結婚なんて、まだきっと早いから
明くる日、教会のことは話がまとまっているが、各方面に説明をしないといけないということでこれ以上は話を進められず、私たちは予定通りにアリュウスデルト王国へと帰ることになっている。
すでに荷物などは馬車へと積まれ、あとは私たちが乗るだけとなった。
「聖女サツキ、英雄ケイ、この度の訪問誠に有意義だった。改めてリシティア皇国を代表して礼を言わせて欲しい」
と、そんなことをクラウディアさんが言うものだから、ケイも私も目を丸くして驚いた。
「あんた、そんな風に言うこともできるんだな」
「ちょ、ケイ!」
失礼な口を利くケイをたしなめる。
「いや、自分でも珍しいとわかっているからね。大丈夫だよ」
そう言ったクラウディアさんの顔は、どこか嬉しそうなようにも見える。
「それでも、なんか言いたくなったんだよね。特に、聖女様にはね」
さっきは名前で呼んでくれたのに、すぐにそういった呼び方になるのは、彼女なりの照れ隠しなのだろうか。
エリザさんがもう出発すると呼んでいるので、それじゃあと一言言ってから馬車に乗る。
その前に、私だけ引っ張られて、抱きつかれた。
「んー、やっぱかわいいわー。今からでも、家でメイドにならない?」
「お断りします!」
じたばたと抵抗する私をよそに、ぎゅーっとハグをするクラウディアさん。
そして、私だけに聞こえるように耳打ちした。
「結婚式には、ぜひ呼んでね。必ず行くから」
「なっ……!」
突如爆弾発言をするクラウディアさんに驚いてしまい、顔を真っ赤にしてしまう。
「おい、早くしろっての」
とケイが馬車から顔をのぞかせた。
クラウディアさんを振り切って、急いで馬車に乗る私。
私が馬車に乗ると、ドアが閉じられ、御者さんが馬を操り馬車が出発する。
窓から顔を出せば、クラウディアさんが手を振っている。
彼女が見えなくなるまで、私も手を振り続けた。
見えなくなったのを確認して、窓から離れる。するとケイが話しかけてきた。
「最後、何か言われたのか?」
クラウディアさんに言われたことを思い出して、また顔が熱くなる。
顔を真っ赤にして、大慌てで、
「なんでもないから!」
とは言ったけれど、明らかに何かあったようにしか見えなかった。
けれど、大事ではないことは伝わったらしく、
「そっか」
と短く言ってから、ケイは腕を組んで寝始めた。
朝早くの出発だったから眠たいのだろう。リディアもまだ夢の中だ。
頭の中で、クラウディアさんに言われたことを思い出す。
結婚、かぁ。
一昨日に付き合ったばっかりだって言うのに、気が早すぎるんじゃないだろうか。
でも、結婚式って言ったら、あれだよね。ウエディングドレス。
あんなかわいいドレス着たら、ケイはよろこんでくれるかな。きっとよろこんでくれる。
反対側にはタキシードとか着てるケイが立ってるんだよね。
きっとかっこいいんだろうなぁ。
それで、みんなに祝福されながら、孤児院の子どもたちにも祝ってもらって、教会で結婚式。
きゃー。なんか想像しただけですっごく嬉しくなる。
「サツキちゃん、なんか嬉しそうですわね」
そんな妄想を飛ばしていると、エリザさんが声をかけてくる。
「えっと、そんなに、嬉しそうだった?」
「えぇ、なんというか、ニヤニヤしていて、ちょっと引くぐらいには」
なんかショックを受けるよ、その言い方だと。
そんなにニヤニヤしちゃってたのか、私。
でもしかたないよね。うん、しかたがない。
「ところで、ケイ様も寝ているようですし。例の結果はどうでしたの?」
「へ?結果って?」
「来るときに話したではありませんか。このリテシィア皇国訪問中に、ケイ様とキスするって」
あー、そんな話もしてたっけ。
ケイとキスね、キス……。
ボンっと顔から湯気が立ちそうなほどに真っ赤になる。
「その反応はしたんですのね!どうでしたの!?」
ずずずいっと顔を近づけてくるエリザさん。それこそ、エリザさんとキスしてしまいそうだ。
「えっと、はい、キス、しました……」
「それでそれで?どんな味でしたの?」
「うんと、とっても柔らかくて、甘かった……」
きゃいきゃいとエリザさんとキスの話や、結婚の話をすーっとしていた。
結構騒いだんだけど、ケイたちは起きてこなかった。
それはそれで、どこかほっとしたんだけど、ね。




