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ぼうしをかぶったねこ

ボウシをかぶったねこは ないていました。

ねこは ここなんにちも ごはんをたべていません。

だからじぶんは ないているんだと、ねこは おもっていました。


そんなねこのまえに、ごはんをもってきてくれた おんなのこがいました。

ねこは おれいをいうのもわすれて、ごはんにかぶりつきます。

おんなのこがおいていった なまのさかなは、しんとおなかにしみていって、ねこは むちゅうでたべました。

おなかがいっぱいになったねこは、にっこりとわらいます。

なのに、またなみだが ほほをながれていきました。



「どうしてぼくは ないているんだろう」



じぶんのことなのに、よくわかりません。

すこしかんがえて、ねこは はっときがつきました。

きっとこのあいだの けがが なおっていないから、なきたくなるのだろう。

ねこは きずをなおすために、しばらくゆっくりと やすむことにしました。

ねこは そっとまぶたをおろしました。



そしてつぎのあさ、ねこは まだねむっています。

おひるをすぎても、ねこは ねむっていました。

なにかしあわせな ゆめでも みているのでしょうか。

ねこがやっと めをさましたのは、あたりがすっかり よるのやみに つつまれたころでした。



「うーん、よくねた」



ねこは ぐーっと からだをのばし、じぶんのみぎあしのけがをみます。

するとけがは よくなっていて、もういたみもかんじませんでした。

ねこは これでもう なかなくてすむとおもいました。

なのに、なぜかまたなみだが あふれだしてくるのです。


ねこにはりゆうが わかりませんでした。

そうか、またおなかが へったから ないているんだ。

そうおもってねこは たちあがろうとしましたが、どうしても あしがうごきません。

あしのけがは なおっているのに、なにが げんいんなのでしょう。

からだは いしをせおっているように おもたく、じめんの つめたさだけを、ねこは かんじていました。


ねこは そのあしのうらが、じめんのでこぼこも、じぶんのたいじゅうも、よるのやみも、つきのしずかなひかりさえも かんじているように おもいました。

ねこは ふっといいました。



「じめんとくっついてるあしのうらが、いちばんさみしさをかんじる」



こんなにひろいせかいと つながっている ふぶんなのに、ねこは あしのうらのしたが みょうににせまく かんじました。

そして、とてもつめたくごつごつとして、つまらないものにかんじました。

どうしてそうおもうのか、ねこには わかっていました。

ねこには かえるところがないのです。

だいすきだったおかあさんも、もうなんねんも まえに しんでしまっています。


でも、ねこは ずっとひとりでがんばってきました。

じぶんだけでなんでも できるように、ねこはひたすらがんばってきました。

なのに、いまになって からだがうごかないのは なぜなのか、ねこは かんがえても わかりません。

なにか びょうきに なってしまったのでも なさそうです。

ただ、ねこはきがついてしまったのです。

どうしてじぶんが いきているのかも、じぶんには わからないと。



「おいしいごはんをたべて、ゆっくりねられるところがあって、しあわせなはずなのに」



そうつぶやきながらも、ねこは なにかがたりないことをわかっていました。

ひとりぼっちのねこを てらすように、つきあかりが ねこをつつみこみます。

だれかにみつけてもらうために、ねこはつきのひかりのなかで なきました。

かおがびしょびしょになって、こえがかれてもなきました。

ねこは きょうもゆめにみた おかあさんのかおを おもいうかべます。

さかなをくれた おんなのこ のすがたも おもいうかべます。

まっくらなやみに、ねこは なきさけびつづけました。



つぎのあさ、なきつかれてねてしまっていた ねこは、はっと めをさまします。

ねこは ゆっくりとあたりを みまわしましたが、かれの めのまえには おかあさんも おんなのこもいませんでした。

しかし、ねこはひさしぶりに ないたおかげで、とてもすっきりしていました。

そして、ねこはふと けっしんしました。



「まっていても、むこうからきてくれるはずがないんだ。ぼくがじぶんで いばしょをさがさなきゃ」



ボウシをかぶったねこは、まちのなかを あるきはじめます。

あたまのうえから ちらちらとふる ももいろのはなびらは、ねこを げんきづけてくれているようでした。

いつかどこかで、じぶんのいえを みつけられたら、かぞくといっしょに ここへもどってこよう。

ほほえむねこの あしのうらは、すこしずつ あたたかくなっていくようでした。

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