奴隷契約とギルドの受付嬢
「おぉ、流石英雄様、お目が高い」
奴隷商がよいしょして俺を持ち上げるが、どうでもよかった。
苛立ち、喜び、安堵、色々な感情が俺の中で渦巻いていく。
改めて目の前の皐月を見る。
1ヶ月、突然この異世界にやってきた時の、女の子の皐月だ。
今は檻の中で、瞳に色を感じない。虚ろな目で、檻の中だというのにぼぉっとしている。
あぁ、くそっ。かわいいなこんちくしょう。
こんな時なのにゲスな思考を持てる自分に乾杯。
さっきも奴隷商に言ったが、俺はこいつを買う。親友なのに買う。親友だから買う。
買ってどうしようか。助けるために買う?
いやいや、違うだろ。
俺、皐月といちゃいちゃしたい。
断じてホモではない。男の皐月を知ってなおいちゃいちゃしたいと思っているけれど俺はホモじゃない。
親友が女の子になって、しかも俺の奴隷にできるんだぜ?
いちゃいちゃするしかないじゃん。うん、やるしかない。やる以外ない。
むしろ皐月は俺が買ったことに感謝すべき。嫌がっても罰だと思って受け入れろ。
オーケーオーケー。
完璧じゃない?完璧すぎて笑えてきた。
「皐月。今そこから出してやるからな」
セリフだけは親友を助けに来た風に話し、奴隷商と商談をまとめるためにその場を後にした。
奴隷商と商談を進める。
まぁ買うことは決まっているので、問題なのは幾らなのかということ。
よっぽどの金額がこない限りはどうにかなるだろう。
むしろよっぽどの金額がきても対応できるほどに金は持っているが。
「ひひ、今日から売り出しなので、まだ調教しきれてないところも含めて、金貨30枚と言ったところですかな」
ふむ。
奴隷の相場がわからんからなんとも言えないが、存外余裕だったな。
一応解説しておくと、この世界の金は、1円相当の半銅貨、10円相当の銅貨、100円相当の半銀貨、1000円相当の銀貨という風に上がっていく。
つまり皐月の価値は日本円にして30万というところになる。
うわぁ、こう言うと皐月やっすいなぁ。お買い得じゃん。
まぁ物価が違いすぎるから基準にならないけれどな。野菜とか半銅貨で買えるものもあるし。
俺は、懐から1枚の貨幣を出す。
白金が美しい貨幣だった。
「おぉ、これは……!」
「あぁ、流石に釣りはくれ。ただ、さっきの奴隷に金貨40枚は出す。上乗せ分は先行投資とでも思ってくれ。他にも奴隷を買うかもしれん」
「ひひひ……!次にいらっしゃる時には、よりよい奴隷を紹介できるようにしておきましょう……!」
俺が出したのはドラゴン討伐で国王から貰った白金貨だ。
あれ1枚で金貨100枚分の価値がある。
金はいくらあっても困らないけれど、あれだけ露骨なものもあっても困るしな。ここで崩してしまおう。
金も払って商談成立。
奴隷の扱い方なんかの説明を受ける。
奴隷には、奴隷具という専用の魔道具をつける。
主人側にも似たようなものをつけるが、命令具というらしい。
簡単に言えば、命令具が発信機で、奴隷具が受信機。
命令具に魔力を込めて念じることで、奴隷具がそれに反応、奴隷に対して命令を効かせる仕組みになっている。
一般的には簡単な命令しかできないが、魔力が強力であればあるほど、細かい命令まで仕込めるらしい。
ふぅーん。これは色々実験してみるべきかな。
さっき檻の中にいた奴隷に繋がれた鎖にも奴隷具が付いているそうで、『何も考えず大人しくしていろ』という命令を受けているそうだ。
少なくとも皐月の心が壊れてなさそうで安心する。
「それでだ」
一通り聞き終わって俺は奴隷商に話を切り出した。
「あの奴隷の調教ってのはどういうことをしていたんだ?」
これは是非聞いておきたい。事と次第によってはこいつを殺す。
「ひひ、あの奴隷が盗賊が売りに来たんですがね。『俺は男だ!』なんてうるさく、口が汚いものですから。他の女奴隷に口の利き方を教わらせてたのですよ」
ふむ、それぐらいなら問題ではないな。むしろそれは俺が引き続いてやりたい。
それにしても、
「盗賊だとわかってて、奴隷になるようなのを買ったのか」
「いやいや、身分は隠してましたけどね。まぁわたくし共も商売なもので。あの奴隷は、口の利き方さえどうにかなれば、英雄様のような上客にありつけるというものですよ」
なるほど、全く商売人というやつは。
だがしかし、こいつはやはり悪くない。
次も奴隷を買うならこいつのところで買うべきか。
最後に、大事なことを確認しとかなければ。
これが違っていたらマジでこの世界を破壊しかねない。
「最後に聞くが。処女か?」
「処女です。女奴隷に確認させました。間違いありません」
即答だった。
YES!YES!世界は平和に保たれた!
あーよかった。違ったらどうしようかと思ったよ。
奴隷商が凄く安堵した表情をしている。
俺そんなに顔に出てたか?まぁいいか。
俺は立ち上がり、奴隷館を後にしようとする。
「ひひ、どちらへお行きに?まだ奴隷の準備はできてませんが」
「あぁ、家を買ってくる」
そう言って俺は奴隷館を後にした。
奴隷館を後にして向かったのは、冒険者ギルドだ。
ここには別に家は売ってないが、噂好きの彼女がいる。
冒険者ギルドに着くと、俺は一目散にカウンターに向かって、彼女を呼んだ。
「ライラさーんっ!」
「聞こえてます!聞こえてますから!」
受付嬢のライラさんを呼びつける。
ライラさんは俺が右も左も分からない時から、ギルドのことやこの世界のことなどを親切に教えてくれた、この世界で信頼できる人の1人だ。
人に親切にされた分、他の人に返したいという素晴らしい理念を持っている。
俺も真似をしていきたい。できるとは言っていない。
「で、今日はどうしたんですか?英雄さんっ」
「げぇ、ライラさんまでそうやって呼ぶのやめてくれよ」
別に俺は英雄になりたかった訳じゃない。
結果そうなっただけだ。
「はいはい、それでどうしました?ケイさん」
「まずはな、探すのを手伝ってもらってた親友、あれ見つかった」
「えぇ!おめでとうございます!どこで?あ、王都ですか?」
ライラさんが喜ばしいとばかりに目を輝かせて聞いてくるので、俺も自信満々に答えた。
「この街の奴隷館で奴隷として売られてた。今日から売り出したって言ってたから危なかったぜ」
おーっと、ライラさんの顔がドン引きだぁ。
事情を知っている周りの冒険者達まで引いてるぞー。
「それで、買ったんですか?」
「もち」
当然のことをしたまでと言わんばかりにサムズアップした。
ライラさんは顔が引きつっていた。
「それでな、そいつと暮らす家が欲しくて。どっかオススメ物件しらない?」
「それは、土地屋さんに……あー、そういえば、ちょっと町外れの方に住んでたバーンズさん。引退するから誰か家引き取らないかって言ってたような」
「おうっ、言ったぞ」
後ろから男の声が聞こえた。
バーンズは年配の冒険者だったが、現役で戦ってきた戦士のはずだ。
「ライラちゃんよ、これ、最後の依頼の物な。で、ケイ。お前が俺の家を買ってくれるのか?金貨10枚でどうだ?」
「はい、確かに受け取りました。でも、あの家を金貨10枚ってかなりお買い得じゃないですか」
バーンズの家は、かなり立派なログハウス調の家だったはずだ。
うん、そこに俺と皐月で住む。悪くない。いや、むしろいい。
何回か伺ったこともあるが、キッチンとかかなり良いものだったはずだ。
よし、決めた。
「バーンズさん、買った。金貨15枚、引退祝いも兼ねて」
「おま、マジか。よっしゃ今夜は金貨5枚分俺の奢りだ!飲みに行くぞ!」
ギルド内の冒険者共がうおぉぉ!と騒ぐ。
「もう荷物引き払ってるからよ。いつでも住めるようになってるぜ。これ鍵な。じゃあな」
「バーンズさんも達者でな」
まだ夕方にもなっていないというのに、冒険者共は飲み屋に向かってギルドから消えていった。
しかしこれで家は手に入れた。
じゃあ、後は皐月を迎えに行こうか。
次回こそはいちゃいちゃできる……はず……