第31話:月夜の交わり
一刀と高順。2人の光陰がぶつかり合う。
目的の灯篭を見つけ出して合図を送ろうとしたのも束の間、城壁に取り付いた瞬間に襲い掛かって来た高順。
俺は神龍双牙を構え、鋒を高順に向けつつゆっくりと横に移動する。
そして数歩だけ移動した瞬間、高順が双鉤の偃月にて石畳を削りながら駆け出して来た。そして俺のすぐ前に到達すると双鉤の片方を振り上げ、反動を利用して一回転しながらもう片方で薙ぎ払う。
それを弾き返すともう一回転しながら振り下ろして俺に受け止めさせるとその場から飛び上がり、素早く剣を交差させて斬る。
それも受け止めて高順を蹴り飛ばして距離を稼ぐと今度はこっちの番だ。
俺は神龍双牙を納刀して両手を柄に添えると縮地抜刀を掛ける。
だが高順は空中で二つの剣の先端を連結させ、大振りし180度広範囲に斬り付けてきた。流石に予想していなかったので途中でブレーキをかけて間一髪のところで後方に飛び上がって回避。そして互いに着地すると再び睨み合いに発展した。
「………………」
「流石は焔陣営の頭領……剣舞に全くの無駄がない」
「………………」
「黙ってないで何か話してくれないか?なんで奴等に協力する?」
「…………仕事だからだ」
ようやく言葉を発した高順。意外にも透き通った男の声であり、トーンから察するに俺より少し年上くらいか志義と同じ年くらいだろう。
「………………」
「あんた………なんでその力を正しい道に使わないんだ?」
「………………」
「あんたの心は刃を通して感じた。それに微かに見えた目は腐り切った悪人のものじゃない」
「………言うと思うか?」
「そうだろうさ。だけど………俺はこんな場所で終わるつもりはない。あんたを倒して先に進ませてもらうよ‼︎」
それだけ言うと俺は神龍双牙を連結させて天龍斬爪にして北郷流二刀心眼術四の太刀“三日月”を放つ。
本来は多方面だが一点に斬撃を集中させることも可能であり、三日月状の氣が高順に襲いかかる。
しかし高順は高く飛び上がって全て回避し、外れた氣は壁の一部を木っ端微塵に吹き飛ばして辺り一面に破片を撒き散らす。
それを確認したら俺も飛び上がって神龍双牙に分裂させてから高順の双鉤に刃をすれ違い様にぶつける。
そして同時に着地するとまた同時に地面を強く蹴り出して互いに斬りかかる。
下にて甲牙が敵とやりあっている掛け声が聞こえる中、城壁では4本の刃がぶつかり合う独特の金属音が鳴り響く。
そして40合目に差し掛かった時に高順のなぎ払いをかわして肩で体当たりをして態勢を崩させる。
そこから活路を見出す筈だったが、高順は双鉤を地面に引っ掛けてブレーキを掛けると飛び蹴りを繰り出してきた。
「ちぃ‼︎」
「‼︎」
高順は双鉤を引き抜く際に石畳のブロックを一つ俺に投げ付けてくるが、そんなの目隠しにもならない。
飛んで来るブロックを切り裂くと身体を回転させながら斬り掛かって来た高順の攻撃を受け止めた。そして暫く力比べとなるが、すぐに双鉤の切れ筋を逸らして薙ぎ払う。
だが高順は見張り台の柱に飛び付くと、そのまま一気に俺の方に飛び込むように来た。
「これで………終わりだ」
一気に勝負を付けるつもりだろうが、俺は双鉤の鋒が届く直前に一瞬の隙を突いて奴の懐に飛び込み、そのまま脇腹に蹴りを入れた。
蹴りを入れられたことで高順は城壁に身体を叩きつけられてしまう。
「がはっ……」
「まだまだ‼︎」
更に追い打ちで飛び蹴りを食らわし、そこから蹴りの連打だ。そして地面に着地すると天を構えて再び一気に蹴り出した。
「これでフィニッシュだ‼︎」
「ぐほぉ……」
天の刀身が高順の身体にめり込み、奴の口から血が吐き出され、奴から離れるとそのままゆっくりと崩れ落ちるように落下。
それを確認したら俺は天を鞘に納刀し、ゆっくりと奴に歩み寄った。普通なら死んでいるだろうが、まだ生きている。
そして力いっぱいで俺に視線を向けると途絶え途絶えの状態ど問いかけて来た。
「な……なぜ……なぜ………トドメを刺さない……?」
「あんたは悪人じゃない……俺に悪人じゃない奴を斬る刃はないよ」
「なにをバカなことを………お……俺は…」
「確かにあんたは俺を殺そうとした……だけどそれは仕事だったからだ。別に快楽や私利私欲の為なんかじゃない。それに……」
「……………」
「伝わって来たよ………あんたの心が……仲間を想う心がね……」
「………俺は……仲間……」
「……あんたみたいな素晴らしい人間は…そうはいないよ……」
それを言った直後に高順は気を失い、壁にもたれかかりながら意識を手放した。
すぐに俺は灯篭に駆け寄り、近くにあった松明に火を込めた。その瞬間に灯篭が力強く燃え出し、城外から合図を確認した仲間達が声を発しながら前進を開始した。
「よし……後はみんなと合流して王叡を討ち取るだけだ……」
役目を一つ終わらせた俺は神龍双牙を抜刀し、下で戦っている甲牙と合流するために城壁にくら中庭に飛び降りた……………。
その直後、意識を失っていた高順に誰かが歩み寄り、頬を軽く叩いて意識を確認していた。
「高順様……高順様……」
「うっ………あっ……」
「高順様……」
「し……周倉に…王甫……か…」
「立てますか?」
「大事はない………思った…よりも………傷は深くない……」
「高順様………奴が規範を破りました」
「………そうか……」
「どうされますか?」
「………………」
高順は暫く考える。そして考えに至ったようであり、双鉤を手にふらつきながらも立ち上がった。
「………全員を集めろ……いまこそ‘‘月夜が交わる時”だ……」
「「………御意‼︎」」
そういうと周倉と王甫という2人の部下は音もなくその場から消えた。
‘‘月夜が交わる時”
その意味はもうじきでわかることとなる……………。
合図を確認した劉備軍本隊。愛紗達を先頭に敵陣へと突撃が開始された。王叡の罠を突破して奴に報復するため、一刀も武を奮う。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[策を覆せ]
王叡の抵抗に一刀達が鉄槌を下す。