表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

仕事内容と自己紹介

 あれから私は、真っ直ぐに王太子殿下の執務室へと連れられてきた。

 部屋の中には派手過ぎず、けれども地味ではない絶妙な細工が施された品のいい家具が配置されている。

 私は王太子殿下に促され、ダークブラウンのソファに座った。

 ふかふかで座り心地抜群なそのソファは高そうで緊張してしまう。

 真っ直ぐに背を伸ばしながらカチンコチンに固まっている私を見て、王太子殿下はくすりと笑った。


「緊張しているようだね? 気を楽にして構わないよ。ここには今、私が深く信頼している者しかいないから。少しくらい無礼な振舞いをしても、うるさく言う事はないよ。それは私が禁じよう」


 そう言うと、王太子殿下はスッと部屋の中にいる男性二人に視線を走らせる。

 男性二人は無言でその視線を受け取め、一人は小さく頷き、一人は目礼で返答を返した。


「さて。それではまずは自己紹介をしようか。私はこの国、ソロドザイムの王太子で、ハオウディクス・ソロドザイム。二十歳だ。君は?」

「あっ、は、はい! 私は、透崎明花……っあ、えっと、メイカ・トウサキです! 十六歳です! ど、どんな仕事でも精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 私はどもりながらも自己紹介を終えると、ガバッと勢いをつけて深く頭を下げた。

 その様子に、また王太子殿下がくすりと笑う。


「そんなに固くならなくていいんだけどな。……それでは、メイカさん。さっき言った通り、君には私の部下になって貰う。だから、これからは君の事はメイカと呼び捨てにさせて貰うよ。いいかな?」

「は、はい、王太子殿下」

「ああ、私の事はハオでいいよ。ハオウディクスでは長いから、側近の者達にはそう呼んで貰っているからね」

「え?」

「それで、君の仕事内容についてだけれど。君には、特殊能力の透明化を使って、日々あらゆる場所を歩き回って貰う。そして見聞きした事を私に話して欲しい。それが君の仕事だよ。手始めに、城の中からかな」

「えっ? あ、あの、見聞きした事って、どんな事を……」

「どんな事でもいいよ。騎士達の訓練風景、文官達の仕事の風景、料理人達の仕事の風景、メイド達の噂話に庭師の仕事の話。出入りの商人の売り込みの口上でもいい。とにかく耳にした事、目にした事を話して欲しいんだ」

「えぇ……? そ、そんな事でいいんですか……?」

「うん。お願いするよ」

「わ、わかりました……」


 至極簡単な仕事内容に困惑しながらも、私はこくりと頷いた。

 すると王太子殿下は満足そうに微笑む。


「ありがとう。では次に、君と同じ私の側近の者を紹介しよう」

「え?」

「まずは彼。アーヴィン・クレイジウス。十九歳。学生の時に知り合ってね。あまりにも有能だったから、説得に説得を重ねて登用したんだ。なかなか首を縦に振ってくれないから、あの時は苦労したよ。ねえアーヴィン?」

「……男爵家の、しかも愛人の子がハオ様の側近になど、分不相応でしたから。どれだけ断っても全く諦めて下さらなくて、苦労したのはこちらです」

「身分の低さという一点で埋もれさせるには惜しかったからね。いいじゃないか、今は毎日楽しいだろう?」

「……まあ、それなりに充実はしています。……メイカ・トウサキ殿。アーヴィン・クレイジウスです。ハオ殿下の補佐をしています。よろしくお願いします」

「あっ、メ、メイカ・トウサキです! よろしくお願いします!」


 王太子殿下と話していたアーヴィンさんは突然私に視線を移すと、名前を名乗って頭を下げた。

 それを受けて、私も慌てて名乗って頭を下げる。

 再び顔を上げて改めて見ると、王太子殿下程ではないけど、アーヴィンさんもイケメンだ。

 柔らかそうな栗色の髪に青い瞳。

 今はちょっと不機嫌そうに顔をしかめられているのが残念に思う。


「次に、そちらの彼。リュベルクート・ソムベイク。十八歳。公爵家の四男でね、従兄弟なんだ。でも側近になったのは彼の実力で、コネじゃないからね。理解していてくれると嬉しいかな」

「……コネなど。ハオ様はそのような事はなさらないでしょう」

「勿論。でも、わからず屋もいるからね。一度もリュベルに勝てない癖に、口ばかり達者な男達がいるだろう?」

「……ああ。確かに」

「え、えっと、メイカ・トウサキです。よろしくお願いします」

「ああ。リュベルクート・ソムベイクだ。騎士を拝命している。よろしく」


 王太子殿下との会話の後、やはり不機嫌そうに顔をしかめたリュベルクートさんに、私は遠慮がちに名乗ってぺこりと頭を下げた。

 するとリュベルクートさんも名乗り、軽い会釈を返してくれた。

 空色の髪に蒼い瞳のリュベルクートさんは、やはりイケメンだ。


「あと一人、リュベルの妹のシャリアティア・ソムベイクがいるんだけど……今日は休みを取っていてね。実家に帰っているんだ。……縁談でも、きたかい? リュベル?」

「はい」

「……よし、なら潰そうか」

「……それには及びませんハオ様。どのみち、シャリアには勝てません」

「え? 勝てません、って? 縁談なのに……?」

「……シャリアは、自分より強い男としか結婚しないと公言しているんだ」

「有名な話です。ソムベイク公爵家の勇ましい令嬢として」

「そうだね。……それにしても、歯痒いな。シャリアはいつになったら私と勝負してくれるやら」

「あと、一年後かと」

「成人までか……長いね」

「え、勝負……したいんですか? 王太子殿下が?」

「ハオだよ、メイカ。……私は幼少時からずうっと、シャリアしか目に入っていないんだ」

「そ、そうなんですか……」

「全く……既に王妃教育まで受けているのですから、婚約者候補筆頭ではなく、さっさと婚約者になってしまえばいいものを。シャリア殿も往生際の悪い事です」

「え、王妃教育を?」


 それって、もう決定しているも同然なのでは。

 ていうか、決定しているよね?

 だとすると、確かに、往生際が悪いかも……。

 あれ、でもそれなら、何で縁談がくるんだろう?

 実は決定している事実を知らない……とか?


「ああ、いけない、話が逸れたね。メイカ、今日はリュベルと街へ出て、服などの生活に必要な物を買って来るといいよ。リュベル、メイカを頼むよ」

「なりませんハオ様。シャリアがいないのに、俺までお側を離れるわけには」

「護衛なら、扉の前にも城内にも騎士達がいるよ。私だって剣も魔法も使えるし少しくらいなら平気さ。けれど、案内役兼荷物持ちは君が適任だろう? アーヴィンは君より非力だし」

「しかし……!」

「あっ、あの! 私、一人で大丈夫です! お気遣いありがとうございます、でも一人で行けます!!」

「!」

「……だそうだけど……どうする、リュベル? 一人で行かせるの?」

「リュベル。私も少しなら、魔法が使えます」

「……わかりました。行って参ります」

「えっ!?」

「よし。じゃあアーヴィン、リュベルに資金を」

「はい」


 問答を始めてしまった王太子殿下とリュベルクートさんに、私は慌てて一人で行く旨を伝えると、王太子殿下と、何故かアーヴィンさんもリュベルクートさんに向かって言葉を紡いだ。

 すると今まで同行を拒否していたリュベルクートさんは、突然あっさりと頷いてしまう。

 それを見た王太子殿下はアーヴィンさんを振り返り、アーヴィンさんは心得たように棚に向かって布の袋を取り出し、リュベルクートさんに渡した。


「あっ、あの、私、本当に一人で……! 大丈夫ですから、リュベルクートさんっ」

「いえ、参ります。……行きましょう、メイカ殿」

「ええぇ……!?」


 驚き、もう一度一人で行く事を告げるも、リュベルクートさんは何故か今度は行くと言って、扉へ向かって歩き出してしまった。

 私はそれに戸惑って、王太子殿下とアーヴィンさんに視線を送ったけれど、王太子殿下は笑顔でひらひらと手を振り、アーヴィンさんは軽く頭を下げると書類を手にして仕事に戻ってしまう。

 結局私は、情けない声を上げながら、リュベルクートさんの後を追ったのだった。

王太子と側近の関係性を一気に詰め込んでみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ