聖女なんて呼ばれているけど、私は普通の人だから
あのドラゴンが王都を襲った日から、2ヶ月が過ぎた。
王都はその傷を癒しつつあり、人々にも日常が戻ってきた。
私はといえば、あいも変わらずケイと一緒に暮らしているけれど、少し、いや、かなり変わったことになってしまっていた。
「よっ!聖女様!今日はオーク肉たくさん仕入れてるよ!」
「聖女様!野菜たくさん持ってきな!子どもたちに食わせてやんな!」
「きゃー!聖女様!私に手を振ってくれたわー!」
「なんて美しい銀の髪なのかしら……」
「よっ!その修道服も似合ってるよ!」
街ゆく人に手を振って笑顔を返す私。見知った冒険者の冷やかしのような声も聞こえる。
……どうしてこうなった。
私は今や、英雄様にお支えする聖女様と呼ばれている。修道服なんて似合わないものを着ているのも、そのためだ。
思い当たる節は、ないわけじゃないけれど、本当、どうしてこうなった。
あのドラゴンが襲ってきた日、私はケイの無事を祈り、ひたすら祈っていた訳だけど。
ケイが戻ってきて、私を担いで、ベットに向かう間際に、こちらを向いて祈りを捧げるような街の人々の姿を見た。
何かの勘違いかと思ったけれど、後日復興の手伝いに顔を出した時に、
「あぁ!聖女様だ!」
と叫ばれたかと思いきや、復興作業をしていた街の人から、果ては騎士団の人までもが、作業を止めて、私に祈りを捧げ始めた。
あの時は本当にパニックになったものだ。
それはすぐに王様の耳にも入ったらしく、王様は、
「いっそ、本当に聖女になればいいんじゃないかい?」
などと言い、王都と、リンデルの街に教会をおっ建てた。
聖女教会などと呼ばれるそれに、街の人々は祈りを捧げるようになった。家族の健康から恋愛成就までとにかくいろいろだ。
今まで宗教らしい宗教はなかったから、まあいいのかもしれないけれど。祭り上げられた私としてはたまったものじゃなかった。
そんなわけで、私は今日も教会へと足を運ぶ。
別に聖女なんて呼ばれるから行くわけではなく、
「おねーちゃん!おかえりー!」
「リディア、ただいま。いい子にしてた?」
「うん、リディアいいこにしてた!」
教会に併設してもらった、孤児院で働くために、私は今日も教会に足を運ぶ。
孤児院には、あのドラゴンの襲撃で親を失った子や、元々孤児だった子など、10人の子どもがいる。
リディアもその中の1人だ。
リディアとは襲撃の日に礼拝堂で出会ったのだけど、どうやら、この子の親はこの子を見捨ててどこかへと姿を消してしまったらしい。
ケイと、エッチなことをしてから、礼拝堂に戻ってみれば、ずっと1人で待っているリディアがいるものだから、エリザさんに頼んで、親を探してもらったが、どうやら既に王都からは逃げていたようで、どうなっているかもわからないと。
しばらくは王城に、私とケイの連れということで置いてもらえたが、いつまでもそうしているわけにもいかず、そんな中で聖女だと呼ばれ始め、王様から教会に数回顔を出すように頼まれたついでに、孤児院も建ててもらって、そこで暮らすようになった。
もっとも、結構な頻度で家にも泊まりにくるけど。
建ててもらったからには、これの経営やなんかは私がしないといけない。資金は出すけど管理は自分でと王様にも言われている。
そんなわけで、意図しなかったわけでもないけれど、忙しい日々を送っていた。
今は食料の買い出しから戻ってきたところだ。聖女効果か、おまけを多くもらったので、荷物が膨れ上がったのが辛いところ。
「サツキちゃん、大丈夫ですか?」
エリザさんがこちらに近づいて言った。
私は笑って返事を返す。
「大丈夫……と言いたいけど、ちょっときついから運ぶの手伝ってもらっていい?」
「えぇ、リディアも少し持ちましょうね」
「うんー!」
エリザさんは、今この教会に住んでいる。
私を守る剣になるなんて冗談かと思っていたけど、本当に騎士団を辞めてしまい、リンデルの街の教会の表向きの代表になっている。
ちなみに、教会のトップは私ということになっていて、王都とリンデルの街の教会それぞれに、運営するための代表がいる。
リンデルの街は表向きエリザさんが代表になっているけれど、実際に教会を仕切ってるのは別のシスターさんがいる。
なので、基本的にはそのシスターさんに任せて、エリザさんは孤児院の方を手伝ってくれる。
といっても、大したことはしていない。重たい荷物を運んだり、子どもたちに剣術を教えたりといったことをしてくれている。……なんか男の人みたいな仕事ばっかりだな。私も男だったのに、微妙な気分だ。
エリザさんは、買い物の荷物を軽々と持って行ってしまう。
私はといえば、リディアと一緒に、残りの荷物を持って行った。
「今日は、カレーかなー。野菜もお肉もあるし……」
「カレー?!やったー!」
私の独り言を聞いたリディアが駆け出してしまった。
あの分だと、30分としない内に、 全員にカレーだと知れ渡るんだろうな。
「まだ決まってないんだけど……。まぁいっか、カレーで」
私はクスリと笑って、独りごちた。
10人分以上の料理をしたりするのは大変だけど、手伝ってくれるシスターさんや、子どもたちもいる。
なにより、家事はチートスキルのおかげで大得意だ。だから大丈夫、なんとかなる。
今は忙しいけれど、頑張っていこう。
けど、もうちょっとだけでも、ケイとゆっくりできる時間が欲しいかな……。
最後にいちゃいちゃできたのって、王都でドラゴンが襲った日だったはずだし。
それからずっと、忙しさにかまけて何もできていない。
だから、たまに、ゆっくりいちゃいちゃできたらいいなぁ……なんて。
ここから2章本格スタートです。
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