第54話:二つの天
帝に会う為に玉座へと向かう一刀。帝の印象に一刀は驚愕する。
陽人の乱が終結してから4日。洛陽に避難所へ避難していた民が次々と戻って来ていた。
俺達が護衛を務めながら混乱に乗じて悪事に働く賊や偉そうにふんぞり返って民から搾取しようとする袁紹軍兵士を返り討ちにしつつ、民の生活を元に戻す復興活動に全力を注いでいた。
そんな状況で孫策の兵士から手紙を預かったのだ。
内容は‘‘洛陽城に来られよ。天子が対面を望んでいる”だ。
そういえば近い内に帝がいる玉座にて今回の争乱に関する報告と論功行賞が授与されると言っていたと記憶している。
俺は別に論功行賞や地位なんかには興味ないけれど帝こと劉協がどんな人物なのかは興味がある。俺は‘‘ある物”を手にして桃香を連れて直ぐに劉協の処へと向かった。
「は……初めまして陛下……ひ…ひぇいげん相をしています劉備 玄徳でしゅ‼︎」
「陛下、お目通りが叶い光栄です。平原の相の傍、北郷 一刀と申します」
うろ覚えの時代劇を真似て自己紹介をする俺と緊張し過ぎて所々で噛んでしまっている桃香。
真ん中の玉座に座っている眩い金ぴかの服装をした俺と同い年位の青年で、その右側には鬱陶しい袁紹が腕を組んでこちらを見下ろしており、俺達の左右には孫策や曹操達が控えていた。
「よく来ました……朕は漢王朝の献帝、劉 伯和です。貴公は天帝より遣わされた使者であると予言された者と聞いていますが、真でしょうか?」
やっぱりあの人が皇帝か。それにしても、皇帝の耳にまでその噂が入ってるとは……。
劉協の印象は非常に穏やかで礼儀正しい。しかし慈悲に満ち過ぎていて何だか過保護となってしまいそうな感じだ。
若干の抵抗を感じながらも俺が応答しようとした時、皇帝の脇にいた袁紹が声をあげた。
「陛下、騙されてはなりませんわ。予言などただのまやかし、どこの馬の骨とも知れぬような下賤の輩にお声をかける必要はありませんですことよ」
相変わらず腹が立つ。本来ならば帝の傍にたつなど無礼が過ぎる行為な上に今は劉協に背中を向けている状態だ。
そんな状況に声をあげたのが劉協だった。
「貴女に発言を許可しておりません。今はそこにいる御遣いと話しているのです。それまで暫く黙っていなさい‼︎」
突然、皇帝の怒声が響いた。袁紹も予想していなかったようで、目を白黒させながらも引き下がった。
「すみません……この者の言葉に気にせず先の質問に答えられよ。天の御遣いで相違ないですか?」
「………正直なところ私自身でもわかりかねます。確かに私は御遣いと呼ばれておりますし、予言に当てはまっていたのも事実です」
「確かに……」
「私がこの世界に来た理由は全く分かりかねます。元のいた世界にて武芸を磨いていた矢先に誤って滝に落ち、気がつけば幽州の荒野におり、こちらにいる劉備 玄徳に救われたのであります」
「劉備か………そなたももしや‘‘中山靖王”劉勝の末裔ですね?」
「は……はい‼︎」
「それから私は彼女と関羽、張飛の4人で義兄妹となり、義勇軍を結成し、黄巾討伐や今回の反董卓連合にて武を振るい、いままさにここにいます。確かに巷では私が御遣いとされておりますが、私自身は御遣いと感じたことは抵抗があります」
話が終わると、袁紹が得意気になって話し始めた。
「陛下、これでおわかりになりましたわね? この者は天の御遣いを僭称する、不埒な下衆でしかありませんわ」
蔑んだような目つきで睨み付けてくる袁紹。証拠も無しに信じろってのも無理がある。
だが、皇帝の反応は意外なものだった。
「……予言にあてはまっておるのなら、それで十分ではありませんか?」
「えっ?」
「この者は二度の戦いで大きな戦果をあげています。黄巾によって荒れ果てておった平原も治安を取り戻し、この洛陽に劣らない程の賑わいを見せていると聞いています。この才覚は並みのものではないでしょう。何よりも民達に受け入れられているのです」
「へ、陛下……? なな、何を仰っているんですの………?」
袁紹はうろたえたが、皇帝はそれを無視する。
「それにこの服を見ても、異界のものであることは一目瞭然です。我が国はおろか羅馬でさえ、これほど精巧で白く輝く繊維は作ることは出来ないでしょう」
「し、しかし、陛下………」
「くどいぞ、袁紹。天帝より政を託されておる朕が、天の遣いと認めると言うておるのだ。よもや異論があるとは言わせぬぞ」
なおも食い下がろうとする袁紹だが、口調が厳しくなっている皇帝の言葉の前に意気消沈してしまったようだ。
「疑って申し訳ありません、北郷」
「身に余る御言葉ですが………信じていただけるのですか? こんな荒唐無稽な話を?」
「うむ、朕は貴公が天の御遣いであると認めます。そして何よりも貴殿の眼が真を示しています。真っ直ぐで透き通るように輝く瞳など偽りがないという証です」
この人の度量に俺を含めた全員が唖然となる。よほどの楽天家なのか、さもなくば真性のアホなのか?
「今はちょうど行賞を行なっていた処です。ですから2人にも行賞を行ないましょう…….まずは劉備」
「は……はい‼︎」
「貴女には徐州牧の地位を与えると共に中山靖王の子孫と認め、陛下の義姉となす」
「ほ……本当ですか⁉︎」
「えぇ……貴女のような心優しい方が義姉ならば私も嬉しい限りです」
「あ……ありがとうございます‼︎」
「次に北郷よ」
「はっ」
「貴公の行賞を行う。そなたには天の御遣いであると認め、同時に鎮東将軍の地位を与え隣の劉備 玄徳を支える刃とします」
鎮東将軍という地位に俺は言葉を失った。鎮東将軍とはつまり漢の東側を司る四征将軍に次ぐ地位であり、この地位に就けたのは毋丘倹と趙雲しかいない。
唖然となっている俺に気にせず帝は続けて言葉を放つ。
「加えてそなた等には何か別に褒美を授けましょう。朕に出来ることならば何なりと申して下さい」
「よ……宜しいのでしょうか?」
「はい、金子でも宝物でも構いません。優秀な将兵を望むのであれば惜しみません」
「………では私から望む褒美は一つのみです」
そういいながら俺は持ってきた物を帝に見せる。それは3つの竹簡だが只の竹簡ではない。
「この場を借り、上奏奉ります」
「上奏………そのような褒美でいいのですか?」
「私に地位や名声、富などに興味はありません。願うのは民の安泰と真相……」
「真相とな………して…それには何が書いているのでしょう?」
「単刀直入に申し上げます。こちらに記されたのはそこにいる袁紹が起こした汚職や民に対する圧政、更には忌々しい十常侍と結託し、剰え不要な戦を引き起こして民の生活を脅かした罪状の真実となります」
俺が持ってきた竹簡とは袁紹の罪状をしるしたものだ。刹那達焔陣営の内部調査で露わになった証拠に加えて孫策と曹操が提供した証拠も含まれ、量でいえば王叡の犯した罪が少なく思える位だ。
俺がそれを帝に渡そうとすると張本人である袁紹は声をあげた。
「へ……陛下‼︎この下賤な輩は嘘を言って私を陥れようとしているのですわ‼︎そのような虚言を信じず今すぐこのゴミの首を刎ねるべ「黙れ袁紹‼︎」ひぃっ⁉︎」
「先程から後ろで騒ぐでない‼︎貴様は暫し口を閉じておれ‼︎」
今までで一番の怒声を出した劉協にひるんだ袁紹。そんなことは構わず俺から渡された竹簡に目を通し始める。
「……なるほど。噂には聞いていたがこれほど酷いとはな。税は通常の20倍。必要外の過酷な労役。物品の横流しに始まり、挙句の果ては罪無き者たちを囚人とし、その彼らに殺し合いをさせて、それを見物。それには飽き足らず捕らえた捕虜に対する虐殺……あきれ果ててものが言えぬわ」
憤怒、憎悪、そして、嫌悪。
それらの入り混じった表情で袁紹を睨み付ける劉協。
「そ……そのようなことはすべて身に覚えのないことです‼︎でっち上げに決まっております‼︎」
「……おまけに、往生際も悪いときたか……衛兵‼︎」
「「はっ‼︎」」
「この者を速やかにつまみ出せ‼︎」
「「御意‼︎」」
劉協が命令すると2m近くある屈強な体格をしている2人の兵士が衛兵の腕を掴んで連れて行く。
「な……何をしますの⁉︎離しなさいな⁉︎汚ない手で私に触れたら汚れてしまいますわ⁉︎」
「袁紹……貴様に処罰を申し付ける。大将軍就任は取り消し。加えて貴様の地位及び領土、財産など全て1年以内に剥奪し、然る後に棒打ち1000を行なう。命を取らぬだけありがたいと思うがよい」
「そ……そんな⁉︎陛下⁉︎」
「連れてゆけ。そのような者の顔などもう拝みたくはない」
劉協の無慈悲な命令に袁紹は再審を求める叫びを上げながら連れて行かれる。
暫くしてから袁紹の声が聞こえなくなり、玉座は静まりかえった。
「北郷よ……そなたの忠義と悪を許さない義心に感謝します」
「とんでもありません。わたしこそ正当な裁きを下してくださりありがとうございます」
「朕も彼奴の悪行を裁く機会を伺っておりましたが、そなたのお陰で達成することが出来ました……本当に感謝いたします」
「陛下……」
「今夜は宴を開きましょう。戦で散った者達の分まで賑わい、ここにいる者達の配下の将も連れて来て構いません。因みに拒否は認めません」
『御意‼︎』
その日の晩、洛陽城の大宴会場にて盛大に宴が行なわれた。俺達は劉協に気に入られたことで注目の的となり、一週間後にようやく平原へと帰還した。
この戦いははっきりいえば戯言であったが、ライルさん達の計らいで新しく仲間となった張遼こと霞、華雄こと嵐、更には呂布こと恋に陳宮ことネネ。
更に賈詡こと詠に加えて無事に保護した董卓こと月が俺達の新しい家族となる。
袁紹を失脚させれたことで俺達は名声だけではなく武功や兵力を大幅に高められ、目的を予想以上に達成させることに成功した……………。
無事に目的を達成させた一刀達は次の赴任地である徐州へ向かい、仕事に励む。
その中で愛紗の様子がおかしいと感じた一刀は彼女に問いかける。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[軍神の葛藤]
悩める軍神に優しい光が灯る。