エンカウントと友達
「あの、エリザさん。普通に歩きたいんですけど」
「ダメです。サツキちゃんに何かあったら、わたくしは自分を許せません」
とんだ来訪者が参加したピクニックの帰り道。
またオークに襲われると面倒なので、少し急いでリンデルの街へと帰る。
俺は先頭を切って、モンスターの気配を察知しながら進む。
その後ろをエリザが。
サツキを背負って進んでいた。
ぐぬぬ。
それは俺の役目だろうに。
気配察知能力が、俺の方が高いばっかりに、こういう配置になってしまった。
能力がありすぎるのも、困ったものだぜ。
ふと後ろを見る。
エリザの背中で、サツキが不機嫌そうだ。
俺はそれに苦笑する。
おっと。何かの気配を察知する。恐らく、オークだろう。
「エリザ、5秒後にエンカウント。オーク、3、かな」
「了解です。後ろで回避に専念しますわ」
「ケイー、気をつけてー」
3、2、1。
脇道からオークが現れる。
俺は助走をつけて、剣を振った。
「でぇぇい!」
すれ違いざまにオークを切りつけた。
2体のオークの首が飛ぶ。
1体切り損ねた。
「エリザ!逃げろ!」
オークは俺を無視して、エリザとサツキの方へと向かう。
ブヒブヒ言いながら、手に持つ棍棒を振り下ろす。
「ひっ!」
サツキの悲鳴が聞こえる。
ここからじゃ、オークの影になっていてよく見えない。
「サツキ!」
俺は咄嗟に叫んだ。叫ぶと同時に駆け出す。
目の前のオークを切るために。殺すために。
サツキを泣かせる奴を、殺すために。
「はあぁぁぁ!」
一閃。
オークは首を失い、その場に崩れ落ちた。
オークの影に、サツキはいなかった。
「サツキ!どこだ!」
俺は焦燥感を覚えて叫ぶ。
サツキがいない。それだけで、俺の心は酷く不安になる。
その時だった。
「ケイ、大丈夫だよ」
サツキは、俺に背中から抱きついた。
俺に抱きつく手は、やはり震えている。
背中越しだから、その表情は見えないが、今にも泣きそうなのだろう。声が、そんな声をしている。
「ごめんな、怖かっただろ」
俺はサツキの手を掴んで、背中越しに言った。
サツキは、大丈夫、大丈夫だからと繰り返していた。
「すみません、わたくしが、しっかり対処出来ていれば」
いつの間にか俺の背中側にいたエリザがそう言った。
あの一瞬で、バックステップとダッシュをして、いつの間にか俺の後ろまで逃げていたのだ。
それがわかっているから、俺はエリザを責めない。
「いや、あれは一撃で3匹とも仕留められなかった俺が悪い」
「いえ、しかし」
「これ以上はいいだろ。とにかく、街へ戻ろう」
エリザはそれに頷く。
俺を先頭に列を組み直し、急いで街へと戻っていった。
家に着くと、とりあえず風呂を沸かした。
魔法を使うのはしんどかったが、汗やら何やらで、ベタつくのが不快だった。
先にサツキとエリザが入る。
サツキは入らなくてもいいと言っていたが、エリザに無理やり連れて行かれた。
まぁ、エリザと入らなくても、俺と入る訳だが。
多分、エリザの裸を見るのを避けようとしたんだろうな。
べ、べつに羨ましいとか思ってないんだからねっ。
……こういうのはサツキにさせるべきであって、俺がやるのは違うな。
俺は早々に覗くなと念押しされたので、仕方なくリビングで待っていた。
待ちながら、1人思案する。
サツキと再び出会ってから、俺の気持ちは随分変わったように思える。
初めは、探し出して仲直りするのが目的だったはずなのに、それ自体は達成できているけど、それ以上になっている。
いや、それが嫌だというわけじゃない。
だけど、何で、再開してすぐ、サツキを襲った?
したいかしたくないかで言えば、したいのだけれど。
もっと待ってからでも良かったはずだ。
あの時は、そうしないとどうにかなりそうだった。どうにかなってしまいそうだった。
後悔跡に立たず。今更考えたところでどうにかなるわけでもないが。
多分、嬉しくて舞い上がってしまったんだろう。
なんて考えていれば、
「ケイ、上がったから、入ってきていいよ」
サツキが湯上りのパジャマ姿で話しかけてきた。
パステルカラーのちょっと大きめのパジャマだ。
その後ろにはエリザが、Tシャツに短パン姿で立っていた。
……あのTシャツ俺のじゃねーの?
エリザの胸元には大きなお山があった。あぁ、サイズがいろいろと合わないんだろうなと思った。
「ん、ありがとな」
俺は2人と入れ替わりに風呂に入った。
風呂から上がると、夕食ができていた。
サツキが用意してくれていた。
「時間ないから、簡単なものになっちゃった」
出てきたのは、野菜のスープとパンが幾つか。
短時間でこれだけ作ってあれば十分だけどな。
エリザも含めて、3人で食卓を囲む。
スープは素朴だったけど、野菜の甘みがでていて、美味かった。
食べ終わると、エリザが改まって言った。
「助けてもらった挙句、食事まで頂いて本当に、なんと言ったらいいか」
「エリザさん」
サツキは言う。
「王都に行ったら、案内してください。それがお礼ってことで」
「え、えぇ、任せてください!」
エリザは笑顔でそういった。
風呂に入っている間に、友達にでもなれたのだろうか。
そんな彼女たちのやり取りは、どこか微笑ましかった。




