朝チュンと方便
うーん、少し寝てしまった。
これが朝チュンってやつか……。夕方だから夕チュン?
……すっげぇ気持ちよかった。何がとは言わないけど。
窓の方を見れば、空を飛ぶモンスターと冒険者の集団が戦っているのが遠くに見える。
モンスターがぎゃあぎゃあと叫ぶ。
……夕ぎゃあだったか。
横を見る。
俺に抱きついて眠るサツキがいた。かわいい。
「んゅ……すぅ……」
なにこの子かわいすぎるんですけどぉ?
すやすやと寝息を立てて眠るサツキの頭を撫でた。
サラサラの銀の髪が心地いい。
なんだか腹が減ったな。あれだけ運動すれば腹も減るか。
俺は起き上がり服を着て、サツキにシーツをかけて、部屋を後にした。
「あんた……少し落ち着いたらどうなんだい?」
宿の1階は食堂になっていて、そこがフロント代わりにもなっている。
なので何かあるときは1階にいるおばちゃんに言うんだけれど、降りてくるなり文句を言われた。納得いかねぇ。
「俺はいつだって落ち着いてるぜ、おばちゃんよ」
「真っ昼間からギシギシ五月蝿かったんだよ!このとーへんぼく!」
おっと、音が1階にも聞こえていたらしい。失敗失敗。
「オーケー、俺が悪かった。おばちゃん、すまん」
俺は素直に謝った。
このおばちゃんにはお世話になっているからな。
俺が金を稼げるようになってから、初めて泊まった宿がここだったんだけど、おばちゃんの飯は美味かった。
この世界で、初めてまともなものを食べた気がした。
以来俺は泊まるときはずっとここの宿だ。
いろいろ世話になっているから、俺はおばちゃんに頭が上がらないのだ。
「まったく、英雄色を好むってやつかねぇ」
「いや、色は好んでない。好んでるのはサツキだけだ」
キッパリと言ってやった。
おばちゃんは呆れ顔をしていた。
「で、何か用があったんじゃないのかい?」
「そうそう、桶を借りにきた。出来ればお湯もと言いたいが、無ければこっちで水を出すからいい」
「そうだと思って用意しといてるよ」
「さっすがおばちゃん、気が効くぅ」
「あんな音が聞こえりゃ誰だってわかるさね……」
すでに大きめの桶にお湯が張られていた。
この世界の風呂は、貴族や王族ぐらいしか所有していない。
普通の宿にはついていないのだ。
俺はおばちゃんから湯の入った桶と、タオルを受け取って、部屋と戻った。
部屋に戻ると、ベットの上にでっかい白い物体があった。
どう見てもシーツに包まったサツキだった。
「おーい、起きてるんだったらこっち来いって、汗とかで身体気持ち悪いだろ」
ベットの白いのは嫌々と揺れた。
むーん。
あんまり命令具は使いたくないんだけどなぁ。今更か。今更だ。
「早くこないと、無理やり来させるぞー」
取り敢えず呼んだ。
サツキはシーツを頭から纏ったままこちらへと近づいた。
シーツの下は何もつけていないので、もちろん裸だ。
さっきお互い裸だったんだから関係ないと思うんだけどなぁ。
「ほら、身体拭くからそれ取れって」
そう言ってシーツを奪おうとした。
頭の部分だけシーツがめくれる。
顔を真っ赤にさせたサツキがいた。
「……自分でやるからでてけ!」
蹴られた。痛くない。
仕方ないなからすごすごと出て行った。
ドアの前でしばらく待つ。
スッキリしたからか、そんなにがっつかなくてもいい気がしてきた。
だってこれから一緒に暮らすんだし。いつでも見れるし。
……これが賢者タイムというやつだろうか。まさに賢者の気持ちだ。
そんなくだらないことを考えていると、
「……もういいよ」
と声が聞こえた。
俺は部屋に戻る。
中には奴隷館から出てきた時と同じ、白いワンピースを着たサツキがいた。
うん、かわいい。
俺はサツキを抱えてベットに座った。膝の上にサツキが入る。
サツキは抵抗しなかった。もう諦めたのだろうか。
「……なんでこんなことするんだよ」
サツキはそう言った。
なんでと言われてもな。かわいいからだとしか。
俺は少し考えて、こう返した。
「あの時と、俺から逃げてた罰かな」
「罰?」
サツキはわからないという風に返した。
俺は続けて言った。
「俺が一生懸命お前を探してたというのに、お前は俺から逃げたと言った。多分女の子になったのが嫌だったんだろ?昔から名前のこと気にしてたしな」
サツキは俯いていた。
あの時の俺と同じだ。あの時の、俺がサツキに何も言えなかった時と。
「あの時の俺の罪は、すぐに受け入れられなかったことだ。女の子になったお前をすぐに受け入れられなかった。俺の罰はそんなお前を受け入れることだと思う。お前の罪はそんな俺から逃げたことだ。逃げた結果が奴隷になった。だからこれは罰だ。この罰は、お前が自分の身体を受け入れるまで続く。それまで、たくさんかわいがって、いちゃいちゃしてやる」
俺は捲し立てた。
サツキを納得させるように。
サツキは何も言わなかった。
「取り敢えず腹が減ったから、食堂に行こうぜ。おばちゃんの飯は美味いんだ」
俺は、そんな方便をよく咄嗟に思いついたなと、自分自身に感心しながら、部屋を後にした。
サツキはとたとたと俺についてきた。
あらすじ回収完了。
やっぱこいつゲスだわ。
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