第19話:英傑
黄巾党討伐軍に合流した一刀。そこで漢の伝説的武将と出会う。
曹操の許昌に駐留していた俺達。本当に束の間の休息を過ごしていた中、最後の3日目で慌ただしくなった。
集められた俺達は曹操に集められ、その内容をすぐに理解した。
朝廷から訪れた使者が勅命を提示してきたのだ。
内容としては‘‘黄巾党の首領である張角の居場所を突き止め、各地で鎮圧にあたっている諸侯と義勇軍は速やかに集結せよ”というものだ。
場所は冀州鉅鹿。今は後に‘‘華北の雄”と称される袁紹が治めている地域であり、本当なら袁紹が見つけなければならないはず。
しかし勅命が出た以上は従わない場合は反逆と見なされる。俺達はすぐに軍備を纏めて曹操軍とともに冀州鉅鹿へと向かった。
「うわ〜……凄い光景だね」
「はい、全くもって壮観です」
愛紗と桃香、更には俺達も圧巻する。それもそうだ。集結地点には様々な陣営の牙門旗。
「向こうにあるのは………揚州の孫策に袁紹の従姉妹の袁術」
「荊州の劉表に西涼の馬騰、あっちは孔融に韓嵩……本当に凄い光景ね」
辺りを見渡すが本当に凄い光景だ。辺りを見ると孫策や馬騰、袁術。
更には紫の官軍らしき軍勢には皇甫嵩や王允、大将軍である何進の牙門旗も見て取れた。
後々の英傑や悪党も続々と到着していき、恐らくは何十万にも兵力が増強されるだろう。俺達は充てがわれた場所に陣地を構築し、大本営で行なわれる軍議に向かっていた。
「ねぇご主人様?」
「なっ………なに?」
「あのね?もうすぐで戦が終わるよね?」
「あっ……う…うん……」
桃香がいつもの無垢な笑みで俺の顔を覗き込む。それに対して俺は何だか恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら視線を逸らして返答する。
自分の顔を見ずに話す俺に対して不満なのか、頬を膨らませながら俺の右腕に抱きついてきて抗議し始める。
「むぅ〜‼︎ご主人様ぁ〜ちゃんと私の顔を見て話してよ‼︎」
「えっ⁉︎ち…ちゃんと見てるよ‼︎」
「嘘だもん‼︎だって今も目を逸らして答えてるじゃない‼︎」
「ちょっ⁉︎ほ…ほら‼︎ちゃんと見てるよ⁉︎」
はたから見たら恋人同士がイチャついているようにしか見えない光景だろうけど、俺は恥ずかしすぎる。
俺と桃香が話をしていると不意に背後から気配を感じた。
「ふふっ、若いな」
そう言われて振り向くとそこにいたのは白髪に白ひげ、俺より少し小柄だが体格はしっかりとしている官軍の武官用の制服を身に付けた初老だ。
「失礼だが、そなたが御遣いと言われている青年か?」
「あっ……はい…一応は……」
「拙者は今回の討伐軍を率いておる将の一人の性は皇甫、名を嵩。字は義真と申す者」
皇甫 嵩とは………確か伝説的な左車騎将軍で、広宗で張角の弟張梁を討つと病死していた張角の棺を壊して首を洛陽へ送った人物でった筈だ。俺は慌てて桃香を放して礼をして挨拶をする。
「失礼しました。俺は劉備義勇軍の性は北郷で名は一刀。字はありません」
「は…初めまして‼︎劉備っていいます‼︎」
「ふ……噂には聞いていたが、白く輝く衣か……天より参ったということも頷ける」
「す…すみません……勝手に天なんか名乗ってしまって……」
「別に気にしてはおらぬよ。民が望む希望ならばそれもまた天。天下は一つのみではないということよ………しかしお主達は仲がよいな。まるで恋仲の男女に思えたぞ」
髭を触りながら皇甫 嵩は俺達の先程までの行動を見ていたと暴露し、桃香は‘‘えへへ〜♪”と照れて、俺は顔を赤くしながら思わず背けてしまう。
するとほのぼのとしていた皇甫さんの表情が瞬く間に真剣なものとなった。
「北郷殿、貴殿に一つ聞きたい……お主はこの戦をどう思う?」
「えっ?」
「この戦は確かに黄巾軍が引き起こした内乱。我ら官軍から見ても許し難い反逆であり、倒さなければならぬ敵だ………だがお主は違う考えを持っていると思う。そこでお主の率直な考えを聞かせてはくれぬか?」
「…………それは俺なりに考えてました……確かに黄巾軍は罪の無い人達をただ傷付け、略奪して殺しを楽しんでいる……それは誰であっても許される訳がない……だけど………」
「……………」
「彼等も元々はこの国の民………苦しんで……涙を流した果てに立ち上がった………そしてその苦しむ民を生み出したのが……」
「我ら官軍………か?」
皇甫さんの言葉に俺は小さく頷く。本当ならばこんな発言は官軍にとって謀反のような発言であり、斬首されても文句は言えないのだ。
だが黄巾軍を生み出したのは何を隠そう、官軍そのものだ。
宦官の跋扈に外戚の専横。それらの腐敗と天変地異に蔓延する疫病。
街を任された役人は自らの私利私欲の為に民から搾取し、危険が迫ると自分達だけで逃げ出して民を見捨てる。そんな自分勝手な官軍に民は怒りを募らせ、その民が民を襲う。
そこから生まれるのは螺旋状となる憎しみの連鎖だ。そしてその全ての根源となるのが漢室の腐敗と辿り着く。
そしてそれを正さなかったら再び黄巾軍のような連中が現れて、平和な世なんて永遠に訪れない。
俺の考えを悟ったのか、皇甫さんは軽く笑いながら俺の肩に手を置いてきた。
「……よい目をしておる。覚悟と決意を秘めたいい眼だ」
「皇甫さん」
「この国を真に導くのはソナタ等若者達の力。老兵はその道標を示すのみだな」
「「……………」」
「だが……出来るならば今の考えは露わにしないでくれんか?兵達に無駄な不安を与えたくはない」
「分かってます」
「すまぬ。では拙者は本幕へと向かう。お主達も軍議に参加されよ」
そういうと威風堂々とした雰囲気を醸し出しながら皇甫さんは何旗が立てられている本幕へと歩いていく。
そんな後姿を俺と桃香は見送りながらようやく口を開いた。
「まだ官軍にもあんな人がいたんだね…」
「あぁ……武人というより………生粋の軍人みたいな印象だな」
「ご主人様もやっぱりああいう人に憧れるの?」
「そりゃあね。国に対して忠義を誓い、民や部下達の為に武を振るう。俺のいた世界にも憧れた人がいるよ」
「へぇ〜……誰なの?」
「俺の従兄弟でね。名前は南郷 武久っていうんだ」
「へぇ〜♪」
「な……なに?」
「ううん♪ご主人様にもそういう憧れてる人がいるって知ることが出来たから嬉しいんだよ♪」
そういいながらまだ誰にも言っていない秘密を知ることが出来た桃香は笑顔で俺の顔を覗き込む。
先程は無意識で話をしていたが、急に恥ずかしさが込み上がって来て思わず目線を逸らしてしまった。
「むぅうううう‼︎ご主人様ってば‼︎また目を逸らした〜‼︎」
「えっ⁉︎ちょっ⁉︎は……離れてよ桃香‼︎」
「ぷんっ‼︎視線あわせてくれるまで離れないもん‼︎」
頬を膨らませながら俺の腕に抱き付いてくる桃香。とうぜん腕が密着していることで彼女の胸が押し当てられている格好となり、桃香のいい香りも加わって余計に恥ずかしかった。
恥ずかしい光景を周囲の人間から冷たい視線で見られながら軍議が執り行われる本幕へと足を運ぶのだった…………。
一刀達が軍議に出ている頃、劉備軍陣地で留守を任された愛紗。相棒である青龍偃月刀を入念に手入れしていると曹操が訪れて来た。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[軍神の義心]
軍神の名を持つ少女。愛しき主への忠義を示す。