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第34話:仁愛

仁徳の王と天の御遣い。互いに相手へ気持ちを伝える。



王叡の狂気に満ちた宴から静観して1日が経過した。

あれから王叡の一族を徹底的に洗いざらい調べたが、今の地位は宦官に賄賂を渡して入手した地位であり、その金額は徐州の民が納める税金の10ヶ月分に相当することが分かった。加えて民に重税に続く重税では飽き足らず、民を無実の罪で捕らえてローマのコロッセオみたいな場所で殺し合いをさせて賭けをしていたというのも分かった。


この時代なら確かに武闘会が存在して戦わせることはあるけれど、それはあくまで個人が修行の一環として参加するもの。

それを賭け事の対象にして無理やり戦わせるなんて非道の極みだ。


俺達はその日の内に劉天牙隊と泰山隊、更には新しく仲間になった刹那率いる焔陣営を導入し、関係者を一斉摘発。余罪を追及させて軽かった場合は私財没収と大幅降格。

重かった場合はやりたくは無いが斬首に処した。既に王叡の側近は逃げ出そうとして焔陣営に抹殺され、それに付き従っていた私兵達は保身の為に降伏してきている。


しかしそんな状態では気が気ではない。そこで桃香は俺達の無事を讃えて細やかな宴会を催すことを決定させた。

俺達も最初は断ったが今後の激務に備えることと桃香がどうしてもと言うので止む無く容認した。


そして晩になって朱里や雛里の手料理に加えて泰山隊からの差し入れ、噂を聞き付けた民達からの献上でそこそこ賑わいを見せた。

そして続いた宴会は深夜になってようやく終わり、それぞれが自身の部屋に戻って眠りにつく。

しかし俺は…………。


「えへへぇ〜………ご〜しゅじ〜んしゃま〜……ヒック♪」

「あ〜…はいはい、俺はここだからそんなにくっつかない」

「え〜……や〜だよぉ〜……もっとくっつく〜」


桃香の自室にて完全に出来上がっている桃香にくっつかれていた。


「はぁ………今日の桃香……なんだかおかしかったよ?」

「ほぇ?」

「みんなの苦労を労うのは……まぁ分かるけど……いくら何でも唐突過ぎるし、普段はあまり酒を飲まないってのにこんなに酔っ払って……」

「べっつに〜……酔ってなんかないも〜ん♪ヒック♪」


完全に酔っているよね?


「しょれに〜……最近ご主人しゃま、あんまり構ってくれにゃかったから寂しかったんだもん」

「寂しかったって……」


その言葉に何だか心が痛くなった。確かによく考えたら桃香とコミュニケーションをとるのって何だか久しぶりだ。

今までずっと徐州牧としての仕事や賊の討伐なんかで忙しかったし、何よりも昨日が昨日だ。更に昨晩のあの事件に頭を過ぎった桃香の笑顔。そう考えると何だか恥ずかしくなって来てその場から立ち上がろうとする。


「も……もう遅いし…明日から仕事だからゆっくり休まなきゃ………」


そう言って立ち上がろうとするが、それは叶わなかった。袖を桃香が顔を俯かせながら両手でしっかり握り、俺が立ち去ろうのを防いでいた。

それが何と無く沈黙を生み、やがて俺は状況を確認するように桃香に話しかけようとする。


「………………」

「……………やだ」

「と……桃……香?」

「やだ………行っちゃやだ……」


桃香は袖を掴む力をギュッと強める。振り払えば噛んだんだが彼女の悲しそうな声がそれを許さなかった。


「私ね………寂しかったんだよ……ご主人様もずっと忙しそうで……」

「桃香………」

「心配だって……したんだから………ご主人様が王叡さんに襲われたって聞いて……居ても立ってもいられなかったんだから……」

「…………ごめん」

「謝らないで………分かってるつもりだよ……ご主人様も民の為に一生懸命なんだって……仕方無いことなんだって……」

「……………桃香」

「私も……牧になったんだからしっかりしなきゃ駄目だって分かってるのに……」

「……桃香」

「けど……私のこと……少しでも見て欲しい……」

「桃香‼︎‼︎」


桃香の声に辛くなり、俺は掴まっている桃香の手を思いっきり引っ張って彼女を抱き締める。逃げられない位にギュッとだ。


「ごめん……桃香。桃香の気持ちも考えないで….…心配ばっか掛けちゃって……」

「………本当だよ……」

「俺も……実は桃香ともっと一緒にいたかった……それなのに……」


俺は顔を埋める桃香の髪を優しく撫でながらゆっくり、だが確実に届くように話かける。


「俺は……ずっと自分の気持ちに背を向けていたよ………桃香達と暮らしていく中で、俺の心に生まれる俺自身の気持ちに…….…」

「ご主人様………」

「だから……いまここで打ち明けたい……」


桃香を抱き締めている間に、心の中にあったモヤモヤが何なのかようやく気が付いた。

寝ぼけた桃香にキスされた時……。

韓忠との一騎打ちにて桃香の言葉に嬉しさを感じた時……。

そして昨日の桃香の笑顔……。


俺はようやく気が付いた。俺はこのどうしようも無い位に優しくて明るい女の子を……。


「俺は……君が好きだ……」


……愛してる。


「俺は……君を愛してる………あの荒野で初めて会った時から……ずっと……君が好きだ……」


俺は自身の全ての気持ちを桃香に伝える。今まで女の子に告白されたことは何度もあった。しかし自分から告白するというのは今まで無かった。

こんなにも勇気がいるとはとても思えず、もし断わられたりでもしたらどうしようという不安がのし掛かる。

しかし桃香は両手を背中に回し、俺により密着できるように強く抱き締め返して来る。


「……私も……私も……ご主人様が好き……」

「……………」

「ご主人様のこと考えると……いつも頭から離れなくなっちゃう……それで気が付いちゃったんだよ……これが恋なんだって……」

「桃香………」

「ご主人様………」


俺達は見つめあい、桃香の嬉しさのあまりに流している涙をそっと拭うと俺の左手を握ると目を閉じた。

もう迷うことはない。左手を握り返し、右手を彼女の背中にゆっくりと回すと同じように目を閉じ、そのまま引き寄せて彼女の唇に自分の唇を重ねた…………。


ただ触れ合うだけのキスだ。だけど心の底から満たされていく喜びを感じ、気が付けば俺達は寝台にて何度も愛し合っていた………。




黄巾の乱が起きる半年ほど前、会稽にて独裁者厳白虎の式典が行なわれていた。

町中が独裁の声に靡く中、黒の服装を身に纏った男が立ち塞がる。取り押さえるべく兵が立ち塞がるが次々と倒れ………。


次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”

番外編[焔陣営]

暗殺者の刃が独裁を裁く。


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