テンプレとあーん
「サツキ、美味いか?おばちゃんの飯は美味いからな。次は何食う?」
俺たちは、1階の食堂で飯を食べていた。
今日のメニューは、おばちゃん特製のシチューに、パンとサラダだった。
パンは近くのパン屋から仕入れているもので、柔らかで美味いが、ロールパンなのでどこか味気ない。
なのでシチューに浸して食うとこれがまた格別に美味かった。
サラダはあり合わせの野菜で作ったものだけど、ここに、これもまたおばちゃん特製ドレッシングがかかっていて美味い。
……これでバリエーションさえ豊富であれば、食堂だけでやっていけただろうに。
おばちゃんのメニューは、このシチューか、その日の獲れたてモンスターステーキしかない。
ステーキは美味いんだけど、当たり外れが激しいのがなぁ。
ビックホーンというでかい角を持った牛っぽいモンスターのときは普通に牛のステーキで美味いんだけど、この前はスライムのステーキ食ってるやつがいたな。
あれは果たして食い物だったのか?
サツキがパンに手を伸ばそうとする。
俺がそれより先にパンを取る。
一口サイズに千切って、サツキの口元に近づける。
引きつった顔のサツキ。めっちゃ笑顔の俺。
「ほらサツキ、あーん」
「……あーん」
サツキの口が開いたので、その中へとパンを放り込む。
もぐもぐと食べるサツキ。かわいい。
「……普通に食べたい……」
俺は無視した。
シチューをスプーンですくって、サツキの口元に近づける。
周りの目を気にするサツキ。あえて気にしない俺。
「ほらサツキ、あーん」
「……あーん」
ずずっとシチューを食べるサツキ。かわいい。
「……あんた、普通に食べさせてあげなさいよ……」
おばちゃんにまで指摘された。
だがしかし、これは譲らない。
大きめの葉野菜に、ドレッシングをつけてサツキの口元に。
「あーん」
「……あーん」
「いつまでいちゃついてんだごらぁ!!」
がちゃーん!と食器が割れる音。
サツキがビクッと震える。
盗賊だのに捕まえられてた所為か、ああいった輩は怖いらしい。
俺にがっしりとしがみ付いている。かわいい。
「ここはいちゃこらとデートする場所じゃねぇんだよ。わかってんのかてめぇ?」
チンピラっぽいのが俺に絡んでくる。
俺は1つため息をついて、こう言ってやった。
「いちゃいちゃして何が悪い」
「見てて不愉快だっつってんだよ!」
はて。そんなに周りを不快にさせていただろうか。
俺はおばちゃんを見た。うんうんと頷いていた。
周りを見た。うんうんと頷いていた。
サツキを見た。うんうんと頷いていた。
「わかった。じゃあ、あーんは辞めるわ」
「いや、膝の上からも降ろしてやれよ!」
なぜだ。俺がサツキを抱っこしていて何が悪いというのだ。
何を隠そういままでずっとサツキを膝に乗せたまま飯を食べていた。
サツキが次に何を食べたいかなど、頭の動きですぐにわかるのだ。
つまりあれか。
「さてはお前ら。ひがんでいるんだな?」
目の前の男に殴られた。おばちゃんに頭を叩かれた。サツキに踏みつけられた。
店内に居る全員から暴行を受けた。
さすがに痛い。
俺は床に頬を擦り付けたまま周りを見た。
サツキが周りの人やおばちゃんに謝っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!後できつく言っておきますので!」
「こりゃあ、どっちがご主人様なのかわかりゃしないねぇ」
「いや、俺らも絡んで悪かったな。怖かっただろ?これ、俺のおごりで食っていいから。ごめんな嬢ちゃん」
「しっかしあの英雄がこんな嬢ちゃんに夢中だなんてねぇ」
「いや、実際あの嬢ちゃんかわいいだろ」
「確かに。でももう奴隷なんだよなー、ちくしょう。あの英雄野郎、禿げろ」
「爆ぜろ」
「呪ってやる」
和気あいあいとしていた。あと、ガチの悪口はやめていただきたい。
俺だけのけものだった。寂しい。いじけてやる。いじいじ。誰も見てなかった。
周りでは酒飲みたちがわいわい騒いでいる。
サツキがとてとてと歩いてこちらへやってきた。
俺の目の前でしゃがんで、俺を見降ろしてた。
ぱんつ見えてる。白だった。それしか持ってないんだから変わりようがないけど。
「あれは、ケイが悪い」
「知ってた。だが反省はしていない」
「反省するまでそのまま寝てろ」
「俺が悪かった。だから許してくださいサツキさん!」
ジャンピング土下座を華麗に決めてやった。ポーズだけでもしっかりと取ろうと思った。反省などせぬぞ。
サツキはため息をついて、手を伸ばした。
「許してあげるから一緒に食べよう?」
「ありがとう。じゃあ「膝の上とあーんは無しな」
サツキに釘を刺された。反省してないのがバレたかと思った。
仕方なしに、酒飲み連中の輪の中に入っていった。
俺を殴ったやつとも和解した。
サツキのかわいさを語り合った。友情が芽生えた。
サツキはげんなりしていた。
サツキと2人もいいけれど、こう言うのも悪くないなと思った。
その夜、サツキにはお仕置きした。
夜のお仕置きをした。めちゃめちゃ燃えた。
俺は絶対反省などせずに、いちゃいちゃすることを心に決めた。
テンプレっぽく絡まれるのを微妙に回避しつつ、サツキ主導っぽく、結局いつも通りな話。
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