ケンカ別れした親友と奴隷の少女
オーケー、オーケー。
今一度状況を整理してみようか。
自称神に手違いで殺された。
お詫びに生き返って異世界へ。
親友が女の子に。←new!
いやまて落ち着こう。
俺の知っている皐月は、皐月という可愛い名前の割に180cmはある長身で、柔道で鍛えたその頑丈な身体を持った、まごう事なき男だったはずだ。
断じて140cmほどのロリっ子ではない。
俺は今一度皐月を名乗る美少女に目をやる。
美少女は腕を組んで怒っているようだった。
かわいい。
「圭。お前が思っていることを当ててやろうか」
「ははは、初対面のお嬢さんに俺の思っていることが当てられるなどと」
「この女の子、怒ってる姿も可愛いなぁ」
「すんませんっした」
反射的に謝った。土下座で。
あれ、このやり取りの感じどこかで。
俺は起き上がり、その女の子の肩を掴んで尋ねた。
「もしかして、マジで、マジで皐月なのか……?」
「そうだっていってんだろこのバカ!」
皐月?が俺に蹴りを入れる。
全く痛くなかった。
蹴りが効いていないとわかったのか、得意の柔道の投げ技を仕掛けようとする。
これは一本背負かな?
俺の身体はビクともしなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「皐月ちゃんは脆弱だなぁ」
「皐月ちゃんっていうな!ぜぇ……はぁ……」
おお、この名前をちゃん付けで呼ぶと過剰に怒る感じは間違いなく皐月だ。
しかし……
「皐月はなんで女の子になってるんだ?」
「そんなの、俺が聞きたいし……」
考えていると、上空からひらひらと1枚の紙が。
パシっとキャッチして、皐月と一緒に見る。
立ったままだと見えないだろうと思い、皐月の目線に合わせてしゃがんだら、皐月に蹴られた。痛くない。
紙は神からの手紙だった。……なんか言わされた感がうざいな。
『拝啓 鳴海圭様、早川皐月様。異世界をいかがお過ごしでしょうか。そちらはーー
「長ぇよ!」
「長いわ!」
2人揃って手紙にツッコミを入れる。
破り捨てそうになるのを我慢し、掻い摘んで続きを読む。
『今頃皐月くんが女の子になってビックリしていると思うんだけど、これも私の所為というか、なんというか。
実は今回転生と言うよりは召喚とかに近いんだけど、圭くんの身体はなんとか蘇生してチートでパワーアップできたんだけど、皐月くんの身体が予想以上にズタボロで、蘇生できそうにありませんでした。
なので、そちらの世界で最近死んだ人間ベースで新しく作り直した身体になってます。
5割ぐらいは元の身体を使ってるので違和感は感じないはずです。
その身体も、チート能力はあるので安心してください。
それでは、良き異世界ライフを。神より』
掻い摘んでこれであった。
本文はこれの倍以上あったということで察して欲しい。
俺は皐月を見た。
かわいい。
いや、違う。
皐月は凄く落ち込んでいた。
それも仕方があるまいて。
皐月という女の子のような名前がコンプレックスで、それに負けないように鍛えていたのに、その全てを台無しにされたように、女の子になってしまっているのだから。
「はぁ……」
「うん、まぁその何だ、元気出せよ」
これは俺も声のかけ方間違えてるだろうとは思ったけれど、それ以外に言葉が出なかった。
こんなファンタジーなこと、すぐ対応できてたまるか。
すると皐月はこちらを睨み、激昂した。
「元気出せってお前に何がわかるんだよ!こんなんになっちまって!俺はどうすればいいんだよ!」
かける言葉が見つからなかった。
俺は俯いて、ただ皐月から目を逸らした。
すると皐月は、
「っ!圭のバカ!もう知らない!」
どこか別のサツキのようなセリフを残して、何処かへと走って行ってしまった。
今でもこの時のことは後悔している。
この時俺が走って皐月を追いかけていれば、もっと違う未来があったんじゃないかと。
皐月にとってもっとより良い未来があったのではないかと、俺は未だに後悔する。
ーーーーーー
それから1ヶ月の月日が流れた。
皐月が何処かへと行ってしまってから、皐月のことは探しているが見つからない。
まぁ、あいつにもチート能力があると神は言っていたから、大丈夫だろうとは思うが。
俺は俺で、自分のチート能力ーー身体能力や魔力が常人の2、3倍高いものーーを活かしてモンスターを狩って生活していた。
今更だが、この異世界は剣と魔法の世界で、モンスターもうじゃうじゃいる。
野放しにしておくのは危ないので、それを狩る職業、所謂冒険者業が存在している。
初めは流石に怖かったのだが、今ではもう慣れたものである。
いや、慣れた訳ではないか。生命を奪うことに慣れすぎるのはよくない。
ただ、この感覚は慣れというしかないだろう。
殺らないと、自分が殺られるのだから。
「ん、ひっさびさだなぁ、この街も」
俺はリンデルの街の門を前にしてひとりごちた。
リンデルの街は俺たちが最初にいた草原のすぐそばにあった街で、冒険者や商売人で賑わった街だった。
俺はこの街が好きだ。
見ず知らずの俺に優しくしてくれた、お世話になった人がたくさんいるこの街が、いつしか故郷のようになっていた。
2週間ほど、王都近くにドラゴンがでたということで、応援に行っていた。
ドラゴンはこの世界でも屈指の実力を持ったモンスターである。
まぁ俺のチートパワーでドラゴンを瞬殺してしまったのだけれど。
王様に褒美をもらい、その帰りに、盗賊退治もして、そいつらが持っていた金もごっそりと手に入った。
盗賊退治で手に入った金は退治したものがもらっていいシステムになっているので、臨時収入が手に入りうはうはだった。
ギルドの受付嬢のライラさんでも誘って飲みに行こうかな、なんて考えていると、ふと目に付いた建物があった。
奴隷館。
この世界には奴隷制がある。
犯罪を犯したものや、身寄りがなく売られたもの、金欲しさに親に売られたものなど様々であるが、それなりに需要がある商売だ。
何故なら、奴隷に与えられる『奴隷術』という魔術には、主人と設定したものに絶対に逆らえないようにする、という効果が与えられるからだ。
だから、貴族や上級の冒険者などは奴隷を使役することも多い。
絶対に裏切らないとわかっている部下ほど信用に値するのだから。
俺自身思い当たる節もあった。
冒険者になりたての頃に、一緒にパーティを組もうと言ってきた冒険者チームに、モンスターとの戦闘中に後ろから攻撃されたからだ。
まぁ、身体は生憎と頑丈にできているからなんともなかったけれど。
だけれど気分がいいものではなかった。
そんなわけで、誰ともパーティを組む気が持てないまま、未だにソロで、しかもドラゴン討伐に選ばれるほどには強いのだけれど。
だけれど、これから先人手は必要になるだろう。
皐月を探してまわるにも、信用できる人手がいる。
ギルドの受付嬢のライラさんや、武器屋のゴーシュのおっさんなんかは信頼できるけど、一緒にあちこち探してくれなんて言えないしなぁ。
臨時収入もあることだし。
そんな軽いつもりで、奴隷館へと足を進めた。
「ひひひ、いらっしゃい。これはこれは、ドラゴンを倒した英雄さんじゃありませんか」
何故か顔が割れていた。
訝しむ顔を見せると、
「ひひ、この商売も情報は重要でしてね、それでどんな奴隷をご希望ですか?」
「とりあえず、一通り見てみたいかな、奴隷を買うなんて初めてだし」
「左様でございますか。英雄様のご希望とあらば、ではこちらへ」
奴隷商に案内され、店の奥へと足を進めると、たくさんの人間が、檻に閉じ込められ、鎖で繋がれていた。
人間だけではなく、獣人や、亜人種も多くいる。
見ていていい気分じゃないな。
そう思いながら、物色していれば、少し離れた檻を見つけた。
俺は奴隷商に尋ねる。
「あれも、奴隷か?」
「ええ、今日まさに販売できる程度には調教できましてね。上物ですから英雄様も気にいるかと」
奴隷商が下卑た笑いで俺にその奴隷を勧める。
そういう言い方をするということは女だろうか。別に性の捌け口を求めている訳じゃないのだけれど。
その檻の側に近付き、奴隷の顔を見る。
「おい、奴隷商。こいつ、幾らだ?」
「お買い求めでしょうか?」
「あぁ、こいつを買う」
俺はイライラしながら奴隷商にそう伝えた。
檻の中には、ぼぅっとした生気のない目をしているものの、俺がずっと探していた人物。
早川皐月が鎖に繋がれていた。
1/19 サツキ(男ver)の身長を180cmに変更