可愛くなんなきゃ帰らない
作家と男の子は森の出口まで一目散に走った。
作家の方は猫の姿のお陰で、四本足で風のように走った。
男の子は半べそをかきながら、よたよたと走っている。
あまり走りなれていない、体が弱そうな不器用な走りに見えた。
作家は時々立ち止まって、男の子へ声をかける。
「森が終わるまであとどれくらいだ?」
「もう少し……」
息も絶え絶えに、男の子は空中をかき分けて走る。
背中に乗せてやることも出来ないので、仕方なく猫は男の子を待ち続けた。
そしてついに、二人は森の外へたどり着くことができた。
森の出口からのびた道の先には、太い一本の道が北へ、森沿いをとおっている。
そこまで走って、二人は呼吸を整えた。
「ばあさんが追ってくる気配はないな。あー、せいせいした」
「僕、疲れた……」
「じゃあ、もうウチへ帰りな。お疲れ」
「やだ……」
「はぁ?」
男の子はうつむいたまま、その場でしゃがみこんだ。
「おい、なにやってんだ?」
「僕、可愛くなんなきゃ帰りたくない」
「変なこと言ってないでさっさと」
「あ!そうだ!」
突然男の子は大きな声をだし、すがるような目で作家を見た。
「賢者様が僕を可愛くしてくれればいいんだ!ねぇ、お願い!」
「はぁん?ふざけたこと言うなよ」
「ふざけてないよ!」
男の子ははっきりと悲しそうな目をして、みるみる涙をためていった。
さすがにただ事じゃないような気がして、作家は仕方なく声をかける。
「分かった。どこかで話を聞いてやるから移動しよう。
この森の近くで泣くのは勘弁してくれ」
「うん……分かった」
男の子はメソメソしながら立ち上がり、猫と一緒にあるきだした。
猫は二本足で肉球を使ってふわふわ歩き、男の子は泣きながらよろよろ歩いていった。