ふざけた神と親友らしい少女
「……ここ、どこだ?」
目を覚ますと、辺り一面が真っ白な世界にいた。
暖かくもなく、寒くもなく、何もない真っ白だけが広がる何もない世界。
何か大事な記憶が抜け落ちているような、そんな感覚だけがある。
「目が覚めたようですね」
どこからともなく声が聞こえた。
女性のような、そうでもないような、聞き覚えがあるようなないような、そんな声だった。
声の主は言葉を続ける。
「あなたたちは死にました。私の手違いです。……ごめーんねっ」
「……は?」
凄くイラっとした。それはもう、もの凄く。
いやまてそれよりも、あなたたちって……。
「あらあら、覚えてない?あなたたち2人は学校からの帰り道に、2人まとめてトラックにどーんっ!っと」
あぁ、言われてやっと思い出した。
俺、鳴海圭と、幼馴染で親友の、早川皐月は学校からの帰り道に、急に変な角度で曲がってきたトラックに、お互いを庇うようにして……
くそっ、思い出しただけで気持ちが悪くなってきた。
「それで、あんたの所為ってどういうことだよ」
さすがの俺も、自分たちを殺したという人物を前にして冷静ではいられなかった。
ぶっきらぼうに悪態をついて話を聞く。
「いやぁ、ちょっとうとうとしてたら手元が狂っちゃって……本当は違う人が死ぬ予定だったのにあなたたちにトラックがどーんっ!って」
「そのどーんっ!ってやめろちょっとむかつく。というか説明足りなさすぎるだろ。まずあんた誰だよ」
他にも気になるところはあるが、相手が誰だかわからないので、まず名乗らせることにした。
すると、とんでもない事実が俺の前に突きつけられる。
「えっ?私?神様ですけど」
「……は?」
え?なんだって?神?GOD?こんなんで?
まてまてまて意味がわからない。
「え?ちょっとまって?神?マジで意味がわからないのだが」
「だから!私は神で!人の寿命などをコントロールしておりましたが!この度は!手違いで!あなた方を死なせてしまいました!大変申し訳ない!」
何故か荒い語気で語る自称神。
だけど今のが一番わかりやすかった。
恐らくは俺たちの近くに、寿命が近い人間がいたのであろう。
そいつの寿命は事故死とかで決まっていたのだろうが、そいつにぶつかるトラックが、この自称神の手違いで俺たちにぶつかって、俺たちが死んでしまったと。
うん。
「……ふざけんな自称神!」
「ひぇっ?!急に怒鳴るな!」
「てめぇ逆ギレかよ!」
この後めちゃくちゃ口喧嘩した。
「ぜぇ、ぜぇ、とりあえずは死んだことはわかった。で、皐月のやつはどこにいるんだ?」
この白い謎空間には俺しかいない。
自称神は姿を見せないし、本当に誰もいない。
「あぁ、彼ならまだ寝てるから、先に起きた君だけをこの空間に呼んだよ」
「とりあえずは無事?なのか」
「死んだのに無事も何も」
「お前だけは言うな、お前だけは」
しかしいつまでもこんなところにいるわけにもいかない。
こういう時のお約束といえば。
「で、手違いで死んだってことは、転生とかしてくれるわけ?」
「あー、そういうラノベとか好きなタイプ?」
いちいちメタいなこの自称神。
確かにそういったものが嫌いなわけではないが。
「まー飲み込みが早いのは助かるよ。皐月くんと一緒に、君たちの感覚でいうと、異世界に行ってもらおうかなって」
「異世界、ねぇ」
「チート能力のおまけ付きだよっ」
「お前のせいなんだからおまけとは言わないと思う」
賠償とかそういう感じだよな。
まぁうだうだ言っていてもしょうがない。
俺は死んだ。それは事実。思い出せば身体が潰された感覚も蘇ってくる。二度と味わいたくはない。
「まぁ、それでいいよ。どうせ選択肢はないんだろ?」
「ぴんぽーん、異世界に行くか、輪廻転生の輪の中に入り生まれ変わるか、もちろん前世の記憶なんて残らないけどね」
さすがにその選択肢には乗れない。
俺だってまだまだやり残したことがたくさんある。
……死ぬ前に童貞は捨てておきたかった。
「それじゃあ、早速」
「ちょっとまて」
俺は自称神にストップをかけた。
「なにさなにさ、神だって忙しいんだよ?」
「いや、皐月の意見を聞かずに俺だけ行くのはな」
何せ自称神の所為で一蓮托生で死んだのだ。
異世界行くならば一緒にと言うのが世の常だろう。なんせ親友だしな。
「あーはいはい、うん、おっけー。皐月くんも異世界行きでオーケーだって」
「……本当かよ」
「皐月くんが起きて話をしている時の自分に聞いたから間違いないよ」
「あーもういいや、お前と話してるのは疲れる」
皐月が一緒ならそれでいいし、違ったら違ったでそれも仕方がない。割り切ろう。
「ほいじゃ、頑張ってねーん」
近所に遊びに行くように、軽い感じで自称神に、異世界へと送られた。
ーーーーーー
再び目を覚ます。
誰かの声が聞こえる。身体もゆすられてる?なんか弱々しいくゆすられてる気がする。
「ーーい!ーーけい!」
これは……皐月?
ガバッと起き上がり、目を覚ます。
すると、俺の上に乗って俺を揺すっていたそれが、コロコロと草原に転がっていく。
一面に広がる草原。透き通るような青い空。
なるほど、確かに俺たちが住んでいた街の近くにこんな場所はなかった。
自称神の言うことが正しければ、ここは異世界なのだろう。
ソプラノの高い声が俺の名前を呼ぶ。
「やっと起きたな、圭」
さっき転がっていたそれに目をやる。
銀髪の長い髪。パッチリとした目元、ふっくらとした唇に、愛くるしい小顔。
背はそんなに大きく無いだろう、140cmぐらいか?
だけど出ているところはしっかり出ている。
そんな美少女が俺を起こしていたようだった。
こんな美少女に心当たりはないので、俺は普通に尋ねた。
「……あんた誰だ?」
「わかれよ!皐月だよ!」
「はぁ?」
どうやらこの子の言うことに間違いが無ければ。
俺の親友は女の子になってしまったらしい。