1.受け取るモノ
ゆっくりですが少しずつ書き進めています。他の用事もあり、こちらも長編なので前の話を読みながら書いていてかなり時間がかかっていますが思い出した時にでもお付き合い頂ければ嬉しいです(^-^)
夏休み最後の日、仲良しの3人組は近くに森林公園に集まっていた。それは10歳くらいの髪の長い大人びた女の子と眼鏡をかけた男の子、そしておかっぱ頭の快活そうな女の子だった。
「アヤメちゃん、奏斗君、約束の物はちゃんと持ってきた?」
おかっぱ頭の女の子が言うと2人は手に封筒を握りしめて頷いた。
「じゃあこの中に入れて」
おかっぱ頭の女の子は金属で出来た鍵付きのしっかりとした箱を鞄から取り出す。
「舞ちゃん、すごく厳重な箱だね」
「大事な物を入れるのに使いなさいってパパがくれたの」
「タイムカプセルで埋めちゃったら使えなくなっちゃうわよ」
アヤメが聞くと舞は呆れたようにため息をつく。
「アヤメちゃん、わかってないね、今、私たちの友情以上に大事なものなんてある? これは離れ離れになっても、大人になったらまた出会うための大事なタイムカプセルだよ。それを私たち以外の誰かに見られるなんて絶対に嫌だもの」
「そうね。誰かに見られるのは嫌」
アヤメは薄紫の封筒をぎゅっと握りしめた。
「僕も恥ずかしいかな」
照れ笑いを浮かべた奏斗に舞は興味を隠せずに耳打ちする。
「奏斗君、何て書いたの? 後でこっそり教えてよ」
「舞ちゃん、それを言ったらタイムカプセルの意味がなくなっちゃうよ」
奏斗は困ったような笑い顔を浮かべた。舞もあははと乾いた笑い声をあげる。
「冗談だよ。さぁ、アヤメちゃんから箱に入れて」
アヤメは言われた通り封筒を箱に入れた。それに続いて2人もそれぞれ封筒を箱にいれるとカチャリと鍵を閉めた。そして小さな銀色の鍵を舞はアヤメに差し出した。アヤメは戸惑いながら舞を見る。
「鍵を持つのは私じゃない方がいいと思う。また会えるかも分からないもの」
アヤメの言葉に舞はムッとした顔をした。
「それなら余計にアヤメちゃんが受け取るべきだよ。これは未来につながる大事な鍵なの。今は離れ離れになっても大人になればきっとまた会えるでしょ。せっかく仲良くなったのに勝手に転校しちゃうんだから、アヤメちゃんが鍵を持ってここに戻ってきてよ」
途中まで快活だった舞の声は涙に震えていた。
「僕も鍵はアヤメさんに持っていて欲しいな。短い間だったけど僕は絶対にアヤメさんのことを忘れないし、遠くに引っ越しても時々は鍵を見て思い出してくれたら嬉しいんだ」
奏斗も涙をこらえながら寂しそうに笑った。
「もう! 奏斗君はアヤメちゃんに甘いんだから! 思い出すだけなんてダメ。また一緒にくるの。アヤメちゃんが来てくれないとタイムカプセル開けられないからね! 鍵は一つしかないんだから」
そう言いながら舞は強引に鍵をアヤメの手の中へ押し込んだ。
「うん、また3人一緒にタイムカプセルを堀りに来よう。約束だよ」
奏斗も赤くなった目をこすり笑顔を作る。
(約束なんてーー)
アヤメは心の中でつぶやきながら銀色の鍵をぎゅっと握りしめた。