星空と思い出
その後数日間を準備に当てて、俺たちはリシティア皇国へと向かっている。
王族専用馬車、前に王都に向かう際に乗ったものに俺、サツキ、エリザ、サフィそしてリディアの5人。
例のごとく、リディアが駄々をこねたので5人での移動となった。
まぁ、リディアの生い立ちを考えれば無理もないかもしれない。
この娘は、親に捨てられ、サツキを親代わりに今日まで過ごしてきたのだから。
他の子どもたちももちろん親を失ったり、捨てられて孤児だったりと色々あるが、リディアよりサツキにべったりな子はいない。
サツキもそれがわかっているようで、無理において行こうとはしなかった。
今はサツキの膝の上で非常にご機嫌だ。
「おねーちゃん、まだつかないのー?」
「うーん、まだまだかなー」
そりゃそうだ。
隣国とはいえ、アリュウスデルト王国からリシティア皇国まではどんなに急いでも馬車で4日はかかる。
その間、街や村に当たる可能性は決して多くないのでキャンプをしながら向かうことになる。
モンスターや盗賊に襲われるようなことも想定できるが、モンスターに関して言えば、サフィの気配を、高位のドラゴンの気配を感じれば逃げ出すだろうというのが、俺とエリザの見解だった。
なので、それに気づけない盗賊、野盗に気をつければ大丈夫だろう。
知ってか知らずか、サツキは呑気にリディアと窓の外の景色を見ていた。
ちなみに、トランプでもするかと誘ったが、全力で拒否されてしまった。
なので、俺はかなり暇を持て余している。
なのでとりあえず、サツキとリディアを見てほっこりすることに決めた。エリザも似たようなものだった。
サフィは5分おきぐらいに、「飛んでいいか」と聞いてくる。いなくなると困るので、Noと返しておいた。
しばらくボーッとしていると、急に馬車が止まった。
何事かと外を見れば、盗賊に囲まれていた。
おいおい早速かよ。
「へへへ、王族の馬車だったら、王女様だとか金目のものを持ってんだろ?さっさとだしな!」
馬車の御者さんには悪いが、ちょっと作戦会議だ。
「どうする?誰が出る?」
「え、なんでそんな余裕そうなの」
サツキがツッコむ。
「わたくしが行きましょうか」
「わっちもでてもいいでありんすよ?」
「じゃあ2人でよろしく。俺は待機で」
役割が決まったので、エリザとサフィが外に出た。
ぎゃいぎゃいと騒いでいた盗賊がシンと静まった。
多分考えていたのと違うのが出てきたからだろうな。
第1王女と第2王女はまだ会ったことはないけれど、少なくとも強いという話は聞かない。
それに比べて、この第3王女は騎士団長という肩書きを持っていた。俺から見ても、かなり強い実力者だ。オークに襲われていた第1印象からそうでもないように思ってしまうが、実際に手合わせをすると俺の勝率は6割くらいになる。
そして、静まった後に阿鼻叫喚の声が聞こえ、盗賊が散り散りに去っていく。
見れば、馬車を跨ぐように青い、澄んだ青が美しいドラゴンがいた。
サフィが正体を現したというだけの話なんだけれど、あれ、エリザ出て行く意味あったかな。
なにか残念な役回りが多いな、第3王女様は。
その日の夜、盗賊に襲われたせいなのか、ドラゴンに馬が怯えてしまい馬車が進まなくなってしまったせいか、村にも辿り着けなくなってしまったので、キャンプをすることにした。
元々こうなることも見越してあったので、食料なども積んであったので特に困ることはなかった。
晩飯はサツキがさっさっさと簡単にシチューを作り、寝床も馬車の中で寝るようにし、俺とエリザとサフィで交代で見張ることにした。
俺は馬車の屋根の上で腕で枕を作り寝っ転がりながら、気配を探る。
馬車のドアがキィっと開く音が聞こえる。
誰かと思って覗いてみるとサツキだった。
「ケイ、大丈夫?」
何が心配なのだろうか。
見張りをしていることか、1人でこうしていることだろうか、夜に遅くまで起きていることだろうか。
「大丈夫だよ」
俺は短く言葉を返す。
サツキがこっちに来たそうな動きをするので、車輪に足をかけるように伝え、引っ張り上げる。
引っ張り上げると、俺はさっきと同じように寝っころがる。
サツキはそんな俺の横に腰掛けた。
「いいのか、寝なくて」
「うん、リディアも寝たし。なんか寝付けなくて」
「そっか」
特に話はしなかった。
ただただ星空を見上げる。頭上に月が大きく浮かんでいた。
マンガやアニメの世界みたいに月が2つだったり、赤かったりなんてことはなかったけれど。
街明かりが周りにない分、星空がすごく綺麗だった。
「こうやって星空見上げるなんて久しぶりかも」
「あぁ、そういえばそうだな」
確かに、こうやってゆっくりと空を見上げるなんてなかった。
こっちの世界に来てから、生きるためにモンスターと戦ったり、サツキを探して走り回って、ドラゴンなんて大きな化け物と戦って、英雄だなんて呼ばれたり。
今も隣の国に行くって、移動している最中なのだけれど。
それでも、こんな時なのにゆっくりとできている。
サツキが横にいるからだろうか。
「小学校の時に少年団でキャンプしたとき以来かな、こんな綺麗な星空」
「あー、あれな。あの時も確か2人で抜け出して星を見に行ったんだったか」
「そうそう、あの時も綺麗だったのを覚えているけど、これはそれ以上かな」
「……確かに綺麗だな」
クスクスと笑うサツキの顔が月明かりに照らされている。
そんなサツキの顔が、とても綺麗だった。
なんて言ったら茶化すなって怒るだろうか。
「ケイ?聞いてる?」
サツキがこちらを覗き込んでいる。
なにか心配そうな顔だった。話を聞いていなかったからだろうか。
「大丈夫、大丈夫だから」
「なら、いいけど」
しばらくの間、思い出話をしながら星空を眺めていた。




