↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/30

サハイの魔法

ひと騒動が去って、シラカワはさっきと同じベッドに寝かされていた。

そばにはサハイと、その妹と、ペンタが座っている。

窓の外の空気はすでにひんやりとし始めて、風が暗い顔をする彼らの頬を撫でていった。

その中でも特に悲痛な表情をしたサハイが、シラカワに深く頭を下げた。



「こんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ありません」


「いえ……みんな無事なんですから、そう気にしないで下さいよ」



普段はひねくれたシラカワだが、なぜかサハイにはするりと敬語が出た。

長い付き合いの信頼できる人物といった印象を、なんとなく感じている。

サハイはそれに答えるように、親しみやすく穏やかに話した。



「シラカワさんやペンタ君にはせめて、詳しいいきさつをお話ししようと思うのですが、聞いていただけますか?」


「ええ、是非聞かせてください」


「僕も聞きたい」



サハイの妹も目で応じ、三人ともサハイの話に耳を傾けた。

薄い唇をためらいがちに開き、サハイは静かに語り始める。



「私はある疑いをかけられて、アーバルノの牢屋へ入れられていました。

そして、国の尊厳を侮辱した犯罪者として、死刑宣告を受けました。

私は牢屋の中で孤独にその時を待っていましたが、ある時突然、夜の闇に紛れて姫がやってきたのです」


「あなたを陥れた、この国の姫ですね」


「……シラカワさんもご存じでしたか。

姫はまだ私に好意を寄せていたらしく、私の死刑をとりやめて、城に住まわせてやるといいました。

しかし、それは人としてではなく、飼い犬を手なずけようとしているような、そんな口ぶりでした。

私は断ろうとしたのですが……妹の顔が頭をよぎりました」



サハイは一段と苦しげな顔をして、懺悔をするように言葉を吐き出した。



「妹を逃走の理由にするのも、姫に屈して生き延びるのも、神に仕える身として間違っていると思いました。

ですが、私はその時、神への信仰より私欲を選んだのです。

どうしても、もう一度だけでいいから妹に会いたかった。

それに、妹に犯罪者の身内という烙印を、背負わせ続けたくはありませんでした」


「それは仕方ないよ。僕だってシラカワが酷い目にあうのはやだし、やっぱり会いたいって思うよ」


「そうだね……でも、私はそれ以上に心の悩みを抱える日々を過ごすことになりました。

姫は牢獄からの脱走を手引きしましたが、私の疑いまで晴らしてくれることはなく、私は死刑になったと噂が広まりました。

きっと姫がアーバルノの役人を買収し、私の脱走をなかったことにしてしまったんだと思います。

妹はこれから一生苦しまなければいけないのだと、私は絶望しました。

さらに、姫の誘いに負けて、この手を悪事に染めたのです」


「どういうことですか?」


「私に魔法の素質があるのを姫は知っていて、私の力を国民を押さえつけるために使うよう指示しました。

海沿いの街や山の麓の街、小さなペルナの村にまで、私は呪いをかけたのです」


「なんですって!じゃあ、トトの騒ぎもアナタが?」


「ええ……村人たちの外部への不信感を高め、税を二重にとり、追い詰めてトトを食料にさせました。

姫はその全ての責任を王に擦り付けて、王位を奪おうとしていたのです。

たとえ私の魔法が暴かれてしまったとしても、裁かれるのは私だけですからね。

姫はまた同じ手で罪から逃れるでしょう。

それを知りながら、私は神学の書の代わりに毎日呪いの書を読み上げて、もう何年も呪いをかけ続けました。

そうしている内に私の呪いは強くなり、ついに姫を誤魔化せるまでになったのです」


「じゃあ、逃げ出すことができたの?」


「うん……一度はね。

でも、その時に君たちと会ったんだ」



サハイは言いづらそうにしながら、あいまいに笑った。

シラカワはその言葉の意味に気がついて、サハイがあとに続けやすいよう、冷静な声で言った。



「私たちを妹さんの家へ運んでしまったことで、姫に見つかってしまったんですね」


「ええ……しかし、それは覚悟の上でした。

私は今度こそ、死刑台に引き渡されると思っていましたが、そんなことは怖くはありません。

やっとこの生活に終止符が打てるのだと、むしろ心安らかにいました。

ですが、姫は私が思うより卑劣でした。

私と妹は恋仲であると、あらぬ疑いまでかけて、嫉妬の末に私に呪いをかけたのです。

妹をこの世から葬り去らなければ、私は呪いから解放されることはないと、姫は笑いました」


「クソヤローですね」



素直に気持ちを口にすると、サハイは困ったように笑った。



「ええ、そうですね。姫は恐ろしい方です。

しかし、私が神への信仰さえ捨てずに、自制心を持っていれば、姫に心まで支配されることもなかった。

全ては私の弱さが招いた結果です。

私はもう……神に祈る資格はありません」


「そんなことないよ。お兄ちゃんは賢者様を二回も救えたじゃない」


「二回目は私の祈りが通じた訳じゃないよ。

それに、最初にシラカワさんたちと出会ったときも、私はペンタ君を安心させるために、傷薬を塗ったフリをしただけだ。

もうずっと人を欺いてきたから、ペンタ君を騙せる自信くらいはあったからね……」


「待ってください」



シラカワは、はっきりとサハイに言い切った。



「私と出会ったとき、サハイさんは魔法をつかえていましたよ」


「えっ?」



頼りない顔で、サハイはシラカワを見た。

対照的に、シラカワの表情は自信に満ちている。



「私はサハイさんの手が輝いているのを見ました。

うっすらとした光でしたが、アナタは確かに私を救ってくれましたよ。

そのおかげで、次の日になったら傷が塞がっていたんです」


「そんな……まさか、ありえません」


「サハイさん、もう一度だけやってみて下さい。

あなたなら私の怪我を治せるはずです。

私はそう信じます」


「シラカワの言う通りだよ。サハイさん、やってみて。

僕も信じるから」


「お兄ちゃん!」



二人に揺さぶられて、間に挟まれたサハイは戸惑った。

何度もやんわりと断ったのだが、この部屋の者は誰一人譲らなかった。

少しばかりの時が過ぎ、サハイはようやく心を決める。



「分かりました。やってみます」



サハイは念を送るように広げた手のひらを見た。

そして、その手に思いを込めて指先を組み、静かに目を閉じる。

三人は固唾を飲んで、サハイの様子を見守った。

長い数秒が過ぎ、徐々に天井が光だして、その光がシラカワへ降り注いだ。



「サハイさん!」



シラカワは喜びを込めてサハイを呼んだ。

目を開いたサハイの視界に飛び込んだのは、シラカワを包み込む光の球体だった。

美しい装飾品のように、球体の中の光が乱反射して、輝くスノードームの中に微笑む猫がいるかのようだった。



「サハイさん。アナタの神様は、太っ腹なやつですね」



冗談めかして猫が言うと、サハイは大きく頷いてにこやかに笑った。

その目にはうっすらと涙が浮かび、見ているシラカワ達まで泣きそうになった。

シラカワ達の顔は温かい光に照らされて、みんな輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。