女騎士と例のセリフ
今日は、サツキと2人でピクニックに行こうと思う。
サツキは街の外に出ることに、少しだけ不安そうにしていたが、朝起きてみると、ノリノリでお弁当を作っていた。
内容は、現地に着くまでの秘密だと言われたので、俺も知らない。
街を出る前に、ギルドへと寄った。
ついでなので、採集系の依頼を受けておいて、小銭稼ぎをしておこうかと思ったからだ。
「ライラさん、おはようございます」
「あら、サツキちゃん、おはよう。ケイさんもおはようございます」
「おっす、ライラさん。採集系の依頼、なんかある?」
行き先をライラさんに伝え、その辺りでできる依頼を確認してもらう。
「うーん、採集系の依頼は今なかったですね。あと、その辺りに最近オークが頻繁に出てるそうなんで、気をつけて下さいね。ケイさんなら特に問題ないかとは思いますが」
オーク。
例に漏れず、豚のような、人型のモンスターだ。
その醜悪な見た目と、何故か女性を執拗に狙う習性から、非常に不人気なモンスターである。
食べると普通に豚肉だ。元の見た目が見た目なので、豚肉より格安で売られているが。
「ふーん、オークね。まぁ、森の奥とかには行かないし、大丈夫だろ」
「サツキちゃんも一緒なんですから、気をつけて下さいね?」
「わかってるっての」
そんな感じでギルドを後にする。
まぁ依頼を受けるのはオマケだったし、特に問題は無いだろう。
オークには気をつけないとな。
まぁ、ある程度の危険は覚悟の上だ。
腰の剣に手をやり、反対の手でサツキの手をつなぎ、ピクニックへと出発した。
街を出ると、草原と森が見える。
森の奥にはモンスターが多く生息しているが、一箇所だけ、人が通れるように整備された道がある。
まぁ、まったくモンスターが出ないわけではないが、それでも森の中を歩くよりはマシなのである。
それを越えると、なだらかな丘にたどり着く。
そこでお昼を食べるというのが、今日の日程だ。
俺は、腰に剣、背中にはサツキの作った弁当を背負っている。服まぁいつも通り戦闘のできるようなズボンと革鎧なわけだが。
サツキは、黄色いネルシャツにショートパンツ、編み上げのブーツにニーハイを合わせている。絶対領域が眩しい。
髪もツインテールにまとめてある。
なんか、文句言いながら女の子満喫してないですかね。
それをサツキに聞いたところ、
「いや、もう今更だし。せっかくだから似合う格好しないともったいなくない?」
とのことだった。
かわいいからなんでもいいか。
それで現在は森の街道の中腹あたり。
俺は周りの気配に気をつけつつ、サツキに話しかけた。
「サツキ?大丈夫か?」
「ちょっと……きついかも……」
サツキの体力が限界そうだった。
「おぶるか?」
「ううん、せっかくだし、自分で歩いていきたい」
「そっか、無理はするなよ?帰りもあるんだしな」
「大丈夫だって、それより、お弁当期待しててよ」
強がるサツキもかわいいわけだが。
そんな時だった。
「きゃああああああああ!!」
と、森の奥から女性の悲鳴。
「ケイ!」
「おう!」
俺はすぐにサツキを小脇に抱え、森の奥、悲鳴の聞こえた方へと走って行った。
現場に着くと、女性が1人、オークに襲われていた。
見た所、武器を持っていないようだ。
俺はなんとなく、物陰に隠れた。
「ケイ、何ですぐ行かないの!?」
サツキが小声で俺に言う。
「あの人には悪いが、他に伏兵がいないとも限らないからな。少しだけ様子見させてもらう」
「な、なるほど……」
サツキは俺の言い分に感心したようだった。
ごめん、本当はただ、あの女騎士っぽい人が、例のセリフを言ってくれないかなって思っただけです。
ほら、オークに襲われる女騎士って言ったら、あれしかないでしょうよ。
実はもう、周りに他のオークの気配がないのも確認取れているし、襲っているオークも高々3体なので、正直瞬殺できる。
なので、もうちょっと様子見したい。具体的には例のセリフを言ってもらってから助けに入りたい。
オーク共は、女騎士を取り囲み、今にも服を脱がそうとしている。
「くっ……」
でるかっ!?
「やめろ!」
そうじゃない!
そんな反抗的じゃなくて!
もっと諦めた感じで!
例のセリフを!
と思っていると、我慢できなかったのか、サツキが飛び出してしまった。
「やめなさいっ!」
と女騎士の前に立ちふさがるサツキ。
オーク共も、一瞬びっくりしていたが、現れたか弱い女の子に対して、獲物が増えたと言わんばかりに似たっと笑い、サツキの足を掴み、逆さまに持ち上げ、
首がドサリと落ちた。
「わっ」
「えっ……」
驚いているサツキと女騎士。
「まったく、無理すんなって言ったよな」
俺はサツキをお姫様抱っこで抱えてそう言った。
何があったかといっても、俺がオークの首を剣でハネて、そのままサツキを助けた、としか言えないのだが。
残りのオークも動揺している。
俺はサツキを降ろして、剣を構える。
「サツキ、ちょっと待っててな」
「うんっ、やってやれ!」
俺はそのサツキの声を聞き、一瞬でオークへと間合いを詰めた。
「豚は出荷よっ、ってな!」
そう言ってオークの首をハネた。
飛んで行ったオークの顔は、そんなー、と言いたげだった気がした。
終わったのでサツキの方を見る。
サツキはその場でへたり込んでいた。
「ははっ、ケイは凄いな。私、腰が抜けちゃった」
「んじゃあ抱っこしてやる。そっちは大丈夫か?」
俺は女騎士へと聞いてみる。
女騎士は立ち上がり、
「えぇ、大丈夫です。迷惑をお掛けしました」
と言った。
事情を詳しく聞きたかったが、ここじゃあ落ち着かない。
俺は女騎士に提案する。
「じゃあ、一旦街道に戻って、丘の上に行こう。そこで詳しい話を」
「かしこまりました」
女騎士はそう言って、俺たちについてきた。




