新居と元家主
雑貨屋であらかた買った後、荷物を置くのに新居へと向かった。
俺は数回だけだけど、バーンズさん主催の打ち上げーー大物を倒すとすぐ飲み会をしたがるのが、バーンズさんの良いところでもあり悪いところでもあるーーに参加したことがあるので、場所は知っている。
少し街から離れたところ、とはいえ言うほど離れているわけでもない。
少しばかり歩いたけれど、疲れるほどでもなく。
そこに、庭付き一戸建ては佇んでいた。
「うわぁ……!」
サツキも目を輝かせている。
俺が見ても、これはいい家だと思う。
入り口には少しだけの階段と、1階にテラスというべきか、イスとかを置いてゆっくりできるようなスペースがあり。
玄関を開ければ、部屋が1つと、リビングダイニングがある。
ダイニングキッチンはバーカウンターのようになっていて、料理する様子がすぐ見えるようになっている。
先のテラスにも扉1枚でつながっているため、ホームパーティーみたいなこともできそうだ。
2階には部屋が2つあった。
1つは寝室だろうけど、もう1つは客間にでもしたらいいだろうか?
とにかく夢が広がるような、そんな家だ。
これで、金貨15枚は安いんじゃないだろうか。
もっと色目をつけるべきだったか?
考えながら1階に戻ると、サツキが雑貨屋で買った調理器具を並べていた。
「うーん、こんな感じかなぁ。あ、やっぱり食器棚も必要だなぁ」
「そうだな、とりあえず寝るためのベットしか買ってないし、後で家具屋行ってベットがいつ届くかと、他の家具も見るか」
「そうだな。あー、なんか楽しみになってきた。食材とかも買わないとなぁ」
サツキは料理ができる……らしい。
らしいというのは、元の世界でのサツキは料理なんて、調理実習ぐらいでしかしたことがないはずだからだ。
かくいう俺も、焼くか煮るかぐらいしかできないから、偉そうなことは言えないのだけど。
サツキ曰く、こっちに来たらできるようになってた、女子力のチートの力かもな、だそうだ。
まぁ、ダメでもともと。ダメなら潔く、おばちゃんのシチューを食いに行こう。そうしよう。
カチャカチャと調理器具をしまうサツキを、ニマニマと見ていれば、トントンとドアをノックする音。
まだ住んでいないというのに誰だろうか。
ドアを開けると、この家の元々も持ち主の、バーンズさんがいた。
「おう、ケイ。いたか。」
「バーンズさん。もういなくなったかと思ってたよ」
「ははっ、引退ともなれば、色々とすることがあるんだよ」
バーンズさんは俺の背中をバシバシと叩きながら笑って言った。
俺はそれが嫌いではなかった。
このおっさんは、よく俺のことを気にかけてくれてたっけ。
初めてチームを組んで狩をしたときも、バーンズさんのチームだったはずだ。
俺が親友を探していると言ったときも、見つかったらすぐに教えてやる、と言ってくれたっけ。その後にすぐ王都に行ってたから、バーンズさんからは何も情報をもらってないけれど。
2人で話をしていると、奥からサツキがひょっこりと顔を出した。
「ケイー?誰かいるのかー?」
サツキはスカートをひらつかせながらこちらへと歩いてきた。
バーンズさんは、ほぉ……とか言っている。
あんまりエロい目で見てくれるなよ。
「ケイ、お前も男だったんだなぁ」
「どういう意味だ!」
「どういう意味ですか!」
俺とサツキは声を合わせて言った。
バーンズさんはニヤニヤしている。
「いや、お前が奴隷を買ったなんていうから、てっきり戦闘奴隷だとばかり思ってな。女だとしても、どうせごついやつだろうと思ってたんだがな。まさかまさか、こんなかわいい嬢ちゃんが出てくるなんてなぁ」
「いや、それほどでも」
「なんでケイが自信満々なのかなぁ……」
ありゃ、サツキが照れるシーンだと思ったんだけど。
俺がボケたのが早すぎたのか。
まぁいいか。
俺は、改めてサツキにバーンズさんを紹介した。
バーンズさんにもサツキを紹介する。
「んでな、バーンズさん。遅れたけど、こいつがサツキ。俺がずっと探してた親友。サツキ、この人はバーンズさん。呑んだくれ親父で、この家の元々の持ち主」
「なんか引っかかる紹介だがいいか、バーンズだ。よろしくな嬢ちゃん。嬢ちゃんがケイがずっと探してた親友かい。会えてよかったな」
バーンズさんはサツキに手を差しのばす。
「サツキです。不本意ながら、こいつの奴隷で親友です。これからもよろしくお願いします」
サツキも手を差し出した。
お互いに手を掴み合い、握手をした。
「とは言っても、俺は明日には、この街を出て行くがな!」
がっはっはと笑うバーンズさん。
そういや、この街を出て行くから、家を売ったんだったか。
「だから、この家を売ったんですね」
「ああ、そろそろ冒険者で食うにも、身体がきつくてな。実家で畑でもやろうかと思ってな」
「そっか、寂しくなるな」
バーンズさんには世話になった。
この家のこともそうだが、この街の冒険者は大体が世話になったんじゃないだろうか。
お節介で、困った人を放って置けない。
そんなバーンズさんを、この街の人はみんな好きなはずだ。
そんな人がいなくなるのは、寂しい。
「そんな顔するな。お前がそんな顔していたら、嬢ちゃんが悲しむぞ?」
「はっ、いいからさっさと田舎に帰れ、くそおやじ」
「ケイ!そんな風に言うなって!」
「嬢ちゃん、いいってことよ。じゃあな、ケイ。また、どこかで会おうぜ」
そう言って、バーンズさんは去っていった。
後に残るのは、ほんの少しの寂しさ。
「ケイ、いい人だったな」
「ああ、いい人、なんだよ。あのお人好しのくそおやじは」
俺は、見えなくなるまでバーンズさんの背中を見ていた。
サツキは、そんな俺に寄り添っていた。
夜、おばちゃんのところで飯を食ってたら、バーンズさんが来て、宴会を始めた。
挨拶回りをしていたら遅くなったので、出発を明日にしたそうだ。
色々と、台無しだった。




