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第23話

リアロでファントムの仮面の彼と再び会う事はなかった。胸につけられた口付けの痕を見る度に甘い疼きと共に少年を思い出していた。彼は私に愛されることはないって言ってたな。何故だろう?それこそオペラ座の怪人の様に醜いからか?それとも彼には何か人に言えないような事があるのだろうか?大量殺人犯だとか奴隷だとか。きちんとした服装で舞踏会に来ていたから奴隷という事はないと思うんだけど。


「物思いに耽るサトコも愛らしいが、たまには私の事も思い出してくれ。」


キサラに言われた。

今は馬車の中これからカランへ渡るところだ。この辺は戦火に見舞われて一面焼け野原になっている。


「すいません、キサラ。それにしてもこの辺は焼け野原ですね。」

「ああ。大分激しい戦闘があったようだな。」


焼け野原のあちこちに救護所が出来て患者の看病をしている。


「…リィン様、人はなぜ争うのでしょう?」

「ある人がわたくしに言いました。正義を語るものが多すぎるからこの世は荒れると。」


それってカイの事かな?

どの主張もすべて本人にとっては正義であり、本人は正義の味方なのだろう。正義の味方が多すぎて世界は荒れているのだ。宗教戦争だってそうだよね。教義が違うから正しい者同士で争うことになる。


「なるほどな。語る正義の数だけ諍い事が起こるのか。リィン様にそう話した者はどんな正義を持っていた?」

「その方は『常なる正義などない。勝った者が正義になるのだ。』と仰っておりました。」


歴史は勝者の歴史だって言ってたもんね。


「それでは争いが収まる事はないな。」

「人間とは愚かなものですね。」


人形であるリィンからすれば人間はきっとすごく愚かな事を続けているように見えるだろうなあ。他の国々も光の守護者も闇の魔導会も私達も。

袖の下を渡して無事カランへ渡った。


「どうやら、リュート様を探している者がいるようですわよ。」

「何だと!?」


リィンの発言にキサラが目を剥いた。


「あそこの行商人達が今話していました。」


私達と少し離れた所にいる行商人を指さした。リィンの聴覚は凄く優秀だ。ばっちり会話を聞きとっているだろう。


「何と言っていた?」

「さあ?リュート王子という言葉と報奨金という言葉しか聞き取れませんでしたわ。」


多分これは優秀な聴覚を誤魔化すための嘘だろう。

その二つの単語を重ねると、恐らくリュート王子の首には報奨金が掛けられているのだろう。弱ったな。リュート王子に報奨金が掛けられていて、私達の首に報奨金が掛けられていないはずが無い。

こっそりリィンに聞くとやっぱり生けどりが条件でリィンの首にも水晶貨3枚の報奨金が掛けられているそうだ。弱った。

それから5日後、リュート王子は攫われた。キサラが用を足してるほんのわずかな隙に居なくなったらしい。


「駄目だ、こちらにはいらっしゃらない。」

「こちらにもいらっしゃいませんでしたわ。」


私達は大慌てで探している。

カイがくれたような転移装置があればいいと思ったんだけど、あれもカイの独占技術らしい。普通は転移する側の人間が転移先の場所を知らなくては発動しないようだ。どっちにしろキサラは空間魔法は使えない。


「すぐに国外に出て行ける行商人達が怪しいが…」

「もう国外に出ているかもしれませんわね…」

「そんな…リュート様…」

「諦めず、探そう。」


私達は行商人の集まりそうな露店や酒場などを探した。キサラ達は裏通りを探してくれている。リュート様が攫われてからもう丸一日たとうとしている。


「サトコ、リュート様はもうこの国にはいらっしゃらないようです。」

「どういう事?」

「今、あの酒場の奥から3番目の男とその隣の男が『ダッチらは良いよな~、リュート王子を捕まえてサーリエへ里帰りだぜ』と言っていました。『しかし船で2ヶ月以上だろ?俺なら耐えらんねえな』とも言っています。」

「もう出港したの?」

「今日の午前に出港したようです。」

「そんな…」


私達は重い気持ちでキサラにその報告をした。


「リュート様…私が付いていながら…」


キサラはその場に頽れた。私達の旅はここで終了だ。キサラはサーリエへ行くだろう。私とリィンはサーリエへ戻っては闇水晶に力を与えてしまうから、どっちにしろ国外にいなければならない。恐らくラクシェに向かうだろう。

私達最後の旅の宿。キサラは食堂で少し飲むと言っていたので私達は部屋へ行く。

リュート王子が攫われた件に関して、リィン的には何とも思っていないようだが、私が重苦しい様子なので口を噤んでくれている。

こんこん、とノックの音がした。


「どなた?」

「甘い匂いの可愛い子猫さんに用のある僕だよ。」


まさか今このタイミングで来るとは思っていなくて吃驚した。慌てて扉を開ける。そこには茶髪で白い仮面をした少年が。後ろに大きな麻袋を控えている。


「今晩は。」

「こ、今晩は…」

「いい夜ですね。貴女とお月見する余裕が無いのが残念です。」

「そ、そうですね…」

「愛する貴女に贈り物を用意しました。」

「えっ?」

「僕が去ったら中身をご確認ください。では…」


少年は私の指先にちゅっとキスをして去って行った。後にはポカーンとする私と大きな麻袋だけが残された。


「サトコ、仮面を剥ぎ忘れましたね?」

「あっ。」


急展開過ぎて忘れてた。べ、別に剥ぎたくなくてわざと忘れてたわけじゃないよ?

しかし私に贈り物?何だろう?


「わたくしが開けてみますわね。」

「お願いします。リィン様。」


リィンがそっと麻袋を開けると中に入っていたのは子供だった。両手足を縛られ、目隠しをされ、猿轡をかまされた…


「リュート様!!」


それはリュート様だった。慌てて猿轡を外して目隠しを取る。リィンが両手足の縄を切ってくれた。


「リィン、サトコ…此処は…カランか?」

「はい。カランです。リュート様はどうやってここへ?」


リュート様はキサラが用を足す間、露店を見ていたらしい。そこでいきなり後ろから何かの薬品をかがされ気がついた時には両手両足を縛られ、猿轡をかまされていたそうだ。船に乗せられ出港。そこで商人たちがリュート様をサーリエへ持ち帰って賞金を得たら店をもっとでかくしよう、とわいわいやっているところに白い仮面をした茶髪の少年が突然入ってきたという。茶髪の少年は軽々と剣を振るい、あっという間に商人達を血祭りにあげるとリュート様に目隠しをつけた。麻袋に詰め込まれて、後は誰かに運ばれる感覚があるだけで周りの情報は一切入ってこずに、急に「甘い匂いの可愛い子猫さんに用のある僕だよ」という声が聞こえて吃驚したそうだ。

本人はまさに狐につままれたような感覚だと言う。

とにかく急いでキサラに知らせなければ。

食堂へ降りるとキサラが泥酔していた。


「キサラ、だらしが無いぞ!我が師であるお前がそのような様子でどうする!」


リュート様に一喝された。


「リュ、リュート様?これは夢…?」

「夢ではない。現実だ。なんなら抓ってやろうか?」


それからキサラにたらふく水を飲ませ落ち着いた頃に、リュート様のこれまでの話をして聞かせた。


「何者でしょう。その少年は?」

「わからないな。僕の知り合いではない。サトコが知っているのではないのか?『甘い匂いの可愛い子猫さん』と呼ばれていたではないか。」


一気に私に視線が集まる。


「知っているのか?」

「何度かお会いした事はありますが、正体までは…」

「……もしやいつぞやのロゼ園でサトコに口付けの痕を残した正体不明の少年ではないだろうな?」


キサラが胡乱な目でこちらに問いかける。


「そのぅ…その通りです。」


キサラは顔を覆って天を仰いだ。


「またもや遅れを取るとは…」


キサラは私に口づけされたこととリュート様をお助けできなかった事がよっぽど悔しかったらしい。歯ぎしりしている。


「まあ、後悔はその辺で終わりにしてくださいませ。これからの事を考えましょう。」


これからリュート様とリィンはますます狙われることになるだろうと言う事で髪染め粉で髪色を変えることにした。リュート様は艶のない黒髪へ。黒って言うか紺に見えるけど。リィンは茶髪へ。茶髪はこの世界で最もありふれた色彩だからいいそうだ。黒髪は社交界では流行っているからある意味目立たないらしい。リィンの髪って人工毛だと思うけど染められるんだね。この髪染め粉はおおよそ一週間で徐々に退色し始めるらしい。5日に一度くらいは染め変えるのがベター。

後日、商船が一つ沈んだと言う噂を聞いた。あの少年が沈めたのだろうか。


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