ケイと一緒にいるだけで、私はとても幸せだから
頭がぽやーっとする。あれ、私何してたんだっけ。
たしか、お祭りやってるところまでいって、準備してるところで、街の人に囲まれて、いろいろお土産もらって、それから、それから。
ケイと……、ケイと……、ケイと……。
ボフンと、頭から煙でも出そうなほどに、顔が真っ赤になる。
き、き、キスしたんだ……。
自分の唇をさわる。ここにケイの唇が当たっていた。まだ感触が残っている気がする。
思い出すだけで顔がにやけてくる。
「サツキ、大丈夫か?」
ケイも照れているのか、顔が少し赤い。
私は、笑顔でケイに返事をする。
「大丈夫、だよっ」
ケイは、そっか、と言ってそれ以上何も言わなかった。
私はケイの身体に自分の身体を預ける。
ケイの匂いがする。なんだろう、男だった時はなんとも思わなかったはずなのに、汗と、石けんのいい匂いがする。……なんか私が変態みたいだ。
けれど、こうやってくっついているだけで、それだけなのに私は幸せな気分になる。
好きな人と一緒に居られるって、それだけで幸せになれる。
女の子になったことは、始めはやっぱり不幸だとか、なんで俺がこんな目にとか思ったりもしたけれど。
今、私は女の子としての幸せを、心の底から噛み締めていた。
「そろそろ他も見てみるか」
ケイはそう言って、身体を伸ばした。
私もケイに身体を預けるのを止めて、ベンチから立ち上がる。
「そうだね、もう夕方だし、準備も終わってるみたいだし。……お祭り、見て回ろっか」
私はケイの方を振り返ってそう言った。
ケイに目に、私はかわいく映っているだろうか。そんなことを考えながら。
カランコロンと下駄を鳴らしながら、お祭りの中を歩いていく。
人がたくさんやってきているので、ケイと手をつなぎながら。
ケイと手なんて、子どもの時につないだことだってあるのに。むしろその時は私からつないで引っ張っていったはずだったんだけれど、今はケイに手を引いてもらっている。
なんだか不思議な気分だ。……悪い気分じゃない。
というよりも、手をつないでるだけでなのに、なんでこんなに嬉しいんだろうか。
意識すると、なんか緊張する。手、汗ばんだりしてないかな。気持ち悪がられたりしないだろうか。
「ん、歩くの、早かったか?」
「ううん、大丈夫」
考え事をしていると、足が遅くなってしまっていた。
浴衣だから、あまり大股で歩けない、というよりケイの前で大股で歩くとかはしたなくてできないけれど。とにかくそんな訳で、ちょこちょこと歩く。
ケイもそれに合わせて、ゆっくりと歩いてくれる。
「おっ」
「なにかあった?」
ケイの視線の先には、うねうねと動く、小型の、イソ、ギンチャク……
「きゃああああああああ!?」
なんであんのあるの!?
うねうねしてるし!ちっちゃいけどあんなのおっきくなったらたいへんなことになるじゃん!?
いやああああああ!?しょくしゅもでてきた!?やだあああああああ!
「いや、ごめん。俺が悪かった。落ち着けって、な?」
ケイがぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれる。
だんだんと落ち着いてきた。けど、あれは怖いから、ケイにぎゅっと抱きつく。自分でもわかるほどに、手が震えている。
「大丈夫か?」
「うん……なんとか……」
「とりあえず場所移すか。すっごい注目浴びてる」
はっと周りを見渡せば、周りの人がすごい勢いでこちらを見ていた。
あれだけ叫べば無理もないか。
とりあえず立とうとしてみたけれど、うまく身体が動かない。
どうにも腰が抜けてしまったみたいだ。
「ケイ……」
困ったのでとりあえずケイの名前を呼んでみる。
ケイはやれやれといった様子で、私の身体を抱え上げ、いわゆるお姫様抱っこで駆け出した。
わっ、とっ。
ケイが走るものだから、すっごく揺れる。
私は落ちないように、ケイの首の後ろに手を回してぎゅっと抱き着いた。
一生懸命にしがみついているので、ケイの顔は見えない。見えない代わりに、心臓の音がドクンドクンとよく聞こえていた。
私がぎゅっと抱き着いているから、ドキドキしてくれているのかな。
単に走っているからかな。
しばらくすると、ケイはゆっくりと歩き出した。
周りに喧騒はなく、とても静かだった。多分、みんなお祭りの方に行っているから、お祭り会場から離れれば離れるほど、人が少ないのだろう。
辺りを見れば、クラウディアさんの皇宮のすぐ側だった。
「立てるか?」
ケイは私に聞いてきた。私は少し考えてから、
「もうちょっと、このままがいい」
と言ってケイに甘えることにした。
ケイは仕方ないなと、そのまま歩き出した。
「こうしていると、サツキに再開した時みたいだな」
「あの時もこうやってお姫様抱っこで歩いたんだっけ」
違うのは私の気持ちか。
あの時は、なんでこんな目に、と怒っていたけれど。
今はケイにくっついているのが幸せなので、ぎゅーっと自分の意思でしがみついている。
「あの時っていったらな、あれなんだよなぁ」
「ん?」
ケイが口ごもっていたけれど、あの時のことを振り返ると、ケイが何をしたいかがわかった。
だてに私だって、もともとは男だったわけじゃない。
あの時は無理矢理でちょっと嫌だったけれど、今は、むしろ、してほしい。
だから。
「ケイ、いいよ?」
とだけ言った。
ケイは驚いたように目を丸くさせたけれど、そのうち足取り軽く皇宮の中へ入っていった。
私たちが泊まるのに借りている部屋の中に入ると、私をベットの上に優しく寝かせた。
そのまま、私の上に跨ってこう言った。
「本当にいいのか?」
「……恥ずかしいからあんまり言わせないでよ」
そう言うと、ケイは私の唇を塞いだ。
まずはちゅっ、っと優しいキス。
その後にもう一度キスをしてくる。
今度は、私の口の中にケイの舌が入ってくる。
私も、それを求めるように舌を動かす。
ケイの首の後ろに手を回し、ひたすらケイのことを求める。
ケイが私の舌を吸うように引っ張る。舌と舌とを絡める。
んっ、っと吐息だけが漏れる。
しばらく求めあった後に、唇を離す。透明な糸が、お互いの口の間を伝う。
ケイは、あの時と似たようなセリフで私にこう言った。
「なぁ、サツキ。エッチなこと、しようか?」
「……うんっ」
あの時とはまた違う気持ちで、私たちはお互いの身体を求めた。
ふわふわとした多幸感に、私は包まれていった。




