱して溶かしたチョコラを混ぜて泡立てるの。」

「サトコが是非とも食べたい故郷の味らしいですよ。それはもうチョコレートケーキについて熱く語り、リアロでは『お金をためてればいつかはまたチョコレートケーキが食べられるって思うだけでも希望になる』と健気に述べていました。」


リィンが告げ口する。あうあう。食いしん坊なことがもろばれに…!


「そのうち絶対再現するから待っててね。」

「う、うん…」


カイは甘いな~…どうしよう…幸せだ。

カイはカレー粉を調合して焦がさないよう炒め、瓶に保存した。もう炒ってる途中からカレーの匂いがぷんぷんしていた。期待大だ。調合したカレー粉は寝かせると聞いたことがあるけど、すぐに食べられないわけではない。カイが早速肉や野菜を煮込んでみてくれている。カレーの良い匂いがする。カイがカレーを作ってくれてるのでナンを作ってみた。お姉ちゃんは料理好きで色んなものを作っていたので全て見よう見まねだ。ナンはさほど難しい料理ではないのでささっと作れた。

完成したカレーをみんなで食べる。私が辛口が好きだと言ったのでカイは結構辛めにカレー粉を調合していた。すごい美味しい。まさしくカレーだ。


「ちょー!美味しい。これがカレーだよ、カイ!」

「辛いけど、中々癖になる味だね。」

「うーん…食欲を誘ういい匂いなんだけど、辛すぎて、僕の舌には合わないかも。」


リュート様のお口には合わなかったようだ。キサラはまたもや敗北感に凹んでいるらしい。カイレベルで私を甘やかすのは無理だって!好きな女性のために見たことも聞いたこともない食品を作ってくれる人はあんまりいないと思う。

カレー粉で鳥肉を焼いてみたり色々アレンジして楽しんだ。


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