臨む景色と皇女殿下
アリュウスデルト王国を出発してから4日ほど、盗賊が出てきたりと多少のアクシデントはあったものの、順調に旅は続き、今しがたリシティア皇国の首都、クリシアへとたどり着いた。
クリシアの街の近くになればなるほどに、久しく嗅いだことのない、磯の香りが鼻へと吸い込まれていく。
その匂いに我慢できずに窓を覗き込めば、
「うわぁ……!」
遠くから見てもわかるほどに、澄んだ綺麗な海が見える。
サツキやリディアも同じように覗き込むと、感嘆の声を上げた。
なだらかな丘の下には、王都と同じくらいに大きな街並み、遠くに見えるは大きく吸い込まれそうなほどに澄んだ海。
これは誰だって感動するだろう。
俺はそんなに景色だとかで感動したことはないけれど、これは確かに、感動するほどに綺麗だった。
サツキとリディアはきゃっきゃきゃっきゃと興奮しきった様子だ。
エリザも、そんな2人を見てとても楽しそうだ。……ちょっと怪しい笑顔なのは置いておきたい。
サフィは興味がないのか、未だに寝ていた。
馬車は順調に足を進めていき、街の入り口に当たる門の前で止まった。
「どこから来たのだ」
門番の1人が偉そうに御者に言った。
御者は困ったようにこちらに助けを求めた。
それにエリザが対応する。馬車の窓から顔をのぞかせ、門番にこう言った。
「アリュウスデルト王国が第3王女様、エリザ・アリュウスデルトですわ。聖女サツキを連れて皇女殿下に謁見しに参りましたの。通してくださらないかしら」
話しかけてきた門番は訝しんだ顔をしたが、奥から別の、ベテランっぽい風貌の門番がやってきて頭を下げた。
「エリザ王女様、失礼致しました!何卒御無礼をお許しください!」
「いえ、わたくし達は気にしませんわ」
門がギイと開くと、馬車は再び進み始める。
エリザはひとつ溜息を吐き、「はぁ、緊張しますわ」などとのたまった。
「やけに攻撃的な門番だったな。何かあったのか?」
「それを聞きにこの国まで来たので、まだわかりませんわ」
エリザは肩をすくめてそう言った。
また何か厄介ごとが起きる予感がする。悪い予感ほど、よく当たるものだ。
なんとなくサツキの方を見る。
パッと目があったかと思えば、顔を真っ赤にして目を背けてしまった。ちょっと傷つくぞ。
ここ数日ずーっとこんな調子だから、何ともやりにくい。
話しかけても、「ひゃい!」といった感じに驚いて?とにかく会話にならない。
かと思えばボーッとこっちの顔をジーっと見ていたり。
なんかかわいいからほっといてみたけれど。ずっとこれではいい加減困ってしまうな。
そんなことを考えている間にも、馬車はどんどん進んでいく。
いつの間にか、立派な建物の前で止まっていた。エリザが降りる準備を進めている。
馬車から降りれば、目の前にはまるで和風の旅館というか、田舎の学校というか、平屋の一軒家を横に長くしたような建物だった。
立派は立派なんだけど、どこか田舎っぽさを覚える見た目だった。
「なぁ、エリザ。ここ、どこだ?」
俺はそうエリザに問いかけた。
サツキとサフィが呆れたようにこちらを見た。
エリアでさえも、呆れたように俺の問いに答えた。
「ケイ様、ここが、皇女殿下のお住まいの皇宮ですわ」
まさかの回答に、俺は心底驚いた。
俺たちは今、通された応接室で皇女殿下が現れるのを待っていた。
王のおっさんの時みたいなポージングを取ることもなく、ソファーに腰掛け紅茶を啜りながら待っていた。
サツキとエリザも正装に着替え、皇女が来るのを待っている。
エリザはいつかも見たようなドレス姿だったが、サツキはいつもよりも少し豪華な修道服姿だった。
サツキは何か残念そうな顔をしていたが理由を聞いてみれば、ドレスの方が良かったんじゃないかと言っていたので、
「その修道服も似合ってるぞ」
と言ったら、途端に上機嫌になった。うん、かわいい。
カツンカツンとヒールの音が聞こえ、ノックの音がコンコンとなった。
誰が返事をしたわけでもないが、扉が開かれる。
現れたのは、緑を基調とした、何かの花があしらわれた着物姿の女が現れた。
背はエリザと同じくらいだろうか、俺よりは少し低いみたいだ。
だけど、その雰囲気はしっかりとした、できる女といった感じだろうか。
その女は、キョロキョロと周りを見渡し、サツキを見つけたかと思えばいきなり抱きつこうと飛びかかってきた。
そのいきなりのことに、俺は動くのが遅れてしまったが、エリザすでに動いて阻止していた。その女を羽交い締めにして、完全に動きを封じていた。
「ちょっと第3王女、邪魔なんだけど」
「お戯れもその辺りにしたらどうなのかしら、皇女殿下」
まさかの、こんなぶっ飛んだ登場をしたこの女が、このリシティア皇国の皇女殿下であった。




