怪しい影とチンピラ冒険者
「ん、っと。サフィ、俺はサツキ迎えに行くけど、お前はどうする?」
「うーむ、わっちも聖女の作る夕餉を食べたいので、付き合うでありんす」
「んじゃ、行くか」
俺はサフィと2人で、孤児院へと向かって歩いた。
家から孤児院までは、そう遠くはない。ただ、孤児院は商店街寄りではあるので、距離があるといえばある。
聖女だなんて呼ばれる人間を襲おうと考える輩も出てくるだろうことを考え、俺かエリザが送り迎えを護衛するようにしている。
朝はエリザが迎えに行ったり、一緒に行ったり。
夜は俺が迎えに行くというのが、毎日のサイクルになっていた。
「ぬし様や」
「ん?なんだよ」
サフィが声をかけてくる。
多分、後ろに隠れている盗賊のことだろう。隠れるのが下手すぎて、なんか無視してもいいんじゃないかって思えるレベルだ。
「あれ、食べてもいいでありんすかねぇ」
「それは何?食事的な意味で?性的な意味で?」
「食事的な意味でありんす。性的な方はぬし様に食べてもらいたいでありんす」
身体をくねらせながらそう言うサフィを俺は無視して、後ろの盗賊にナイフを投げた。
盗賊が逃げる間もなく、ナイフはそいつの足に当たり、ぎゃあああと悲鳴をあげてそいつは倒れる。
「はぁ、孤児院の前に、ギルドに行くか」
「わっちが処分してもいいんでありんすよ?」
「バカ、あれでもギルドに突き出せば小銭にはなるし、なにより、サツキの飯を食ったほうが美味いに決まってるだろ」
「それもそうでありんすね」
そんな話をしながら、盗賊を縛り付け、先にギルドへと向かうことにした。
ギルドで盗賊の処理を済ませてから、報奨金を貰うために少し待つ。
その傍で、サフィが冒険者にナンパされていたけれど、俺にとってはどうでもいいことだ。
「ぬし様や、あいつらしつこいでありんすよ」
どうでもいいから俺に絡むな。
ほら、面倒ごとがやってきた。
「ケイ、てめぇ。サツキちゃんというものがありながら、こんな美人にまで手を出すなんてな」
「出してないから落ち着け、バカライル」
ヤンキーっぽいというか、チンピラまるだしのライルが俺に絡んでくる。
横でサフィが、やーん、などとほざいているが、無視したい。
「ぬし様、本当に手を出してもいいでありんすよ?」
「しつけえ、俺はサツキにしか興味ない」
「お前は、こんな美人の誘いを断るってか!」
「お前はどうしたいんだよ!」
なんかもうめちゃくちゃだ。
騒いでいれば、ニコニコ笑顔で受付嬢のライラさんがやってきた。
「みなさん?ギルド内ではお静かに、お願いしますね?」
「あ、はい」
その場にいた全員が怒られた。俺まで怒られたのは納得いかない。
ライラさんからのお説教をたっぷりともらった後に、報奨金を受け取り、ギルドを後にする。
なぜかライルも一緒だった。
「……なんでついてきてるんですかねぇ」
「いや、ついていけば、サツキちゃんの手料理が食えると思って」
「はぁ、食えるかどうかなんてわかんねぇけどな」
「そう思って、手土産を持ってきた」
そう言ってライルが出して見せたのは、瓶に入った黄金色のもの、ハチミツだった。
なんというか、抜け目のないヤツめ。
「よしわかった、それだけ置いてさっさと帰れ」
「ふざけんな、お前が帰ればいいじゃねぇか」
「あ?何お前、ふざけてんの?」
お互いに武器に手をかけ、まさに一触即発である。そんな時だった。
「ぬし様や、その黄金色のは何でありんすか?」
サフィが首を傾げながらそんなことを言うものだから、興が削がれてしまった。
ライルも似たような感じだ。
「これはハチミツと言ってですね、森の奥に潜むキラービーというモンスターの巣からしかとれない貴重品なのですよ」
美人相手だからか、ライルがやけに饒舌に話す。
……いやまぁ、美人は美人なんだけど、俺は元の姿まで知っているから、サフィに魅力は感じない。
サフィは興味津々で、ライルから少しすくって貰ったそれを舐めて、目を輝かせた。
女の子がみんな甘いものが好きってのは、世界共通なのか。片や元男で、片やドラゴンだが。いや、元男とかサツキだったら関係ないけどね!
「あの羽虫の巣に、こんな美味いものがあるとは!羽虫もバカにできないでありんすねぇ!」
言い方がやたら物騒だった。さすがにライルも引いている。
こいつがそんなこと言い出すと、キラービーが絶滅しそうだ。それは、よくない。サツキが悲しむ。理由はもちろんハチミツが取れなくなるからだが。
このトカゲ女はそこまで考えなさそうだな。欲望のままに、キラービーを襲撃しそうだ。
尻尾がびたんびたん跳ねている。隠せよ。マジで。みんな見てるぞ。
「サフィ、落ち着け。尻尾が暴れてる」
「おっと、これは失礼しんした」
そう言って、暴れる尻尾を引っ込めるサフィ。そのドレスのスカートの中どうなってんだか。
ヒールが見えてる以上足はあるんだろうけどな。
考え事もいいんだけど、これ以上はライルが危険だ。
サフィの目が、完全に獲物を狙う目だ。トカゲ目で、ギョロッとしている。
ライルもライルで、まるで蛇に睨まれた蛙だ。……ドラゴンに睨まれた人間?そのまますぎて上手くないな。
「サフィ、これ以上ライルを睨むな。そのハチミツで、サツキになんか作ってもらえ」
「……わかりんした」
サフィが睨むのを止めると、ライルがこれ以上ないほどにホッとしていた。
ははっ、サフィでこれなら、サツキに会うのは止めた方がいいかもな。
今あの孤児院には、自称守護騎士様もいることだし。
そんなことを考えて、今度こそ孤児院へと向かった。
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