第13話
言われた通り食事と布団が運ばれてきた。
リィンが毒見をしてくれる。
「貴方もいただきなさい。」
布団を敷いている従僕の前なので態度は丁寧ながらも格上のものだ。
「有難うございます。」
出された食事はシェパーズパイ、野菜と肉がとろけるまで煮たスープ、サラダという簡素なものだった。シェパーズパイはいまいち。スープはおいしかった。
ごろんと布団に横になる。
「サトコは闇の魔導会に協力したくないのですよね?」
また2人きりになったのでリィンが聞く。
「うん。私魔術師じゃないし、魔術師至上主義の会なんて入れないよ。主張もなんかおかしいし。カイは光だけじゃダメ。闇だけじゃダメって言ってた。きっと釣り合いが大切なんだと思う。それに…それに私何の力もないし。」
「サトコは力を持っているはずです。それがまだ発露していないだけで。そうでなければ世界はサトコを呼びません。」
「…うん。」
「しかしとりあえず牢から出なくては話になりません。私が武力を振るうと言う手もありますが、魔術師はとても戦いづらい相手です。特に私は接近戦型なので。ここは協力するふりをして信用させて、隙を見て上手く行方をくらませましょう。」
「わかった。」
とりあえず私達はゆっくり眠った。起きると夕食の時間だった。
ダロンが、やってくる。
「考えはお決まりになりましたか?」
「闇の魔導会に協力したいと思います。ただ自分は非才の身、何がお手伝いできるか分からないのですが…」
「まだ何のスキルにも目覚めていないのですかな?」
「…はい。」
ダロンが目に見えてがっかりした。
「…そうですか。しかし闇の魔導会には闇水晶というものがあり、闇の守護者様がそこに居てくださるだけで魔力を増幅する事ができるのです。」
「そうですか。」
「闇水晶の力を使えば魔術師の力は一気に3倍に膨れ上がります。闇の守護者様は旗印として、そこに存在してくださるだけでいいので良いのですよ」
闇水晶壊しておきたいなー。馬鹿に力を持たせると始末に負えないからな。
「闇の守護者様は何と言うお名前かお顔尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「わたくしの名前はエイラ。こちらは侍女のカヤですわ。」
戸惑うことなくさっくり偽名を名乗っている。円呪の首輪対策は必要だよね。敵地のど真ん中だもん。ダロンはにこやかに笑った。
「それでは闇の守護者様におかれましては、念のため円呪の首輪をつけさせていただきます。いえ、念の為ですよ。この首輪を発動することはないでしょう。エイラの名を紡いで円呪の首輪をかける。」
リィンの首に首輪が嵌まった。名前が偽名なのでこの首輪は効力を持たないただの輪っかだろう。私も同じように首輪をかけられた。それから牢屋の外に出してくれた。
「それでは闇の守護者様の盛大なお披露目を致しましょうぞ。」
ダロンに促されるまま、リィンは祭壇に上った。周りには黒覆面の人がうじゃうじゃいた。全員が祭壇に注目している。ダロンは高らかに宣言した。
「ここにおわすのが闇の守護者様だ!!我らが教団はここにおわす闇の守護者様を旗印とし、世界を闇で覆い尽くすのだ。」
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
歓声が上がる。
「世界を魔術師の手に!」
「うおおおおおおおおおお!!!」
これが狂信者か。離れて見てるけどなかなか怖いな。
「世界を闇に!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
闇が満ちる世界ってどんな世界だろう。
それからリィンの計らいでまともな下着と衣服を貰った。なにしろ私は浴衣を巻いただけで下着すらつけてなかったのだもの。新しい服は侍女という事で一般的な侍女服だった。ヴィクトリアンメイド服っぽい。ホワイトブリムはないが。
リィンの双剣については取り上げられそうになったが「光の守護者も剣の使い手だと聞きます。闇の守護者がそれに劣っていいものですか?」とリィンに説得されてリィンの手元にある。この状況で武器を取り上げられるのは不安すぎるものね。
闇の魔導会はまず自国であるサーリエを乗っ取ることにしたようだ。能力に格差あれ約500人の魔術師が自国であるサーリエの乗っ取りを開始した。敵はガレイド帝国のみと思っていたサーリエは思いっきり寝首を掻かれることとなった。
「エイラ様、闇の守護者は本当に闇の導き手でしかないのでしょうか?世界を破滅させるだけの存在なのでしょうか?」
「そんなことあるはずがありません。ただ情報が…情報が少なすぎます…カヤ。ごめんなさい。わたくしにはこれからどうしたらいいのか分かりません。」
リィンがそっと私を抱きしめてくれた。リィンは黒いドレス姿だ。
「闇の守護者は世界を破滅させるためだけの存在ではない。と、ラクシェの文献にはある。」
「誰です!?」
リィンが存在を探知できなかったとは…何者!?一応エイラとカヤと呼んでいて良かった。何者かは天井裏から降りてきた。
「サーリエの隠密部隊カルマの者、キサラという。」
黒づくめの怪しい衣装ではあるが、焦げ茶色の髪に緑の目の優しそうな美青年である。年は二十代半ばくらいに見える。
「察するに闇の守護者様は世界の破滅を望んでいない?」
キサラの問いかけに私とリィンは目を見合わせた。キサラの思惑がわからないだけに返事が出来ない。
「だとしたら何なのです?」
「私は闇の守護者が如何なる思想の持ち主か見極めに来た。世界を混沌から救おうと思っているのなら手を貸す用意がある。世界を破滅させようと思っているならこの場で…悪いが死んでもらう。」
手を貸してくれるなら縋りたい。でも…
「と言いながら本当はダロンの手下で、私達が世界の破滅を望んでいないと言った瞬間殺そうとしているのではないですか?」
私はキサラに厳しい目を向ける。
「それだけは決してない。」
私はキサラの目の中をじっくり見つめこんだ。キサラは好きなだけ見ろと言ったような態度である。その瞳は優しそうで、少し厳しげでもあって…学校の先生を思わせる雰囲気がある。リィンがこちらを見てきたが私は頷いた。
「わたくしどもは世界の破滅を望んでおりません。どうすれば世界と共存できるか考えておりました。」
リィンが言ってくれる。
「ならば共にラクシェへ行こう。秘された闇の守護者の伝説を探しに行こう。」
「ですが。わたくし達は今現在囚われの身で…それにサーリエの隠密集団と仰られておりましたがお国の事は良いのですか?」
「円呪の首輪か…」
「いえ、本名を紡がれていないのでそれは良いのですが。」
「成程。用心深いな。サーリエの事は部隊首領に任せてある。しかし形勢は不利。このままでは王族の血が根絶やしにされてしまう。私は第3王子を他国へ避難させるよう仰せつかっている。今回の提案は第3王子リュート様のご提案だ。ついでに闇の守護者をかっさらってしまえば闇の魔導会の力も減るとな。」
第三王子は大胆な真似するな。大物なんじゃなかろうか。
「ではついでに預言者ラデリの息の根を止めることと闇水晶を壊す事をご提案します。」
ラデリが生きていればいつでも私達の行き場所は予言されてしまう。闇水晶は存在自体が危険だ。リィンがラデリの事と闇水晶の事を説明する。
「成程。分かった。ではラデリの息の根を止めたらまた来よう。闇水晶は厳重に保管されている。今の時点で壊すのは無理だ。諦めてくれ。察するに闇水晶はある程度闇の守護者様の近くにおいておかねば、効力を発揮できぬよう。闇の守護者様が離れれば自然と効力を失うだろう。」
くう。闇水晶なんてなければサーリエがこんなに追いつめられる事も無かったろうに。悔しい。キサラはラデリの息の根を止めるべく去って行った。ラクシェはウィッシュ大陸で最も南側の国だとリィンに説明された。ハルドラの砂漠を越えて行った先なんだそうだ。何故キサラがリィンに感知できなかったのか聞いてみたが多分気配を消すスキルか魔道具を持っているのだろうと言っていた。そんなスキルや魔道具があるのか。隠密にはもってこいだな。




