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第1話

新連載です。いつも通りショタです(キリッ

実は初期の頃の作品のサルベージなので、マジで文章が稚拙です。拙い作品ですがお付き合いいただければ幸いです。

エイプリルフールだけど嘘ちゃうで?

とある世界、エンデ・ロストは光の守護者を召喚することに成功して沸いていた。光の守護者は美しいとされる黒の髪を長く伸ばし、黒い瞳は切れ長に、剣術自慢。おまけに人々の病や怪我を癒せる快癒の手という特別な力を持っていた。志高く、平和への道を邁進し、多くの人々を正しい道へと導いた。

そんな物語の裏側の物語は密やかに開幕した。



私、夏目聡子なつめさとこは朝、学校へ行こうと通学路を歩いていた。その時衝撃があった。なんだろう、あれに似ている。階段を上がっていてもう一段あると思って足を踏み出したのに、そこに階段は無くガクッと足が地面に着く感じ。世界はぐるりと反転した。

朝は夜に地面は空に。端的に言おう今私はパラシュートなしのスカイダイビングをしている。


「きゃああああああああぁぁぁぁぁっっ!!?」


風圧が痛い。肺も喉も苦しい。このままだと地面と熱烈なキスを交わして挽肉になる未来しか見えない。ちらりと目をやると月の光に照らされた黄金の鳥が飛んでる。新種か。でかいぞ!


「我望むは風のかいな。」


可愛らしい子供の声が聞こえた。私は意識を失った。




「挽肉!!」


気がついた瞬間、私は自分の未来の姿を真っ先に口に出してしまった。


「挽肉?お姉さんお腹すいてるの?」


あれ?スカイダイビングは終わったの?此処どこ?鬱蒼とした暗い森の中に見える。私は柔らかい布の上に寝かせられていた。制服はちゃんと着てる。上に毛布が一枚。

私の横には焚き火があってそれを挟んで向かいに子供がいる。煌めく銀髪にアイスブルーの双眸の西洋系の顔のつくりをした子供だ。かなり可愛い。海外の人間の顔のつくりは年齢をはかりにくいが、12,3歳くらいに見える。海外の子供は発育が良いというから実年齢は10歳くらいかもしれない。男の子に見えるが、この容姿だと男装した女の子と言う線もある。


「ここ…どこ?」


口に出してみて気付いた。私日本語喋ってない。聞いたこともない言語喋ってる。


「オアストロの森だよ。」


オアストロ?聞いたことないな。この子の容姿からしても日本じゃないかもしれない。この子が話してる言語も日本語じゃないし。何故か意味は分かるけど。


「えーと、それってどこの国?」

「パパナだよ。」


聞いた事ねーよ。


「それって何大陸?」

「パパナは島国だよ。ウィッシュ大陸の西側にあって、ササエの2倍くらいある島。因みに何言ってるか分かんないと思うけど。ここはお姉さんのいた世界とは違う世界だから。」


は?違う世界?

……。

……。

……。

異世界トリップってヤツ?


「それって異世界トリップでチーレムヒャッハーって展開?」

「とりっぷとちーれむひゃっはーの意味がわからない。」


可愛く小首を傾げる。


「えーと…異世界に転移して反則的に凄い力を手に入れちゃってモテモテみたいな展開かと…」


純真そうな子供の前でモテモテとか口に出すと結構恥ずかしいものがあるな。ちょっぴり頬が熱くなった。


「お姉さん呑気だね。お姉さんは予言が間違ってなければ闇の守護者と呼ばれる存在で、各国の勇者諸君がこぞって倒そうとしている存在だよ。倒すって意味わかるよね?殺そうとしてるんだよ。今後生き延びられれば反則的に強い力は手に入れる可能性はあるかもしれないけど。邪悪な教祖様からその身を狙われてもいるね。」


ノォッ!魔王的存在だった!っていうかこの子は?そんな魔王的存在の事介抱してていいの?


「キミ誰?」

「オレはカイ。お姉さんの名前も聞かせてくれる?」

「私、夏目聡子。」

「因みにこっちの世界では円呪の首輪って言う本名を刻んで嵌めると無理やり隷属させられる首輪があるよ。」

「えっ。」


それってカイが私にその首輪を嵌める話だったりする?私はじりっと後ろに下がった。


「オレは持ってないよ。」


カイが苦笑する。焚き火に薪をたしている。じゃあ多分カイというのも本名じゃないんだろうな。


「カイは私をどうするの?」

「どうされたい?」

「質問に質問で返さないで。」

「ははっ。オレはね、リアロ王国の魔術師だった。リアロ王に闇の守護者を討伐してその首を持って帰るように言われてたんだけど、気が変わった。」


えー!!討伐隊の一人でしたか。


「気が変わったって?」

「だってサトコ全然普通の女の子なんだもん。むざむざ殺すのは趣味じゃないよ。」


良かった。カイからの死亡フラグは折れてるみたい。


「だからオレはサトコを殺さないし、必要なら少しくらい路銀を分けてあげても良い。でも他はそうじゃない。今頃この辺ではサトコを探している奴らがうろうろしてると思うよ。」


それってサーチアンドデストロイな方向でしょうか。ご遠慮願いたい。でも路銀分けてもらってもなあ…この世界の常識とか全く知らないし。


「カイはどうやったら帰れるか知ってる?」

「帰れない事なら知ってるけど。」

「ええ!?どういうこと!!?」

「闇の守護者は元々この世界の性質を備えた存在。サトコの世界にいた方が異質だった。帰るべきものが帰るべき所に帰っただけだからサトコの世界に再び行く事は無い。って言われてる。一応この世界の常識ね。実際過去の闇の守護者で帰った人間なんていないし。」


確かに言われてみれば向こうの世界で私は年中風邪をひいていた。酷くなって入院することもしばしばだった。あれは世界に受け入れられてなったからなの?


「そ、そんな…」


お父さん、お母さん、お姉ちゃん…理香にも洋子にももう会えないの…?学校に行ったり、下校途中でクレープ食べたり、お姉ちゃんのお誕生日を祝う事も無い…こうなると分かっていたらお父さんにもお母さんにももっと孝行したのに。お姉ちゃんと喧嘩なんてしなかったのに!お父さんの肩嫌がらずに揉んであげればよかったとか、お母さんの代わりに洗濯物畳んであげとけば良かったとか、お姉ちゃんに抹茶シフォン譲ってあげれば良かったとかそんな細かい事がいくつもいくつも頭ん中を回っている。

じわっと目の奥が潤む。

ぽたぽた涙があふれてくる。


「サトコ…」


私は号泣した。


「おかあさんっ、おとうさんっ…ぅえっ…」


必死に両親を呼びながら泣く。

お父さんお母さんお姉ちゃん会いたい!会いたいよ!

カイが布を渡してくれたのでそれで顔を拭う。拭っても拭っても涙があふれてくる。もう帰れない。お家も学校もいけないんだ。楽しみにしてた花火大会もお家でのお泊り会もないんだ。私がこうやって泣いてたってお母さんが撫でてくれる事はもうないんだ。私が急にいなくなっちゃってみんな心配してるかな。お姉ちゃんとは最後に喧嘩したまんまだ。会いたいよ。会えないよ。


「サトコ…目が干からびるよ?」


カイが私を抱きしめて頭を撫でてくれた。それがお母さんの手みたいで私は余計に泣けてきた。

その日泣き疲れて私は眠ってしまった。

起きると日が高くなっていた。


「サトコ、起きた?お腹すいてるでしょう?果物食べる?」

「…うん。」


泣きすぎて目がしぱしぱしている。


「ああ。顔洗った方が良いね。ちょっと待ってて。」


カイは金盥みたいなものを出してきた。いや待て、どっから出した。ほいと何もない空間から出したように見えたが。


「それどっから出したの?」

「ああ、空間魔法で亜空間に収納してるんだ。」

「魔法なんてあるの!?」

「魔術師だって言ったでしょ?昨日サトコを助けたのだって風魔法だよ。」

「へええ。」

「我望むは清流。」


金盥に透明な水が溜まって行く。


「顔洗って。布もあるから。」

「化粧水は?」

「サトコ…それはこっちの世界じゃ貴婦人が使うものだよ。」


ガーン。

カルチャーショック。


「石鹸は。」

「石鹸?何それ?」


石鹸がない?石鹸がない世界はちょっと容認できないぞ?いや、石鹸という言葉がないだけかも。


「顔や髪や体を洗う、汚れを落として泡立つ、えーと…」

「トヤの実かな?」

「トヤの実?」

「これ。」


カイはまたもや亜空間から白い塊を取り出した。渡してくれたので触ってみる。蝋のような感触。香りはフルーティー。『実』っていうことは果実なんだよね?泡立つの?どんな感じに?


「使ってみても良い?」

「いいよ。」


私は石鹸を泡立てる要領でトヤの実を泡立ててみた。ものすごいふわふわもっちりな泡が立った。それで顔を洗ってみる。さっぱり!渡された布で顔を拭く。


「これが石鹸に値するものだと思う。」

「そう。なら良かった。」


カイがにっこり笑った。

それからカイが剥いてくれた果実を食べた。どれも美味しいけど食べたことない果実ばっかりだ。食後にお茶まで入れてもらっちゃった。


「サトコ、今後どうするか決めた?」

「うん。カイにお願い。路銀も少し分けてほしいし、出来れば最寄りの村まで連れて行ってほしい。自分に出来る事を探して、働いて、細々と生きていこうと思う。」

「…わかった。この世界の通貨は石貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で白金貨1枚、白金貨10枚で王金貨1枚、王金貨10枚で水晶貨1枚、水晶貨10枚で魔晶貨1枚だよ。サトコには白金貨7枚と金貨7枚と銀貨7枚と銅貨7枚と石貨7枚あげる。それで良い?」


カイが貨幣の説明をしながら革袋に貨幣を足していく。


「石貨1枚ってどれくらいの価値?」

「石貨1枚だとほとんど何も買えないかな。銅貨1枚あれば露店で飲み物が買えるくらい。」


銅貨1枚で100円くらいだろうか。ということは777770円か結構大金じゃなかろうか。


「いいの?」

「全然いいよ。これでも儲けてるんだから。」


革袋をそのままくれた。


「魔術師だっけ?魔法って私も使える?」


カイがポケットから小さな水晶のような石を出した。


「この石に手を当てて『力示せ』って言って念じてみてくれる?色で属性がわかるよ。あんまり微弱な魔力しかないと反応しないかもしれないけど。」


試しにカイが石に手を当て「力示せ」と言った。ばっとフラッシュを焚かれたかと思った。石は眩いばかりの虹色に光を放っている。これは色んな属性が使えるってことだろうか。

私は恐る恐る手を当てた。


「力示せ。」


石は反応しなかった。透明なままだ。


「魔力が無いか、反応しないほど微弱ってことだね。殆どの人がそうだから落ち込まなくていいよ。今は魔術師の方が珍しい。」

「今は?」

「大昔は魔力を持つ人が多くいたらしいけど、徐々に減っていって今は一握りしかいない。」

「カイ凄いんだ。」

「えっへん。」


カイが胸を張ったのでちょっと笑ってしまった。


「でもちょっと村はまずいかもね。」

「どうして?」

「その服。すっごく目立つ。デザインも縫製も全然こっちとは違う。闇の守護者だって喧伝しているようなもん。多くの預言者がオアストロの森に闇の守護者が現れたって予言してるから警戒が強いし。」


カイは質素な木綿の服に木綿のパンツ姿だ。飾り気もほとんどない。可愛い顔してるから着飾れば似合うと思うけど。確かにカイの服と私の制服を見比べてみると全然違う。これは目立つかも…


「どうしよう…服とか持ってないよね?」


男の子のカイが女性用の衣類を持ってるとは思えなくて困った顔になる。


「んー。オレの人形の服で良ければそれを着る?ちょっとお勧めしたい服じゃないけど。」

「人形?」


カイは亜空間から人形を一体出した。私よりやや年上くらいの少女だ。最初に人形だと言ってくれてなければ死体だと思ったかもしれない。それほど精巧にできていた。継ぎ目なんて無い滑らかな肌。肩甲骨くらいの長さの髪は黒。黒曜石の瞳。美しい少女だ。着ている服は見間違いでなければメイド服だ。ミニの。その割に双剣を帯剣してるけど。 


「これ着てると夜伽専用の使用人だと思われちゃうと思うけど。」


それって主人とむにゃむにゃする使用人でしょうか!?カッと頬が熱くなる。ていうかカイ、人形に夜伽専用の使用人の服着せてるってそういう性癖があるとか!?


「言っておくけど人形とはヤッてないよ?動きやすいから着せてただけ。」

「動きやすい?人形なのに?」

「切り裂き人形。起動。」


人形がすくっと立った。うわ!びっくりした。


「ご主人さま、ご命令を。」


喋った!鈴が鳴るような美しい声だ。


「ちょっと歩いてごらん。」


人形が言われた通り少しだけ歩いた。


「オレは魔法も使うけど戦闘は主に人形にやらせてるんだ。これと同じものを何体か所持してる。」

「へーえ。」


切り裂き人形ってことはあの剣を使うんだろうな。こんな美少女が剣をふるってスプラッタ御免なさい18禁ですな戦いをするのだろうか。でも美少女なのは絶対にカイの趣味だよね。

チラッとカイを見る。


「何かな?」

「べつにぃー」

「切り裂き人形、服を脱げ。靴も全部だ。剣も外せ。」

「はい。ご主人さま。」


人形が服を脱ぎだした。ミニのメイド服と下着も全部。下着は一応私のよく知る形だ。ただしワイヤーやゴムは使われていない。ブラはセンターを紐で結ぶ感じ。おパンツもサイドを紐で結ぶような形だ。……色が黒で微妙にセクシーなんですけど。これってカイの趣味だよね。

体型もスレンダーな感じで引き締まった美少女って感じ。乳房や陰毛まである。これってカイの趣味?やっぱり人形と…


「してないからね?」


カイはこっちの思ってる事を見透かしたように言ってきた。


「切り裂き人形、停止。じゃあ、この服に着替えて。オレもあっちで着替えてくるから。」

「覗かないでね?」

「それはどうかな。」


どこまで本気なんだか。私も子供に裸見られたりしたくらいで恥ずかしくなんて…あるかも。そそくさと下着とメイド服に袖を通した。んー。胸がぱつぱつする。きつい。切り裂き人形さんはスレンダー体形だったからな。


「カイ。着替えたよ。」

「ん。」


カイがやってきた。カイは白いフリルのついたシャツに銀の刺繍のしてある黒いベスト。それに黒いズボンをはいていた。に、似合う…王子様ファッションだ。

切り裂き人形さんは仕舞ったらしい。姿が見えない。


「カイはなんで着替えたの?」

「村人風の子供が夜伽の女の子連れてたら怪しいでしょ。これならバカ息子と仕える少女に見えるから。剣は持ってていいよ。あげる。何か獲物ないとこの先厳しいだろうし。手入れは鍛冶屋に料金払うとやってくれるよ。」


至れり尽くせり。私は剣を握った。


「おっ…も…!!」


重い!!全然持てないよ。片手どころか両手で持てるかどうか怪しい。切り裂き人形さん力持ちだったんだね。


「あー…じゃあ、ナイフ。これならどう?」


カイが亜空間からサバイバルナイフに似たナイフを出した。

受け取る。ちょっと重いけどこれなら持てそう。


「大丈夫みたい。ありがと。」

「じゃあ、行こうか。人避けの結界を解除するよ。」


そんなもん張ってたのか。

カイに連れられて森の中を彷徨い歩く。カイはすいすい進むけどホントに道わかってんのかな?カイは道すがら光の守護者の話をしてくれた。光の守護者は闇の守護者と対をなす存在で、その名の通り光を守護するらしい。こちらも異世界転移者(正確には召喚された)で、名前はゼンさんと言うそうだ。でも円呪の首輪の対策として偽名か愛称を名乗ってる可能性が高い。『快癒の手』という病や怪我を一瞬で治すスキルを持ち、剣の腕前も確かな少女だという。


「『スキル』って何?」

「『スキル』は魔法じゃないけど特定の現象を起こす事が出来る力だよ。一つも持ってない者もいれば複数持ってる者もいるね。」

「私にもあるかな?」

「さあ?魔法と違って調べる方法は無いんだ。ある時突然本人にのみ分かる。」

「残念。カイはどんなスキル持ってる?」

「そういう質問は他人にしちゃいけないことになってるんだ。言わないようにね。いくつか持ってるけど『鑑定』とか『索敵』とかが便利だね。索敵は今も使ってるよ。さっきから他人に全然会わないでしょ?避けてるんだ。」

「へーえ。」


カイって万能だな。

マテの村に着いた。


「どこから来た?」


村の入り口には門番のような人が立っていた。


「シャンテの村からオアストロの森を抜けてきた。」


カイがしれっと嘘をつく。


「この時期にオアストロの森だと!?正気か!?今は闇の守護者が現れているはずだぞ!?」

「光の守護者は良ーい女だったって噂だったしね?闇の守護者も良い女ならオレのコレクションに加えたいと思ったんだけど、残念ながら見つからなかったよ。」


カイが下卑た笑みを浮かべて私に目を向ける。うーん。芝居上手だ。

門番も私を見てちっと舌打ちした。夜伽専用の使用人だと思われたんだろう。


「通れ。」


門番の姿が見えなくなったあたりでカイが声をかけてきた。


「とりあえず服を買い替えよう。いつまでも夜伽専用の使用人だと思われてると問題も起きかねないし。」


問題?

よくわからんがカイがそう言うなら買い替えよう。

服屋に行った。オーダーメイドじゃなくて既製品の店。

店内ででっぷり肥った禿げオヤジと鉢合わせした。5人の煌びやかな女性を侍らせている。禿げオヤジは私をじろじろ見てにやりと笑った。


「小僧。この女買おう。」

「困るね、おじさん。オレのお気に入りなんだ。」

「王金貨5枚出すぞ?ん?」


500万か…。人一人買うのに高いのか安いのかようわからん。でも私が売られるのはすごく困る!!ハラハラしながらカイを見つめるとポンポンと頭を撫でてくれた。


「そんなはした金じゃ売れないね。出直してきな。」


禿げオヤジは顔を真っ赤にして出て行ってしまった。


「サトコ、早速変なのに目をつけられちゃったね。こうなる前に着替えさせたかったんだけど。」


問題ってこういう問題か~。


「とりあえずさっさと着替えよう。あとお店の人に血の道の事よく聞いておいてね。オレはよく知らないから。」


血の道?

あ、生理か…うう。また顔が熱い。

服はカイが適当に見繕ってくれた。生理は下着と肌の間にナマコ状の布物を挟む方式だった。買った服に着替えてそのまま出ていく。鞄や靴も含めて代金は全部カイが支払ってくれた。代わりにミニメイド服は回収された。またあの切り裂き人形さんに着せるそうだ。流石に下着は回収されずに新品を買っていた。


「お勧めの宿、と言うよりはこの村には宿は2つしかないらしい。服屋のおじさんはカワノコって言う宿がお勧めだって言ってたよ。お風呂付きの宿なんだって。オレも今夜は泊るから一緒に宿を取ろう。」

「うん。」


カワノコに着いた。予想はしてたけど質素な感じの宿だ。


「二人部屋ですか?」


暴力的なボリュームの乳をした女将さんが聞いてきた。


「いえ、別々で。」


カイはそう言ったが私はちょっと寂しかった。


「朝食と夕食は1階の食堂で出ます。1泊銀貨2枚です。」

「今夜はオレが奢るから。」


カイが1泊分払ってくれた。最後の夜だものね。なんだかしんみりしてしまう。部屋は2-2号室。二階のお部屋だ。隣の2-1号室がカイのお部屋。部屋にはベッドと簡易クローゼットしかない。ものすごく小ぢんまりした部屋だ。

カイに「一緒に夕食取ろうね」と言われていたので、ほとんどないけどさっき買ってもらったタオルや生理用品などの荷物を置いてから食堂に降りた。カイは既に来ていた。


「個別注文は受け付けてないから出された物を食べてね。」

「わかった。」


何やら肉っぽいものの素揚げ。魚っぽいものの素揚げ。野菜の素揚げなんかが供された。食べる方法としてはナイフとフォークのようなものが主流のようだ。

食べてみるが塩しか調味料を使っていないようだ。まずくはないけどおいしくもない。

日本の食事が懐かしい。私はまた涙が出てきた。


「サトコ、泣かないで。」


カイが涙を拭ってくれた。


「サトコは何処で働くかもう決めてる?」

「ううん。決めてない。」

「この宿住み込みの従業員募集してるらしいよ。」

「ホント!?」


それは渡りに船だ。食事は期待できないけど住み込みっていうところが良い。お風呂もちゃんとあるみたいだし。


「本当。後で聞いてみたら?」

「うん。カイはこの後どうするの?」

「うーん。リアロの依頼ほっぽって来ちゃったからなあ。しばらく隠居してのびのび暮らそうかな。」

「どこかに拠点があるの?」

「内緒。」


流石にそこまでは教えてくれないか。行きがかり上一緒に来ただけだもんね。すごくお世話になったけど。


「サトコ、手を出して。」


言われた通り手を出す。

カイが右手の薬指に乳白色の丸い石のついた銀の指輪を嵌めてくれた。シンプルだけど綺麗な品だ。


「贈り物。時々はオレの事も思いだして?」

「…うん…大事にする。」


ぎゅっと指輪を握りしめる。カイからのプレゼントだ…

カイは翌日朝早くに旅立って行った。私は女将さんに面接されて無事採用の運びとなった。カイから聞いたけど1日が24時間、一ヶ月が30日、一年が360日らしい。一ヶ月働いて金貨3枚出してくれるそうだ。家賃と食費はそこから天引きされるそうだ。金貨1枚と銀貨5枚分。でもお風呂無料。身体が空いてる時は入り放題らしい。この宿は何代か前の宿の主人が大量にお湯を出す魔道具を購入したのでお風呂があるんだそうだ。宿の従業員は高給取ってわけじゃないけど食べてはいけるし、これなら何とかやっていけるかな。


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