第16話:もう一つの義勇軍
泰山にて舞い踊る4匹の龍は、天の御遣いと出会う。
いきなりの暗殺者による暗殺未遂から一夜があけた。夜があけて曹操に焔という一文字が入った苦無を見せたら直ぐに分かった。
これは漢の東部にて暗躍している暗殺集団‘‘焔陣営”と呼ばれる一団のもので、外観的特徴から察して俺を襲ったのはその頭領‘‘高順”。
並外れた武勇と梟の眼を持つとされる夜戦と暗殺の達人で、罠に掛ける能力も有しているらしい。
つまりはあの時に追撃していたら手痛い歓迎を受けていたことになる。
新たな脅威ともなるかもしれない状況だが、俺達は陣地を撤去したら目的地である泰山へと向かった。そして泰山の麓まであと少しという場所で偵察兵の報告が舞い込んできた。
‘‘前方にて所属不明の部隊と黄巾党が交戦中”
その報告を受けて俺と愛紗で急行するのだった。
そして泰山の麓では戦いが繰り広げられていた。
「あぁ〜‼︎‼︎もう‼︎いったい何時になったら終わるの⁉︎」
「へっ‼︎俺はまだまだ暴れ足りねぇぜ‼︎もっと掛かって来な‼︎」
「そうそう‼︎それに戦いはやっぱり刺激がなきゃ面白くないってね‼︎」
「あまり侮るな‼︎雑兵といえどこの数は厄介だ‼︎」
そう叫びながら黄巾党と戦う4人の男女は仕留めていく。桃色のショートヘアで身長よりも長い弓を匠に操り、放たれた弓矢は敵の眉間へと確実に突き刺さる。
全身が引き締まった筋肉で覆われたスキンヘッドの大男は見るからに重量級だと分かる鎖分銅を振り回し、敵を吹き飛ばしたり重量に任せて叩き潰していく。
キザな印象がある銀と黒が混ざったロングヘアの青年は身体中に身に付けた両刃剣、三節棍、大鎌、双剣、手甲、脚甲などの武具を使い分け、臨機応変に敵を確実に仕留める。
そして4人のリーダー格と思われる金髪を束ねてモデルを思わせる黒と赤が混ざった袖のない軽装甲の鎧を身に纏った青年は矛先が青に塗装された槍を手に、縦横無尽に駆け巡る。
だが数がやはり違い過ぎるようであり、徐々に押され始める。
それを見ていた俺と愛紗はすかさず駆け寄り、リーダー格の人の背後から斬り掛かろうとしていた黄巾兵を斬り伏せた。
「えっ⁉︎」
「んなっ⁉︎」
「ヒュー……」
「⁉︎」
「大丈夫ですか?」
4人はいきなりの俺達の乱入により唖然としていたが、気にせず神龍双牙と青龍偃月刀を構え直す。助けた青年も槍を構え直し、矛先を敵に向けた。
「………助太刀…感謝する」
「礼と自己紹介は後回しです。まずはこの獣達を排除します。愛紗」
「御意‼︎はあぁああああああ‼︎‼︎」
愛紗に視線を送るとそのまま敵に突っ込む。青龍偃月刀とは本来は扱いが非常に難しいとされた長柄武器とされ、俺がいた世界でも残ってはいるけど美術品や武舞にしか目にしない。
愛紗が敵を吹き飛ばしている中、俺も構えて突撃の姿勢を整えた。
それに勇気付けられたのか、先程の4人も力を振り絞り、俺たちに負けず劣らない武勇を発揮。
更には後続として鈴々や朱里達主力も到着し、数や練度など全てで劣る黄巾党は瞬く間に壊滅していった。
そして約30分後、黄巾党を殲滅した俺達は先程の軍勢と対峙していた。
「救援、感謝する。貴殿達の救援が無ければどうなっていたことか………」
「いえ………皆さんが無事で本当によかったです」
「自己紹介をさせて頂く。私はこの‘‘泰山義勇軍”を率いている性は臧、名を覇。字は宣高。一応は軍を率いている」
「臧覇といえば………あの水龍か?」
「愛紗、その水龍って?」
「はい、泰山を活動の拠点とし、力無き民を賊から護り抜く水を得た龍のように猛る武勇を秘めた武人がいると聞いたことがありまし。それは別名‘‘泰山の水龍”と呼ばれています」
泰山の水龍か………確かにさっきの槍捌きを見る限りまさしく猛る龍みたいだったし、手にしている槍も水みたいなカラーリングをしている。
「臧覇………俺は劉備義勇軍指導者の劉 玄徳が懐刀の北郷 一刀」
「我が名は関羽。字を雲長。我が主の北郷 一刀様と劉 玄徳様が偃月刀」
「北郷 一刀といえば‘‘天の御遣い”か?」
「ま……まぁ………一応はそう通ってるけど………どこまで知られてるんですか?」
「あぁ………君の噂は泰山にまで轟いてるよ。将兵を自身の手足のように巧みに操り、様々な兵法に精通し、武術や体術も他者を寄せ付けない。更には妖術も操る天から舞い降りた乱世を終わらす存在だって」
………なんだよ……その噂……。武術や体術ならまだ分かるけどなんで妖術まで扱えるんだ?しかもどこの救世主だよ?
そして頼むから愛紗………そんな尊敬と純粋な眼を煌めかせながらこっちを見ないで欲しい。可愛すぎて思わず抱き締めたくなっちゃうよ……。
「そんでもってこの俺様が‘‘戦神”こと呉敦だ。よろしくな関羽殿♪」
「は……はぁ……」
「色目つかうんじゃ無いわよ口軽‼︎………馬鹿は放っておいて、私は孫観 仲台♪みんなからは‘‘瞬龍”って呼ばれてるわ♪宜しくね♪」
「助かったぜ旦那‼︎俺は尹礼ってんでさぁ‼︎ダチからは‘‘轟龍”って呼ばれてまさぁ‼︎」
臧覇、尹礼、呉敦、孫観。やっぱり呂布隊の主力だった。だけど最初はてっきり臧覇達も女性だと思ってたけど、どうやら全員が女性になってるって訳じゃなかったようだ。
「それで、北郷殿はなぜ泰山に来られた?」
「あぁ、実はあなた達の噂を聞き付けた曹操と共闘しててね。その曹操が俺達に調べて欲しいって依頼してきたんだよ」
「曹操………あの許昌を拠点に活動している武将か?」
「そう、そこで提案ですけど俺達と一緒に来ませんか?」
「我等は力無き民を守る為に武器を手にして戦っている。是非ともそなた達にも手を貸して頂きたい」
「俺達を……仲間に?」
そう訪ねのがら臧覇は背後を見る。流石にいきなりの勧誘なのでざわめいており、天の力になりたい者や少し疑っている者と様々だ。
手を顎に添えて考える臧覇。そして考えが纏まったようであり、俺に視線を向けて答えを述べる。
「………申し訳ないが…俺達がいなければ生まれ故郷の村がまた奴等の脅威に晒されてしまう。だから一緒には行けない」
「そう……ですか………」
「しかし……俺達を救ってくれた恩はある。もし今後、君達が力を必要とする時が来るならば、その時には必ず力を貸すと約束するよ」
「本当に?」
「あぁ、証拠として俺の真名‘‘志義”を預ける」
「あっ‼︎だったら私も‼︎私の真名は‘‘蒼蓮”だよ♪よろしくね♪御遣い様♪」
「助けてくれた礼ですぜ‼︎あっしの真名は甲牙ってんでさぁ‼︎あんたに預けさせてもらいやすぜ‼︎」
「う〜ん……本当は女の子にしか教えないんだけど………俺の真名は‘‘暖照”。ま、忘れてくれたっていいぜ」
志義、蒼蓮、甲牙、暖照。4人の真名を託され、俺は少し戸惑ったが4人の真っ直ぐな眼を見せられて頷くしかなかった。
泰山に飛翔する4匹の龍。彼等との共闘を願いながら俺達は本陣へと帰還する。
そしてこの願いは案外にも近く訪れることになるというのは気まぐれな天にしか知らない………。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[拠点 その3]