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第72話:梟の眼

鄴に忍び込んだ焔陣営。そこで袁紹軍の暴虐を直に確かめる。


袁紹を撃退してから数日後、我ら焔陣営は冀州にいた。完膚なきまでに叩きのめされて大敗退した袁紹軍の動向を調べることが北郷が我らに与えた使命。


奴の本拠である鄴にて我らは旅商人を偽り、城門を護る衛兵に賄賂を渡して難なく内部に入ることが叶い、商売をしつつ俺は街を調べていた。


「そのガキをこっちに渡せ‼︎」

「父様ぁ⁉︎母様ぁ⁉︎」

「お願いです‼︎倅はまだ7つなんです‼︎」

「うるせぇ‼︎渡せっつってんだ‼︎」

「そんな無茶です⁉︎これを持っていかれたら生活できません⁉︎」

「黙れ‼︎おい‼︎こいつとこいつの一家全員の首を刎ねろ‼︎俺らに歯向かった見せしめだ‼︎」


目の前に広がる光景を黙って本を見ながら伺っていた。

先程から袁紹軍の兵士が民から非常に過度な搾取をしており、まだ幼い子供を徴兵していったり、最後の食料を持っていかないように頼んだ民の首を刎ねたりと、混乱の坩堝になっていた。


袁紹軍の徴兵制度は事前に掴んでいた。


袁紹軍は更に徴兵の幅を広めており、下は6歳で上は80歳。とても兵士として使える筈もなく、脱走しないように家族を人質にして戦いを強要しているのだ。

そうしていると布を顔に巻き、手元を隠した女が陳列している品を見はじめる。


「いらっしゃい」

「この本はなにかしら?」

「調理本だよ。買うかい?」

「ふ〜ん……いくら?」

「新刊なんでねぇ……30銭だよ」

「少し高いわね……いらないわ」


そういいながら女は手にしていた本を俺に渡して帰っていく。


「……………」


回りが誰もこちらを見ていないことを伺いながら俺は返された本の裏表紙に挟まれた‘‘1枚の紙”をひっそりと取り出し、読んでいた本で隠して内容を読む。


先程の女は俺の部下である王甫だ。奴は一般人として街に紛れ込み、あちこちから情報を集めているのだ。


王甫の他にも周倉は兵士に紛れ込み、趙累は侍女、劉封は旅芸人として諜報活動に専念している。むろん2日後に鄴から抜け出す計画であり、郊外にある廃墟にて合流する予定だ。


これまで分かっている情報は幾つもある。


周倉からのものは攻城兵器の増産で、予算削減で質の悪い兵器が次々と休みなく作らされており、強制労働として連れて来られた民は2日で休息は4半刻でろくに食事も採らされていない。


趙累からは城内の様子だ。袁紹は民から搾取した税を湯水の如く使い、王室でしか食べることが許されない料理で毎日のように宴を開き、民が食べる筈であった食物を自分のものとしている。


劉封は袁紹に媚を売る商人から聞き出したもの。

これによれば袁紹は奴隷商人と結託しており、各地で攫って来た人間を購入していって自軍の盾代わりや人道を一切無視した過度な労働で酷使している。

中には余興で柱に縛り付けて弓の的にしているらしい。


そして王甫からの報告は城門付近で入手したものだ。

どうやら漢室から物々しい武装した護衛に護られた使者が来て袁紹に謁見をしにきたが、1刻後に首を刎ねられた状態で城門に吊るされていたらしい。

しかも首を失った亡骸は同じように首が無くなった馬と共に門前に積み重ねられている。


これまでに使者は3人きているが、全員が鄴を脱したという情報はない。恐らく奴に殺されたのだろう。


そんな報告を見ているといきなり本を踏み付けた足が視界に飛び込んで来た。それを横目で伺っていると足の主は袁紹軍兵士だ。


「貴様……ここでなにをしている?」

「……見ての通り本を売っているが?」

「誰の許可を得て商売をしてるんだ?」

「ここは公共の場所な筈だ」

「んなことは知らねえんだよ‼︎」


兵士は踏み付けていた本を蹴り飛ばし、五銖銭が入った壺も蹴った。


「貴様も若いみてぇだな………ここで商売した罰だ。貴様も兵士として袁紹様に忠誠を誓え」

「………俺は他国から来た商人だ。ここの徴兵制度には適応されない筈だぞ」

「あぁん?……俺様に指図するってのか?俺様に掛かれば貴様なんぞすぐ殺せるんだぞ?」

「はぁ………いいだろう。詳しい話を聞きたいから後ろで話さないか?」

「ふん‼︎いいだろう‼︎」


そういいながら俺は兵士を連れて路地裏へと移動し、誰も見ていない中央辺りに到達したら懐から峨眉刺をゆっくりと取り出す。


「おい‼︎どこまで行く気だ……ぐぼっ⁉︎」


敵が俺の肩を掴んだ瞬間、一気に振り向いて喉に峨眉刺を突き刺した。そのまま痛みを与えつつ更に深く抉り、やがて敵兵は白目を剥きながら絶命。

そのまま敵の亡骸を木箱の影に隠し、何事もなかったような振る舞いで元いた場所に戻る。


「………この場所は潮時だな」


小声でそういうと数字の参と表紙に書いた石をその場に残し、荷物を纏めて移動する。

これは部下達に俺の居場所を示したやり方であり、参の場合は鄴の西側にある市街地にいることを表す。

壱はいまいる場所を指し、仁は西門前。四は活動が発覚した際の脱出を意味している。


俺は荷物を纏めると怪しまれないように市街地へと向かう。


翌日、俺たちは‘‘ある情報”を入手してすぐに徐州へと帰還した。その内容は………。












……………袁紹が帝を僭称した。


袁紹による帝僭称。漢全体を揺るがすには充分過ぎる暴挙だ。漢を蝕む獅子身中の虫に屈する訳がなく、曹操からの勅に一刀達も準備を急ぐ。


次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”

[討伐遠征軍出陣]

袁紹を駆逐する為に御遣いの軍が出陣する。


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