みんなでカレーを作るって、とっても楽しいから
しゃりしゃりしゃりしゃりしゃり。
今日の孤児院は珍しく静かだった。
普段は子どもたちの騒がしい声でいっぱいなんだけれど、今はしゃりしゃりとイモの皮むきの音しか聞こえてこない。
いや……うん。静かなのはいいことなんだろうな。そう思うことにしたい。
今日のご飯はカレーだとリディアが言いふらすと、子どもたちは我先にと何か手伝うことはないかと言い出してきたのだ。
自主的なのはいいことですが、その理由がカレーなのは……ねぇ?
私は私で、オーク肉と格闘してるんだけど。
オーク。
エリザさんと初めて出会った日のことを思い出すと、ちょっとゾッとするけど。あんまり贅沢はできないし、仕方ないね。
オーク肉を一口大に切る。切る。切る。
食べる人数が多いから、量もバカにならない。
イモだって子どもたちが手伝ってくれなかったら何個あることやら。
「聖女様、玉ねぎの方は切り終わりました」
「ありがとう、セッテ。じゃあ鍋で炒め始めてくれる?」
「わかりました」
「サツキ様ー!ニンジン終わりましたー!」
「ニーナもありがとう、子どもたちの方見てきてもらっていいかな」
「はーい!いっきまーす!」
セッテとニーナは孤児院の方に勤めるシスターだ。
セッテは長身でスラッとした、キツめの顔の女性。子どもたちに厳しいことを言うけれど、その実誰よりも子どもたちのことを考えているということを、誰もが知っている。
ニーナは、私と同じくらいの、大きくはないーー小さいんじゃなくて、大きくないだけーー女の子。シスターって言うよりも、子どもたちと同じみたいな、元気が取り柄の子だ。
2人とも、王都での事件に出くわし、何を感じたかはわからないけれど、私のことを聖女だと強く信仰し、孤児院で働くことを快諾してくれた。
私が聖女かどうかはさておき。いや、さておくも何も聖女ではないけれど。
とにかく、心強い味方であるのは間違いない。
「よっと、ほっと、やっと」
リズムよく、小気味よく、オーク肉を切っていく。
これで全部かな。
切ったオーク肉はセッテが玉ねぎを炒めているお鍋の近くに。玉ねぎがいい飴色になっている。
「お肉入れるよ」
「はい、お願いします」
ゴロゴロとオーク肉をお鍋に投入する。
大量に作るから大きいお鍋で作っている。混ぜるセッテも大変そうだ。
「大丈夫?代わろうか」
「いえ、これぐらい、聖女様の手を煩わせるわけにもいきませんので」
ゴロゴロのお肉は量が多く、玉ねぎと絡み合い、結構な重たさになっているはずだ。
セッテの額に、大粒の汗も見える。
うーん、この強情なところはセッテのよくないところなんだよなぁ。
だけど2人で混ぜるにはお鍋は小さい。
うーん、どうしたものか。そんな風に困っていると。
「わたくしの出番のようですわね」
と、今までどこにいたのか、エリザさんがやってきた。
そしてセッテの木べらを奪いお鍋を混ぜようとして、
「エリザさん、まず、手を洗おうか」
「あ、はい」
私が静かに怒りました。
子どもたちも見ているからね。仕方ないよね。
お肉に火が通れば、水を足して、ニンジンとイモを加えて煮立たせます。
混ぜるのはみんなで交代で。
子どもたちはやるとこがなくなったので、外で遊んでいる。
年が上の男の子たちが、エリザさんに剣を教わっているのが見える。
何やってるかまではわからないけれど、スパルタなようにも見える。
リディアは、私と一緒にお鍋を見ている。
「おねーちゃん、つぎはどうするのー?」
「もうちょっと混ぜ混ぜかなー。あ、セッテ、串ある?」
「はい、ここに」
イモの火の通りを見るのに、串を使うことは何度か見せていたので、次に使うだろうとわかっていたのだろう。
セッテはすでに串を用意して、私に差し出した。跪いて差し出した。
「……セッテ、リディアも見てるんだから、そういうのはさ」
「いえ、聖女様には敬意を払わなければ」
「リディアもー!」
そういって、何が面白いのかリディアもセッテのポーズを真似る。……だから止めてと言ったのに。
私はもう諦めて、串を受け取り、イモに刺してみる。うん、バッチリ火は通っているから、後は。
「おねーちゃんそれなにー?」
「うーん、カレーの元、かな」
残念なことに、この世界に固形のカレールーなんて便利なものはない。
なので、スパイスを混ぜ合わせないとカレーは作れないのだ。
しかし、そこは私の女子力スキルの中の料理スキルが 、最適解を教えてくれる。
数種類のスパイスをお鍋に入れて、混ぜ合わせると、あっというまに美味しそうな匂いに早変わり。
リディアはもちろん、セッテまでもが今にもよだれを垂らしそうだ。
「後は、これを入れてっと」
瓶に入った黄金色のそれをカレーの中に垂らしていく。
「聖女様、それは?」
「あれ、知らないんだっけ?ハチミツだよ。ライルさんが結構くれるから、隠し味にね」
ハチミツを混ぜたカレーを少し味見してみる。
うん、美味しい。
リディアとセッテにもお裾分け。2人とも満足そうだ。
調理部屋の窓からコンコンと音が聞こえる。
エリザさんがいた。
「サツキちゃん、ケイ様と、ライル殿、あとサファイア殿が参られたわ」
「こっちもちょうどできたところだよ。みんなで食べようか」
セッテに残りの準備をしているようにお願いをして、ひとまずケイを出迎えよう。
リディアと2人でパタパタと玄関に向かった。
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